「農業をしてみたいけれど、未経験でも農家になれるのだろうか?」と、疑問に思う方は多いでしょう。
三重県に地方移住し、農業未経験から新規就農した私が、未経験から農業を始める方法をご紹介します。私は農家出身ではなかったため、最初は本当に就農できるのか不安でした。しかし、適切に準備をしたり知識を身に付けたりすることで、未経験からでも農業を始められました。
農業を始めるために必要な知識と実際にゼロから就農した体験談、農のある暮らしを実現する住まいの選び方などについてお伝えします。
農業を始めたいとお考えの方はぜひ参考にしてみてくださいね。
- 未経験者でも農業は始められる!必要な準備
- 農業未経験から就農する3つのルート
- 農業に資格や専門知識は必要?
- 初期費用と補助金活用法
- 農地取得は難しい?取得へのステップ
- 農業未経験から20代で就農した就農体験談!
- 1年間の農業研修から新規就農まで
- 農家の1日と年間作業スケジュール
- 農家の収入とさまざまな販売方法
- 農家のリアルQ&A
- 農家になってよかったことは?
- 農家になって大変だったことは?
- どんな人が農家に向いている?
- 農のある暮らしを実現する理想の住まい選び
- 畑付き一戸建て物件の探し方
- 空き家バンクで見つける農地付き物件
- 野菜を育てられる専用庭付き物件の選び方
- 未経験から農業ライフを始めるなら「行動」が最大の鍵
未経験者でも農業は始められる!必要な準備
農業未経験から就農する3つのルート
未経験から就農する場合、まずは農業技術を身に付ける必要があります。農業を学ぶためには、主に3つのルートがあります。
1つ目は、「農業法人への就職」です。働いて給料を得ながら農業を学べるため、リスクを減らせます。
2つ目は、「農業大学校での学び」です。全国にある農業大学校では、就農に向けた幅広い知識を得られます。さまざまな作物の栽培法を学べるので、育てたい野菜が決まっていない人におすすめです。
3つ目は「自治体の就農支援プログラム」です。都道府県や市町村が実施している研修制度で、研修生を募集している地域の農家で1~2年間研修することで、農業を学べます。
私は3つ目の「自治体の就農支援プログラム」を選びました。研修中は「農業次世代人材投資資金(旧・青年就農給付金)準備型」を利用し、地元のトマト農家のもとで1年間農業技術を学びました。
日々リアルな農業に触れることができる農家さんでの研修を選んでよかったと思っています。地元のコミュニティにもなじみやすくなりますし、農家さん同士のネットワークに参加できる点もメリットです。
農業には、慣行農業・有機農業・自然農法など、さまざまな農法があります。いろいろな研修先を見学させてもらい、自分が育てたい野菜や、やりたい農業のスタイルなどを見つけていくことをおすすめします。
農業に資格や専門知識は必要?
「農業を始めるには資格が必要なのでは?」と、思う方もいるかもしれませんが、基本的に農業を営むために必要な資格はありません。ただし、トラクターを公道で運転する場合は免許が必要になるなど、畑の大きさや作業内容によって資格が必要になることがあります。
特別な資格は必要ありませんが、農業をするためにはやはり経験や知識は重要です。土づくり、水や肥料の管理、生育の見極め、病害虫対策など、現場で学ぶことがたくさんあります。就農前に農業大学校や研修制度を利用して、これらをしっかり身に付けるとよりスムーズに始められます。
初期費用と補助金活用法
農業を始める際に必要な初期費用は、「どのような農業を始めたいか」によって大きく異なります。露地栽培であれば、基本的に農地代・潅水設備・機械などが必要で、ハウス栽培になるとさらにビニールハウス代が必要です。
ビニールハウス代は、大きさ・強度・部材によって価格に幅があります。施工を依頼して建築すると1反当たり500~800万円ほど必要になり、自分で建築することも可能ですが、技術や道具が必要になります。
「農業次世代人材投資資金」を利用すると、就農前の研修期間(2年以内)は年間最大150万円、就農後(最長5年間)は年間最大150万円の資金を受け取ることが可能です。
私は、農業次世代人材投資資金を研修期間と就農後の合計4年間(合計600万円)受給しました。これにより、必要な初期投資と、就農初期の不安定な収入を補うことができました。
また、農業機械や設備は、中古品を探せば安く手に入れることが可能です。地域農家コミュニティの中でお互い機械を貸し借りしたり、不要なものを譲ってもらえたりすることもあります。実際、私は耕運機を中古で安く購入し、潅水設備や草刈り機などは知り合いの農家さんのお古を頂いたり、格安で譲っていただいたりしました。
農地取得は難しい?取得へのステップ
農家になるためには農地を取得する必要がありますが、農地は誰でも取得できるわけではありません。農地の取得には「農地法」によって制限があり、農業委員会の許可を得る必要があります。以下のステップを踏むことで、未経験から農地を取得することができます。
(1)農業研修などで実績を積み、農業技術を身に付ける
(2)農地取得のための下調べを行い、候補地を見つける
(3)市町村の農業委員会に相談し、就農計画書を提出する
(4)農地を借りるための申請を農業委員会に提出する
(5)農業委員会の審査を経て、承認されれば農地を取得できる
実現可能な就農計画を練り、審査に合格することで、晴れて農地を取得して農家になれます。農地の候補地を見つけるためには、研修中から地域の農家さんたちと良好な関係を築くことが大切です。研修にしっかり取り組むことで農業への熱意が伝わり、信頼関係を築くことができれば、農地の紹介や賃貸の交渉につながっていきます。
最初から農地を購入するのではなく、まずは借りるところから始めるのがおすすめです。私の場合は、研修先の農家さんの畑とビニールハウスの一部を借りる形で始めました。地域によっては「農地バンク」という制度があり、遊休農地を借りることが可能です。
農業未経験から20代で就農した就農体験談!
私が農業をしたいと思ったきっかけは、大学の夏休みに住み込みで農業アルバイトをしたことでした。大学時代は将来の夢がなく迷っていましたが、アルバイトを通して、自然の中で働き野菜を育てる農業という仕事に魅力を感じました。
ここでは、私の農業研修から新規就農までの道のりをご紹介します。
1年間の農業研修から新規就農まで
農業アルバイトを終えた私は、祖父母の家がある三重県で農業を学ぶ方法を探し始めました。たまたま家の近所でトマトを栽培している農家さんとご縁があり、そこで1年間研修をさせていただけることになりました。
研修中は畑の準備から始まり、苗の定植・日々の管理・潅水・施肥・病害虫対策など、トマト栽培に必要なことを一から学びます。また、他の農家さんたちの農場を見学させてもらい、独立後の販売先につながる人脈づくりもできました。
農家の1日と年間作業スケジュール
農家の1日は、季節や栽培する作物、栽培する作型によって異なります。ここでは、春から秋にトマトをメインにハウス栽培している、私の1日の作業を紹介します。
春から夏は、ハウスの中が暑くなるので、早朝の涼しい時間に作業を行うことが多いです。朝は主にトマトを収穫し、暑い日中に袋詰めなどの出荷準備をして、午後は畑で管理作業を行い、夕方に直売所などへ出荷しています。夏はトマトの色付きがとても早くなるので、毎日収穫作業に追われています。
逆に冬はそこまで忙しくなく、栽培が終わった作物のあと片付けや、次の作付けに向けた準備などがメインです。農家の仕事は天候に左右されることが多いので、臨機応変に予定を変更しなければなりません。
年間作業スケジュールは作物によって異なりますが、トマトの場合は春に苗の植え付けと成長に伴う管理作業を行い、夏は毎日収穫に追われる最も忙しい時期です。秋は収穫が徐々に落ち着いてきて、冬には片付けと来年の準備、というスケジュールになります。
農家の収入とさまざまな販売方法
農家の収入は栽培方法や販売先によって大きく変わります。私の場合、就農1年目の売上は約230万円でした。ただし、経費(苗代・肥料代・農機具代など)を差し引くと、手取りはその7割程度になります。
農家として生活していくためには、栽培した野菜を販売しなければなりません。私が現在、主に販売している方法は、「宅配」と「直売所への出荷」です。宅配では毎週注文のあった分の野菜を出荷し、新鮮なうちにお客さんの元に届けます。
ファーマーズマーケットやスーパーの直売所には、袋詰めなどの出荷準備をして、自ら店頭に野菜を並べます。これらの販売方法は、市場出荷とは異なり、販売価格を自分で決められるところがメリットです。
他には、飲食店などへの出荷、イベントや朝市などでの出店、畑に来ていただいたお客さんに直接販売することもあります。さまざまな販売方法を組み合わせることで、市場価格の変動に左右されず、安定した販売をすることが可能です。
農家のリアルQ&A
これから農業を始めようと考えている方に向けて、私が実際に農家になって感じたリアルな経験をQ&Aでお伝えします。農家としてのリアルな喜びや苦労を知ることで、明確なイメージをつかむためのヒントを得ていただければと思います。
農家になってよかったことは?
農家になってよかったと感じることはたくさんあります。まずは、自分の手で育てた野菜が誰かの食卓に並んでいるという喜びです。お客さんから「あなたの野菜、美味しかったよ」といわれたときは、頑張ってきたことが報われたようで、嬉しく感じました。
また、新鮮な野菜を毎日食べられることも大きなメリットです。畑で収穫したばかりの野菜の味は格別で、日々の食生活が豊かなものになります。さらに、自然の中で体を動かして、四季折々の変化を感じながら働くことで、心身ともに健康になります。
自分のペースで計画を立て、仕事ができるところも魅力です。たとえば、夏場は忙しい代わりに、冬には休んで自分の時間を作るといったことが可能です。
農家になって大変だったことは?
農家になって大変だと感じることももちろんあります。台風や積雪によるビニールハウスの倒壊、大雨による畑の浸水、猛暑による生育不良など、天候によって左右されてしまうことが多々あります。
また、特に就農初期は技術の取得や販路の確保が十分ではない場合、思うように収入が得られないことが多いです。安定した収入を得られるまでには、数年かかる覚悟で挑戦しましょう。
夏場のハウス内では、40度以上の灼熱の中で作業をしなければならないため、体力的に厳しいです。せっかく作物を育てても、鹿やイノシシによる食害に遭ってしまうこともあります。
しかし、その大変さがあるからこそ、美味しい野菜を作れたときの喜びはひとしおです。
どんな人が農家に向いている?
農業は自然相手の仕事なので、予想外のことが起こることが多いです。どのような状況でも柔軟に対応し、前向きに取り組める方が農家に向いていると思います。
地道な作業でも、コツコツと進められる忍耐力も大事です。土づくり、そして種まきからの日々の小さな積み重ねが、最後に収穫できる野菜の質となって現れます。そのため、少しでも作業を怠ると、結果となって現れてしまいます。
また、どれほどいい野菜を作ったとしても、販売できなければ収入にはつながりません。生産だけでなく、販売方法や付加価値の付け方にも関心を持てる方であれば、成功につながりやすいと思います。
農のある暮らしを実現する理想の住まい選び
農業を始める方のために、住まい選びのポイントを紹介します。
畑付き一戸建て物件の探し方
畑付きの一戸建て物件を選ぶ際のポイントは、家と農地の距離が近いことです。私の場合は家から畑まで車で5分程度ですが、できれば家の隣に畑があり、すぐに見に行けるのが理想的です。
経験上、家から農地まで車で10分以上かかると、作業のために行き来する負担が大きくなります。複数の農地がある場合は、いろいろな場所に点在しているよりも、畑同士ができるだけ隣接している方が、管理が楽になります。
水源へのアクセスと日当たりのよさは非常に重要なので、必ず確認するようにしましょう。資材を購入できるホームセンターや収穫物を販売できる直売所、ファーマーズマーケットなどが近くにあると、さらに便利です。
空き家バンクで見つける農地付き物件
地方移住と新規就農を考えている方には、自治体が運営する「空き家バンク」の活用がおすすめです。
空き家バンクは、地域の空き家情報を集約し、移住希望者に紹介するシステムです。空き家バンクを利用すると、農地付きの物件が見つけられるだけでなく、物件価格が安いというメリットがあります。しかし、空き家は長期間放置されていることが多いため、リフォームが必要な場合が多いです。
購入前には必ず専門家による建物調査を依頼し、リフォーム費用を含めた総予算を計算しておくことが重要です。
野菜を育てられる専用庭付き物件の選び方
本格的な農業ではなく、家庭菜園から始めたいという方には、庭付き物件がおすすめです。この場合も、日当たりのよさは重要です。
特にトマトは日照による影響が大きいなど、作物によって日当たりが悪いと生育不良になってしまうものがあります。太陽の位置や周囲に日照を妨げる建物や樹木の有無などを確認しておきましょう。
家から庭へのアクセスがしやすく、農機具や収穫物を運びやすい動線が確保されていることもポイントです。野菜を栽培するスペースだけでなく、農機具などを収納するスペースもあると便利です。
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未経験から農業ライフを始めるなら「行動」が最大の鍵
農業に興味があるけれど、踏み出せずにいる方は多いのではないでしょうか。私自身、就農する前は「本当に未経験から農業で生きていくことはできるのだろうか?」と、不安でいっぱいでした。しかし、今振り返ると、とにかく行動してみてよかったと思います。
農業のイメージと、実際にやってみるのでは大きな違いがあります。まず、少しでも農業に興味のある方は、地域の農業イベントや農業体験に参加してみたり、市民農園や家庭菜園で野菜を育ててみたりしてみてください。
私が農業を始めたきっかけである「住み込みの農業アルバイト」も、リアルな農業に触れるいい機会でした。そして、本格的に農業を始めたいと決心したら、地域の農業委員会や就農支援センターに相談してみることをおすすめします。
未経験から新規就農するまでの道筋、研修先やサポート制度を紹介してもらえます。私も最初は何も分からない状態でしたが、市役所などで相談してアドバイスを頂いたおかげで、就農準備を進めることができました。
農家として生きることは簡単ではありませんが、大変なことがある分、得られることも大きいです。ご紹介してきたように、準備と行動次第で未経験からでも始められますので、興味のある方は小さなことから、ぜひ一歩を踏み出してみてください。