東京都八王子市の、のどかなエリアに建つ一棟のマンション。ここは、コレクティブハウスという居住形態をとった、DIY可能な賃貸物件です。溝端友輔さんは、このマンションに住みながら企画運営をサポートしている空間デザイナー。イベントなどを通じて、DIYを取り入れた暮らしを発信しています。今回は溝端さん(右)と、ともに企画運営を行う設計士・沼田汐里さん(左)の2人にインタビューをしました。
そもそもコレクティブハウスとは、各世帯が独立した住戸で暮らしつつ、ラウンジなどの共有スペースで交流もできる集合住宅のこと。プライベート空間は確保しつつ、シェアハウスのコミュニケーションも楽しめる、新しい住まいのかたちとして少しずつ認知度を高めています。
一般的な一人暮らしではなく、あえてコレクティブハウスを選択した彼ら。まずは、DIYが身近にある暮らしを選んだ理由をお聞きしました。
沼田 アパートで一人暮らしをするのに、普通は部屋のつくりや設備といった決められた条件に、自分の暮らしを合わせないといけませんよね。それに、いずれ引越すからと、ちょっとくらい部屋に不満があっても、そこまでこだわりを持たない人も多いと思うんです。でも、自分たちはそこを妥協したくなかった。毎日過ごす場所だからこそ、満足のいく空間で過ごしたいし、部屋をもっと好きになりたい。そのためには自由にカスタマイズができる賃貸が必要だと思い、DIY可能なこのマンションで住むことにしました。
溝端 各部屋の床と壁に張ってある合板部分はすべてDIY可能。自分らしい理想の暮らしを実現できるよう、DIYができるスペースを広くとって、自由度の高い部屋にしています。僕はフリーランスのため自宅作業が多いので、資料も置ける長細い机を設置したり、ネジを打ち付けて荷物を引っ掛けたりと、暮らしやすいように自由にカスタマイズしました。
沼田 近年、DIYができる物件は少しずつ増えていますが、電気工具の音が気になったり、大掛かりな作業ができなかったりと、意外と悩みも多い。でもここは私をはじめ建築設計に携わる人が多く住んでいるので、文化祭の準備のように楽しみながら一緒に誰かの部屋づくりを手伝うこともできます。溝端さんが引越してきたときも、塗装イベントとして居住者や友人を呼び、溝端さんの部屋の壁を塗ったんです。単にお手伝いをするというだけではなく、イベント化して楽しむ。DIYという共通ワードがあるから、より密度の高いコミュニケーションにもつながっています。
溝端 定期的に、仲間を増やすための内覧会も開催しています。僕たちが実際に住んでいる部屋で、おでんや鍋をしたり。一歩踏み込んだ企画を開催して、住んでいる人と生活を事前に把握してもらう。ここを住まいとして選ぶ人は、自由度の高さと、なにかおもしろいことがありそうという部分で入居を決めることも多いです。
沼田 一般的にDIYは暮らしやすい部屋をつくるための手段として浸透していますが、このマンションではコミュニケーションツールの1つなんです。
溝端 DIYをきっかけに、人が集まる場所をつくりたい。さらに今後は街と暮らしをつなげて少し幸せな気持ちになれる住まいづくり、さらにはカルチャーをつくりあげていけたらいいなと思っています。
▼取材協力者
溝端友輔さん
1993年生まれ。和歌山県出身。空間デザイナー。専門学校卒業後、商業施設の設計施行会社に入社。飲食店やホテルなどの企画・デザイン、古民家のリノベーションなどを担当している。
沼田汐里さん
1994年生まれ。石川県出身。高等専門学校建築学科卒業後、大学にて都市環境を、大学院にて住環境について学ぶ。現在は設計士として活動中。