都市にも雑草は生えている。ただ、見えていないだけ

都市で雑草を探して歩く。聞いた途端に「都市に雑草なんて生えている?」「見て歩いて面白いほど種類がある?」と思うのが普通だろう。

「それは視界に入っていても見ていないからです」と断言するのは2016年以降、UrbanWalk ZASSO(アーバンウォーク ザッソー)というタイトルの下、都市で雑草を探しながら歩くツアーを主催している吉田健二氏。福岡県の田舎で育った吉田氏は、父が子ども達が自然を体験するための施設・少年自然の家の職員をしていたことから、自然、植物に親しんで育った。小学生までは授業で朝顔やへちまを育てるなど植物に触れる経験があるはずだが、以降は植物とは縁遠い生活になるのが普通。

ところが吉田氏はその後も植物好きに育ち、広島県立大学では雑草を研究するゼミに入っていたほど。飲み屋で語った雑草の知識を面白がってくれる人たちに背中を押され、初めてのUrbanWalk ZASSOを開催したのは2016年11月のこと。それが好評を博し、以降、30回以上の街歩きを実施してきた。

場所は横浜の中心部関内、馬車道、大通り公園や市役所周辺、山下公園、日吉、東京では天王洲など。どの場所を想像しても雑草とは結びつかないだろうが、実際に行ってみると確かにこれまで見ていなかったと反省するはず。歩道の脇、敷地内の建物の脇など土がある場所、いや、アスファルトの粉や埃の間、コンクリートの隙間のような場所にすら緑が顔を覗かせていたりするのである。しかも、よくよく見てみると意外なほどに種類がある。中にはヨモギのようにかつてはよく食卓に上っていたものもあるが、食べる習慣が無くなったため、目にしても気づかなくなったのだ。意識しなければ見えないもの、でも、確かにそこにあるもの。それが都市の雑草なのである。

右端で雑草を指さしているのが吉田氏。傍から見ると謎の集団に見えるかも右端で雑草を指さしているのが吉田氏。傍から見ると謎の集団に見えるかも

土壌を生むのは雑草

上がセイヨウタンポポ、下がニホンタンポポ。がく(花びらの付け根にある緑色の小さな葉のような部分)が反り返っているものがセイヨウタンポポ、二ホンタンポポは基本、反り返っていない上がセイヨウタンポポ、下がニホンタンポポ。がく(花びらの付け根にある緑色の小さな葉のような部分)が反り返っているものがセイヨウタンポポ、二ホンタンポポは基本、反り返っていない

しかも、雑草は偉大である。地表は最初、マントルが冷えて固まって岩石で覆われており、それが割れて石となり、砂になりと変容してきたのだが、それが土になったのは植物の力。砂になったところで蘚苔類(コケのこと)が生え、それが枯れてできた有機物と砂が混じることで土になったからである。植物が地球を地球たらしめたというわけだ。

ちなみにそうした養分の少ない土に最初に生えるのがベニバナボロギクという雑草だそうで、都市で見かけることは少ないが、日本にも第二次世界大戦後に入ってきている。森林伐採、山火事などの跡地に一斉に生え、他の植物が繁茂し始めるとお役ごめんとばかりに消失するのだとか。不思議な植物である。

では、都市で見られる植物にはどんなものがあるだろう。吉田氏に聞いて驚いたのは多くが近代以降に人間の活動に伴って日本に入ってきた外来種(*)だということ。「植物が豊富に生育している地域ではすでに在来種がコロニーを作っており、外来種は入りにくい。ところが都市のように街路、空地とこれまで植物が生育していなかった環境なら入りやすい。そのため、都市で見られる植物には外来種が目立つのです」

しかも、同じ名称でも在来種、外来種がある。よく知られているのがタンポポ。セイヨウタンポポはヨーロッパ原産で1900年代以降に日本に入ってきており、現在、二ホンタンポポのほうが少なく、比率は2対8。一般的に外来種は繁殖力が強く、種類によっては在来種を駆逐してしまうほど。セイヨウタンポポも環境省指定要注意外来生物、日本の侵略的外来種ワースト100に選定されている。可愛いのに日本の自然の多様性、自然と共生してきた文化などに嬉しくない影響を与えるヤツなのである。

(*)明確な定義はないが、日本の外来生物法は明治元年以降に日本に入ってきた生物を外来生物の対象としていることから、ここではその定義に倣う

都心の雑草は外来種中心だった!

可愛いのに危ない植物としてここ数年、駆除を呼びかける自治体も出ているのがナガミヒナゲシ。地中海原産のオレンジ色のポピーに似た花で2000年以降日本全国に広がった。厳しい環境でも生えて殖えるそうで、根から抜いて燃えるゴミに出すのが正しい対処法と吉田氏。外出先で見かけた場合には蕾、花を摘んで繁殖しないようにするのが良いそうだ。

もちろん、外来種はこうした「危険」なものばかりではない。クローバーとして知られるシロツメクサも外来種だが、夏の猛暑時以外は冬でも元気な緑を見せてくれるし、四つ葉を探すのも楽しいもの。いかにも日本的な変な名まえから在来種と思われているだろう、オオイヌノフグリも実はヨーロッパ原産。コバルトブルーの小さな花を付ける植物で、明治初期に日本に入ってきたという。

では逆に在来種では何が見られるか。吉田氏が挙げてくれたのはヨモギ、ノビル、セリ、スミレ、オオバコ、ハコベラ、カタバミ、ホトケノザなど。下を向いて探してみると、意外な場所に見つけることができるはずだ。

ちなみに雑草というと迷惑な、とるに足らないものと思われがちだが、昔の人はそうは思わなかったようで、カタバミは家紋によく使われている。世界の至るところに生えているカタバミは根を深く張るため、駆除が大変。だが、その繁殖力が家を長く存続させたい武家に運隆盛・子孫繁栄の象徴とされたのだとか。地を這うように生えている雑草にそんな思いを託したことを考えると、その当時の人たちは今よりもよく植物を観察していたのだろう。

左上から時計回りにナガミヒナゲシ、クローバー、オオイヌノフグリ、カタバミ左上から時計回りにナガミヒナゲシ、クローバー、オオイヌノフグリ、カタバミ

湿地に生える雑草は?

雑草から学べることもある。たとえば、湿地や日当たりの悪い土地。そうした場所でも繁殖する雑草があり、それが生えていればその土地は要注意と考えられる。

「湿地、日当たりの悪い土地に生えるものとしてはガマやジュズダマ、ミソハギ、シャガ、ドクダミなど。ミソハギは漢字で禊萩と書き、かつては旧盆の仏前に供えられていた雑草。川や湿地の近くによく生えており、赤紫色の花が咲きます。ドクダミは本当は日当たりの良い場所を好みますが、日陰にも強い。だから、日当たりの悪い土地を覆うように繁茂します。繊細な花を付けるシャガも日陰、湿地に多く見られます」

不動産的に言うと湿地はあまりうれしくない場所だが、湿地には水の浄化、保水機能と洪水防止、動植物に生息地を与える、そして文化を育むという役割があるそうで、そこに生える雑草にも同様の意味があると吉田氏。「ジュズダマは実を採取、小さな布袋に入れてお手玉にしていましたし、ドクダミは身体から毒を出すお茶として煎じて飲まれたり、ドクダミチンキを作ったりと昔から親しまれてきました。最近は品種改良された八重咲きのドクダミがあり、花としても愛されています」

あるいは空き家を覆う蔦から空き家になった期間を推測することも。「蔦は1年に1.5mから5.5mも登攀します。それを考えると2階建ての住宅が全部蔦で覆われるまでには早ければ2年」というのである。

ちなみに住宅を覆う蔦には主にナツヅタ、オカメヅタ、アイビーの3種類があり、ナツヅタは根元を切れば枯らすことができるが、他の2種類は茎の途中から新たに根が出てしまうため、全部取らないと駆除できない。ただし、ナツヅタは植物の中で唯一、吸盤(!)があり、葉とは別にそれを伸ばして対象物に絡みついていく。そのため、茎、葉を取りさった後にも吸盤の跡が残るそうで、きれいにするのは難しいのだとか。ツタは生やさないようにしたいものである。

左上から時計回りにミソハギ、八重咲きのドクダミ、ナツヅタと枯れた後のナツヅタ。枝から伸びた先にある黒い点々が吸盤左上から時計回りにミソハギ、八重咲きのドクダミ、ナツヅタと枯れた後のナツヅタ。枝から伸びた先にある黒い点々が吸盤

雑草で鍋、ピザも楽しい

食べられる雑草も多数ある。雑草鍋、雑草ピザなどを作った経験から吉田氏のお勧めはタンポポ、ヤブカラシにカラスノエンドウ、ツユクサだという。

「タンポポはクレソンのような味わいで、フランスでは普通にサラダとして食べられています。クレソンもそもそも雑草ですし。ヤブカラシはモロヘイヤほどではないですが、ほんの少し粘り気があり、茹でてマヨネーズで食べるのがお勧め。ただし、美味しいのは紫色の新芽のみ。カラスノエンドウはスナップエンドウの小型版と思っていただければよいかと。ツユクサは葉も花も生でいけます。花をデザートにあしらうときれいですよ」

東京では雑草だが、東北では野菜として食べられているものもある。スベリヒユだ。山形ではヒョウと呼ばれているそうで、知っていれば災害時などに足りない生もの、ビタミン源などとして活用できるかもしれない。しかも、スベリヒユが多量に含むオメガ3脂肪酸はDHA、EPAなどの総称で、身体の成長や病気の予防、緩和にも効果があるのだとか。雑草界のスーパーフードなのである。

吉田氏のUrbanWalk ZASSOでは街中で立ち止まってはこうした話を聞き、植物を観察する街歩き。開催は不定期だが、楽しめるのは請け合い。まちの見え方が変わってくる。Facebookなどで予告が出るので気になる人はチェックして見て欲しい。

また、2020年3月14日は横浜市の大通り公園で植物・自然・アウトドアの体験型祭典ZASSO Fes!(雑草フェス)も予定されている。※3月14日のイベントは中止となりました。
2019年11月にプレイベントとして開催された時には四つ葉のクローバー探しやドングリプール、植物を中心とした各種ワークショップや屋台などが集まり、親子連れを中心に賑わった。芝生の上で寝転び、いつもは見ているようで見えていない小さなモノに眼を凝らす体験は楽しいはず。

ちなみに芝生として都市の広場などを緑化している植物も元々は雑草。日本原産のノシバ・野芝(正式和名はシバ・芝)は北海道南部から鹿児島まで自生しており、今では都市の景観に欠かせない存在。偉大なり、雑草というわけである。

左上から時計回りにスベリヒユ、ツユクサ、タンポポのサラダに雑草ピザ左上から時計回りにスベリヒユ、ツユクサ、タンポポのサラダに雑草ピザ

2020年 02月27日 11時05分