私は「大好きな香りをどうしたらもっと楽しめるのか?」と、よく考えていました。日々、香りについて勉強をしている中で、手紙と一緒に届ける香料を詰めた紙袋「文香(ふみこう)」の存在を知りました。さりげなく広がる文香の香りは心地よく、心身のリフレッシュにつながり、普段の生活でもビジネスシーンでも活用できます。
今回の記事では、アロマテラピーインストラクターの私が、初めての方でも簡単にできる文香の楽しみ方や作り方について解説します。初めて文香を知った方、文香に興味のある方は、ぜひ参考にしてみてくださいね。
文香の基本情報
そもそも文香とは?
文香とは、「香料を詰めた小さな紙袋」または「香り付けした手紙やしおり」のことです。
文香のはじまりは平安時代といわれており、その時代の貴族たちは和歌を作ったり手紙を送ったりして恋愛を楽しんでいました。気になる女性ができると男性は香りを付けた手紙を届けるという風習があり、その風習が「文香」として現代に伝わっています。
文香の中身はどんなもの?
一般的な文香は、お香を砕いたり軽くつぶしたりしたものを和紙に包んで手作りします。
お香の原料(香料)には、「香木(こうぼく)」と呼ばれる香りがする樹木のほか、樹脂や果実などを使うことが多いです。生薬(漢方薬の原料)やスパイスなども原料と使われることがあります。身近なものだと、カレーの材料になる「クローブ(丁子)」や「シナモン」などの植物が使われています。
文香の中身となる代表的な香料(原料)
ここでは、文香の中身となる代表的な香料をご紹介してきます。
【乳香(にゅうこう)別名:フランキンセンス】産地:アフリカ、アラビアなど
乳香は、木の幹から出た樹脂で、神秘的でウッディーな香りが特徴です。新約聖書のキリスト誕生場面に登場するほど、古くから王様や神に捧げる香りとして用いられてきました。
【沈香(じんこう)】産地:インドネシア、マレーシア、ベトナムなど
沈香は、長い時間をかけて木の一部に樹脂が集まり熟成してできたもので、やや甘く上品な香りを持っています。温めると樹脂がとけて香りを放つ特徴があります。
【白檀(びゃくだん)別名:サンダルウッド】産地:インド、インドネシア、マレーシアなど
線香として使用されることも多い白檀は、熱を加えなくても香りを放つという特徴を持っています。防虫効果があるため、仏像や扇子などの材料として使用されることもあります。
【没薬(もつやく)別名:ミルラ】産地:アラブ地方、アフリカなど
没薬は、木の幹から出た樹脂で、やや甘くスモーキーな香りが特徴です。古代エジプトでは没薬をミルラと呼び、ミイラ作りの防腐剤として使用していたことから、ミイラの語源となったといわれています。
【麝香(じゃこう)別名:ムスク】産地:中国、ネパール
麝香は、オスのジャコウジカの腹部から得られる分泌物を乾燥させたものです。野性的で強烈な香りがするため、極度に薄めて使用されます。古くから香水の香料としても使用されています。
文香の心理的な効果
「樟脳の香りを嗅ぐとおばあちゃんを思い出す」「香水の残り香りから昔の彼氏を思い出した」といった経験はありませんか?
実は、香りには記憶を思い出すような効果があります。特定の香りを嗅ぐと、その香りにまつわる記憶が誘発される現象のことです。これは「プルースト効果」と呼ばれており、香りと過去の記憶が深く結びついていることを表しています。
たとえば、職場で緊張しているときは、身近な香りや好きな香りを文香にして身に付けておくことで気分を落ち着けることが可能です。手紙に香りを付ければ、その香りからあなたを思い出し、あなたの印象を強く与えられるかもしれません。
私の文香体験談
文香は、自分自身だけではなく受け取った相手まで癒やしてくれるものです。さりげなく香る奥ゆかしい香りに、誰もが優しい気持ちになれます。
ここからは、私の文香体験談や文香の作り方をご紹介します。
文香を始めたきっかけ
私の文香の原点は、大好きな幼稚園の先生に書いていた手紙です。子どもの頃は、手紙に何か工作をして先生を驚かせようと思い、押し花を手作りして同封していました。
大人になった私は植物や香りに興味を持ち、アロマテラピーインストラクターとなりました。そのとき、出会ったのが手紙に香りを付ける「文香」だったのです。
押し花も文香も、相手を想う気持ちは同じです。文香を通して、相手を喜ばせたいという素直な気持ちが伝わるような気がします。
SNSでは伝えられない文香の魅力
手紙にしのばせる文香には、SNSとは違う魅力があります。
まず、手紙では「相手が本当に読んだのかどうか」を確認することはできません。そのため、こちらの気持ちを相手に押しつけない、謙虚な挨拶が手紙のよさだと私は思います。
次に、文香はデジタルでは伝わらない香りや手触りを表現できます。五感を刺激するため、現代人にとっては新鮮に感じるでしょう。
文香を作ってみよう
お香専門店や文房具専門店に行くと、完成した文香を購入できます。購入した文香を手紙に入れるのもひとつの方法ですが、線香やアロマオイルなどの身近なものを香料にして手作りするのも楽しいでしょう。さっそく、オリジナルの文香を作ってみましょう。
文香の基本的な作り方
基本的に文香は、線香などのお香を砕いて和紙に包んだり、アロマオイルを染み込ませたコットンを和紙に包んだりして作ります。特別な道具などをそろえることなく作れるので、初心者でも気軽に挑戦できます。
文香に入れる香りの選び方
文香の中身にする香料には、お香やアロマオイルを使用します。しかし、「どのような香りを選べばいいのか?」と戸惑ってしまう方も多いでしょう。香りの選び方にはルールがないので、あまり深く考え込まず、直感で好きな香りを選んでみてください。
線香やアロマオイルが手元にない場合は、市販の紅茶やハーブティーから中身を取り出して香料にするのもおすすめ。そのほかにも、茶葉・コーヒーの粉・ドライハーブ・香水なども使用できます。
3種類のオリジナル文香の作り方
ここからは、オリジナル文香の作り方を3種類ご紹介します。
オリジナル文香の作り方(1)お香で作る文香
お香は、古くから浄化や魔除けとして使われることが多く、香りが長く続くという特徴を持っています。お香にはさまざまなタイプがあり、製造方法や形が異なります。ぜひ、自分の好きなお香を見つけて、華やかな気分を味わってみてください。
【さまざまなお香のタイプ】
・線香(せんこう)香料を棒状に固めたお香
・香木(こうぼく)沈香など香りのする木
・練香(ねりこう)香料と蜂蜜などを練り、丸めたお香
・印香(いんこう)香料を粉末にし、型に入れ押し固めたお香
〈材料〉
・お香 数個
・お茶パック 1枚
・小さな封筒1枚、または折り紙1枚
・両面テープ
・ハサミ
※折り紙の匂いが気になるときは千代紙がおすすめです。
〈作り方〉
(1) お香を砕き、お茶パックに入れる。
異なる香りのお香を用意して、好きな香りにブレンドしてもOKです。
(2) お茶パックに入れたお香を小さな封筒に入れる、またはお茶パックを折り紙で包む。
(3) ハサミで両面テープをカットし、しっかりと封を閉じたら「文香」の完成です。
オリジナル文香の作り方(2)アロマオイルや香水で作る文香
アロマオイルは、天然成分のものから人工的に作られたものまでさまざまな種類があります。好きなアロマオイルや香水を使って、文香を作りましょう。なお、アロマオイルや香水を垂らすとシミになる可能性があるため、取扱いには注意してください。
〈材料〉
・コットン 数枚
・お好みのアロマオイル(香水)
・二つ折りカード(メッセージカードのようなものでOK)1枚
・カードが入る大きさの封筒1枚
・両面テープ
・ハサミ
〈作り方〉
(1)好みのアロマや香水を、コットンに数滴垂らす。
※垂らしすぎると、封筒まで染み出してくることもあるため注意しましょう。
(2)アロマ(香水)を垂らしたコットンを二つ折りカードに挟む。
※二つ折りのカードがなければ同じ大きさのカード2枚で挟んでください。
(3) 二つ折りカードを封筒に入れ、両面テープをハサミでカットし、しっかりと閉じて「文香」の完成。
オリジナル文香の作り方(3)文香の香りを移す方法
文香の香りや香りそのものを、便せんや切手、名刺などに移す方法もあります。
〈材料〉
・文香またはアロマオイルを染み込ませたコットン
・ファスナー付きポリ袋(箱でも可能)
・香りを移すもの(封筒、便せん、切手など)
〈作り方〉
(1)文香またはアロマオイルを染み込ませたコットンをファスナー付きポリ袋(箱でも可能)に入れる。
(2)文香やアロマを染み込ませたコットンが入ったファスナー付きポリ袋に、香りを移したい便せんやカードを入れ、1日程度置いて香りが移れば完成。
仕事と暮らしに活かす文香活用術
ふんわり香る文香は、いつでも使うことができ、優雅さを演出してくれます。
ここからは、文香を応用した活用術についてご紹介します。
文香活用術 仕事編
●名刺入れ
文香を名刺入れに入れておくと、名刺交換のときに香りが広がります。ビジネスの相手に、さりげなくアピールできます。
●バッグ、手帳、財布
バッグやお財布、手帳の中に文香を入れておくと、開けたときに香りを楽しめます。緊張するビジネスシーンでは、心を落ち着かせてくれます。
●切手、便せん、封筒
花びらの形にカットした和紙や便せんに香りを付けてみましょう。封を開けると、そっと香りが漂います。
文香活用術 暮らし編
暮らしの中に、気軽に文香を取り入れてみましょう。
●防虫剤や消臭剤
防虫効果が高い白檀やレモングラスを香料にして紙袋に包み文香を作りましょう。この文香を収納ケースやタンスに入れておくと、オリジナルの防虫剤になります。玄関やトイレなどに文香を置けば、おしゃれなインテリアとしても活用できます。
●来客用のタオル
文香をタオルで包んでおくとタオルに香りが移り、ワンランク上のおもてなしができます。おすすめの香りは、オレンジやグレープフルーツなど、柑橘系の香りです。柑橘系の香りは、誰でも受け入れやすく、明るい気持ちになります。
●ハンカチ、マスク、ヘアアクセサリー
ハンカチ、マスク、ヘアアクセサリーを文香と一緒にしまっておきましょう。身に付けるだけでリラックスできます。
文香の注意点と香料の保管方法
文香の香りは時間の経過とともに薄くなるので、市販の文香も手作りした文香も、早めに使いましょう。香料となるお香やアロマオイルを保管する場合は、香りの劣化を防ぐため、保管場所に注意して安全に取り扱うようにしてください。
お香やアロマオイルの保管方法
お香やアロマオイルを保管するときは、以下の内容を注意することで、長く香りを楽しむことが可能です。
・直射日光が当たる場所に置かない
・高温、多湿の場所を避けて、冷暗室のような場所で保管する
・子どもの手やペットの届かない場所で保管する
アロマオイルや香水の取扱い
・目や口に入れない
・肌に付けない、もし付いてしまったらすぐに水で洗い流す
・引火性があるため、火のあるところで使用しない
・キャップをしっかり閉める
・香りに敏感な方は、少量から使用する
・香りが漂うため、換気する
日本らしい物件や部屋を探して、文香を楽しもう
仏教や和歌など日本文化と深く関わってきた香りの世界は、身だしなみや趣味として暮らしの中に溶け込んできました。ここからは、文香をより楽しめる物件をご紹介します。
オリジナル文香を作って手紙を書くための書斎付き物件
書斎で、想いをしたため手紙とともに、「文香」を入れて香りを届けてはいかがでしょうか?
デスクに文香を置き、ゆっくり読書をしたり音楽を聴いたりと、自分だけの書斎でリラックスして過ごすのもいいですね。
文香の雰囲気に合う和室のある物件
鎌倉時代の作品「徒然草」には、「追風用意(おいかぜようい)」という言葉があります。これは、人が通り過ぎた後に、いい香りが漂うことを表現しています。現代風にいえば「残り香」を意味しますが、当時から部屋や衣服に付ける香りにこだわっていたようです。
このように、昔から大切にされてきた日本独自の文化を、日本らしい和室で楽しんでみましょう。
やすらぎの空間と癒やしの時間をサポートする文香
文香は、自分自身で楽しむのはもちろん、まわりの人への心遣いとしても喜ばれます。たとえば、友人に会いたくても会えないとき、ビジネスやプライベートが思うように進まないときに、文香を創作してみてください。香り選びから封入まで、一つひとつ手順を重ねていく、そのひとときが癒やしの時間になるでしょう。
文香は、「室内の消臭」「防虫効果」「インテリア」としても活用できます。来客時に、玄関先や部屋の片隅にそっと文香を置いておくことで、おもてなしの気持ちを伝えられますよ。