小さな不動産会社の徒歩5分圏内のエリアマネジメント

丸順不動産株式会社 小山隆輝氏。寺西家阿倍野長屋の再生に関わったことをきっかけに地域にある長屋の価値に気づき、以降、既存建物の活用を進めている<br>写真上:公益社団法人全国宅地建物取引業協会連合会提供丸順不動産株式会社 小山隆輝氏。寺西家阿倍野長屋の再生に関わったことをきっかけに地域にある長屋の価値に気づき、以降、既存建物の活用を進めている
写真上:公益社団法人全国宅地建物取引業協会連合会提供

2018年10月30日、「これからの地域密着型不動産業 実践セミナー」が開催された。主催は(公社)全国宅地建物取引業協会連合会、(公社)全国宅地建物取引業保証協会。不動産業界を牽引するトップランナー5社が登壇、それぞれの取組みを発表した。"不動産業"という枠を超えた各社の事例を紹介する。

1社目は、丸順不動産株式会社 小山隆輝氏。LIFULL HOME'S PRESSでは、大阪市阿倍野区で長屋や文化住宅など、既存建物の活用を精力的に行う三代目社長として、以前取材している。(『大阪市阿倍野区昭和町~「まちの不動産屋さん」の価値を考える』)夫婦ふたりで営む地域密着型の不動産会社だ。

小山氏は、丸順不動産から徒歩5分・半径約2キロメートル内での長屋の再生とテナント誘致の状況や、まちの変化を写真とともに紹介。「そこに住む人が、今の暮らしを豊かだと感じてずっと住み続けてくれること。そこに住みたい、と新しく移り住んでくる人がいることがエリアの価値向上に繋がる。」と話した。そのためには、歩いて行ける範囲に地域に根ざした多様な商いが持続していることが必要であるという。
現在は、既存建物の再生、テナント誘致だけに留まらず、地元の商店を応援する活動「BUY-LOCAL」を実施中だ。年1回のマーケット開催、ガイドブックやマップを作成し、地元の商店と人を繋ぐ架け橋をしている。

「小学生向けに、なにわの伝統野菜 田辺大根の紹介や、まち歩きをしてまちの歴史やよさを知ってもらう課外授業もしています。子どもたちに古い建物の価値を知ってもらうことで、大人になって都会に移ったとしても、阿倍野のまちを大切に思ってくれるようになるのではと期待しています。」

地域に必要な"コト"をつくる、自らクラウドファンディングの活用も

株式会社尚建 徳山 明氏。地元千駄木の商店街の理事でもある。不動産会社が集まる情報交換会も主催している<br>写真提供:公益社団法人全国宅地建物取引業協会連合会株式会社尚建 徳山 明氏。地元千駄木の商店街の理事でもある。不動産会社が集まる情報交換会も主催している
写真提供:公益社団法人全国宅地建物取引業協会連合会

次に登壇したのは、東京都文京区千駄木の株式会社尚建 徳山 明氏。不動産業未経験で事業を継ぎ、5~6年を過ぎ経営が順調になってきた頃に危機が訪れた。突如、法人一括借り上げ管理の解約を受けてやむを得ず人員整理をし、1人で事業を立て直すことになったのだ。

「ちょうどこれからの経営をどうやっていったらいいのかと悩んでいたときでした。古民家でカフェをはじめたいという2人の女性から相談を受けたのですが、2人とも飲食店や経営の経験はなし。よくよく話を聞くと、目的は『頑張る女性を応援したい』でした。コンセプトづくり、企画から関わり、壁に珪藻土を塗るワークショップを開催して開業を支援し、地域の人やそこを訪れた人の学びや交流の場を提供する食堂『OKAERI』をオープンしました。現在開業から4年目ですが年々売上を伸ばしています。」

以降、建築と不動産の経験を活かし、飲食店の開業支援や遊休不動産活用が主力事業に。2018年にグッドデザイン金賞を受賞した、まち全体をホテルに見立てた谷中の宿泊施設 「hanare」も徳山氏が相談を受け仲介を担っている。

谷中銀座商店街の「Things.YANAKA」は、オーナーに相談を受けた小さな一戸建ての空き店舗を借り上げ、小さな資金で若い人でも開業しやすいよう小規模に分けて貸す複合商業施設としてオープンしたもの。やりたい"コト"、地域にとって必要な"コト"を応援したいと、「コト(Thing)」と名付けた。リノベーション資金の調達では自らクラウドファンディングを活用し、応援してくれるファンを募るなどコミュニティをつくりながら不動産活用を進めている。

宿泊施設やシェアハウスへの転用で歴史ある京町屋を守る

株式会社八清の西村 孝平氏。これまでなかった、伝統構法で建てる新築京町屋分譲住宅「京つむぎ」が11月竣工予定<br>写真上:公益社団法人全国宅地建物取引業協会連合会提供株式会社八清の西村 孝平氏。これまでなかった、伝統構法で建てる新築京町屋分譲住宅「京つむぎ」が11月竣工予定
写真上:公益社団法人全国宅地建物取引業協会連合会提供

3社目は、京町家の豊富な再生実績を持つ株式会社八清の西村 孝平氏。空き家が全国で増加しているが、京都も同様で、京町屋の空き家率は14.5%。7年間で5,600軒が解体されたという。(2017年3月京都市調査より)

京町屋の潜在的な価値を活かしつつ、現代の暮らしに即したリノベーションを施し再販する「リ・ストック住宅京町屋」からはじまり、貸家経営用の京町家物件「京貸家」や、宿泊施設「京宿屋」、シェアハウス「京だんらん」など、さまざまな用途へと再生。京町屋保存の推進もしている。

「海外の学生への勉強会で京町屋を見学してもらったときに、年々減少していることを話したら、『どうしてそれを止めようとしないのか』と聞かれて。確かに、保存のための行政による働きかけというのはされていなかった。それで、専門家の方に相談しながら京都市に京町屋保存のための条例を提言したところ、2017年11月16日に『京都市京町屋の保全及び継承に関する条例』※が制定されました。3月8日を"町屋の日"に制定、町屋Weekというイベントも開催しています。」
現在、八清の倉庫を小劇場・アートの複合施設に改修する「Theatre E9 Kyoto」が進行中で、2019年夏にオープン予定とのこと。京町屋の保存と、まちの活性化にも力を入れている。


※京町家について、取壊しも含めた処分を検討しようとする際に、所有者は解体着手の1年前までに届出が必要。保全・継承に向けた支援を京都市や事業者団体などから受けることができる

食堂という付加価値で選ばれる不動産会社に

有限会社東郊住宅社 池田 峰氏。食堂の運営は1食100円でも、200円でも赤字で、はじめる前は全従業員が反対したという。インパクトの大きさもありテレビやニュースなどこれまで約80以上で紹介されており、広告宣伝効果はそのマイナスを補うほどなのではないだろうか<br>写真上:公益社団法人全国宅地建物取引業協会連合会提供有限会社東郊住宅社 池田 峰氏。食堂の運営は1食100円でも、200円でも赤字で、はじめる前は全従業員が反対したという。インパクトの大きさもありテレビやニュースなどこれまで約80以上で紹介されており、広告宣伝効果はそのマイナスを補うほどなのではないだろうか
写真上:公益社団法人全国宅地建物取引業協会連合会提供

次に登壇した不動産会社は、社名より食堂の名前を聞いたことがある人の方が多いかもしれない。神奈川県相模原市淵野辺の有限会社東郊住宅社は、「トーコーキッチン」という入居者向け食堂を提供し、話題に。テレビなど多くのメディアで紹介されている。

東郊住宅社の池田 峰氏は、2004年から礼金、敷金ゼロに加え、退出時の修繕義務なしというサービスをはじめたものの、同様のサービスを提供する会社も増え、新しい対策を模索していた。そして2015年にはじめたのが入居者やオーナー、関係会社の人がカードキーで入室できる食堂だ。朝食100円、昼食・夕食500円と安価で、しかも食材にもこだわった食事を提供し差別化をはかった。管理物件の入居率は99.5%だという。

その後の反応や変化について池田氏は、「テレビなどを見てトーコーキッチンを知って、『食堂に一番近い物件は?』など、問合せ内容が食堂利用前提の前のめりなものが増えました。食費が抑えられるので、そのぶん家賃の上限を上げる方が増え、食堂へのアクセスも含めて考える人が増えて希望エリアも広がりました。成約率も上がり、家賃交渉が皆無に。これは今まで一度もなかったことですが、大家さんから弊社へお支払い頂く委託管理費の値上げの申し出がありました」と話した。

また、食堂は大家と入居者、管理会社と入居者とのコミュニケーションの場としても役立っているという。口コミの力も大きい。カードキーを持っている人は何度でも知り合いを同行してトーコーキッチンを利用できるので、一度同行して訪れた人が入居したり、SNSで拡散したりと、どんどんファンが増えていっているのだ。

「不動産業はサービス業。でもそこにエンタメの要素も必要ではないでしょうか。琴線に触れるサービスを提供して目の前の人を幸せにすることがみんなにつながる」と、池田氏。

住宅確保困難者に低家賃の賃貸住宅を提供

阪井土地開発株式会社 阪井ひとみ氏。精神障がい者の入居を支援するNPO法人「おかやま入居支援センター」、障がい者の雇用を支援する株式会社かいしゃの立ち上げなど、入居とその後の暮らしをサポートする活動もしている<br>写真提供:公益社団法人全国宅地建物取引業協会連合会阪井土地開発株式会社 阪井ひとみ氏。精神障がい者の入居を支援するNPO法人「おかやま入居支援センター」、障がい者の雇用を支援する株式会社かいしゃの立ち上げなど、入居とその後の暮らしをサポートする活動もしている
写真提供:公益社団法人全国宅地建物取引業協会連合会

最後に登壇したのは、阪井土地開発株式会社 阪井ひとみ氏。岡山県で20年にわたり、精神障がい者を中心に住宅提供を行っている。これまで住宅を提供した住宅確保困難者は1,000人以上。今も450人以上の社会的弱者の支援をしている。

20年ほど前に出会ったホームレスの男性の、「空き缶拾いで毎月5万円の収入を得ている。もし1万円で入れる家があれば入りたい」という声を聞き、1万円で入居できる賃貸物件を提供する方法を模索。現在は、ホームレスや精神障がい者など住宅確保が困難な方向けに、建物一棟丸ごと買い取り、低家賃で入居できる賃貸物件を提供している。

「日本には、長期にわたり精神病院に入院している人が20万人いるといわれています。退院後の住居が見つからない、保証人が見つからないなどの理由で入院が長期になってしまっている人、長期間の入院により生活能力を失ってしまった人もいます。ほかにも、虐待を受けている未成年やDV被害者など、自分の家に住むことができない人はたくさんいるのです。精神障がいのある方は、部屋を内見するどころか、門前払いをされることがほとんど。そういった方たちも、それぞれの方の症状、どのような準備や対処をすればいいかを理解すれば入居のハードルを下げることができます。」

岡山県居住支援協議会で作成している入居円滑化マニュアルや、岡山県保健福祉部障害福祉課で作成している精神障がいの症状を理解する資料「バリアフリー社会のおもいやり」などを紹介した。

登壇した5社は、一度きりの仲介ではなく、地域に根差してまちの活性化に尽力したり、人のサポートをしたりと幅広く活躍している。こんな不動産会社が増えれば空き家もまちも変わっていくかもしれないと感じた。

岡山県 バリアフリー社会のおもいやり
http://www.pref.okayama.jp/page/445763.html

岡山県居住支援協議会 入居円滑化マニュアル
http://oka-kyoju.net/あんしん賃貸マニュアル/

2018年 11月20日 11時00分