TOP データラインアップ [調査レポート] 住宅幸福論 Episode2

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本報告書は、LIFULL HOME'S総研の『住宅幸福論』シリーズ第二弾になります。2018年に発表した『Episode1 住まいの幸福を疑え』では、住まいの幸福度は、持ち家か賃貸か、新築か中古か、マンションか戸建てかなど、ハコの種別による違いは思われているほど大きくはなく、それよりも「住まい方」のほうが重要であるという分析結果を得て、議論の出発点を提示しました。今回は前作での知見を踏まえ、日本の住生活を省みることにします。
私たち日本人が、これが普通だろうと疑いを持たずに受け入れている住生活を冷静に評価するためには、私たちとは異なる普通と対比させ、相対的な視線で眺めてみることが有用です。今回比較対象として選んだのはデンマーク。デンマークは、国連の幸福度ランキングで毎年トップ3位内に位置する幸福度の高い国で、ヒュッゲ(Hygge)という言葉で表されるデンマーク流の暮らし方が世界で注目されています。そんな幸福な国の住まい方と比べることで、日本の住生活を冷静に振り返り、日本人なりの幸福な住まい方へのヒントを探り、幸福な住まい産業のあり方を考えます。
2019.05.16
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本報告書は、LIFULL HOME’S総研が住まいの幸福を考える『住宅幸福論』のシリーズ第2弾である。
後ほど軽く振り返るが、昨年発表した『Episode1 住まいの幸福を疑え』では、持ち家か賃貸か、新築か中古か、マンションか戸建てかなど、ハコの種別によって住まいの満足度に大きな違いがないことを明らかにして、日本の住宅市場での支配的な価値観を問い直した。そして、幸福度の高いグループの分析結果をもとに、幸福度を高めるうえで大切なのは、ハコの種別ではなく、住まい方・暮らし方が重要であるという仮説を提示した。それを受けて、今作ではあらためて日本人の住宅観や住まい方・暮らし方を省みたいと思う。
人口減少が進む中で空き家の増加が社会問題として認識されながらも、いまでもこの国では年間100万戸に近い新築住宅が建てられている。各種税制面などで誘導されているとはいえ、そこには新しい家を好む消費者ニーズがある。内閣府の世論調査(平成27年度「住生活に関する世論調査」)によれば、家は「所有したい」とする者の割合が75%。また73%の者は家を購入するなら新築住宅(戸建て+マンション)がよいと回答している。大多数の日本人にとって、新築の持ち家は相変わらず幸福の象徴として君臨しているのである。住宅土地統計調査をもとに国土交通省が発表している中古住宅の年間流通数は16.9万戸(平成25年度)、持ち家として供給されている新築住宅は59.1万戸(平成29年度着工統計)。持ち家市場の8割近くは新築住宅で占められ、世論調査でみられる国民のニーズは満たされていることがわかる。賃貸住宅でも新しければ新しいほどよいという価値観は、賃料設定において、また不動産ポータルサイトの検索キーにおいて、現実の市場に実装されている。
では、望み通りに手に入れた新しいハコによって、日本人はどのような暮らしを手に入れたのだろうか。個々が幸福を追い求めた結果できあがった、見慣れた街の風景の中で、私たち日本人はどのような住生活を営んでいるのだろうか。次々に消費されていく流行のような拙速な答えを求める前に、私たちが暮らしている場所を、生活という毎日を、そこに映し出される自らの姿を、一度冷静に見つめ直しておく必要があるだろう。それが今回のレポートで取り組む基本的なテーマである。
自らの姿を冷静に振り返るためには、相対的な視点を導入することが有効だ。比較対象としてデンマークを参照する。なぜデンマークなのか。実はさほど深い理由はない。国連の発表する調査で、デンマークが世界一幸福な国として広く知られているからである。他に幸福な国として世界に知られるのは、国民総幸福量(GHP)で有名なブータン。あるいは、欧米先進国が上位を占める国連調査でも健闘が目立つコスタリカなど、中南米の国々も幸福度の高い国として紹介される。またフィジーが幸福度1位常連として発表される国際調査※1もある。しかし、市場経済が高度に発展した段階にあるわが国と、ブータンやフィジー、また中南米の国々では、国民の経済力の面においても、社会インフラの整備においても、日本人の住生活を反射させるには環境の違いが大きすぎる。基本的に同じ資本主義・自由主義の価値観を共有する先進国であるデンマークのほうがふさわしいと考えた。また、デンマークの幸福度には、Hygge(ヒュッゲ)という暮らし方が大きな役割を果たしていると知られていることも大きい。
とはいえ、デンマーク人の住まい方がただひとつの正解などと主張する意図はない。仮に異国のそれが理想郷に見えたとしても、歴史や文化が異なる国の住まい方を、そのまま取り入れることは不可能だ。しかし同時に、私たち日本人が普通だと思っている現在の日本の住まい方もまた、絶対不変なものではない。今後の日本の住まいが目指す方向性を考える時、私たちとはずいぶん違う住宅や住まい方の実践があるのだと知ることは、私たちの視野を広げてくれるのではないか。それがEpisode2で、デンマークとの比較調査を企画した狙いである。(PROLOGUEより)
文:LIFULL HOME'S 総研所長 島原万丈
報告書全体(60.0MB)
LIFULL HOME'S 総研 所長 島原万丈
モノとの関係を結びなおすー住まいとインテリアをめぐる美学的試論
横浜市立大学・准教授 渡會知子
変わりゆく日本人と家との関係
日本大学教授・マサチューセッツ工科大学不動産研究センター研究員 清水千弘
日本・デンマーク住生活比較調査
株式会社アンド・ディ 取締役 橋口理文、株式会社アンド・ディ シニアリサーチャー 奥田理、リサーチャー 吉永奈央子
i 調査概要
ii 回答者プロフィール
I 住居の日本ーデンマーク比較
II 住宅観の日本ーデンマーク比較
III 住み方の日本ーデンマーク比較
IV 住生活満足度と幸福度の日本ーデンマーク比較
調査結果のまとめ
幸福度No.1の国の「幸せ」と「家」〜デンマークの”リアル・ヒュッゲ”な暮らし事例9〜
フリーランス・公共R不動産コーディネーター 菊地マリエ
『なぜデンマーク人は初任給でイスを買うのか?』
著者・小澤良介氏インタビュー
「住宅」と「インテリア」の溶ける業界の枠組み
株式会社東京情報堂 代表取締役 中川寛子
LIFULL HOME'S 総研 所長 島原万丈
第1章 デンマークとの比較で浮き彫りになった日本の住まい方
第2章 インテリアを考える
第3章 住まいが誰一人取り残さない場所であるために
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