「学生の街」といわれる京都。
市内には29の大学があり、14万人以上の学生が学んでいます(参照:京都市統計ポータル 学校基本調査 2022年5月1日時点)。しかし、学べるのは学生だけではありません。各大学では、特徴を活かした公開講座が開かれていて、誰でも参加することができます。今回は京都市内にある4つの大学の公開講座を取材。講座の傾向や内容についてお話を伺いました。
親鸞や仏教について深く学ぶ講座のほか、人生を見つめる哲学やアートに触れるワークショップなど多彩な内容―大谷大学 生涯学習講座―
最初にご紹介するのは、京都市北区にある大谷大学。浄土真宗の祖・親鸞の思想を中心とする仏教精神に根差した大学です。1665(寛文5)年に東本願寺が設置した僧侶を養成する学寮から始まりました。
大谷大学で生涯学習講座が始まったのは、約30年前。大学の研究内容をわかりやすくして、一般の人に公開していく地域貢献の一つとしてスタートしました。仏教にかかわるテーマを中心にさまざまな内容の講座が開講されています。教育研究支援部教育研究支援課長の岡田治之さんと、同課の生涯学習講座担当の中村かおりさんに詳しく教えてもらいました。
講師を務めるのは、大谷大学の教員や、外部で教員をしている卒業生など。「親鸞や仏教に関するテーマ以外にも、歴史学や文学、哲学、社会学、教育学など、講師の専門分野の講義も行っています」(岡田さん)
取材に訪れた2022年9月時点で行われている講座は「紫明講座」と「開放セミナー」の2種類。入門編にあたる紫明講座は全3回程度で、仏教だけではなく文学や社会学など、テーマは幅広いです。中村さんによると、「挨拶の哲学―よく生きるために―」は、挨拶を通して人間とは何か、自分とは何か、宗教や哲学の観点から考える内容。多様な職業の人が受講したそうです。
「学生や教師の方、医療関係者の方などが参加してくださいました。今の自分の人生や生き方を考えたいというニーズと合っていたのではないかと思います」
このほかにもパステル画で絵を描く、ワークショップ形式の講座も。「画題を決めることはしていません。受講生が自由に絵を描いて、講師が回りながら一人ひとりにアドバイス。みなさんどんどん上達していました」(中村さん)。人生について考えたり、少人数のワークショップでアートに触れたり。学びながら自分を見つめなおす機会になりそうです。
一方の開放セミナーは、全6回程度で1つのテーマを掘り下げます。岡田さんによると、こちらはどちらかというと中級編。
「今シリーズは、親鸞聖人が残した和讃(わさん)という讃歌を、講師の解説を聞きながら読んでいく講座を開催しています。浄土和讃(じょうどわさん)と、高僧和讃(こうそうわさん)、正像末和讃(しょうぞうまつわさん)の3つを順番に読んでいて、2023年の前期からは正像末和讃を読む講座がスタートします」。仏教を深く学べる、大谷大学ならではの講座です。
紫明講座と開放セミナー、学びたい人のレベルやニーズに合わせて選べる生涯学習講座。「中心となる仏教は忘れずに、いろいろな分野の講座を開講して大谷大学の魅力を知ってもらいたいです」(中村さん)
■施設情報
大谷大学
京都市北区小山上総町
京都市営地下鉄烏丸線「北大路」駅6番出口から徒歩すぐ
講座費用 すべて有料
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天文学の最前線の話題を提供。親子で参加できる天体観望会は宇宙への興味や関心のきっかけに―京都産業大学 天文学講座・天体観望会―
続いてやってきたのは、同じく京都市北区にある京都産業大学。
1965年に天文学・宇宙物理学の荒木俊馬博士によって創設されました。現在でも天文学・宇宙物理学の教育・研究に力を入れていて、学内には神山天文台があります。こちらでは、一般の人を対象とした天文学講座や、親子で参加できる天体観望会を開催。神山天文台学芸員の本岡慧子さんに詳しいお話を伺いました。
天文学講座は年に4回ほど開講。神山天文台の研究員や天文学の教員、学外の研究者などが講師を担当しています。「当天文台の台長が彗星の研究者なので、彗星や小天体についての内容をお話しています。そのほかにも天文学に文化や風俗、歴史学、考古学を絡めた内容など、バラエティー豊かです。年によって見える惑星も違うので、例えば火星がよく見える年であれば、それに関連付けたテーマにすることもあります」
タイムリーな話題の最新情報を、研究者から直接聞くことができるのがこの講座の魅力。2019年4月、人類が初めてブラックホールの姿を撮影したというニュースが話題に。その年に開催された「ブラックホール 初撮影の衝撃と今後の展望」では、会場のホールがいっぱいになるほどの受講生が集まりました。
「報道されていないことや、図鑑に載っていないことを聞けるので、参加された方には喜んでいただいていますね。質問コーナーでも、積極的にどんどん手が上がるんですよ」
またコロナ禍以前は、講座の終了後に講師や参加者が交流できる「アストロノミー・カフェ」を開催。「人前での質疑応答は、受講生のなかには恥ずかしいという方もいて。終わった後にお茶を飲みながら、気軽に話せる場を提供していました」。コロナが落ち着いたら、ぜひまた開催してほしいですね。
さらに天体観測ドームで月に2回程度、土曜日に開催しているのが天体観望会。大学創設者の名にちなんで名づけられた、最大口径1.3mの荒木望遠鏡は、国内の私立大学では最大の大きさを誇ります。
参加者が実際に星を見るのは約30分間。条件が良いときには5つほどの天体を見ることができ、天文台の台長や教職員が解説をしてくれます。その後はホールへ移動して、学生スタッフの解説で宇宙の立体映像を見たり、天文台前の広場で小型望遠鏡を使って参加者と一緒に星を探したりと、地域の人と学生が交流する場面も。子どもたちが宇宙への興味や関心をもつきっかけにもなりそうです。
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2022年7月からは、施設内の1階のフロアを改装し、展示スペースが登場。小惑星の3D模型や、神山天文台で実際に使われている観測装置などを公開しています。
「常設展示だけではなく、特別展示も行う予定です。今後はその特別展のテーマに関連した講座を考えていきたいです」。展示スペースをじっくりと見学した後は、講座で学んで理解を深める。そして夜には天体観望会に参加。そんな天文学の世界に没頭する一日も素敵です。
■施設情報
京都産業大学
京都市北区上賀茂本山
京都市営地下鉄烏丸線「国際会館」駅下車~京都バス 40系統「京都産業大学前」下車
講座費用 天文学講座・天体観望会ともに無料
東京・京都・大阪を拠点に春夏秋冬あわせて約300講座。文化人やアーティストが講師―京都芸術大学 藝術学舎―
続いては、京都市左京区北白川にある京都芸術大学。京都・大阪・東京の3つのキャンパスを拠点に、春夏秋冬であわせて約300の公開講座「藝術学舎」が行われています。お話を伺ったのは、藝術学舎長の上村博教授です。
藝術学舎が始まったのは約10年前で、通信教育の延長としてスタート。「通信教育を始めた当初からあったのが、キャンパスに通える若い人たちだけを対象にするのではなく、より幅広い層に芸術教育を広めたいという想い。大学で一握りのエリート芸術家を育てるというよりも、普通に暮らしている会社員、主婦、公務員など、いろいろな職業に関わっている人たちに、それぞれの立場で芸術を学んでもらいたい。芸術家の技や知恵を持った社会人を多く育てたい。そんな目的のもと通信教育が始まり、その拡張バージョンにあたるのが藝術学舎です」
講師を担当するのは、京都芸術大学の教員のほか、各分野の専門家や、文化人、アーティストなどさまざまな分野で活躍する人たち。
通年で開講している建築史や美術史、デッサンなどに加えて、地域の面白いものやスポットを写真によって発見していくローカルフォト講座は人気の一つです。さらに定員がすぐに埋まってしまうというのが、庭園学講座。全国各地の日本庭園を訪れ、講師の解説とともに庭園の歴史を学ぶという内容で、リピーターも多いそう。
また東京・外苑キャンパスで特別講座として行われているのが、アートディレクターの榎本了壱さんと音楽家の松任谷正隆さんの二人が講師を務める、東京藝術学舎アートファクトリー。全8~9回にわたって行われるアーティスト養成講座です。受講生の作品を何度も手直しを繰り返しながら完成させ、最終回にはその成果を展示・講評するイベントを開催。クリエイティブにかかわる職業の人が参加しているそうです。
多彩なジャンルの講座が各地で開講されていて、芸術だけでなく幅広い分野の知識を深めることができる藝術学舎。ほとんどが通信教育部との単位連携を行っているのも特徴です。
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芸術への意識や技を持った市民を育てたいという上村さん。過去に印象的な出来事があったそう。「以前地方出身で、故郷に帰りたくないという学生がいて。理由を聞くと、地元に帰っても若者は行くところがなく、そこでの生活がイメージできないと。しかし都会でなくても、それぞれでとても良い場所になる可能性はあります。そこに住んでいる人たちが、自分たちの手で住環境をつくっていって、芸術文化もつくっていく。そういう人材を育てたい。だから講座で得たものを濃厚な経験として持って帰ってもらいたい。インターネットでわかることだけではなく、もう一歩先の経験を得てほしいです」
■施設情報
京都芸術大学 京都・瓜生山キャンパス
京都市左京区北白川瓜生山2-116
京都市営地下鉄「北大路」駅~市バス 204系統「上終町・⽠⽣⼭学園 京都芸術⼤学前」下車
講座費用 すべて有料
町家の雰囲気を感じながら京都の歴史や文化を学び、地域の課題やまちづくりにも注目―同志社女子大学 町家講座―
最後は同志社女子大学へ。1876年に同志社大学の創設者・新島襄と妻の八重、アメリカ人宣教師のA.J.スタークウェザーらによって設立されました。キリスト教主義・国際主義・リベラル・アーツを教育理念の柱とし、京田辺、今出川の2か所にキャンパスがあります。
今回ご紹介する町家講座では、上京区下立売にある町家「京まちや平安宮」を会場として使用。京都の歴史や文化などのテーマを中心とした講座を約半年間、月1回のペースで行っています。お話を伺ったのは、町家講座担当の天野太郎教授です。
町家講座が始まったのは2004年。「大学の一般的な授業で京都の歴史や文化を学ぶだけではなく、伝統芸能や京都の文化に関わっている人、研究者、地域社会に関わっている人など、さまざまな分野で活躍する人の生の声を聞くことを目的に始まりました」
当初は京都の歴史や文化を学ぶ内容でしたが、現在ではさらに範囲を広げ、京都を軸とした地域の課題もテーマとして扱っています。「京都を支えてきた産業や、茶道などの文化に関する内容は10年以上続けています。ですが今はそれに加えて、ある課題に対して他の地域や海外の事例を聞いて、京都と比較してどのように応用できるのか。私たちの住んでいる地域や環境のことを受講生とともに考えていく講座も行っています。過去には京都における少子高齢化問題や、京町家の有効活用についての内容が取り上げられました」
そのほかイベントの要素を含んだ講座も。落語や楽器の演奏を聞いたり、酒造会社から講師を招いて、日本酒の魅力を紹介しながら利き酒も行われました。
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テーマによっては専門的な知識を持つ受講生が参加し、講師と意見交換する場面もあります、と天野さん。「講師と受講生の距離が近く、心理的な距離も近くなるのが京町家の良さ。受講生から別の観点での知見を教えていただくことも多々あります」
コロナ禍以前は、関東地方から毎月講座に足を運ぶ人もいたそう。「この講座をきっかけに京都を楽しんでいただいている方もいて。京都に来る一つのきっかけになっているとのお声をいただきました」
歴史や文化といった学びの要素に加え、地域の活性化やまちづくりを意識した、多彩な講座を企画している町家講座。「ぜひ多くの方にお越しいただきたいです。大学の教室内で行う公開講座とはまた違った、京町家の歴史や雰囲気を感じられる環境をこれからも大切にしていきたいと思っています」
■施設情報
同志社女子大学
【今出川キャンパス】
京都市上京区今出川通寺町西入
京都市営地下鉄烏丸線「今出川」駅下車3番出口から徒歩約5分
【京田辺キャンパス】
京都府京田辺市興戸
JR学研都市線「同志社前」駅から徒歩約3分
講座費用 無料
気になる講座はありましたか?
今回ご紹介したように、京都の大学では魅力的な講座が多数開かれています。自分の興味あるテーマへの理解をさらに深めるのも良し、まったく知らない分野から新しい知識を得るのも良し。何歳になっても学ぼうとする姿勢は忘れないでいきたいですね。