築40年の木造一軒家をDIY可能なシェアハウスに

今、浅草の隣駅、“蔵前”が注目を浴びている。2012年に東京スカイツリーが開業したこともあり、古い建物をリノベーションしたゲストハウスやカフェにアトリエなどがこのエリアにぞくぞくと登場。若者を中心におしゃれな街として注目を集めている。

そんな蔵前に一味変わった“自室をDIYできるシェアハウス”が登場した。その名も「ノイエクラマエ」。築40年の社員寮として使われていた古い木造一軒家をリノベーションしたノイエクラマエは、“街をシェアする”がコンセプト。しかも全体のリノベーション作業も大部分を地域住民や一般の参加者が行うワークショップ形式の「コミュニティビルド」方式で再生された。

共有スペースをセルフリノベでつくるシェアハウスなどは少しずつ増えてきているが、個室を自由にDIYできるシェアハウスというのはまだまだ数が少ない。「ノイエクラマエ」はこの蔵前の街でどんな暮らしを提案しているのだろうか。

「ノイエクラマエ」の誕生秘話やコンセプトを含め、プロジェクトの仕掛け人である溝端友輔氏にお話しをうかがってきた。

自室をDIYできるシェアハウス「ノイエクラマエ」。右からプロジェクトの仕掛け人であり、大家の溝端友輔氏。入居者の田村さん、入居者トップバッターの田代さん自室をDIYできるシェアハウス「ノイエクラマエ」。右からプロジェクトの仕掛け人であり、大家の溝端友輔氏。入居者の田村さん、入居者トップバッターの田代さん

廃材を提供し、入居者のDIYをサポート

実はこのプロジェクトを立ち上げた溝端氏は、大阪に本社を置く設計施工会社の社員。いまも大阪在住で、なんと東京出張中にこの空き家と出会ったという。かねてから空き家の活用に興味を持っていた溝端氏は、なんとかこの空き家を活用できないものかとプロジェクト案を練り上げ、会社に提案した結果が認められ、いわば社内ベンチャーのような形でこの「ノイエクラマエ」を誕生させた。

実はノイエクラマエの向かい側には、こちらも古い民家を再生してつくったサードプレイス「マチナカ製図室」が看板を掲げている。ここは建築学生と社会人が中心になってイベントなどのスペース運営や実施プロジェクトを行う場所。実はノイエクラマエの物件は最初この「マチナカ製図室」に借り手の相談が持ちかけられた物件だった。そこで東京出張時にシェアオフィス替わりに「マチナカ製図室」に顔を出していた溝端さんの目に止まり再生活用が検討されたという。

「僕自身も空き家再生には興味がありましたし、会社としても店舗内装を中心とした業務から住宅分野への新たな展開を模索している段階でした。そこで施工の知識を生かしながらみんなでつくれるシェアハウスがあったらいいと考えたのです。
施工の現場では産業廃棄物の問題が顕著になっています。一時期不法投棄が問題になったことから、今では現場が始まった段階で不要なものをどう捨てるかをマニュフェスト的にキッチリと定めなければなりません。厳しくなりすぎて、使えるものも捨てなければならない状況のうえ、処分コストも馬鹿になりません。これは持続可能とか再生を考える今の時代に逆行するものですよね。
空き家物件の再生をプロデュースしながら、こうした廃材になりかねないストックを利用できたら、会社にも利用者にもメリットが出る仕組みになるのではと思いました」(溝端氏)

その想いが形となり、「ノイエクラマエ」では、全体の改修時や今後の個室のDIYの際に建材ストックが活用され、無料で提供されるという。

「しかも、蔵前は今とても注目度が高い街です。古い建物を再生したゲストハウスやおしゃれなカフェなども立ち並び、一方では創業80年の雰囲気のある銭湯が残っていたりします。ならばシェアハウスに多くの機能を持たせるよりも、“街をシェア”すればいい。ノイエクラマエの“街をシェアする”というコンセプトはそんな思いから生まれました」(溝端氏)

リノベーション時のワークショップの様子。総勢100名が連日入れ替わり立ち代わり「ノイエクラマエ」の改修に参加したリノベーション時のワークショップの様子。総勢100名が連日入れ替わり立ち代わり「ノイエクラマエ」の改修に参加した

地域の人とつながるコミュニティビルドを採用

昨年、2016年11月に改修作業を着工した「ノイエクラマエ」だが、その再生方法には、コミュニティビルドの手法が用いられている。電気工事や配給水設備などはプロにまかせたが床板の張り替えや壁や天井の塗装など、内装の仕上げはFacebookなどの呼びかけに集まった素人の手で仕上げられている。

「工事現場というのは、汚いとか暗いという印象がどうしてもつきまといます。それを変えたくて、コミュニティビルドという手法を選択しました。Facebookで集まってくれた人たちと地域の方たちとが一緒に楽しんでつくっていける。ノイエクラマエを街の一部としてつくれたら素敵だなという思いがありました」(溝端氏)

Facebookなどから多くの人々が参加してくれたが、溝端氏が描いたのは地域の人たちとも交流を生める現場。そのため、改修ワークショップを地域の人に知ってもらうための「マチをシェアする写真展」も開催した。

創業70年のブリキ工房のお母さんや駅前のサンドウィッチ屋さんのお父さんなど、蔵前に根を張る魅力的な人々を訪ね歩き、収めた写真をSNSでシェアすると同時に「マチナカ製図室」で展示したという。撮影に出かけることで地域の人とのつながりを増やし、写真展に顔を出してもらえたことで、ワークショップにも地域の方々に参加をしてもらえた。単に工事としてのリノベーションを施すのではなく、つくる段階でもノイエクラマエが街に溶け込めるようさまざまなつながりを持たせるしかけを生み出したのだ。

改修ワークショップの途中で写真家、土田凌氏と共に開催した「マチをシェアする写真展」の様子(右)。ブリキ工房(左上)やサンドウィッチ屋のお父さんなど蔵前に生きる人々の笑顔がまぶしい改修ワークショップの途中で写真家、土田凌氏と共に開催した「マチをシェアする写真展」の様子(右)。ブリキ工房(左上)やサンドウィッチ屋のお父さんなど蔵前に生きる人々の笑顔がまぶしい

廃材の新たな循環? 工事現場をクリエイティブに

施工技術に精通する溝端氏だからこそ、ワークショップ自体も初めての人でもできるよう、趣向を凝らしたという。例えば床を貼る作業を簡素化したり、塗装の仕方を丁寧に教えるなど時間をかけた。そのため、本来1ヶ月で終える予定だったワークショップは2ヶ月に延びた。その間、溝端氏は改修物件に寝泊まりしながら、結局クリスマスも年末年始も返上しての作業になったという。

「ですが、とても得るものがありました。これまでの工事現場というイメージは大幅に変えることができたと思います。集まった人々がわいわいと一緒に作業をしていく。もちろん廃材も利用して、どんな風に生かしていくかクリエイティブな作業でもありました」(溝端氏)

廃材の利用では、面白い循環も生まれたという。もちろん会社がストックしていた建材を利用したが、ここで出た廃材がまた別の空き家の再生に使われ、逆に別の空き家からの廃材をもらい受けるといった循環がぐるぐると巡ったそうだ。

「もともと廃材をつかって改修しているのに、それでもさらに廃材って出るものなんです。そしたらワークショップに参加された方がたまたま別の場所で空き家の改修をされていて、こっちで出た廃材をそちらで使ってもらいました。逆もあって、別の場所でいらなくなった廃材がこっちでぴったり合うこともあったりして。面白いですよね同じく古いものなのに、家を変えることでまた使えたりする。新しい形の循環ですよね」(溝端氏)

こうしてみんなの手により、ノイエクラマエは今年1月にひとまずの完成をみた。1階はキッチン、リビング、お風呂、トイレがある共有スペース。入居者を募集したのは2階の3部屋と3階の1部屋の計4部屋だ。2月からオープンしたがすでに満室。ただし、4月に1部屋、8月に1部屋の空室が出る予定で希望者にはまだチャンスがある。

共有スペースのキッチン。おしゃれなシンクも中古品を利用してワークショップで設置。ダイニングテーブルはもともと3階にあった扉を基盤にしてコーヒー屋さんからもらった壁材を枠にして作ったもの(左)。落ち着いたテイストのリビングは壁の木枠を元のまま残しているのが溝端氏のこだわり(右上)。3階に続く階段に灯る照明も元々この家に存在していたものだというがレトロな雰囲気が心地いい(右下)共有スペースのキッチン。おしゃれなシンクも中古品を利用してワークショップで設置。ダイニングテーブルはもともと3階にあった扉を基盤にしてコーヒー屋さんからもらった壁材を枠にして作ったもの(左)。落ち着いたテイストのリビングは壁の木枠を元のまま残しているのが溝端氏のこだわり(右上)。3階に続く階段に灯る照明も元々この家に存在していたものだというがレトロな雰囲気が心地いい(右下)

DIYした個室も次の入居者につなぎたい

田代さんが即決した3階屋上横の屋根部屋。これから机をDIYでつくる予定だとか(左)。窓を開けたらすぐに屋上というロケーションがお気にいりの田代さん(右上)屋上はもちろん共有スペース(右下)田代さんが即決した3階屋上横の屋根部屋。これから机をDIYでつくる予定だとか(左)。窓を開けたらすぐに屋上というロケーションがお気にいりの田代さん(右上)屋上はもちろん共有スペース(右下)

一番乗りで入居を決めた田代さんは、3階の屋上横の個室に一目ぼれ。「屋根部屋なんて日本ではなかなかありませんよね。窓を開けたらすぐ屋上という環境なんて。もうここだとすぐに決めました」と満足そうに笑う。蔵前の人気ゲストハウスでアルバイトをしている田代さんだが、蔵前の街が大好きで「街をシェアする」というコンセプトにも魅力を感じたという。

「この街は面白いですよね。歩いているだけでも楽しい。この家を拠点にいろんな街の魅力を垣間見れるこれからが楽しみです。ワークショップにも参加をして初めてDIYを経験しましたが楽しいですね。入居してさっそく棚をつくったのですが、今度は壁に直接一枚板を這わせた机づくりに挑戦する予定です」(田代さん)

個室のDIYは一応どんな形で行うか申請を出してもらう許可制をとるが、あまり制約は設けない方針だという。「基本的には塗っても、打ってもOKですね。できればみんながそれぞれカスタマイズしたものを次の入居者さんに繋げていけたらいい」と溝端氏は言う。

日本では中古物件は新築物件より値段が下がり、賃貸住宅は現状回復が基本。しかし、海外では、住まい手が手をかけた中古物件の方が価値が高いことも多い。カスタマイズした部屋を次の住まい手につないでいくというのは、日本ではまだ馴染みがない。しかし、今後はこうしたニーズも増えてくるのではないだろうか。

「蔵前の街は、隅田川があって、倉庫を改装したカフェなどもあり、“東京のブルックリン”と最近言われています。それで僕もブルックリンの街を調べてみたんですが、あちらの暮らし方の根底には持続性を大切にしたり、エコであったり、身の丈にあった暮らしというものを主張しているんですよね。今はまだ街並みだけで“ブルックリン”と言われていると思うのですが、今後蔵前の街が暮らしの面でもブルックリンに近づいていけたらいいと思っています」(溝端氏)

新たにつくることではなく、今あるものに価値を与え、それをつないでいく暮らし。「ノイエクラマエ」はそんな暮らしを受け入れる蔵前のあらたな拠点となる場所ではないだろうか。


■ノイエクラマエ
https://www.facebook.com/neuekuramae/

2017年 03月14日 11時05分