子どもの頃、絵本やテレビなどでかまくらを見て「入ってみたい」と思ったことはありませんか?
雪の中に火鉢を持ち込んでお餅を焼いて食べられると、好奇心がくすぐられますよね。私は雪がほとんど降らない瀬戸内地方で育ったせいか、雪のかまくらに強い憧れがあり、いつか自分でかまくらを作って中に入ってみたいと思っていました。
今回は、私が東京で大雪が降った日に、自宅の屋上でかまくらを作った体験を紹介します。また、そもそもかまくらとはどういうものなのか、かまくらの歴史や作り方、作ることが可能な場所なども詳しく解説したいと思います。
少しまとまった雪があれば意外と身近な所でもかまくらを作って遊ぶことができるので、雪が降ったらチャンスです。ぜひ、お子さんと一緒にかまくら作りに挑戦してみてください。
誰でも一度は中に入ってみたい「かまくら」とは?
かまくらの仕組み
初めてかまくらを見た私は、雪の中に人が入ってくつろいでいる様子にとても驚きました。「雪に囲まれているのに寒くないのかな。」「火鉢を持ち込んでいるのになぜ雪が溶けないのだろう。」と、不思議で仕方ありませんでした。
実はかまくらは、雪が外気を遮断して、中の空気を外に逃がさない構造になっています。この原理を利用して、雪山の登山では雪洞(スノーホール)を掘ってテント代わりにすることもあります。
外気を遮ったかまくらの中は、外に比べればもちろん温かいのですが、暖房の効いた室内ほどの暖かさではありません。火鉢を持ち込んでも雪が溶けないのは、外から中に入れば温かく感じるものの、実際にはかまくらの中がそれほど高温になっていないからです。
神秘的な雪のかまくらは、子ども時代の私の憧れでした。
かまくらの歴史
一般的には雪で作った雪洞をかまくらと呼びますが、本来の「かまくら」は、降雪地域で小正月に古くから行われてきた日本の伝統行事です。今から450年ほど前に、竹を組んでお札や神飾りをつけて焚き上げたのが始まりといわれています。
行事では、水神様を祀るかまくらの中で子どもたちが、「はいってたんせ(かまくらに入ってください)」「おがんでたんせ(水神様を拝んでください)」といいながら、甘酒をふるまいます。
かまくらの語源は、形が竈(かまど)に似ているから「竈蔵(かまどくら)」、または「神座(かみくら)」が転じたとされる説などさまざまです。神様にまつわる歴史があるなんて、かまくらは本当に神秘的ですね。
各地のかまくらの例
(1)秋田県横手市雪まつり「かまくら」
冬の風物詩として知られる「横手のかまくら」は、毎年2月15・16日の小正月に秋田県横手市で行われる雪まつりです。四角い雪の壁の中に厄除けのお供え物を祀って燃やしたり、雪穴を掘って水神様に願掛けをしたり、雪に穴をあけて子どもたちが中で遊んだりした風習が、変遷を経て融合したと考えられています。
ほっこりした丸みのある横手のかまくらの形は、1959年に作られたモデルかまくらから継承されているものです。夜になってあちこちのかまくらに明かりが灯る風景はまさにメルヘンの世界で、国内外から多くの観光客が訪れます。
横手市の雪まつりは、横手公園・二葉町かまくら通り・羽黒町武家屋敷通り・市役所前道路公園などの会場で、誰でも幻想的なかまくらの景色を鑑賞できます。
(2)長野県飯山市「かまくらの里」
「信州いいやまかまくらの里」は、4ヶ月の間真っ白な雪で覆われる日本有数の豪雪地帯にあります。2001年(平成13年)に信濃平スキー場が閉鎖された後、地元の観光協会が道祖神社祭りの会場でかまくら祭りを開催したのが始まりで、毎年1月下旬から2月末まで運営しています。
かまくらの里には20基以上のかまくらをはじめ、雪で遊べるアトラクションや飲食・おみやげのかまくら商店などがあり、子どもから大人まで誰でも楽しめるイベント会場です。
2012年(平成24年)には、かまくらの中で地元の食材をたっぷり使った鍋をふるまう「レストランかまくら村」がオープンしました。かまくらの雪国体験と食の楽しみをかけ合わせたレストランかまくら村は、国内だけでなく海外からも人気を集めています。
(3)海外のイグルー(カナダ)
冬の気温がマイナス50度近くまで下がるカナダ北端の氷雪地帯では、寒さから逃れるためのシェルターとして古くから「雪のイグルー」が使用されてきました。イグルーは、日本のかまくらのように雪を固めて作るのではなく、氷より軽くて加工しやすい地面の固い雪を切り取って作るのが特徴です。
イグルーの内部は、人の体から放熱された熱で起こる対流によって暖められ、空気を含んだ雪の壁が熱の伝導を遮ることで冷たい外気の影響を抑える仕組みになっています。
また、イグルーの形はカテリーナ曲線と呼ばれる力学的に安定した形状です。雪のイグルーには、極寒地帯で温かさと快適性を保てるよう、保温・建設材料・移動の機動性という3つの条件を満たす知恵と工夫が詰まっています。
東京の自宅でかまくら作りに挑戦した体験談
ここでは、子どもの頃からかまくらの中に入ってみたいと思っていた私が、大雪が降った日に自宅の屋上でかまくら作りに挑戦した体験を紹介します。特別な道具を準備していたわけではなく、作り方も適当だったのですが、何とか中に入れる“かまくら”が完成しました。
東京に大雪が降った日
私が住んでいる東京都区部は、雪まつりや雪遊びができるような気候ではありません。少しでも積雪があると学校が休校になったり交通事情が悪くなったりする程度です。しかし、稀に「ここはどこ?」というほどの大雪が降り、一面に雪が積もることがあります。
私がかまくらを作ったのは、大雪警報が出された日でした。この日は23区で8センチの積雪を観測したとのことでしたが、自宅ベランダのイスや手すりには15センチ以上雪が積もっていました。
昼頃から降り始めた雪が、約2時間であっという間に積もっていった記憶があります。どんどん増えていく積雪を見て、私は「今日こそ念願のかまくらを作るチャンスだ」と思いました。
かまくらの作り方(道具・時間)
その日は午後になってもずっと雪が降り続いていたので、かまくら作りを思い立った私はクローゼットにしまってあったスキーウェアを取り出して着替えました。手袋やブーツなどの定番の小物は必需品です。
そのほかに、小さなバケツとハンドスコップを探して屋上に持って上がりました。自宅でスキーウェアを着る機会があるなんて思ってもいませんでしたが、ダウンジャケットよりも防水機能が高いスキーウェアは雪遊びにピッタリでした。
雪かき用の大きなシャベルがあれば、雪を集めるのに使えたかもしれませんが、自宅にはなかったので、かまくら作りのメインの道具は自分の「手」。ちなみにシャベルは、ベランダや玄関周りの雪かきにも使えるので、後日ホームセンターで購入して家に備えています。
ほとんど道具を使わずに、文字通り「手作り」のかまくらが完成するまでの3時間は、熱中していたのであっという間に時間が過ぎていきました。動き続けていると寒さを感じることもなく、私は雪国気分を楽しみながら作業を進めました。
かまくら作りのポイント
雪を集めるのに適当なシャベルがなく、積雪量も決して多くなかったので、かまくら作りは小さな雪の玉を作ることから始めました。雪だるま作戦です。
積もったばかりの雪は柔らかくてふわふわしているので、しっかりとした玉になるよう圧雪して固め、雪だるま作りの要領で新雪の上を転がしていきました。簡単なようですが、雪の元は水ですから玉が大きくなるにつれて次第に重くなっていきます。
かまくらの土台をイメージして、なるべく形を整えながら玉を転がしていくのがポイントです。雪玉の密度を上げるために、途中で体重をかけて雪を押したりしました。屋上の限られた面積の中で均等に雪をつけていくよう、玉を転がす方向なども考えながら大きくしていきました。
雪の玉がある程度の大きさになったら、中の空洞を作ります。本当はもっと大きい玉を作りたかったのですが、午後からとりかかったので暗くなってきたことと、玉につけていく雪が少なくなってきたので玉作りから空洞作りに移行しました。
空洞造りは、まず雪の玉が崩れないように気をつけながら雪をかき出し、腕が入る程度の空洞を作ります。次に、やすりで削るイメージで空洞の内側を手で慎重にこすって形を整えていきます。
新雪で雪玉を作っているため、天井や壁に雪を圧縮していけば空洞が広がるのですが、この空洞を作る作業には意外と時間がかかりました。
最後に、余った雪をかき集めてバケツに詰め、かまくらの周りでひっくり返してミニかまくらを飾りました。ミニかまくらの上に雪を盛って丸みのあるドーム状にすれば、もっとかまくららしくなったと思います。
かまくらの完成とその後
かまくら完成
暗くなってようやく、イメージしていたかまくらとは一味違う、素人の手作りかまくらが完成しました。かまくらの中に棚を作り、ミニかまくらにろうそくを灯すのもよいでしょう。ろうそくの熱の影響を観察し、かまくらの中と外の温度を測って比べる実験なども楽しめると思います。
中に入りたかった私は、かまくらで遊ぶ子どもをイメージしてぬいぐるみとクッションを入れてみました。ぬいぐるみは、高さ約60cm、最大幅約40cmです。しかし、せっかく作ったかまくらなので天井の空洞を広げるなどの微調整を経て、崩れることを覚悟しながら中に入って座ってみました。私の家族は身長165cmで何とか入れましたが、かなりギリギリだったので180cmの人だと入るのが厳しかったと思います。
5日間、溶けずに残ったかまくら
かまくらを作った翌日は快晴でした。きっと溶けてしまっただろうと思いながら夕方の帰宅後に屋上に上がってみると、かまくらはほぼ前日から変わらない形で残っていました。道路などの雪はほとんど溶けていたので、私はかまくらが残っていたことに驚きました。
さらに3日目になっても、かまくらはまだその原形をとどめていました。自分が一生懸命作ったかまくらが溶けずに残っているのが不思議で、「頑張れ、かまくら」と、応援する気持ちが強くなっていました。
朝日に照らされた5日目のかまくらは、入り口や天井が薄くなって壊れる寸前でした。私は、今日はさすがに崩れてしまうだろうと思い、「頑張ってくれてありがとう」と声をかけて仕事に出かけました。
かまくら作りにワクワクするとともに、少しずつ溶けながらも残る姿に勇気をもらった5日間でした。
かまくらが作れる住まいとは?
積雪が多いエリア
秋田県横手市
横手市は、秋田県東南部に位置する、人口約8万人(2024年7月末時点)の街です。毎年2月に行われる小正月の伝統行事である「横手のかまくら」は、約450年の歴史があるといわれています。
2月15・16日に行われるお祭り期間中には、市内に約60基のかまくらが設置されます。いずれも、住民の自宅前に大きなかまくらがいくつも並んでいるので、異国に迷い込んだように感じるかもしれません。
また、横手市では県外からの移住者を応援する取り組みがされています。横手市の公式サイトからは、横手市で就職したい方や農業を始めてみたい方などに向けた支援情報を発信しています。
いきなり移住するのが不安な方は、横手の暮らし体験がおすすめです。最短3泊から、最大7泊まで可能です。興味がある方はぜひ横手市の公式サイトからチェックしてみてくださいね。
長野県飯山市
長野県飯山市は、県内最北端に位置しており、日本海が近いこともあり冬季は有数の豪雪地です。最深積雪は、平地で144cm・山間部で190cmのため、かまくら作りを思う存分、楽しめるでしょう。
こうした気候を活かして、飯山市「かまくらの里」では、毎年1月下旬から2月下旬頃まで、かまくらの中で地元野菜を使った‘‘のろし鍋‘‘をいただけます。20基あまりのかまくらが並び、夜には明かりが灯されるので、幻想的です。
飯山市では、夏や冬にさまざまなアクティビティを楽しめます。例えば、千曲川でスリル満点のラフティングやSUP、カヌー体験ができます。四季折々の風景を見ながらの体験は、心身ともにリラックスできるでしょう。
さらに飯山市は、‘‘雪国の小京都‘‘と呼ばれる街並みが魅力的です。市街地には約20の寺社が立ち並び、周辺には遊歩道があり、四季折々の花が楽しめます。
かまくら作りだけでなく、自然を存分に感じて生活を送りたいという方にピッタリのエリアです。
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専用庭や屋上のある家
特に積雪が多いエリアでなくても、専用庭や屋上があればかまくらを作れます。今回紹介したかまくらは、15平方メートルぐらいの屋上で作ったものです。もちろん、マンションの専用庭などに積もった雪で作ることも可能です。
専用庭の場合はリビングやキッチンに近いことが多いと思います。かまくらの中にお餅を焼くヒーターを持ち込んだり、完成したミニかまくらにろうそくを灯したりと、リビングからメルヘンの世界を眺めるのもおすすめです。
お子さんがかまくら作りに興味を持っているようなら、雪が降る前にかまくらの作り方や道具について一緒に下調べをして、準備の段階からワクワクする時間を過ごしましょう。動画サイトでかまくらの作り方がいろいろ紹介されているので、どんな作り方でどういうかまくらにしようかと計画するのも楽しいものです。
雪が降りそうな日は積雪に期待して、屋上や専用庭のスペースをなるべく広く確保しておくとよいですね。かまくらを作って遊ぶという共通の目標のために家族で力を合わせた体験は、心に残るいい記念になることでしょう。
雪が降ったらかまくらを作って冬を楽しもう!
雪の多いエリアでは、規模の大きいかまくらを作り、かまくらにちなんだ街のイベントに参加するなど、雪国ならではの楽しみがあります。また、積雪の少ない地域では、雪を確保する場所や作り方・遊び方を工夫することでかまくら作りを楽しめます。
大雪が降った日は、自宅の専用庭や屋上など身近な場所を活用して「かまくら作り」という普段と違う遊びを体験するチャンスです。かまくら作りは、手軽にできる雪合戦や雪だるまよりも段取りが必要な分バリエーションがあり、奥の深い楽しさを味わえる遊びです。家族でかまくら作りに挑戦してみてはいかがでしょうか。