不動産、法律、税金など異業種の専門家が協力して相談に対応

「出口の見える無料相談会」での相談の様子。ひとつの困りごとに対し、悩みに合った複数・異業種の専門家がチームで対応する「出口の見える無料相談会」での相談の様子。ひとつの困りごとに対し、悩みに合った複数・異業種の専門家がチームで対応する

賃貸住宅のトラブル、隣の家との境界紛争、土地・建物の相続問題など、住まいに関してさまざまな「困った」に直面することがあるだろう。そんなとき、専門家に相談したいと思っても誰に相談すればいいのかわからないし、高額な相談料を請求されそうな不安もあって、問題解決をあきらめてしまうことにもなりかねない。

なんとか解決の道を探るために、自治体主催のよろず無料相談会や、各地の弁護士会、建築士会といった専門家団体が実施する無料相談会を利用する方法がある。ただ、そこで壁になるのは、複雑な困りごとのケースではひとつの分野の専門家だけでは対応するのが難しいという点。となると、相談者としては解決どころか、不満が残ってしまうだろう。

そんななか着目したいのは、ひとつの相談に対し、複数分野の専門家が共同で対応する、異業種連携型の無料相談会。例えば、不動産相続の問題なら法律については弁護士、相続税については税理士、不動産の適正価格については不動産鑑定士、相続の登記については司法書士といった具合に、一度に直接、アドバイスを受けることができる。いくつもの要素が複雑に絡み合った問題でも一気に解決の糸口を見つけることが可能になり、相談者にとってのメリットは大きい。

こうした異業種連携型の無料相談会は徐々に増えているようだ。そのひとつが東京都大田区で活動する「一般社団法人おおた助っ人」が開催する「出口の見える無料相談会」。相談員を務める専門家達は全員ボランティアで、相談会開催を通じて地域や社会に貢献したいという。興味がわいてきたので、取材を進めてみた。

自分達の専門性で地元大田区に貢献したい

「出口の見える無料相談会」を主催するおおた助っ人は、「大田区を笑顔にする!」をモットーに、2010年11月に結成された。司法書士(2名)、宅地建物取引主任者(宅建主任者)、一級建築士、行政書士の5名で立ち上げ、その後にWEBディレクターが加わって現在の構成メンバーは6名。全員が東京都大田区在住・在勤の専門家だ。

「ほとんどのメンバーが大田区で生まれ育った地元っ子です。僕も生まれは広島県ですが、大田区で育ち、今も区民です」と話すのは、おおた助っ人の理事長を務める司法書士の小林彰さん(38)。大学卒業後、大手スーパーに3年ほど勤務した後、「もっと多くの人の役に立つ仕事をしたい」と、司法書士の世界へ転身したという経歴の持ち主である。新宿区内の司法書士事務所などで実務経験を積み、32歳のときに千代田区で自身の司法書士事務所を開業したが、「地元の大田区で仕事をしたい」と思うようになったという。きっかけは自身の結婚と子どもの誕生。

「結婚して実家を出て、同じ大田区内で引越しをしたんです。実家から自転車でいけるような距離のところなんですが、引越し先の周辺には知り合いが誰もいない。知り合いを増やしたくても、当時の僕は町内の活動にも参加できずにいて…。このままでいいのかなと自分自身に対して抵抗を感じるようになりました。子どもが生まれてからはますますこの思いが強くなりました。この地域で僕らは暮らし、子どもも育っていく。安全で楽しく暮らせる環境にするには、親である自分が積極的に地域社会に関わり、地域に貢献することが大切と考えるようになったんです」と、話す小林さん。そのためにも地元にしっかり根をおろそうと、2009年、司法書士としての活動基盤を大田区へ移し、職住近接体制へとワークスタイルを変えたのだった。

では、どんなことで地域貢献をしようと考えたのか? 小林さんは司法書士としての専門性を生かして貢献したいと思った。

そんな小林さんと同じ思いを抱いていたのが、鈴木豪一郎さん(43)。現在、おおた助っ人の副理事長で、不動産のプロ・宅建主任者である。

大田区の困りごとを解決する、身近な頼れる場をめざした

鈴木さんは都内の不動産会社で住宅仲介のキャリアを積んだ後、独立。小林さんが地元で司法書士業務を開始した2009年、鈴木さんも大田区で自身の不動産会社を開業した。

「それまで在籍していた不動産会社では主に売買業務を手がけ、物件調査から契約まで担当していました。多くの契約実績をつくりましたが、 “売ったら終わり”というような仕事のスタイルには違和感があったんです。事業としての利益優先と考えればいたしかたないことではありますが、それでいいのかなと。住宅の購入や売却は、多くの人にとっては一生の節目となる出来事です。売買契約でご縁のあったお客様に対し、住宅の建て替えやリフォーム、相続に絡む不動産についての相談、住宅ローンの借り換えなど、さまざまなフォローをやりたいと思い、独立開業にいたりました。それには司法書士、弁護士、建築士といった他の分野の専門家の力が不可欠ですので、会社設立と同時にネットワークづくりに取り組みました。そうして声をかけたなかのひとりが、司法書士の小林彰さんでした」(鈴木さん)

実は鈴木さんと小林さん、「住まい探し」がとりもつ縁。前述の小林さんの転居の際、親身になって相談にのってくれ、新居の仲介をしたのは鈴木さんだったという。

その鈴木さんも、地元大田区のために恩返しをしたいと考えていた。
「私が生まれ育ったのは、大田区六郷。町工場が多く、下町のような雰囲気のところです。近所の人たちはみんな顔見知りで、子どものころ、やんちゃ坊主だった私はよく叱られていました。よその子を叱るなんて、今では考えられませんよね。自分が育ってきた環境と今とでは変わってしまいましたが、私は地域の人に育ててもらったと思っています」(鈴木さん)

そのころ、鈴木さんが雑誌の記事でみかけ、興味をもったのが「プロボノ(pro bono)活動」(※)という概念だ。各分野の専門家が職業上もっている専門技能を生かして社会貢献をするボランティア活動のことを意味する。
「社会貢献の形はいろいろあるけれど、自分の専門知識を生かせる活動ならば地域の人たちに対してより貢献度の高いことができる。“これだ!”と思いました。私の場合、不動産や住まいに関する専門知識で役に立つことができます」(鈴木さん)

そうして意気投合した小林さんと鈴木さん。それぞれのネットワークで志を同じくする専門家とのつながりができ、結成された専門家グループがおおた助っ人だ。

大田区で困ったことがあったら、徒歩・自転車で行ける範囲のところにいる専門家が解決する。そんな身近で頼れる場をめざし、おおた助っ人結成から半年後の2011年5月にスタートさせたのが「出口の見える無料相談会」である。


(注)pro bono:
「プロボノ」とは、「公益のために」を意味するラテン語「pro bono publico」に由来する言葉。20世紀初め、アメリカの弁護士が無料で行なった法律相談が始まりといわれている。


一般社団法人おおた助っ人のメンバー。前列右から若杉健志さん(一級建築士)、湯原玲奈さん(行政書士)、鈴木豪一郎さん(宅地建物取引主任者)。後列右から理事長・小林彰さん(司法書士)、福田文明さん(WEBディレクター)、黒岩靖貴さん(司法書士)一般社団法人おおた助っ人のメンバー。前列右から若杉健志さん(一級建築士)、湯原玲奈さん(行政書士)、鈴木豪一郎さん(宅地建物取引主任者)。後列右から理事長・小林彰さん(司法書士)、福田文明さん(WEBディレクター)、黒岩靖貴さん(司法書士)

大田区の助成金を受けて無料相談会をスタートさせた

「出口の見える無料相談会」は大田区消費者生活センターの一室で2ヶ月に一度(奇数月)開催している。予約制で、相談時間は1組につき1時間「出口の見える無料相談会」は大田区消費者生活センターの一室で2ヶ月に一度(奇数月)開催している。予約制で、相談時間は1組につき1時間

「出口の見える無料相談会」を始めるにあたり、大田区の「地域力応援基金助成金」の交付を受けることができた。区の助成事業として認定されたことが大田区民に対するアピールにもなり、相談会の広報に役立ったという。第1回の相談会では、相談員としておおた助っ人のメンバー(立ち上げ当時は5名)のほか、主旨に賛同してくれた弁護士、税理士が加わり、7名で対応。相談に訪れた人は4組だった。以後、相談員、相談者ともに増えていき、3年後の今は相談員は毎回20名前後参加して、相談に訪れる人も20組前後という規模になった。おおた助っ人に協力してくれる専門家のジャンルも不動産鑑定士、土地家屋調査士、社会保険労務士、ファイナンシャルプランナーなど広がっている。

特筆すべきは毎回、相談者にアンケートをとり、満足できたかどうか、調査をしていること。満足していると答えた人は平均して92%と高い満足度になっている。

次回では、相談者の満足度92%を導き出すための相談会運営や、ボランティアで協力している専門家の声、不動産や住まいに関して寄せられた相談事例を紹介したい。

2014年 04月25日 11時59分