「発酵食品は身体にいい」と多方面でいわれるようになり、「味噌を手作りしてみたい」という声もよく聞きます。私は薬膳と郷土料理の研究家として活動していて、コロナ禍前は味噌作り教室を毎年開催しており、大好評でした。プライベートでは味噌作りを10年以上前から楽しんでいます。
そこで今回は、これから味噌作りを始めたいという方に向けて、味噌作りの魅力とともに、初心者でも失敗しない方法をお伝えします。
意外と知らない味噌のあれこれ
和食の基本調味料のひとつである「味噌」。味噌は私たちにとって、とても身近な存在です。しかし、味噌の歴史や原料・製法など、意外と知らないことも多いのではないでしょうか。ここでは、味噌の歴史や原料・製法とともに、味噌の種類や栄養についてご紹介します。
味噌の歴史
味噌は、飛鳥時代に中国から日本に伝わったといわれています。味噌のルーツは、古代中国の大豆食品「醤(しょう・ひしお)」にあるとされています。
「醤」という言葉が日本で初めて使われたのは701年の「大宝律令」。醤になる途中の段階のものがあまりにおいしかったので、ここから「未醤(みしょう)」という名前が生まれたそうです。
その後、「みしょう」→「みしょ」→「みそ」と言葉が変化し、現在の「味噌」になったといわれています。
味噌の原料・製法
味噌の主な原料は、大豆・麹・塩の3つです。味噌は、大豆を蒸したり煮たりして加熱した後に、麹と塩を加えて、発酵・熟成させて作ります。
味噌の種類によって、使う材料や熟成期間は少しずつ異なりますが、製造の流れはほとんど同じです。
味噌の種類
味噌は微生物の働きによって発酵・熟成されて作られます。その土地の気候や風土などの条件や味噌を仕込む環境によって味が変わるため、全国各地にさまざまな種類の味噌があります。味噌の種類は、「麹」「色」「味」によって分類することが可能です。
味噌に使う麹には、「米味噌」「麦味噌」「豆味噌」の3種類があります。最も一般的なのは米味噌で、大豆に米麹を加えて作られます。麦味噌は米麹の変わりに麦麹を使ったもので、豆味噌は豆麹を使い大豆のみを主原料にしたものです。
米味噌は全国各地で生産されているのに対して、麦味噌の産地は主に九州・四国・中国地方、豆味噌の産地は中部地方です。
味噌の色の違いは、味噌を発酵させる段階で起きる「メイラード反応」によってもたらされます。メイラード反応とは、大豆などのアミノ酸が糖と合わさって褐色に変わる反応のことです。味噌には、白色~淡色~赤色のカラーバリエーションがあります。
味噌の味には、「甘口」「辛口」といった表現があり、使用する食塩の量や麹の割合によって変化します。同じ塩分の場合、麹の割合が高ければ高いほど甘さが強いです。
味噌の栄養
味噌の主原料は大豆です。大豆は別名「畑の肉」と呼ばれ、質のいいタンパク質を多く含んでいます。このほか、味噌には炭水化物や脂質、繊維質なども含有しています。大豆を発酵させることによって、アミノ酸やビタミンが生成されるのも大きな特徴です。
味噌作りを楽しむ体験談
私が味噌作りを始めたのは今から10年以上前のことです。最初は気軽に始めた味噌作りですが、そのおいしさに感動し、味噌作りはわが家の定番行事になりました。ここでは、味噌を手作りし始めたきっかけや魅力、失敗談について紹介します。
味噌を手作りし始めたきっかけ
私は料理に限らず、身近なものを手作りすることが昔から大好きでした。私が味噌作りを始めたのは、ちょうど塩麴がブームになっていた頃のことです。
当時は、麹に塩を加えて塩麴を手作りしながら、「発酵食品は意外と簡単に手作りできる」「手作りするとこんなにおいしいんだ!」と、驚きの連続でした。
その頃、私の周りには味噌作りをしている人が何人かいましたが、何となく「ハードルが高そう…」と思い、手を出せずにいたのです。しかし、塩麹をきっかけに「いろんな発酵食品を手作りしてみたい」と思うようになり、味噌作りも軽い気持ちで始めました。
手作りして分かった味噌の魅力
初めての味噌作りは、本を読みながら独学でスタートしました。大豆や麹の種類を変えて、3種類ほど作った記憶があります。
蒸す加減がよく分からずに、少し硬めの大豆をつぶして仕込んだので、そのまま食感が残る仕上がりに。それはそれで味わい深く、「味噌って手作りできるんだ!」ということに嬉しさと驚きの両方を感じました。それと同時に「大豆や麹、熟成期間を変えると、市販品にはないいろんな味が楽しめそう」という気持ちにもなりました。
そこから10年以上経ちましたが、「豆味噌」や「合わせ味噌」などのポピュラーな味噌だけでなく、「黒豆味噌」「ひよこ豆味噌」といったマイナーな味噌も含めて、毎年いろんな種類の味噌を作って楽しんでいます。
手作り味噌の一番の魅力は、味噌自体がとても滋味に富んでいるところです。味噌汁や料理に使うだけでなく、そのまま舐めてもじんわりとしたおいしさがあります。
また、使う材料や熟成期間、保管する場所の違いなどによって味が変わるところも、楽しみのひとつです。
自分で味噌を作ってよかったと感じたこと
「味噌を手作りしていてよかった」と感じることはたくさんあります。発酵食品を手作りするときによくいわれるのは「その家庭の味になっていく」ということ。
毎年いろいろな味噌を作っていますが、味噌を繰り返し作る過程のなかで「わが家らしい味噌になってきたのかな」と感じています。たとえば、出汁を取らなくても、味噌を溶かすだけでおいしい味噌汁が完成します。炒めものや漬物などに自家製味噌を少し加えるだけで、味がピタリと決まるので便利です。
外食が続いたり、旅行先などから帰ってきたりすると、必ず自分で作った味噌を食べたくなります。自家製味噌には、ホッとする味わいがあります。その意味では、わが家の「お守り」のような存在なのかもしれません。
味噌作りの失敗談
味噌作りをしていると、仕込みから数ヵ月後に味噌の表面に白いカビが発生することがあります。正確には、これは「失敗」というよりも「よくある現象」といった方がいいでしょう。
私も最初にカビを見たときは、「失敗した!」「処分した方がいいのではないか」と慌ててしまいました。今、振り返ってみると、慌てたり処分したりすること自体が「失敗」なのだと感じるようになりました。
白いカビの場合は、カビではなくて「産膜酵母(さんまくこうぼ)」である場合があります。産膜酵母とは身近に存在する酵母菌の一種であり、酵母は味噌作りには欠かせないものです。産膜酵母の特徴は「ふわふわしていない」「味噌の表面にペタッと付いている」ことです。
もちろん、産膜酵母ではなく、カビというケースもあります。この場合は、白い部分を取り除いて、表面に塩を振っておきます。カビは塩に弱いという特徴があるからです。
味噌を仕込んで白いカビのようなものが発生しても、慌てずによく観察して対応することが大切です。
初めてでも失敗しない!手作り味噌の作り方
いよいよ、味噌を手作りしてみましょう。ここでは、味噌作りに必要な材料・道具とともに、簡単な作り方と味噌作りで失敗しないポイントについてお伝えします。
味噌作りに必要な材料・道具
味噌作りの基本の材料は、大豆と麹、塩です。大豆や麹にはいろいろな種類がありますが、初めて作るときは乾燥した黄大豆と米麹を使うのがおすすめです。塩はそのまま食べておいしいと感じるものを使ってください。
味噌作りに必要な道具は、大豆を煮る鍋と大豆をつぶす道具、材料を混ぜるための大きなボウル、熟成させる容器です。
大豆を煮る鍋は普通の鍋でも大丈夫ですが、圧力鍋があると時間を短縮できます。大豆をつぶす道具は、少量であればマッシャーでも大丈夫です。大量に作る場合は、加熱した大豆をビニール袋に入れて手や足を使って砕くか、電動ミンチ機のようなものがあると作業しやすくなります。
材料を混ぜる道具としては、大きなボウルが必要です。作る分量によっても異なりますが、量が多い場合はたらいのようなものを用意するとよいでしょう。
最後に熟成させる容器は、簡易的なものとして「チャック付きのビニール容器」があります。安価に手に入るため「まず少量を仕込みたい」という人におすすめです。たくさん仕込む場合は、プラスチックの樽などを使ってください。
プラスチックの樽を使う場合は、重石を乗せる必要があります。なお、チャック付きのビニール容器の場合は、重石は不要です。
簡単!味噌の作り方
味噌にはいろいろな作り方がありますが、まずは「大豆と麹を同量」「塩は大豆と麹の重量の20%」で作ってみましょう。ここでは、少量作るレシピを紹介します。たくさん仕込みたいという方は、2倍、3倍の分量で作ってみてください。
<材料>
・大豆200g
・米麹200g
・塩80g
<作り方>
(容器は事前にアルコールなどで消毒しておく)
(1)大豆を洗った後、水に一晩~半日以上漬ける(目安は10時間以上)。
(2)鍋に大豆と水を入れて、強火にかける。沸騰したら弱火にして、大豆が柔らかくなるまで1.5~2時間ゆでる。
(3)大豆を取り出して、なめらかになるまでつぶす。手で触れるくらいになるまで冷ます。
(4)ボウルに麹と塩を入れて混ぜておく。
(5)3の大豆と4の麹・塩を混ぜ合わせる。
(6)5を団子状にまるめて、保存容器に空気を抜くように詰めていく。
(7)表面を平らに整えて、カビ防止で表面に塩(分量外)をパラパラと振っておく。
(8)半年~1年程度待てば、できあがり。
工程が多いので難しそうに見えますが、基本的な流れは「大豆をゆでる→つぶす→麹・塩と混ぜる→熟成」。分量が多いとゆでたりつぶしたりするのに時間がかかりますが、工程自体はとてもシンプルです。
味噌作りで失敗しないポイント
味噌作りをする際に、まず気をつけたいポイントは以下の3つです。
・材料をきちんと計量する
・大豆を柔らかくなるまでゆでる
・材料をしっかりと混ぜる
たとえば、材料がしっかり混ざっていないと、発酵が上手く進まない場合があります。一つひとつの工程を丁寧に進めていくことが大切です。
また、カビ対策としては、「空気が入らないように詰める」「風通しのよい場所で保管する」ことも重要です。
味噌作りや料理を楽しみたい人向けの物件とは
味噌作りは少量から始められますが、「大量に仕込みたい」という場合には、ある程度のスペースが必要になります。ここでは、味噌作りや料理を存分に楽しみたい人におすすめの物件を紹介します。
収納が豊富な物件
味噌は仕込んで終わりではなく、半年~1年間かけて熟成させる必要があります。わが家もそうですが、味噌作りが楽しくなってくると、醤油などほかの調味料や保存食なども作ってみたくなります。
そうなると、保管するための収納スペースが必要です。こうしたことを考慮したうえで、収納が豊富な物件を意識して選んでおきましょう。
収納が豊富な物件を探す
エリア別に住まいを見る
料理が楽しめる物件
味噌作りの場合、大豆をゆでるところから保存容器に詰めるまで、約半日かかります。その間に、ごはんの支度をするケースもあるでしょう。同時並行でいろいろな料理を作ることを想定すると、「コンロ三口」「システムキッチン」など調理設備が整っていると作業がしやすいです。
小さい子どもがいる家庭では、調理中の子どもの世話もしなくてはいけません。「カウンターキッチン」であれば、子どもの様子を見ながら料理ができるので安心です。
味噌を手作りして食事をもっと楽しもう
私たちの基本調味料のひとつ、味噌。一見難しそうに感じるかもしれませんが、実は、味噌は手軽につくることができます。
今回紹介した作り方やポイントなどを参考に、まずは少量からチャレンジしてみてはいかがでしょうか。味噌を手作りして、食事をもっと健やかに楽しめますように。