土鍋のおかずレシピ。萬古焼土鍋メーカー・銀峯陶器に聞いたお手入れ方法

秋の訪れと共に、食卓で出番が増え始める土鍋。水炊き、寄せ鍋、湯豆腐、おでん、もつ鍋…たくさんの鍋料理を楽しめますよね。
最近では、ごはんを土鍋で炊くという方も増えていると思います。私は数年前、取材で三重県四日市市にある萬古焼の窯元、銀峯陶器(ぎんぽうとうき)さんにお伺いし、ごはん炊きに特化した「ごはん土鍋」にひとめぼれ！　銀峯陶器さんの土鍋はそれ以前から愛用していましたが、もう一つラインナップに加わって、今に至ります。

さて、みなさんは土鍋が電子レンジやオーブンで使えることをご存じでしたか？ 土鍋は、ものすごく万能な調理器具なんです。そこで今回は、銀峯陶器さんに教えていただいた、土鍋の良さやお手入れ方法、そして土鍋を活用したレシピまでご紹介します。

国内シェア80％を誇る、萬古焼土鍋の特徴と銀峯陶器

萬古焼の歴史については、以前アップした蚊遣り豚の記事で触れているのでご参照ください。

そこでも少し紹介したのが萬古焼を代表するものの一つ、土鍋。昭和30年代中頃、ペタライトという鉱物を原料に混ぜると、火にかけても割れにくいことが分かりました。陶磁器は加熱や冷却の膨張差でひびや割れが起きてしまいますが、これにより耐熱性が高まりました。
ちょうどその頃の日本は、一般家庭にガスが普及していった時期で、高火力のガスでの使用にも耐えうる、“割れにくい土鍋”として萬古焼の土鍋が全国で販売されるようになったのです。

土鍋とは

1932年に創業した銀峯陶器は、土鍋を中心とした萬古焼の耐熱食器専門メーカー。萬古焼の窯元は現在70社ほどありますが、現在でも製土から釉薬の調合、焼成までを一貫して自社で行う数少ない窯元のひとつです。

土鍋は、1955年に初代が開発した、貫入と呼ばれる釉薬の細かいひび割れを模様にした「墨貫入」に続いて、2代目が1972年に開発した「花三島」が代表作となっています。それまでおもに高級な抹茶茶碗に使われていた三島技法を取り入れた「花三島」は、萬古焼の土鍋の特徴である割れにくさを独自の製法によってさらに丈夫にして、使い勝手をよくしました。そのことで業務用にも耐えられる品質となり、料理店で使われるように。
またリーズナブルな価格で、家庭用としても広まりました。愛らしい花模様がデザインされた「花三島」、よく見かけませんか？

もう20年ほど使っているわが家の「花三島」は、火による表面の汚れやひっかき傷のようなものはさすがにできていますが、ひびはありません。通常の土鍋は、底の部分が水に濡れたまま火にかけてしまうと急な温度変化でひび割れするので厳禁なのですが、業務用でも使われる「花三島」は大丈夫とのこと。そう教えてくださったのは銀峯陶器3代目の奥様で、常務取締役の熊本貴子さん。安心して使うことができますよね。

土鍋の特徴・利点

蓄熱性が高い

土鍋のいいところは、まず保温効果が高いこと。例えば、鍋料理で卓上コンロを使っていて、その火を消してもしばらく温かいまま味わうことができますよね。その蓄熱性によって、余熱調理が可能に。余熱で食材に火をとおすことができ、温度がゆっくりと下がっていくことで味が染み込むという効果も生みます。
また、金属製の鍋に比べて遠赤外線量が高いことでも知られ、食材を芯から温めて甘味や旨味を引き出します。土鍋で炊いたごはんがおいしいのはそんな特徴からくるのです。

食卓の彩りにも

デザインは社長自らが手がけているという銀峯陶器。ロングセラー商品を引き継ぎつつ、3代目の熊本哲弥社長が手がけたもののひとつが、「菊花」シリーズです。その名のとおり、蓋が菊の花びらのようなとても美しいデザインです。私がひとめぼれしたごはん土鍋もこのシリーズで、そのまま食卓に出したらそれだけでおしゃれになるのではないかと思いました。

貴子さんも「土鍋の良さは、温かみのある食卓の雰囲気といいますか、団らんの時間を盛り上げてくれるような役割も大きいところだと思います」と語ってくださいました。
食卓の彩りになる土鍋ですが、器として使えるならば、洗いものが一つでも少なくなるというのもうれしいところです。

土鍋のお手入れ

土鍋は使い始めが肝心！

土鍋を購入したら、「目止め(めどめ)」といわれる下処理が必要になります。これは土鍋が“土”でできているからです。吸水性という特性があるため、この処理をしないとスープなどの匂いや汚れがついてしまい、カビの原因になってしまいます。

銀峯陶器の熊本貴子さんに教えてもらった、小麦粉を使う目止めの方法をご紹介します。

(1) 土鍋に八分目くらいの水をいれて沸騰させる
(2) 沸騰したら弱火にし、鍋の大きさにあった量の小麦粉を水で溶いて入れ、よくかき混ぜる
(3) そのまま弱火で5分ほど煮てから火を止めて、そのまま冷めるまで置いておく
(4) 完全に冷めたら、きれいに洗い流し、一度乾燥させてから使用する

小麦粉は、土鍋6号サイズで大さじ0.5杯、7号で大さじ1杯、8号で大さじ2杯、9号で大さじ3杯、10号で大さじ4杯です。

古くからおかゆを炊いたり、お米のとぎ汁を使ったりという方法がありますが、小麦粉と同じように含まれるでんぷん質が役割を果たしてくれるからです。

肝心なのが、(3)の過程で「冷めるまで置いておく」ということ。「冷めていく過程で鍋肌から粉を吸収して、それで目止めされるんです」と貴子さん。

また、目止めしたあと、念のため匂い移りを防ぐために3～4回は薄い味の料理で使用するのがおすすめ。残った分を翌朝食べようと、そのままにしておくのもやめたほうがいいそう。最近は鍋の素が市販されていて、気軽に鍋料理ができますが、トマトやカレー、キムチといったものは特に気をつけたほうがいいです。

この下処理を丁寧に行うことで、汚れがつきにくくなり、長くきれいなまま使える土鍋となります。下処理で完全に吸水性を抑えることにはなりませんが、吸水性は次第になくなっていくので、やがて鍋に水分を入れっぱなしにしても吸水されることはなくなります。

ちなみに、銀峯陶器の伝統的なシリーズである「墨貫入」と「花三島」はこの目止めが必要ですが、「菊花」など新しいシリーズは独自の釉薬を使用しているため目止め処理が不要になっています。

焦げや匂いがついてしまったら？

大切に使っていても、鍋の中に焦げが付いてしまうことも。そんなときは、重曹を使うといいそうです。

(1) 鍋に水1カップに対して大さじ１の重曹を入れ、弱火で煮立てる
(2) 沸騰したら10分間そのまま加熱
(3) 火を止め、冷めるまで置いておく
(4) 冷めたら水を捨てずに、中性洗剤とスポンジで鍋の中を洗う

匂い取りにも有効です。また、焦げがひどい場合は、この作業をもう一度繰り返してみてください。

片付けはよく乾燥させてから

先にご紹介したように、一般的な土鍋は鍋の底が濡れたまま火にかけてはいけないといった注意事項もあります。使用後に熱いまま水で洗うこともヒビや割れの原因になるのでやめましょう。

そしてカビ予防のため、よく乾燥させてから収納しましょう。土鍋を逆さまにして底面を上にしておくと乾きやすいです。秋冬しか使わないという方は、特に注意しましょう。

土鍋を使った、おかずとおやつのレシピ4選

それでは、水炊きなどの鍋料理以外に土鍋で何が作れる？ ということで、銀峯陶器さんに教えていただいた「マカロニチキングラタン」と「カステラ」、そして私がよく作っている「手羽中煮込み」と「大根と海老団子」のレシピをご紹介します。

「土鍋マカロニチキングラタン」の材料と作り方

【材料】7号鍋使用、2人分
・マカロニ　120ｇ
・鶏もも肉　150g
・マッシュルーム　4個(30ｇ)
・タマネギ　1/3個
・ピーマン　1個(50ｇ)
・ホワイトソース(缶詰)　290ｇ
・牛乳　120ml
・白ワイン　大さじ２
・ピザ用チーズ　40ｇ
・バター　小さじ2
・塩、こしょう　各少々
・グラノーラ　大さじ3
・熱湯　120ml

【作り方】
(1) 鶏肉は1cm角に切り、塩・こしょうしてよくもみ込む。マッシュルームは根元を落とし、タマネギとともにそれぞれ1cm角に切る。ピーマンはヘタと種を取り、1cm角に切る
(2) ボウルにホワイトソースを入れ、牛乳を少しずつ加えながら溶き混ぜる
(3) 土鍋を中火にかけてバターを入れ、溶け始めたらタマネギを炒める。タマネギが透き通ったら鶏肉とマッシュルーム、ピーマンを加え、白ワインと熱湯、マカロニを加えてゴムベラで混ぜ、蓋をして弱火で5分、ときどき混ぜながら煮る
(4) 3の土鍋に2を加えて混ぜ、ピザ用チーズとグラノーラを散らし、250℃に温めたオーブンで10分焼く

オーブンを使用するときの注意事項としては、土鍋に蓋はしないこと。実は鍋本体と蓋は使っている陶土が少し違うそうで、耐熱性も違っているためです。また、お持ちの土鍋によってはオーブン使用不可の場合があるので、取扱説明書をよく確認しましょう。

最初はオーブンで土鍋を？ と心配でしたが、まったく問題なく使用できました。保温性があるので熱々が続きますし、今まで人数分の耐熱容器で作っていたものが一度でできて、洗い物がラクになりました。焼き上がってカリカリになったチーズが耐熱容器のふちに付くと、取りにくいですよね…。こちらのレシピは2人分ですが、けっこうたっぷりめでした。

「土鍋カステラ」の材料と作り方

【材料】7号鍋使用、4人分
・強力粉　170ｇ
・上白糖　170ｇ
・卵黄　5個分
・卵白　5個分
・蜂蜜　大さじ2
・サラダ油　大さじ3
・牛乳　75 ｇ（※ｇでモトイキにしてください）
※食べるとき用にバター、蜂蜜、粉糖を各適宜

【作り方】
(1) 牛乳、サラダ油、蜂蜜を耐熱容器に入れて600Wの電子レンジで20秒ほど温めておく
(2) ボウルに卵黄と上白糖の半量を加え、白くもったりするまでホイッパーで泡立てる
(3) 2に1を加えて混ぜ合わせる
(4) 3に強力粉を振るい入れ、粉っぽさがなくなるまで混ぜる
(5) 別のボウルに卵白を入れ、残りの上白糖を2回ほどに分けて加え、その都度ホイッパーやハンドミキサーで混ぜ合わせる。しっかりとツノが立つようになるまで泡立てて、メレンゲを作る
(6) 5を4に半量ずつ加え、その都度泡をつぶさないようにホイッパーで優しく混ぜる。最後はゴムベラで軽く混ぜ、土鍋に流し入れる
(7) 180℃に予熱したオーブンで10分焼き、その後150℃で40分焼く
(8) 好みで粉糖を振り、バター、蜂蜜をかける

私の土鍋が長年使用しているものだったため、念のためクッキングシートを敷きました。もしザラメを底に加えたい場合、焦げ付きを抑えるためにクッキングシートを敷くのがいいかなと思います。

カステラは何度か作ったことがありますが、金属製の型だと熱が伝わりすぎてふんわりと焼き上げるのが難しいと聞いたので、新聞紙で作った型を使用していました。この土鍋カステラは、土鍋の熱の伝わり方の特性からでしょうか、うまくできて、しっとりとした感じでした。カステラを作った経験から、空気を抜くために6の過程で生地を入れたあとの土鍋をテーブルなどに鍋敷きなどを置いてから2～3度、軽く落としました。あるいは、竹串を生地に刺してクルクルと動かし、大きな気泡をなくしてもいいと思います。

「手羽中土鍋煮込み」の材料と作り方

【材料】菊花ご飯はん土鍋2合サイズ使用、約2人分
・鶏手羽中　約300ｇ
・レンコン　約50ｇ
・ゆで卵　2個
・だし汁　1カップ
・しょうゆ　大さじ2
・酒　大さじ1
・みりん　大さじ1
・砂糖　大さじ1

【作り方】
(1) 土鍋にだし汁、しょうゆ、酒、みりん、砂糖を入れて軽く混ぜ、手羽中と1㎝ほどの厚さに切ったレンコン、ゆで卵を加える
(2) 中蓋と上蓋をして、中～強火にかけ、上蓋の穴から蒸気が勢いよく吹き出したら2分ほどそのまま煮る
(3) 火を止めて、蓋をしたまま20分ほど蒸らす

ご飯土鍋は中蓋があるので、適度な圧力がかかるからでしょうか、鶏肉が本当に柔らかく仕上がります。火にかけている時間は短いですが、しっかりと味も染み込みますよ。

「大根と海老団子」の材料と作り方

【材料】菊花ご飯土鍋2合サイズ使用、約2人分
・大根　約1/4本 ・水　2カップ ・白だし　大さじ1 ・薄口しょうゆ　小さじ1/2 ・酒、みりん　各小さじ1 ・塩　少々

★海老団子用
・むきえび(冷凍)　約200ｇ
・はんぺん　1枚
・片栗粉　小さじ1
・塩　少々
・おろししょうが　チューブで1㎝くらい

【作り方】
(1) ミキサーにむきえび、はんぺんを入れて撹拌し、片栗粉、塩、おろししょうがを加え、さらに撹拌する
(2) 1を取り出し、適度な大きさに丸めて海老団子をつくる
(3) 大根は1～2㎝の輪切りにして皮を厚めにむき、片面に十字の切り込みを入れる
(4) 土鍋に水、白だし、薄口しょうゆ、酒、みりん、塩を入れてかき混ぜ、2と3を加える
(5) 大根と海老団子の上にキッチンペーパーを乗せてから上蓋をして中～強火にかけ、蓋の穴から蒸気が出たら弱火にして約10分煮る
(6) 火を止め、蓋をしたまま60分ほど保温しておく

こちらは、ご飯ごはん土鍋でも中蓋を使用しないので、通常の土鍋でもOKです。キッチンペーパーは落とし蓋代わりで、アク取りにもなります。写真のようにシイタケを加えてもいいですし、大根の代わりにカブにしてもおいしいです。今回の大根は見映えよく(!?)面取りしましたが、土鍋を使った調理では火にかける時間が短くなるので煮崩れしませんし、面取りしなくても味がよく染み込みます。

土鍋使いに便利な住まい

土鍋を使うことで料理の楽しみがきっと広がると思います。火にかけておく時間が短くても、余熱の活用でおいしくなるので、その分ほかの料理に手間をかけることができます。

ただ、土鍋は収納がちょっとかさばるというところも。わが家の場合は、通常の土鍋大小2種類と、ごはん土鍋を愛用していますから、積み重ねておくことが難しいので食器棚の一段を使って並べています。いくつかの土鍋を使い分けするなら、収納に余裕があり、また料理を保温中の鍋を置いておけるようなスペースがある、キッチン設備が充実したお部屋がおすすめです。

萬古焼のふるさと、四日市に住む

萬古焼が誕生した四日市市の魅力もご紹介しておきたいと思います。三重県北部に位置する四日市市は、江戸時代には宿場町として栄え、明治時代に四日市港が開港すると、繊維工業、機械工業、化学工業の進出が相次いで、一大産業都市となりました。

土鍋を季節問わず毎日の暮らしで使ってみては

おもに秋から冬にかけての日本の鍋料理に欠かせない土鍋ですが、ほかの料理にも活躍してくれます。調理器具のひとつとして、一年通してぜひ使ってみてください。

少し話がそれますが、銀峯陶器では2021年10月に新商品として「COTTO」シリーズから、クックボウルが発売に。土鍋の特性を生かし、調理ができる器(どんぶり)です。例えばインスタントラーメンを作ったら、そのまま食卓に運んで、熱々で最後まで。洗う手間も少なく、おしゃれに味わうことができます。土鍋の可能性、まだまだ広がりそうですね。

取材協力：銀峯陶器株式会社　https://ginpo.co.jp/