「貸家」が大きく伸びた2016年新設住宅着工戸数

国土交通省が2017年1月31日に発表した2016年建築着工統計調査によると、新たに住宅を着工した件数を表わす「新設住宅着工戸数」が、前年に比べて6.4%増の96万7,237戸を記録した。2年連続の増加で、2013年の98万25戸以来、3年ぶりの高水準だ。
この内訳をみると、自分で居住するために住宅を建設する「持家」は29万2,287戸で前年比3.1%増。 建売物件として分譲マンションを建設する「分譲住宅」は25万532戸で前年比3.9%増で、うち一戸建ては8.2%増の13万3739戸だったが、マンション建分譲のマンションは11万4570戸と0.9%減少した。

これに対し、賃貸を目的としてアパートやマンションを建設する「貸家」は41万8,543戸で、前年比10.5%増と大きく伸び、着工戸数全体を押し上げる結果となった。貸家が40万戸を超えるのは、2008年の46万4,851戸以来、8年ぶりである。

新設住宅着工戸数の推移(総戸数、利用関係別)(国土交通省「2016年新設住宅着工戸数(年間)」をもとに作成)新設住宅着工戸数の推移(総戸数、利用関係別)(国土交通省「2016年新設住宅着工戸数(年間)」をもとに作成)

貸家増加の背景にあるものとは?

貸家の新築着工戸数が伸びた背景の一つが、2015年1月に施行された相続税の改正である。
相続する財産のうち、相続する人数によって変わる非課税枠が、改正前の「5,000万円+(法定相続人の数×1,000万円)」から「3,000万円+(法定相続人の数×600万円)」へと縮小され、相続税の課税対象となる財産をもつ人の割合は、全国で約4%から6%台に広がるという財務省の試算もある。

そんな相続税の節税に有効とされる一つの方法が「賃貸経営」である。
最近は知られるようになったが、遺族が相続する場合に、相続税や贈与税の計算を行う際の基準となる「相続税評価額」が、現金や株をそのまま残すよりも低い実勢価格で評価される不動産の方が節税効果が高い。さらに、貸家の場合は借家人が住んでいて売買に制約を受けることから、さらに評価額が下がる仕組みとなっている。

例えば、
 A. 3,000万円の現金
 B. 3,000万円の不動産(2,000万円の建物+1,000万円の土地)

という遺産をそれぞれが評価する場合、Aの現金や有価証券だと額面通りとなるが、不動産で相続すると、建物部分(固定資産評価額)の50%(1,000万円)、土地部分は公示価格(路線価)の80%程度(800万円)で評価されることとなり、加えて賃貸用マンションとして相続すると、さらに土地が60%(480万)、建物が70%(70万)に評価額が下がる。最終的に現金と賃貸アパート建築と比較した場合、課税対象額が3,000万円から1,180万円と、約40%程度にまで抑えられるのだ。

現金で相続した場合と、賃貸マンションやアパートを建設して相続した場合の比較イメージ。現金で相続する場合と比べて、賃貸マンション建築で相続した場合、最終的な課税対象額が3,000万円から1,180万円と、約40%程度にまで抑えられる現金で相続した場合と、賃貸マンションやアパートを建設して相続した場合の比較イメージ。現金で相続する場合と比べて、賃貸マンション建築で相続した場合、最終的な課税対象額が3,000万円から1,180万円と、約40%程度にまで抑えられる

貸家の増加を後押しするアパートローンとサブリース

貸家が増えている背景には、相続税の影響の他にも、低金利の長期化も要因の一つとして挙げられる。日銀によるマイナス金利政策によって、賃貸住宅の建築や購入のための融資商品である"アパートローン"は、持家を取得する場合の住宅ローン同様に金利の低下傾向が続いている。

また、土地所有者が建てたアパートを、建設事業者が長期間にわたって一括で借り上げ、一定期間の賃料保証をする「サブリース」も貸家が増加する要因の一つである。借り上げ期間は30年など長期に渡るものの、保証される家賃の固定期間は建設当初から1~2年ごとに状況を見て改定するという契約内容になっているケースがほとんどだ。
新築時には入居者を確保できたとしても、時間とともに空室は増える傾向がある。その結果、土地所有者に約束していたはずの家賃収入を建設事業者側が大幅に減額したり、契約を解除するなどして訴訟に発展するケースも決して少なくないという。

賃貸住宅融資金利の適用金利の推移(住宅金融支援機構 適用金利の推移表をもとに作成)賃貸住宅融資金利の適用金利の推移(住宅金融支援機構 適用金利の推移表をもとに作成)

エリア別の貸家の新設状況から見えてくるもの 空き家の増加

では、貸家住宅の建築は、どの地域で伸びているのだろうか。
地域別に前年比で比較すると、「首都圏」10.1%、「中部圏」9.6%、「近畿圏」9.5%、「その他の地方」11.5%と最も高い伸び率を示しており、都道府県別に見ても高い順に、「長野県」36.8%、「富山県」36.7%、「徳島県」32.4%、「福島県」30.7%、「新潟県」27.4%と、貸家が増加しているエリアは都市部だけではなく、地方圏でも数多く供給されていることが明らかだ。

昨今、空き家の増加が社会問題になっているのは周知の通りだ。
現在、住宅ストック数約6,060万戸に対し、総世帯数は約5,250万戸と空き家の数は820万戸に達している。さらに、平成20年度における「貸用住宅の空き家率」の全国平均は18.8%と、平成15年度と比較して1.2ポイント上昇していることもあり、賃貸の着工を、"相続税対策"という側面だけではなく、"経営"として捉えることが必要になる。

平成28年計着工新設住宅戸数:利用関係別・都道府県別表(平成28年1~12月)(国土交通省「2016年新設住宅着工戸数(年間)」をもとに作成)平成28年計着工新設住宅戸数:利用関係別・都道府県別表(平成28年1~12月)(国土交通省「2016年新設住宅着工戸数(年間)」をもとに作成)
配信元ページを見る

2017年 03月15日 11時07分