住宅公団誕生から約60年、変化し続けている賃貸住宅ニーズ

▲名古屋市内でも人気の高い住宅地・星ヶ丘エリアに建つ【アーバンラフレ虹ヶ丘西】(名古屋市名東区)。もともとここには『55型』の昔ながらの団地が建っていたが、老朽化に伴い平成9年(6号棟)に建て替えが完了。今回、星ヶ丘エリアの街の魅力づくりの一環として、同地域にキャンパスがある椙山女学園大学とのコラボにより6号棟一室のリノベーションがおこなわれた▲名古屋市内でも人気の高い住宅地・星ヶ丘エリアに建つ【アーバンラフレ虹ヶ丘西】(名古屋市名東区)。もともとここには『55型』の昔ながらの団地が建っていたが、老朽化に伴い平成9年(6号棟)に建て替えが完了。今回、星ヶ丘エリアの街の魅力づくりの一環として、同地域にキャンパスがある椙山女学園大学とのコラボにより6号棟一室のリノベーションがおこなわれた

日本で初めて公営住宅の建設がおこなわれたのは、戦後間もない1947(昭和22)年の東京『高輪アパート』だった。

その後、戦災による住宅不足を補うため、1951(昭和26)年に公営住宅法が交付され、高度経済成長期に突入した1955(昭和30)年からは、日本住宅公団発足とともに各地で公団住宅が建設されるようになった。

当時の公団で標準的な間取りとされていたキッチン+ダイニング+2つの寝室を設けた2DKプランは『55型』と呼ばれて、戦前の庶民の住まいではありえなかった『寝食分離』の住空間を提案。これが、日本の集合住宅設計の礎を築くことになったといわれている。(引用元/UR都市機構『集合住宅歴史館』より)

『55型』の公団住宅が誕生してから約60年の時を経たいま、経済的にも文化的にも豊かになったわたしたち日本人の暮らし方は多様化し、画一的な賃貸住宅の間取りの中には収まりきらなくなった。こうしたニーズの変化に合わせ、UR都市機構(旧・日本住宅公団)では、現在『MUJI』や『IKEA』等の生活雑貨ブランドとの連携によってバリエーションに富んだ個性的なリノベーションを実施し、若者世代のユーザー獲得に尽力している。

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今回筆者が取材したのは、椙山女学園大学(愛知県名古屋市)の学生が企画・立案したUR都市機構のリノベーション賃貸住宅。コンセプト提案から間取りのプランニング、インテリアデザインまで、すべて女子大生が担当したという住宅を内覧して、平成生まれの若者たちがいま賃貸住宅に求めているものが見えてきた。

UR賃貸住宅と椙山女学園大学の学生によるコラボレーション

▲今回プロジェクトリーダーとなった成瀬葵さん(22)。「将来は建築関係の道に進みたい」と語る成瀬さん自身も、実家を離れて賃貸住宅生活を送った経験があるそう。「わたしが賃貸住宅を探すときは、まずは立地、次に、セキュリティの高さ、そして最後は“自分でアレンジがしやすいシンプルな空間”を条件にします」と成瀬さん▲今回プロジェクトリーダーとなった成瀬葵さん(22)。「将来は建築関係の道に進みたい」と語る成瀬さん自身も、実家を離れて賃貸住宅生活を送った経験があるそう。「わたしが賃貸住宅を探すときは、まずは立地、次に、セキュリティの高さ、そして最後は“自分でアレンジがしやすいシンプルな空間”を条件にします」と成瀬さん

名古屋市名東区の閑静な住宅街に建つ築19年のマンション【アーバンラフレ虹ヶ丘西】。その6号棟の一室に、女子大生が手がけたリノベーション賃貸住宅がある。

リノベーションプロジェクトを担当したのは、椙山女学園大学 生活科学部 生活環境デザイン学科4年生の成瀬葵さん。成瀬さんを含む、村上心研究室の学生ら9人によって、『自分好みに、自分らしく生活する空間』の企画・立案がおこなわれ、従来のUR賃貸住宅ではありえない独創的な住空間が完成した。

「3年生の終わり頃に、卒業研究のテーマとして賃貸住宅のリノベーションを担当してみないか?というお話をいただき、それから半年間かけて今の若者たちのライフスタイルの志向や、自宅での過ごし方、空間・インテリアのトレンドなどを徹底的にリサーチしました。その結果、①住宅の中が楽しいこと、②ライフスタイルの変化に対応できること、③使い方を固定せず空間の連動性があること、が求められているということがわかったんです。

今の若者世代は、“昨日までマイブームだったことでも、今日になったら突然飽きてしまう”といった風に、趣味も仕事も興味の対象が常にめまぐるしく変わっていきます。そのため、いつでも自分の変化に対応できて、自分が楽しく過ごせる住まいが求められているようです」(成瀬さん談)。

また、独身者向けの賃貸住宅というと、キッチンスペースが省略されていて手狭なことが多いが、最近の若者たちは男女ともに“広いキッチン”を好む傾向にあるという。「わたしも、わたしの友達も、節約のために外食は極力控えて、ほとんど自炊しています。だから、部屋は多少狭くてもキッチンが広いほうが嬉しいですね」と成瀬さん。

ちなみに、筆者は“バブル世代”と呼ばれる40代。食事といえばメッシーくんにイタメシをご馳走になっていた我々の女子大生時代と比べると、イマドキの学生たちは暮らし方や志向がまったく異なっていることを成瀬さんの言葉から痛感させられた。

べつに、寝室に『壁』が無くたってかまわない!

▲こちらが、オトナと意見が分かれたという玄関サイドの寝室。寝室に限らず、室内には縦横に『単管パイプ』が設置されており、カーテンを下げて間仕切りにしたり、洋服のハンガー代わりに使ったり、足場用の素材を組み合わせてシューズボックスやテレビボードにしたりと、可変性・多様性が表現されている▲こちらが、オトナと意見が分かれたという玄関サイドの寝室。寝室に限らず、室内には縦横に『単管パイプ』が設置されており、カーテンを下げて間仕切りにしたり、洋服のハンガー代わりに使ったり、足場用の素材を組み合わせてシューズボックスやテレビボードにしたりと、可変性・多様性が表現されている

こうして、“若者世代”と“我々オトナ世代”の感性の違いが明らかになったわけだが、プロジェクトを進行する際にも、成瀬さんたち学生側の要望とオトナたちとの間で意見が分かれた点があったそうだ。

「もっとも意見が分かれたのは『寝室の壁』についてでした。玄関を入ると、すぐ左手に寝室が広がっているため、“これではプライバシーが守られない、寝室には壁が必要なのでは?”と、URの担当者の方から指摘を受けました。

でも、壁で空間を区切ってしまうのではなく、壁を無くすことで、使い方を固定しない連動性のある居住空間を表現したかったので、"今の若者はこういう住み方を求めているんです!"とプレゼンをして、何とか理解していただきました。寝室を隠したいときは『単管パイプ』に吊り下げたカーテンを閉めることで、プライバシーが守られるようになっています」(成瀬さん談)。

長年、マンション取材をおこなってきた筆者が一番驚いたのは、成瀬さんが特にこだわって使用したという『単管パイプ』だ。『単管パイプ』というのは、工事現場の足場として使われているもので、マンションの建設現場を取材するときにもよくお目にかかる。その工事用のアイテムを、成瀬さんは“間仕切りを兼ねた収納家具”として活用することを思いついたという。

「48ミリの『単管パイプ』は、ホームセンターでも気軽に購入できるアイテムなので、パーツを加えようと思ったら自分で購入して空間の可変性を楽しむことができます。足場に使われるぐらいですからとっても頑丈ですし、色のない無機質な感じがとてもお洒落だと思いました。リノベーションの工事が始まったときには、“こんなものをインテリアに使うのか?”と工事スタッフの方から驚かれましたが、最後は“こうやって組み合わせると良い棚になるよ”とアドバイスを下さったりして、どんどんアイデアが広がっていきました」(成瀬さん談)。

イマドキの若者たちにとって、『従来の賃貸住宅の概念』は不要なもの

従来の賃貸住宅では、性別・世代を問わず多くのユーザーから好まれるように、壁クロスは『明るく清潔感のある白』、フローリングは『明るめの茶色』、収納面材は『汚れが目立ちにくいツヤ感のある扉』などが選ばれる傾向にあった。

しかし、成瀬さんら学生が手がけたリノベーション賃貸住宅の室内を見てみると、『壁は渋みのあるマットなグレー』、『床はダークな木目調タイル』、『天井のダクトレールはむき出しに』、『スッキリとしたビジュアルにするため幅木を排除』、『おもちゃの操作盤のような電気スイッチ』などなど、“誰からも好まれる賃貸住宅”の概念を覆すような仕上がりになっていた。また、天井にあえてジグザグに配置した照明器具は、『単管パイプ』のラインとの連動性を持たせて空間の広がりを表現しているのだという。

「今回、リサーチをおこなってわかったことは、わたしと同世代の若い人たちの中でも、それぞれの暮らし方に大きな違いがあるということ。“みんな同じライフスタイル”はありえませんから、今回のリノベーションがひとつのきっかけとなって、これからの賃貸住宅がもっともっと“楽しく、個性的に暮らせる場所”になると良いなぁと思います」(成瀬さん談)。

▲成瀬さんが手がけたリノベーション賃貸住宅の室内。<br />入居者設定はアパレル勤務の25歳・独身男性を想定してプランを描いていったそう。<br />「従来の日本の住宅では、障子や襖が“可動間仕切り”の役目を果たしていましたが、<br />障子や襖の替わりに、工事用のパイプで空間を仕切るこんな賃貸住宅があっても面白いと思います」と村上心教授▲成瀬さんが手がけたリノベーション賃貸住宅の室内。
入居者設定はアパレル勤務の25歳・独身男性を想定してプランを描いていったそう。
「従来の日本の住宅では、障子や襖が“可動間仕切り”の役目を果たしていましたが、
障子や襖の替わりに、工事用のパイプで空間を仕切るこんな賃貸住宅があっても面白いと思います」と村上心教授

今後は新しい情報発信の拠点として活用予定

UR都市機構中部支社によると、残念ながら、この成瀬さんが手がけたリノベーション住宅は賃貸物件として申し込みを受付ける予定はないそうだが、2016年1月24日(日)まで『一般内覧会』がおこなわれ、今後1年間は“新しいUR賃貸住宅”のPRツールとしてワークショップやイベント等の会場に活用される予定だという。

一般見学者だけでなく、住宅メーカーやマンションデベロッパーなど不動産関係者の皆さんも、「若者世代に受け入れられるこれからの住まいの在り方」の参考に、ぜひ内覧に訪れてみてはいかがだろうか?


■UR賃貸住宅×椙山女学園大学リノベーション住宅一般公開
期間/2016年1月16日(土)~24日(日) 10:00~17:00
場所/アーバンラフレ虹ヶ丘西 6号棟 205号室(見学希望の方は直接来場を)

■取材協力/UR都市機構(独立行政法人都市再生機構)中部支社
http://www.ur-net.go.jp/chubu/
■アーバンラフレ虹ヶ丘西
http://www.ur-net.go.jp/chubu/aichi_nagoyashi/1510.html

▲【アーバンラフレ虹ヶ丘西】205号室のビフォー・アフター。<br />『壁』の存在にこだわらないことで、開放感のある可変性高い住空間が完成している。<br />寝室も、収納も、“隠すことの奥ゆかしさ”を美徳としてきたはずの日本人の感性は、もはや“時代遅れ”なのかもしれない▲【アーバンラフレ虹ヶ丘西】205号室のビフォー・アフター。
『壁』の存在にこだわらないことで、開放感のある可変性高い住空間が完成している。
寝室も、収納も、“隠すことの奥ゆかしさ”を美徳としてきたはずの日本人の感性は、もはや“時代遅れ”なのかもしれない

2016年 01月21日 11時06分