いい街にはいい書店があるというのが、本当かはわからないけれど、いい書店がいい影響を街に与えるのは確かなことでしょう。それは、本はさまざまな知識や知恵を与えてくれるものと同時に、いい書店はそれをうまく人と結びつけてくれているから。このコーナーではそんな大阪の書店とその店から見える界隈の様子をご紹介します。
大阪の歴史を感じる古民家で広がる、海外マンガの新しい世界
大坂冬の陣の後、埋められた空堀。その名が残る一画にあるのがブックカフェ「書肆喫茶mori」です。古い民家が現存するこの空堀界隈には、迷路のように路地が広がり、昔ながらの大阪の景色が残っています。そのまるでどこか異世界に冒険に行く入口のような、知る人ぞ知る、な場所に迷い込めば、そこにブックカフェが現れるのです。
元々、会社員だった店主・森﨑雅世さん(以下:森﨑さん)が、なぜこの場所にブックカフェを開くことになったかと言えば。
森﨑さん:「元々、マンガが好きだったんですが、海外のマンガと出会って、その作品の幅広さにさらにマンガが好きになりました。そして、とにかく海外のマンガを紹介したい!という思いで、お店をオープンすることになりました」。
森﨑さんの雰囲気からは、優しくゆったりとして、あまり強引さを感じさせませんが、マンガの話となると一変、情熱的で意欲的な森﨑さんが現れます。そんな森﨑さんは、2019年にブックカフェのオープンを決意。1時間500円という料金で置いている本が読めるほか、購入できるものもいくつか揃え、さらに土日のみですが、店主お手製のボルシチなども楽しめたり、とにかく店主のおすすめが詰まった隠れ家的なお店を開店しました。
海外マンガと言えば、「スパイダーマン」「アイアンマン」などのマーベルコミックスや「バッドマン」「スーパーマン」などのDCコミックスが有名ですが、[書肆喫茶mori]には、韓国や台湾、フランスや中東、北欧などまだまだ知られていない地域の作品の原書はもちろん、日本語翻訳のものがたくさん取り揃えられています。
森﨑さん:「昨年から、韓国のジェンダーをテーマにしたマンガや台湾のマンガなども多く入ってきています」
お客さんも参加して漫画読書の輪を広げる
「書肆喫茶mori」ではただ来店して読んでもらうだけでなく、より作品を知って楽しんでもらうため、マンガを紹介する店オリジナルのZINEの配布・販売のほか、読書会なるものを開催しているそうです。
森﨑さん:「オンラインでも開催していて、1冊選んでそれを読んでもらった上で、その本に対して意見をしたり、感想などを話す会を開いています」
共通の趣味の人たちが集まってその話をするだけで、そこに輪ができあがったり、共感が広がったり、想像するだけでワクワクしてきます。
さらに森﨑さんは「12月は一押しの作品を持ってきてもらって、それに対して話し合う読書会をしました。来年以降も読書会は引き続き開催します」とのこと。今後の予定は[書肆喫茶mori]のTwitterまたは、Instagramでご確認ください。
森﨑さんにとっての街を楽しむための1冊は?
森﨑さん:「直接、街の話ではないですが、ある漫画家がワイン醸造家の友人にワイン作りについて教えてほしいと依頼するのですが、漫画家はワインの知識は全くなく、片やワイン醸造家も漫画のことを全く知らない。お互いがお互いの仕事を見ていく中で気づきがあって、全然知らないからこそ言えることなどもあり、でもその違う意見とかをお互い否定しない。そういう姿がとてもいいなと、街の見方も知らない人の方が楽しめるんじゃない? と思ったり」と街についても知らないからこそ言えたり、視点が違うところを楽しめれば、新しい発見があるのかもしれません。マンガとしてもかなりおもしろい1冊なので、よろしければぜひ。
◆今回取材したお店
「書肆喫茶mori」
住所:大阪府大阪市中央区谷町6-14-2
電話:06-7501-6763
営業時間:12:00~21:00(水曜〜20:00)
定休日:不定休
https://bookcafe-mori.shopinfo.jp
生活と生業が身近な街・谷町六丁目
前述の通り、谷町六丁目は路地がたくさんある街です。それぞれの路地には「書肆喫茶mori」さんのような商店もあれば、古くから住まれている方々の住居もあります。そんな街並みを歩けば、そこに住む方々の生活を追体験できるような、そんな気さえしてきて楽しいものです。
文教区として注目されることもある谷町六丁目駅界隈ですが、そんな一面もある場所なのです。森﨑さん曰く「店の前はおじいちゃんやおばあちゃんの生活道で、その姿を店の窓から眺めるとホッとしますね」とのこと。谷町六丁目駅周辺に興味を持った方は、ぜひ物件情報を探してみてくださいね。
谷町六丁目の賃貸物件を見てみる
◆本記事の担当者
取材・文:松村貴樹 写真:大塚杏子