愛知県の郷土料理といえば、「赤味噌」を思い浮かべる方が多いと思います。味噌煮込みうどんや味噌カツ、牛すじ肉を味噌と一緒に煮込んだ「どて煮」などが有名ですね。
私は神奈川県出身ですが、転勤により愛知県へ引越してから15年以上が経ちました。そんな私が愛知ならではの「ごはんのお供」としておすすめしたいのが、「野菜の味噌漬け」です。
今回は、この「野菜の味噌漬け」にフォーカスします。旬の野菜を赤味噌に漬け込むだけの、疲れた心身にじんわり染みるようなごはんのお供です。味噌漬けのレシピもご紹介しますので、ぜひご自宅で作ってみてくださいね。
赤味噌大国! 愛知県での暮らし
赤味噌の味噌汁に驚く
神奈川県出身の私は、合わせ味噌で作った味噌汁を飲んで育ちました。両親が富山県出身のため、米麹を使った白味噌のお味噌汁にも馴染みがあります。
そんな私が就職し、転勤により愛知県での一人暮らしが始まりました。
ある日、ランチで食べたのが赤味噌を使った味噌汁でした。褐色の見た目と濃厚な味わいに驚くとともに、「愛知県での生活が始まったんだなぁ」という実感が、じわじわと湧いたのを覚えています。
愛知県生活を実感したのはそれだけではありません。週末に職場の仲間と飲みに行くと、赤味噌を使った料理のオンパレード。味噌煮込みうどんや味噌カツだけでなく、おでんや鍋料理などいろいろな料理に赤味噌が使われていたのです。
「その土地の料理はその土地で食べるから美味しい」という言葉がありますが、本当にそのとおりですね。愛知県で食べる赤味噌料理はとても美味しく、仲間との会話も相まって、慣れない土地での心身の疲れを癒やしてくれました。
戦国武将が好んだ赤味噌の魅力
「赤味噌の料理を食べると、何だか元気になるなぁ」と感じ始めた頃、赤味噌の歴史にも興味を持ちました。調べてみると、戦国武将たちも赤味噌の力に魅せられ、好んで食べていたという話を知りました。
戦国武将にとって「何をどのように食べるか」ということは、戦いの勝ち負けを左右するほどの重要事項だったようです。赤味噌は普段の食事だけでなく、戦場の携帯食としても好まれていました。
たとえば、「健康オタク」として知られていた徳川家康は、食にも高い関心を持っていたことでも有名です。家康は、野菜をたっぷり使った八丁味噌の味噌汁を愛好していました。この味噌汁に麦飯を組み合わせて食べており、江戸に拠点を移した後も愛知県から八丁味噌の取り寄せをするほど、気に入っていました。
ちなみに、八丁味噌というのは赤味噌の中でも特別な製法によって作られる味噌のことをさします。その名前は、家康の生まれた岡崎城から八丁(現在の約870m)離れた八丁村(現在の八帖町)で製造されたことから、名付けられました。
「かりもりの味噌漬け」との出会い
いろいろな場所で赤味噌を使った料理を食べ、赤味噌の歴史について知っていくと、いつしか私も赤味噌が大好きになりました。当時は一人暮らしで仕事も忙しかったため、「手軽に作れる赤味噌料理をもっと知りたい」と感じ始めました。そんなときに知人宅で出会ったのが、「かりもりの味噌漬け」です。
かりもりとは 「かりもり」とは長さ20~25㎝程のウリのことです。愛知県~岐阜県で盛んに生産されており、愛知県の伝統野菜のひとつでもあります。独特の食感があるため、味噌漬けや粕漬けなど漬物用に使われることの多い野菜です。
かりもりの旬は、一般的なウリ系野菜と同じく「夏」です。かりもりの味噌漬けには塩分とミネラル分が含まれているため、夏の暑さで渇いた体のケアに適しています。食欲が落ちてしまいがちな季節に、ぜひ取り入れたい食養生のひとつといえるでしょう。
愛知県から離れた地域ではかりもりが手に入らないことも多いので、きゅうりなどほかのウリ系野菜で代用しても美味しいですよ。
おつまみやお茶請けにもおすすめ
カリカリとした食感と、じっくりと染み込んだ味噌のやさしい味わいが特徴のかりもり漬け。そのまま食べても美味しいですが、ごはんやお酒のお供として、お茶請けにもぴったりな逸品です。奥深い味わいだったので「手間暇がかかっているのでは?」と思い、知人に尋ねてみると、「簡単に作れるよ」という答えが返ってきました。
詳しい作り方は後ほどご紹介しますが、かりもりの味噌漬けは、切ったかりもりに味噌を塗って味が染み込むのを待つだけです。
ごはんに合う「赤味噌」の活用法
赤味噌は米味噌や麦味噌などの味噌に比べると熟成させる期間が長く、濃厚な風味が特徴です。加熱料理にも向いているほか、食材の臭みなどを和らげて、食材本来の旨味を引き出すことが可能です。
ここからは、ごはんのお供としておすすめしたい赤味噌の活用法を3つご紹介します。
(1) 手間いらずの「野菜の味噌漬け」
かりもりの味噌漬けを食べたことがきっかけで、私は赤味噌を使った「野菜の味噌漬け」にすっかり魅せられました。
旬の野菜を赤味噌に漬け込むだけで、美味しいごはんのお供になります。漬け込む食材はウリ系の野菜のほかに、大根やにんじんなどの根菜類、セロリやみょうがなどの香りのよい野菜もよく合います。いろいろな食材で試してみて、好みの味を見つけてみてくださいね。
それでは、作り方をご紹介します。
<材料>
・お好みの旬の野菜 適量
・赤味噌 適量(野菜が漬けられる量)
・みりん(お好みで) 少々
<作り方>
1. 野菜を切り、味噌をまんべんなく塗る(少量の赤味噌で作りたい場合は、赤味噌を塗った後ラップなどで包む)。
2. 冷蔵庫で保管し、野菜に赤味噌が染み込むまで半日~1日程度待つ。
3. 赤味噌を取り、野菜を適度な大きさに切ったら完成です。
<ポイント>
・甘味のある漬物が好きな方は、みりんを加えてください。子ども向けにアルコール分を控えたい場合は、数分間煮出してアルコール分を飛ばした「煮切りみりん」を使うとよいでしょう。
・数日間~1週間程度置くと、赤味噌がしっかりと染み込み、濃厚な味わいになります。お好みで漬け込む時間を調整してみてください。
・漬け込みに使った赤味噌は、野菜のエキスが出ていますので、味噌汁などに活用するのがおすすめです。
こちらの写真は、山ごぼうの味噌漬けです。
山ごぼうは、見た目が似ているので「ごぼう」という名前が付いていますが、アザミの一種に分類されます。昔から滋養強壮に有効とされる山菜で、赤味噌との相性も抜群です。ごはんのお供だけでなく、お酒の肴にもぴったりの一品です。
(2) 朝ごはんにぴったりな「味噌玉」
昆布や煮干しなどでしっかりと出汁を取った味噌汁はもちろん美味しいですが、少しだけ手間がかかるのも事実です。時間のないときのために、あらかじめ「味噌玉」を作っておくと便利ですよ。
味噌玉というのは、お好みの具材と赤味噌を混ぜてピンポン玉くらいの大きさのボール状に丸めたもののことです。これをお椀やカップなどに入れて熱湯を注げば、即席味噌汁ができあがります。
赤味噌におすすめの具材
・出汁になる食材
煮干しパウダー
かつおぶし
・海藻類
乾燥わかめ
とろろ昆布
・ナッツ類
ごま
くるみ
・体を温める食材
しょうがパウダー
刻みネギ
・ヘルシーな食材
きなこ
おからパウダー
切り干し大根などの乾燥野菜
(3) 保存食にもなる「梅味噌」
青梅を味噌に漬けて熟成させた「梅味噌」は、昔から梅の保存食としてよく知られていますが、赤味噌を使って作ると味わいが変わります。この梅味噌は、そのままごはんのお供として食べたり、たれやドレッシングとして活用したりと、使い勝手がいいところが魅力です。
味噌玉や梅味噌などの常備食や保存食があれば、忙しいときにもホッとする料理を手軽に作れます。自分にとって無理のない範囲で、その土地の食材や体にやさしい食材を取り入れられるといいですね。
食の歴史や文化が息づく愛知県
少し大げさに聞こえるかもしれませんが、野菜の味噌漬けを一口味わうだけでも、地域の魅力をじんわりと感じられます。ごはんのお供は日常的に食べられるものだからこそ、世代を超えて地域の食文化が現れやすいのでしょう。
私自身はかりもりの味噌漬けをきっかけに、愛知県の食文化への関心が高まりました。地域固有の料理や地域の食文化について調べたり、地元の方に尋ねたりすると地域の人々と親しくなり、地域の魅力を深く感じられます。
愛知県は「発酵王国」だった!
愛知県では赤味噌だけでなく、しょうゆや酢、みりんや日本酒など、発酵食の生産も盛んに行われています。とくに三河エリアでは発酵文化が豊かです。
しょうゆは一般的に、5種類(濃口しょうゆ・淡口しょうゆ・たまりしょうゆ・再仕込みしょうゆ・白しょうゆ)とされています。その中のたまりしょうゆと白しょうゆは、愛知県の特産品でもあります。
たまりしょうゆは赤味噌を作る工程で発生する液体を集めたのが始まりで、赤味噌のように長期間熟成された濃厚な旨味が特徴です。特有のトロミもあるため、刺身や寿司などにもよく使われます。一方、白しょうゆは淡い色合いと独特の上品な風味があり、吸い物や茶わん蒸しなどの和食のほか、洋風の料理に使われることもあります。
酢の大手メーカーの本社が半田市にあり、みりんづくりをしている蔵などもあります。みりんについては碧南市近郊での生産が盛んで、厳選された素材を使った伝統的な製法によるみりんづくりが、古くから続いています。
こうした発酵食を作る会社の中には、「工場見学」などと銘打って発酵の様子を見学できる蔵も多いです。しょうゆや酢、みりんなどを仕込む様子を見学すると、作り手の想いや工程を間近に感じられるので、発酵文化への関心が高まります。
愛知県の賃貸物件
保存食づくりを楽しむ住まい
発酵文化を生活に取り入れたいと思ったときには、発酵食を自ら仕込んだり、発酵調味料を使った保存食を作ったりしてみましょう。ただし、味噌やしょうゆを長期間熟成するためには、ある程度のスペースが必要になります。広めのキッチンや十分な収納スペースがあると挑戦しやすいでしょう。
ちなみにわが家はメゾネットタイプの住宅に住んでいますが、階段に保存食の瓶などを並べることが多いです。比較的涼しく、保存食の状態を観察しやすいので、保存食の管理にも適していて気に入っています。転んでケガなどをしないように、「瓶を階段の端に寄せる」「家族にもしっかり周知しておく」などの注意が必要です。
ごはんのお供で知る地域の魅力
「野菜の味噌漬け」からもわかるように、ごはんのお供には地域の魅力がギュッと凝縮されています。知らない土地で暮らし始めるときには、まずはごはんのお供を探して味わってみてはいかがでしょうか。
「美味しいな」と感じたら、ぜひ地元の方などに作り方を尋ねて、自分で作ってみましょう。その土地のごはんのお供は、きっと慣れない土地での疲れを癒やし、生活を楽しく豊かにしてくれますよ。