兎我野町にユニークな飲食店が誕生

特技を活かして起業する個人事業主が増え、さまざまな業態のコワーキングスペースが生まれている。そんな中「食のコワーキング」をコンセプトにしたシェアキッチン型飲食店「TENCHOS」(テンチョス)が大阪市北区の兎我野町(とがのちょう)に誕生した。
兎我野町は、大阪イチの繁華街である梅田エリア、食の激戦区となりつつある天満エリア、オフィス街の南森町エリア、クリエイター文化の中心地・中崎町エリアの真ん中に位置している。

TENCHOSとはどのような場なのだろうか。運営を担うオルガワークス株式会社の細川裕之さんに話を聞いてきた。

なぜ「食」に着目したのか?

オルガワークス株式会社では、約5年前から「テングマルシェ」という食と手作り品のイベントを、不定期に開催していた。オルガワークス株式会社運営のシェアオフィスが入居するビルの活気再生を目的としたもので、当初は5ブース程度だった参加ショップが40ブース前後にまで増え、毎回200名ほどが来場するイベントに成長した。テングマルシェがビル活性の役割を果たしたと考えられたので、次の企画を考えることになった細川さん。「食」は、人が集まる理由として大きく、それにテングマルシェで生まれた交流や信頼の要素を持ち込めば、面白い交流スペースができるのではないかと考えたのだそうだ。

細川さんは、前職のインテリアショップの店長時代に、家具のデザインや店舗運営はもちろん、会計や仕入れ、販売、営業などのノウハウを学んできた。その後デザイナーとして独立し、現在は物件のブランディングなどを手掛けている。
「これまでは、空き部屋を何に使おうかという発想でしたが、今回は僕たちが普段行っている場をシェアして交流を生み出すという得意分野に、テングマルシェで培ったノウハウを積み重ねて、新しい事業を創出したいと考えました。それならばどこで展開するかが大切だと考え、最適な物件を探しました」と細川さん。

「兎我野町には繁華街の梅田、オフィス街の南森町のような固定イメージがなく、街の雰囲気に合わせようという気負いは不要。どんな人でも気軽に集まりやすいのではないか」(細川さん)というのが、この地にTENCHOSをオープンさせた理由だそうだ。

築50年のビルを一部装飾を残して改装した築50年のビルを一部装飾を残して改装した

誰もが気軽に集まれる店に

見つけた物件は、アジアンリゾートをイメージした内装の元タイ料理屋だった。一部の装飾は残しつつ、内装をほぼ入れ替えている。ビルは築50年で、どうしてもゆがみが出てしまっていたので、基準となる面を作り、これに対して水平や垂直に壁や柱を入れながら改築したが、修正しきれない部分は古さを活かしたそうだ。

改築は工務店に任せたが、もともとあった物件の「二面性」は残したいと考えた。店に入ると、右側はバー空間になっていて、床が高いため天井が低く感じる。これに対して左側のスペースは、大きな窓があって開放的、明るい雰囲気があった。そこで、バー空間の天井をさらに低くしてアールをつけ、穴蔵感を出した。「狭いので肩を寄せ合わねばならず、巣ごもり感が出ます」と、細川さん。逆に左側のスペースは天井の色を明るく、テーブル同士の間隔を広くして、広々と感じられるようにした。

入り口から左側のスペースは、大きな窓があって開放的、明るい雰囲気入り口から左側のスペースは、大きな窓があって開放的、明るい雰囲気

日替わりの店長が個性を発揮

TENCHOSのスタッフは、フードクルーとサービスクルーに分かれている。フードクルーはメニューを決めて、仕入れや食材の管理などを担当。サービスクルーは、サービスを提供する接客担当だ。

特徴的なのは、日替わりの「店長」がいることだ。店長はお酒をつくりながら接客する役割。お金を支払って店長をさせてもらうのではなく、時給制で働くスタイルだ。想定以上の利益が出たときは担当した店長にプラスアルファで分配するという。店長にとっては、占いを披露したり、絵を展示したりするほか、会話やパフォーマンスで自分のスキルや仕事をアピールできる場ともなる。現在の店長は、カウンセラーや洋服デザイナー、イラストレーター、漫画家など。地域再興に関わるOLやサラリーマンが、一般の人と接する機会として店長を務めてもいる。
店長はシフト制で、一人店長の日もあれば、複数人の日も。誰がいつシフトに入っているかは今後詳しくSNSで発信していく予定だという。

提供するお酒のセレクトやオリジナルスイーツ、コーヒーの焙煎や、料理のメニューは、店長やクルーたちそれぞれに任せているので、統一されたコンセプトはない。担当者はテングマルシェで知り合った人が多く、当時に築いた信頼や人間関係を活かしている。
「TENCHOSとは店長の複数形です。毎日働いているスタッフも、バーで接客するスタッフも、お客様も店長。誰が責任者で、誰がリーダーかも決めず、集まるみんなのキャラクターが立つ場を作り、その中で交流を生み出していきたいという思いがあります。『店の前を通りかかる人の何%に入ってもらう』という確率の商売ではなく、この場所を目的に訪れるお客さんが集まる店にしたいんです」と細川さんは話す。

バー空間は、床が高いため天井が低く感じるバー空間は、床が高いため天井が低く感じる

あえて特殊な業態に。「よろず相談所」としての需要も

TENCHOSはいろいろな店長がいて、いろいろなサービスを提供する場となっているが、それだけに何が行われているのかわかりづらい部分もある。
「単なる飲食であれば、シンプルでわかりやすくした方が、事業としては成功すると思います。でも、あえて特殊な業態にすることで、好奇心の強い人が興味を持って集まり、その結果、多くの交流が生まれると考えています」

店長の個性やバックグラウンドが際立っているので、特性や職業がお客様とマッチすれば、仕事につながることもある。まだ開店して間もないが、TENCHOSを訪れた人が店長の本来の職に興味を持ち、顧客となった例もあるそうだ。
壁面はレンタルギャラリーになっていて、TENCHOSで店長も務めるイラストレーターの絵も販売されている。その分野のプロに相談したいと目的意識を持って来店する客もいて、よろず相談所のようでもあるという。

食のコワーキングであるTENCHOSのもう一つのコンセプトは「他力本願」。さまざまな個性がさまざまな特技を持ち寄って、一つのお店になっている。
「大切なのは、担当者の感性を信頼し、任せることだと思っています。そうすると、場によってこだわるポイントが変わるんです。すると本当に多様な考えの人が、お客さんとしても、店長やクルーとしても集まってきます。その結果、いろいろな人が積極的に関われる場になってきています」と細川さん。
まだ、開店して間もないが、既に多くの交流が生まれているというTENCHOS。細川さんたちは、この店を通して兎我野町を変えていきたいと考えている。

さまざまな分野で活躍する「店長」に、相談したくて来店する客もさまざまな分野で活躍する「店長」に、相談したくて来店する客も

2019年 06月10日 11時05分