TOP データラインアップ [調査研究レポート]STOCK&RENOVATION 2024 - それでも、もっと住むことの自由
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LIFULL HOME'S総研が2014年に発表した『STOCK & RENOVATION 2014』は、おそらく日本ではじめて本格的に(大規模に)既存住宅流通+リノベーションの市場の実態を明らかにした調査研究である。
あれから10年。いまや地上波テレビのバラエティ番組でもリノベーションを取り上げられることも多く、「リノベーション」や「リノベ」はなんの注釈もなく使える一般的な言葉になった。住宅不動産市場においても、内容の理解度や選好度は別としても「リノベーション」の認知度は広く浸透しているのは確実であろう。それではリノベーションは、既存住宅流通市場の活性化やストック型社会への転換をどの程度押し進めることが出来たのか? 人びとの住むことの自由をどの程度拡張できたのか?
今回の調査研究は、前作『STOCK & RENOVATION 2014』から10年後調査として位置づけ、前回調査と調査条件や調査項目を揃えたアンケート調査の時系列分析を中心に、取材によってユーザーおよびプレイヤーの声を集め、この10年の市場の変化を整理することで現在地をあらため、その上でこれからのリノベーション市場の方向性を展望する。
2024/09/25
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わが国の住宅不動産市場の最大の課題は、急激な少子高齢化と人口減少が加速度的に進行している現代においても、新築住宅の供給に著しく偏重したフロー型の市場から、既存住宅を主流にしたストック型の市場への転換が出来ていないところにある。新築フローを重視する市場は、戦後の住宅難とその後の人口増加時代に対応するために国が主導するかたちで形成されたものだが、住宅ストックが世帯数を上回り、さらに人口が減少に転じ世帯数の増加も頭打ちになった後にも、つまりその大きな役割を終えた後にも、景気対策や業界保護を目的として維持されている。
既存住宅が活用されず、新築供給が促進され続けたことが招いた結果が、空き家の増加である。最新の「住宅土地統計調査」では全国の空き家数は900万戸、全住宅ストック数に占める空き家率はおよそ14%に達した。野村総合研究所の予測によれば、いまのトレンドが続けば、空き家数は早々に1000万戸を突破して、2043年には空き家率は約25%に上昇する見込みである。空き家が発生する確率は全国均一ではないので、地域によっては2軒に1軒が空き家というディストピア的な光景が日本各地に広がる。
よく日本の住宅市場はスクラップ・アンド・ビルドで成り立っていると批判的に語られる。確かに滅失した(取り壊された)住宅の築年数は、築100年以上の建物が現役でしかも高い価値が認められる欧米の住宅に比べると半分以下の短さである。しかしながら、スクラップ・アンド・ビルドという言葉が直接的に示すように、ビルドする分をスクラップしているなら論理的にはストック数はかようには増えないはずだ。空き家問題が突きつける現実は、住宅は建てたらそのまま使い捨てで、使い手がいなくなったら空き家として放置される一方で、新たな住まい手のためには別の場所に新たにビルド、という焼畑農業的な新築供給システムが駆動していることを物語っている。
空き家問題に関わるこの悪循環を断ち切るためには、ストックの需給バランスを無視した新築の供給には抑制的でなければならない。とはいえ、法律で新築を禁止することは出来ないしすべきでもないので、既存住宅の活用をメインとするストック型の住宅市場への転換を強力に推し進める必要があることは自明の理だ。
シンプルに言えばストック型社会とは、欧米先進国がそうであるように、普通の人が家を買うといったら既存住宅を買うことが普通である社会である。しかし日本人は、新築で手に入れた住宅を住み始めるとあまり手入れやリフォームをしないので、既存住宅は性能や機能や美観が劣化していることが多い。これを魅力的な住まいとして再生するためには、既存住宅の流通段階で適切なリノベーションがされる必要があるのだ。
活発な既存住宅流通市場とは、既存住宅が適切な価格で売ったり貸したりすることができる市場である。この大転換を促すことが、既存住宅のリノベーションの最大の社会的意義であり最大の使命である。建物が現代的な住まい手の要求を満たしていないのであればそれを再生し、持ち家ニーズが期待できないなら賃貸住宅化や用途変更で活用方法を再生し、従来のマッチング方法が通用しないのであればそれを再生し、建物以前に地域が魅力を失っているならそれを再生する。それらほとんどすべてがリノベーションに求められていることである。
文:LIFULL HOME'S 総研所長 島原万丈
報告書全体(60.6MB)
[寄稿]リノベーション専門誌『relife+(リライフプラス)』が読み解く、令和の暮らし×リノベーション(6.2MB)
君島喜美子(株式会社扶桑社『relife+(リライフプラス)』編集長)
[論考]リノベーション・オブ・ザ・イヤーの10年(3.8MB)
島原万丈(LIFULL HOME'S 総研 所長)
[取材レポート]2014 - 2024年 事業者が見たリノベーション業界「10年の変化とこれから」(2.9MB)
中川寛子(株式会社東京情報堂・ライター)
[インタビュー]インスペクターが見た既存住宅とリノベーションの10年
既存住宅流通マーケットの“いま”と“未来にあるもの”(1.4MB)
大西倫加(株式会社さくら事務所・らくだ不動産株式会社代表取締役社長)
〈聞き手〉島原万丈(LIFULL HOME'S 総研所長)
[座談会]パイオニアたちが見たこの10年と2034年への展望
リノベーションはどこへ向かうのか2024(2.2MB)
内山博文(u.company株式会社代表取締役・一般社団法人リノベーション協議会会長)
馬場正尊(株式会社Open A代表取締役・東北芸術工科大学教授)
石井 健(株式会社ブルースタジオ執行役員・クリエイティブディレクター)
池本洋一(株式会社リクルート SUUMO 編集長 兼 SUUMO リサーチセンター長)
〈聞き手〉島原万丈(LIFULL HOME'S 総研所長)
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