水槽、バイクを置きたいから土間のある住宅

動物好きのK氏。リビングに使うつもりの空間はあっという間に動物園状態に動物好きのK氏。リビングに使うつもりの空間はあっという間に動物園状態に

東武東上線上福岡駅。かつて賑やかな商店街が多かったこの街には駅周辺から10数分離れたところにまで1階を店舗、2階を住居にした店舗付き住宅が数多く存在する。そのうちにはすでに空き家になっている物件も多く、入居者募集の看板をあちこちで見かけた。

そうした建物を店舗としてではなく、ガレッジハウスと名付けて普通に住宅として貸し、ユニークな使い方をしている例がある。仕掛け人で、地元上福岡出身のPM工房社代表取締役・久保田大介氏に案内していただき、6物件のうち、3物件を見学してきた。

最初に訪れたのは駅から10数分ほどの場所にある2戸からなる連棟式の建物。向かって左側は居酒屋で、現在も営業中。右側は最初はブティックだったそうで、その後に美容室になり、最後はバイク店。その店舗が撤退した後はがらんどうのまま売却され、久保田さんのクライアントである都内の材木店が賃貸物件として貸すために購入した。普通だったら、それから改装などを行い、賃貸市場に出すわけだが、この物件には売買成立以前に「借りたい」と連絡してきた人がいた。それが現在の入居者であるK氏である。

動物好きでバイク好きというK氏はバイクと、当時から持っていた特注の大型水槽に水を入れて置ける物件を探していた。一般の賃貸では水槽は嫌がられる。重い上に大量の水である。室内で割れでもしたらたいへんなことになる。バイクも一部の人たちには暴走族からの連想だろうか、偏見があるようで、貸したがらない大家さんも少なくない。

だが、土間のある元バイク店ならどちらのハードルもクリアする。たまたま、空いていた店舗をみかけたK氏は借りたいと売却仲介の会社に問い合わせを入れていたのだ。しかも、幸いなことに担当者がK氏の問合せ先を記録しておいてくれたため、売買成立後に久保田氏が連絡、無事、希望していた物件に入居することになった。

土間は犬、亀、ウサギに金魚、ハムスター、ハリネズミなどで動物園状態

一体何種類の動物がいるのやらと思うほどの状態。床に置かれたケージも多く、全貌はなかなか見えない一体何種類の動物がいるのやらと思うほどの状態。床に置かれたケージも多く、全貌はなかなか見えない

お邪魔してみると、約10畳の土間部分は犬、亀、ウサギ、金魚、小鳥、ヨウム、ハムスターなどのケージで占拠された状態。一応、ダイニングテーブルセット、テレビも置かれてはいるものの、現状は動物優先。さらにその奥には夜間によく乗っているというバイク、ハーレーが。オリジナルカラーに塗られ、改造なども含めると350万円ほどもかかっているという愛車である。

この物件に入居する前に飼っていたのは小鳥程度、水槽も持ってはいたものの水が入れられない状態だったことを考えると、自由に飼えるようになったことでK氏の動物好きには拍車がかかった様子。案内してくれた久保田さんも「昨秋訪れた時からまた増えている」とびっくりしていた。これだけの動物がいるとなると、餌やりだけでも大変だと思うが、毎日1時間近くかけて世話をし、さらに半年ほど前に飼い始めた犬の散歩もしているというK氏。「大変ですよ」と言いながらも楽しそうである。

ちなみに今回はお邪魔しなかったが、ガレッジハウスにはもう1軒、土間で亀、トカゲ、犬を飼っている人がおり、それはK氏と懇意なペットショップの店長。K氏の紹介で入居することになったそうで、動物好きの間には確実に土間のような空間へのニーズがあるといえそうだ。

住宅としてみると、1階は土間の奥にキッチン、風呂、トイレなどの水回りがあり、2階は6畳、4.5畳の2室で専有面積は58.06m2。趣味三昧の楽しい暮らしが実現できているが、現在の問題は4歳になる子どもが猫を飼いたがっていること。「小鳥がいるので、猫は無理と言っているのですけどねえ」。世の動物好きの大半からすると、かなり贅沢な悩みと言えそうだ。

スナックをそのままリビングに活用する、男2人のルームシェア

スナックの内装そのままのリビングスペース。カラオケなどをやっていたこともあり、隣に音が聞こえないような仕様になっているともスナックの内装そのままのリビングスペース。カラオケなどをやっていたこともあり、隣に音が聞こえないような仕様になっているとも

続いて向かったのは駅から5分ほど、今でもスナックが多く並んでいる通りにある、これまた2戸の連棟式建物。2戸とも久保田氏が手がけており、右側は元スナック、左側は元接骨院だった。そのうち、右側の住戸はスナックそのままの状態で住宅として募集をかけ、今もそのままの状態で利用されている。住んでいるのは高校で同級生だったという男性2人である。

「空いた時、懇意にしている地元の不動産屋さんは居抜きのスナックとして貸そうと募集を始めてくれたのですが、それをストップしてもらい、住宅として、ルームシェア歓迎と書いて募集し直しました。ルームシェアは嫌がる大家さんも少なくないため、それを可能にすれば住みたい人はいるはずと思ったのです。また、普通、ポータルサイトのトップには外観あるいは間取り図を掲載することが推奨されていますが、この物件ではあえて1階スナック部分の写真を掲載、他サイトでもスナック部分の写真が掲載されました」。

その写真に反応し、冷やかしのつもりで見学に来たものの、すっかり気に入ってその場で入居を決めたのが現入居者の原田辰一氏、村上徳晃氏。どうせなら面白い物件に住みたいという2人の気持ちにぴったりの物件だったのだ。

お邪魔してみると、入ったところがスナックそのまま、現在はリビング的に使われている空間で、カウンター、スツールにテーブル、ソファはスナック時代のまま。ソファ席の正面には2人が置いたテレビがまるで作りつけたかのように収まっており、居心地が良さそう。実際、寝る時に2階の、それぞれの個室に戻る以外はこの場所で過ごすことが多いそうだ。

パーティーにはうってつけの空間だが、残念ながら休みが合わないなどの理由で、一人、二人が訪れることはあっても、これまでそれ以上に集まったことはない。だが、来る人は必ず「なんだ、こりゃ」といった反応をするとか。2人にとって居心地が良い部屋であると同時に、人を驚かす、自慢の部屋でもあるわけだ。

土間を生かしてギャラリー、奥を仕事場に

左側の元接骨院の1階は現在、「ギャラリーハチドリ」として使われている。入居者夫婦の奥様でギャラリーを運営しているみのもけいこ氏はグラフィックデザイナー。

「再開発のため、住んでいた武蔵小山から引っ越すことになり、デザイン性の高い物件を扱うサイトで見かけたのがこの物件。自宅で仕事をしているので、1階にそうした空間が取れると良いと思い、見に来たのですが、夫に『仕事場プラスギャラリーにしたら地域の人とも交流でき、仕事の幅も広がるんじゃない?』と言われ、そうか!と思ったのが決め手になりました」。

契約から7~8ヶ月けて土間に足場板、壁にブリックタイルを貼るなどDIYを行い、オープンしたのは2016年の6月。その後、まずは自分の作品から始め、今では徐々に地元で活動をしているアーティスト、作家などの利用が増え始めている。取材でお邪魔した日には靴下を使ってぬいぐるみを作るワークショップが行われており、今後はこうした利用も増やしていきたいとか。

「ここを借りることになって初めて上福岡に来たのですが、嫌な感じのない、気持ちの良い街。ただ、住み始めていろいろな方と話をすると『楽しい街になったら良いのに』とよく聞きます。他から来た人にも優しい街でもあり、これからはこの街のためになる、楽しい場を作っていきたいと思っています」。

街全体としてはパチンコ店やスナック、居酒屋などの飲食店が多い街だが、これからそれ以外の施設も増えてくるともっと住みやすくなってくるのではなかろうか。ギャラリーハチドリに期待、である。

しゃれた雰囲気のギャラリーハチドリ。奥にはコンパクトな仕事スペースも設けられている。いずれの物件にも共通するのは大家さんがDIYなどに理解があり、入居者の好みを聞いてくれる点。それが面白い物件を可能にしている要因のひとつしゃれた雰囲気のギャラリーハチドリ。奥にはコンパクトな仕事スペースも設けられている。いずれの物件にも共通するのは大家さんがDIYなどに理解があり、入居者の好みを聞いてくれる点。それが面白い物件を可能にしている要因のひとつ

賃貸には制約が多いから面白い

手前はDIY可で賃貸、奥はスナックそのままで賃貸。住戸ごとに貸し方を変えているのが面白い手前はDIY可で賃貸、奥はスナックそのままで賃貸。住戸ごとに貸し方を変えているのが面白い

上福岡に限らず、こうした店舗付き住宅が空き家化しているケースは全国的にも少なくない。ガレッジハウスのような柔軟な使い方を可能にする取組みが行われれば活用、再生もできるかもしれない。「だが」と久保田氏。

「こうした貸し方があるのを知り、試みている大家さんもいらっしゃるようですが、賃料設定、情報発信その他の問題からか、なかなか入居者が決まらないように聞いてます。また、大家さんではなく、不動産会社がやると考えた場合、収益面から難しいのではと思います」。

久保田氏が行っているのは古い店舗付き住宅を投資家に買ってもらい、それを久保田氏の企画で賃貸市場に出すというもの。売買時の仲介手数料、入居者決定後の管理手数料が久保田氏の収入だが、500~800万円の店舗付き住宅の売買で入る仲介手数料は20~30万円程度。マンションと違い、店舗付き住宅のように土地、建物両方をきちんと調査しなければいけない取引では、物件調査に非常に手間がかかるが、その対価としては十分とは言い難い。

管理手数料は家賃の4%。今回ご紹介した物件はいずれも共益費も含め7万円内外。7万円として考えると、久保田氏に入るのは1軒あたり月額2800円である。会社の仕事として考えると儲からないと言っても良いのだ。

それでも、久保田氏が他にないアイディアを出し、それを実現し続けているのは、やっていて面白いから。「僕は演劇プロデューサーになりたくて、以前はアートサポートの仕事をやっていたのですが、演劇はテレビドラマや映画などと比べ、場面や時間を自由に転換できないなど不自由。でも、だからこそそれを突破する方法を思いついた時の感激は大きい。賃貸も同様に制限が多く、その中での創意工夫にはやりがいを感じます」。

また、誰もができないと思っていたことを実現することが信頼に繋がり、他の仕事に結びつく面も。「目先で考えると儲からない仕事でも、やり続けることが違う仕事を生む。短期の損得で考えてはダメですね」。

ガレッジハウス以外にも大きなサンルームやメキシカンハンモック付きなど、これまでにない賃貸を生み出してきた久保田氏。今後もこれまでにない物件が生まれそうで、楽しみである。

PM工房社
http://pmkbs.com/

2017年 02月08日 11時05分