これまで明確なガイドラインが存在してこなかった『ペット共生住宅』

▲昨年の『犬・猫推計飼育頭数全国合計』では、1994年の調査開始以来初めて『猫の数』が『犬の数』を上回った。昭和40年代団地ブームの頃は『小鳥』、平成のバブル時代には『爬虫類』など、時代ごとにペットブームの波が訪れてきたが、そのブームはわたしたちの住まいと密接な関わりを持っている。※写真はイメージ▲昨年の『犬・猫推計飼育頭数全国合計』では、1994年の調査開始以来初めて『猫の数』が『犬の数』を上回った。昭和40年代団地ブームの頃は『小鳥』、平成のバブル時代には『爬虫類』など、時代ごとにペットブームの波が訪れてきたが、そのブームはわたしたちの住まいと密接な関わりを持っている。※写真はイメージ

筆者が住宅ライターとして取材活動をはじめた20年前、『ペットの飼育が許可された新築分譲マンション』はまだ全体の3割程度だったと記憶している。

当時は建設省(現:国土交通省)が、犬猫の飼育に関する規定をマンションの管理規約に定めるよう『マンション標準管理規約』の大幅改正を行ったばかり。集合住宅=ペット飼育不可という従来のイメージを覆し「堂々とペットを飼えるマンション」は、新たな住まいの価値を生み出した。

そしていまや新築分譲マンションのほとんどが(大きさや頭数の制約はあるものの)『ペット飼育可』であることを当然のように謳っている。

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一般社団法人ペットフード協会が昨年12月に発表した『犬・猫推計飼育頭数全国合計』によると、その数は1,844万6,000頭(犬892万頭、猫952万6,000頭)。日本のペットの数は、『日本の子どもの数』1,553万人(2018年総務省データ)を上回るほどになった。多くの家庭において、もはやペットは“家族同然の存在”だ。そのため、近年の集合住宅では『ペット飼育可』からさらにもう一歩進化し、ペットと快適に暮らすための『ペット共生住宅』を掲げた物件も増え続けている。

しかし、『ペット共生住宅』が増加する一方で、その根拠を裏付ける明確なガイドラインはこれまで存在しておらず、住宅業界では各社の独自基準に委ねる形で黙認を続けてきた。そこで、このたび公益社団法人日本愛玩動物協会が『ペット共生マンションの適正化推進ガイドライン』を策定。ペットと暮らす生活がより豊かなものになることを願い『ペットフレンドリーホーム宣言』を呼びかけるなど、“ペットと住まいの在り方”を体系的に考える新たな動きがスタートした。

小鳥ブームの時代に鳥獣店関係者が立ち上げた“人材育成”のための協会

「私ども『日本愛玩動物協会』は昭和54年に設立された団体です。当時はちょうど団地ブームに伴う『小鳥ブーム』の時代で、組織の立ち上げに携わったのは全国の鳥獣店(小鳥店)の関係者でした。もともとは“店で働いているスタッフの知識向上”を目指してセミナーを行うなど、合同研修的に組織が動きはじめたのですが、徐々にその規模が広がって、現在はペット業界の人材育成を目標とした通信教育や資格づくりを中心に活動を行っています。動物愛護団体ではなく、“ペットに携わる人材を育成するのための教育団体”と言えばわかりやすいでしょうか?」

こう話してくださったのは、同協会の4代目会長である農学博士の東海林克彦さん。ご自身も子どもの頃から犬を飼い、現在は猫と共に暮らしているペット愛好家だ。

「設立から約40年、これまで協会としては人材育成教育をずっとやってきたのですが、本当の意味での『人とペットの良い暮らし』を確保するためには、飼育環境を合わせて整備していかないといけないのではないか?と考えるようになりました。飼い主やペット業界に携わる人たちの知識だけでなく、『住まいや地域も含めた飼育環境』を整えていこうということで、このたびガイドライン作成に乗り出したのです」(東海林会長談)

▲会長の東海林克彦さんと、広報担当の竹田千寿さん。「ペットの飼育数増加に伴い、殺処分や虐待などの問題が起こっていますが、対症療法的な解決策を探しているだけでは埒が明きません。飼い主やペット業界の方々がちゃんとした知識を身につけることがそもそもの原因療法につながると考え、教育を通じてペットとの関わりを向上するための活動を行っているのが愛玩動物協会です」と東海林会長。同協会では、通信教育のほか、セミナーやシンポジウムの開催、テキストの作成・頒布を行っている▲会長の東海林克彦さんと、広報担当の竹田千寿さん。「ペットの飼育数増加に伴い、殺処分や虐待などの問題が起こっていますが、対症療法的な解決策を探しているだけでは埒が明きません。飼い主やペット業界の方々がちゃんとした知識を身につけることがそもそもの原因療法につながると考え、教育を通じてペットとの関わりを向上するための活動を行っているのが愛玩動物協会です」と東海林会長。同協会では、通信教育のほか、セミナーやシンポジウムの開催、テキストの作成・頒布を行っている

ペットとの共生を考えるということは、地域の『街づくり』にも関わること

これまで各社バラバラの打ち出し方を行ってきた『ペット共生住宅』だが、協会では約2年をかけてその体系づくりを行い『設備構造』『立地環境』『管理運営』をガイドラインの3つの柱として定めることにした。

「従来の『ペット共生住宅』を掲げた物件では、“ペットの足洗い場がある”とか“キャットウォークがある”とか“ペットの爪あとがつきにくい建材を使っている”とか『設備構造』ばかりが強調されてきたのですが、『立地環境』『管理運営』にもちゃんと目を向けてほしいとの想いから具体的な項目を定めました。

例えば、『管理運営』では、良好な衛生状態をどうやって維持していくか?ペットの逸走防止対策がとられているか?など『ペットの習性への配慮』がちゃんと行われているかどうかがポイントになります。また『立地環境』では、飼い主同士や近隣住民とのあいだでトラブル防止を図れるような工夫を取り入れているかどうか?ペット飼育に対する理解がある地域かどうか?という点についても項目を盛り込んでいますから、言ってみれば『根本的な街づくり』や『地域のコミュニティ形成』にも関わる内容になっています。

一見、ペットと『地域のコミュニティ形成』というのは特に関係がないように感じられるかもしれませんが、住民同士のコミュニケーションが円滑な地域というのは、ペットの騒音問題なども含めてトラブルが少ない傾向にあります。夜中にお隣の犬が「ワン」と吠えたとき、まわりの住民がそれを「うるさい」と感じるか、「何かあったのかな?」と感じるかでは大きな違いがありますから、“ペット飼育に対して理解のある環境づくり=ペットフレンドリーなコミュニティづくり”を行うことも、ペット共生を考える上で重要な課題のひとつなのです」(東海林会長談)

▲「ワンちゃんと一緒にこれから住まい探しをする方は、街の中ですれ違う犬の数や、ペットを連れて入れる公園の有無、お散歩コースの道幅や安全性についても確認を」(竹田さん談)<br />「ペットを通じて地域の人同士の会話が弾むこともありますから、ペットも子どもと同じように“地域の財産”になりうると思いますね」(東海林会長談)※写真はイメージ▲「ワンちゃんと一緒にこれから住まい探しをする方は、街の中ですれ違う犬の数や、ペットを連れて入れる公園の有無、お散歩コースの道幅や安全性についても確認を」(竹田さん談)
「ペットを通じて地域の人同士の会話が弾むこともありますから、ペットも子どもと同じように“地域の財産”になりうると思いますね」(東海林会長談)※写真はイメージ

ペットのライフステージも変化する、住まいづくりは“ペット目線”にも配慮を

▲「どうしてもペットの住環境は“人の目線”になりがちですが、事故を防ぐためにも“ペットの目線”に合わせていまの住まい・いまの街を見直してみることをオススメします」(竹田さん談)※写真はイメージ▲「どうしてもペットの住環境は“人の目線”になりがちですが、事故を防ぐためにも“ペットの目線”に合わせていまの住まい・いまの街を見直してみることをオススメします」(竹田さん談)※写真はイメージ

「今の時代、ペットは地域の鎹(かすがい)になりうる存在」と東海林会長。

実際に、このガイドラインの策定についてリリースしたところ、複数のマンションデベロッパーやハウスメーカーから反響があり、「ぜひ『ペットフレンドリーホーム宣言』に参画したい」との問い合わせが寄せられた。広報の竹田さんも「大きな手ごたえを感じている」という。なお、『ペット共生マンションの適正化推進ガイドライン』の冊子は協会ホームページで販売されているため、興味があればわたしたち一般の飼い主でもその内容の確認が可能だ。

最後に、ガイドラインの項目を参考にして各個人・各家庭で留意すべきポイントについてのアドバイスをもらった。

「人間は年齢を重ねるにつれてライフステージに変化が訪れますが、犬や猫にも同じようにライフステージがありますし、人間よりも早く歳を取るわけですから、これからは“ペットの年齢に合わせた住まいづくり”についても考えていただきたいと思いますね。つい飼い主の好みで、部屋の中にいろんなペットグッズを揃えたり、空間を作りこんだりしがちなのですが、ペットにもそれぞれ個性があり、年齢によっても暮らし方には大きな違いがあります。ペットを“我が家の末っ子”という存在で捉え、“ペットの目線や成長に合わせた可変性”を意識することが大切だと思います」(広報・竹田さん談)

近年、住まいの可変性は集合住宅のプランニングの中でも重要なテーマとなっているが、“ペットのライフステージの変化”まで視野に入れた可変性について考えている飼い主は(筆者も含め)まだまだ少ないのではないだろうか。他にも、人の生活動線や家事動線と同じように『ペット動線』を考えること。例えば、ご飯を食べたあと人目につかないところでトイレを済ませることができる動線、人の動線と交わりにくい静かな場所の確保など、ペットの好みに合わせた生活動線づくりについてもガイドラインの中で推奨されている。

「よくマンションを買う時は『環境を買え・管理を買え』などと言われますが、それはペットにとってもまったく同じ。“ペットは可愛い・癒される”という飼い主側の満足度だけでなく、“ペットにとって良い環境とはなにか?良い管理とは何か?”について考え、気付くことができる飼い主さんが、このガイドラインの策定をきっかけにもっと増えてくれたら嬉しいですね」(東海林会長談)

多業界から注目を集める『愛玩動物飼養管理士』と『ペットオーナー検定』

ちなみに、日本愛玩動物協会では、今回策定した『ペット共生マンションの適正化推進ガイドライン』の頒布や『ペットフレンドリーホーム宣言』の受付業務の他、一般個人で取得できる『愛玩動物飼養管理士』の資格認定や『ペットオーナー検定』など、協会本来の通信教育事業にも引き続き注力しながら“ペット飼育に関する正しい知識”を広めていきたいと考えているそうだ。

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団地サイズにぴったりな小鳥ブーム、庭付き一戸建てに合わせた大型犬ブーム、おひとりさまのワンルームでも飼いやすい猫ブーム…これまでの日本では、住まいの変化と共にペットブームも変遷してきたわけだが、これからは“住まいにペットを合わせる”のではなく、“ペットに合った住まいを選ぶ時代”へと変わりつつある。

ペットを家族同然の存在とする家庭が増えたいま、『ペットと飼い主が長く快適に暮らせる住空間』を考えることも、飼い主が果たすべき責任のひとつとなりそうだ。

■取材協力/公益社団法人日本愛玩動物協会
https://www.jpc.or.jp/

▲愛玩動物飼養管理士は日本国内のほとんどのペット専門学校で導入されている資格で、資格保有者は累計約17万人にも及ぶ。「愛玩動物飼養管理士については、動物愛護管理法をはじめ外来生物法や薬事法、栄養学、行動学、しつけまでかなり詳細な専門知識を学ぶことになるため、受講期間は8ヶ月ぐらいかかります。ペットオーナー検定のほうはややライトな内容で、主婦の方や小学生の方も受講しています。最近は、ペット共生住宅をはじめ、ペットツーリズムや、ペット連れOKのレストランなども増えていることから、不動産業界・旅行業界・飲食業界の方たちが『ペットに関する知識をいまの仕事に活かしたい』ということで受講されるケースも増えています」(竹田さん談)▲愛玩動物飼養管理士は日本国内のほとんどのペット専門学校で導入されている資格で、資格保有者は累計約17万人にも及ぶ。「愛玩動物飼養管理士については、動物愛護管理法をはじめ外来生物法や薬事法、栄養学、行動学、しつけまでかなり詳細な専門知識を学ぶことになるため、受講期間は8ヶ月ぐらいかかります。ペットオーナー検定のほうはややライトな内容で、主婦の方や小学生の方も受講しています。最近は、ペット共生住宅をはじめ、ペットツーリズムや、ペット連れOKのレストランなども増えていることから、不動産業界・旅行業界・飲食業界の方たちが『ペットに関する知識をいまの仕事に活かしたい』ということで受講されるケースも増えています」(竹田さん談)

2018年 09月22日 11時00分