お城のような外観を持つ汚泥処理場

船で大阪湾に出た経験のある人は、ひときわ目立つ青い尖塔を見かけたことがあるだろう。童話に登場するお城のようにメルヘンチックで、遊園地の施設かと勘違いしてしまいそうだが、実はこれ、舞洲スラッジセンターの煙突なのだ。

大阪市建設局の舞洲スラッジセンターは、下水から生じた汚泥を処理する施設で、国土交通省が実施する第13回いきいき下水道賞の下水道普及啓発活動部門を受賞している。少し離れて屹立する、よく似た白い尖塔は大阪市環境施設組合舞洲工場のゴミ焼却炉の煙突。舞洲スラッジセンターと大阪市環境施設組合舞洲工場はともにオーストリアの建築家であるフリーデンスライヒ・フンデルトヴァッサー氏のデザインで、ゴミ焼却の際に生じた排熱蒸気を汚泥脱水分離液処理に活用したりして、相互に補助し合う関係でもある。

舞洲スラッジセンターの青い煙突は大阪湾の海と空を、黄金色をしたキューポラ(頂部)の輝きは将来への夢と希望を、外壁の赤いストライプ模様は汚泥を処理する炎を表現しているそうだ。バルコニーや屋上には植栽が施され、「技術とエコロジーと芸術の調和」を表している。

海から舞洲を見ると遊園地のアトラクションにも見える舞洲スラッジセンターの外観(写真提供:大阪市建設局)海から舞洲を見ると遊園地のアトラクションにも見える舞洲スラッジセンターの外観(写真提供:大阪市建設局)

処理場の建物に込められた理念

舞洲スラッジセンターの稼働開始は2004年4月で、大阪府全体がオリンピック招致に力を入れていた時期だ。そこで、オリンピック開催場候補だった舞洲の玄関口でもある場所に、観光客が興味を持つような建物の建造が計画されたのだという。
同時に、ゴミや汚泥の焼却場が迷惑施設であるというイメージを払拭しようという計画もあった。そこで注目されたのが、オーストリアのシュピッテラウ焼却場をデザインしたフンデルトヴァッサー氏。この焼却場は1989年に火災事故を起こしたが、「人間の出したゴミをいかに自然に戻すか」を理念として再建され、市民がまちのゴミ問題に関心を寄せるきっかけにもなった。大阪市としても、この理念を継承したいと考えたのだ。

建物は遊歩道、せせらぎ、東屋、ベンチなどの外部はもちろん、エントランスホールまで開放されている。
エントランスホールに入ると奇妙な感覚に陥るが、原因はすぐにわかった。壁面や床面が曲線で構成されているのだ。フンデルトヴァッサー氏は「自然への回帰・自然との共存」を理念とし、曲線を多用したことで知られているが、確かに母の胎内に戻ったような安心感がある。

しかし舞洲スラッジセンターの特長はデザインだけではない。「技術とエコロジーと芸術の調和」のテーマには機能にも反映されているだけでなく、一日になんと750tの汚泥を処理できる巨大処理場で、大阪市の下水道が排出する汚泥の半分以上が集まってきているとか。
毎週月曜日・水曜日・木曜日・金曜日・土曜日の10時からと13時から、1時間30分程度の施設の見学が実施されているので、参加してきた。

写真左上:スラッジセンター正面。赤いストライプは炎を表現している。左下:遊歩道、右上:エントランスホールは予約なしでも見学可能。右中:東屋もカラフルだ。右下:一般開放部にはせせらぎも流れている(写真提供:大阪市建設局)写真左上:スラッジセンター正面。赤いストライプは炎を表現している。左下:遊歩道、右上:エントランスホールは予約なしでも見学可能。右中:東屋もカラフルだ。右下:一般開放部にはせせらぎも流れている(写真提供:大阪市建設局)

舞洲スラッジセンターで行われている汚泥処理とは?

溶融炉の1基。一日に150tの汚泥を処理できる溶融炉の1基。一日に150tの汚泥を処理できる

下水の詳しい処理工程は「下水道の仕組みはどうなっている?便器型展示や体感マシンが楽しい大阪下水道科学館に行ってみた」を参照していただきたい。沈殿池などに下水の汚泥を沈め、きれいになった水を川や海に排出している。

しかし水だけ処理できれば良いというものではない。沈殿池にたまった汚泥を、そのまま河川などに流せば汚染の原因になるから、無害化せねばならないだろう。その処理をするのが、舞洲スラッジセンターだ。

汚泥は発酵(消化)させて汚泥が減量した状態で運ばれてくるが、その98%が水分だ。これでは溶融に余分なカロリーが必要になるので、1分間に1800回転する遠心脱水機にかけて脱水すると、脱水ケーキと呼ばれる状態になる。脱水ケーキは見た目がふわふわしたスポンジ状で、すっかり乾燥しているように見えるが、実はまだ80%もの水分がふくまれている。
そこで次に、乾燥機に入れる。乾燥機内では、約400度の蒸気によって一日かけて乾かされ、乾燥汚泥になる。乾燥汚泥の見た目は小石のようで、水分は2%まで減少しているが、まだ溶融炉には運ばない。さらにすり鉢のような粉砕器に入れて、砂より細かい粒子にしてから溶かすのだ。
溶融炉の温度は1300度。空気と一緒に乾燥汚泥を入れると瞬間的に燃え尽き、灰分は旋回しながら溶けていく。
溶けた汚泥は、溶岩のように炉の下の水槽に流れ落ち、急激に冷やされて割れるが、こうしてできたものを「汚泥スラグ」と呼ぶ。舞洲で一日に発生する汚泥スラグの量は、20t前後もあるそうだ。

処理場や焼却場で続けられている有効利用へのチャレンジ

砕かれたガラスのようにも見える汚泥スラグ砕かれたガラスのようにも見える汚泥スラグ

従来は、下水処理場で汚泥を脱水ケーキにし、ダンプカーで焼却場に運ばれていたが、ダンプの騒音や振動、脱水ケーキが発する悪臭に苦情もあった。そこで、地下パイプをつなぎ、発酵(消化)汚泥の状態で舞洲スラッジセンターに運ばれるようにし、悪臭問題や騒音問題は解消された。

また、燃焼温度が高いので煙突から水蒸気が発生せず、アンモニア性窒素量は大気汚染防止法の基準内におさまるよう処理されている。
発酵(消化)汚泥から絞られた液体にもアンモニア性窒素が高濃度にふくまれているので、そのまま川には放流しない。まず、脱水分離液処理設備でアンモニア性窒素を大阪市環境施設組合舞洲工場からの蒸気で加熱除去してから此花下水処理場に戻し、再度処理をしている。

そして、汚泥からできたスラグは、下水工事などで掘った土を埋め戻すとき土に混ぜて有効利用している。
さらに、平野区の焼却場では、汚泥を固形燃料化して火力発電所の補助燃料にする試みもされている。平野と舞洲は焼却炉を整備する場合も考えて設置された焼却場で、処理率は舞洲60%、平野40%程度。ただ自然を汚さないだけでなく、有用なものに変えるチャレンジが進められているのだ。

舞洲スラッジセンターを見学し、注目すべきは外観だけでないとわかった。下水から生まれる汚泥をただ無害化するだけでなく、なるべく省エネルギーで処理し、再利用へのチャレンジもされているのだ。

しかし、水とともに油を流さないようにするなど、私たち一人ひとりの心がけも重要だ。工場や処理場の排水については法律が整備されているが、基本は私たち一人ひとりが生活排水に留意することが重要ではないだろうか。

2017年 03月18日 11時00分