「リノベーション・オブ・ザ・イヤー2016」
800万円以上部門で、最優秀賞に

雪国にいるとよく目にする、三角屋根の古い家。
その北海道らしい家が、築年数の古さと機能性の悪さからだんだんと姿を消しているという。

北海道の景観を作ってきたこの住宅は、1953年に制定された「北海道防寒住宅建設等促進法(寒住法)」に基づき、財団法人北海道住宅建設公社が建設を進めた補強コンクリートブロック造の家である。
屋根に積もった雪はかなりの重量となる。雪の過重により建物の負担にならないように、降った雪が地面へと滑り落ちるようにと、屋根は急勾配となっているのだが、その特殊な形状が故に2階部分の居室の確保が十分にできないこと、壁内結露などの機能性の悪さがこの住宅の問題となっている。
しかし、その北海道が生み出した同地ならではの「三角屋根のブロック造の家」が、株式会社スロウルの手によりリノベーションされ、「リノベーション・オブ・ザ・イヤー2016」800万円以上部門で、最優秀賞に輝いた。

数ある応募作品の中から選ばれた事由はなんだったのだろうか。そこには、住みにくいとされていた空間をアイディアと現代の技術で機能性を格段に向上し、今のライフスタイルにあった姿に変貌をとげた”三角屋根のブロック造の家”があった。

(左)リノベーション前:コンクリートブロックがむき出しとなっている<br>(右)リノベーション後:外断熱を施し、ドーマー屋根を設けた(左)リノベーション前:コンクリートブロックがむき出しとなっている
(右)リノベーション後:外断熱を施し、ドーマー屋根を設けた

スロウルの原点、ブロック造の家をモデルハウスに

「お客様をご案内する中で、写真でお見せしても改修後のイメージがつきにくく、実際に見てほしい、という思いがありました。そんな中、一週間後に解体予定たったこの物件に出会い、スロウルのはじまりがブロック造の家だったこともあり、原点という意味でも自社の事務所兼モデルハウスにちょうどいいと思いました。」とは、戸建住宅などのリノベーションを手掛ける株式会社スロウル代表の平賀さん。

物件の周りには、いまでも現役の三角屋根の家が点在しているのだが、建設当初からは姿形を変えている。居住空間の狭さから、横に増築していたり、三角屋根を取払い、木造住宅を縦に増築していたり、長いときを経て様々な形に変容してきた姿が見て取れる。
ビフォーとアフターの物件が同時に見られるのは、お客様としてもイメージがつきやすいというのも、この立地の利点であろう。

外観は、白を基調とし、屋根は北米でよく使われている軽量の屋根材、アスファルトシングル葺き。落雪せずに屋根に雪がとどまる仕組みだ。家が密集している地域では落雪で隣人に迷惑をかけてしまう可能性があるので、そういったことにも考慮している。
物件の中へ入ると、木を基調とした開放的な空間が広がっており、目地の粗いブロックの壁や鉄骨が露出し、インテリアのスパイスとなっている。
「あくまでも躯体としての見えないブロックだったので、仕上げは粗いんですよね。ただそこもこの物件でしか出せない味だと思っています。リノベーションは、昔と今の職人さんのコラボなんです。」

1階のリビング。無垢の白樺フローリングなど、地場産の素材を使うことにも考慮しながら、既存の素材と上手く調和するようにデザインされている1階のリビング。無垢の白樺フローリングなど、地場産の素材を使うことにも考慮しながら、既存の素材と上手く調和するようにデザインされている

三角屋根の使い方の新提案

間取りで言うと、2LDK+フリースペース+ロフトといったところであろうが、文字では表せられない立体的な空間が中には広がっている。1階はもともと和室が2部屋あったが、間仕切りを取り払い、キッチン、ダイニング、リビングがゆるやかにつながる空間に。さらに、パントリーなどの見せない収納も欠かしていない。

スケルトン階段を上がると、吹き抜けの解放的な空間に、ベッドルームを2部屋確保。また、屋根の一部を切り取りドーマー屋根をつけたというのがこの家の象徴的なところでもあり、増築ではない空間の取りかたの工夫がみてとれる。ドーマーにより広がった空間には、作り付けのデスクを設け、デスク下にも収納スペースが生まれた。
2階には、さらにハシゴであがれるロフトがある。子どもだけでなく大人も楽しい隠れ家のようだ。ロフトから下をのぞくと、1階のリビングまで見渡せることに気がつく。一見、2階建ての建物なのだが、3層構造になっており、三角屋根でも家の内部空間を余すことなく使うことで、居住空間の狭さを解決している。

〈左〉2階のフリースペース。奥の収納スペースからロフトへあがるハシゴが伸びている。〈右上〉2階のベッドルーム。屋根を切り出し、ドーマー屋根をつけると一気に空間に広がりが出る。〈右下〉ロフトから下をみる。上で遊んでいる子どもの様子が1階からも見られるようになっている〈左〉2階のフリースペース。奥の収納スペースからロフトへあがるハシゴが伸びている。〈右上〉2階のベッドルーム。屋根を切り出し、ドーマー屋根をつけると一気に空間に広がりが出る。〈右下〉ロフトから下をみる。上で遊んでいる子どもの様子が1階からも見られるようになっている

中古住宅のウィークポイントにも向き合った、断熱改修。

リノベーション前のリビング。ブロック壁の内側に気持ちばかりのグラスウールの内断熱に、二重窓といえど気密性の低いサッシが入っていたリノベーション前のリビング。ブロック壁の内側に気持ちばかりのグラスウールの内断熱に、二重窓といえど気密性の低いサッシが入っていた

古い家は、夏は暑くて、冬は寒い。
建設当初は、断熱や気密などの技術が進んでおらず、特に冬の寒さが厳しい北海道では、いくら暖房をたいてもどんどん外に熱が漏れるため、燃費も悪く、結露もひどい状態であった。これが今ある中古住宅のウィークポイントでもあろう。
そういった現状の中で、古さを生かしながらも、断熱や気密などの性能を大きく向上させたことが評価され、今回の受賞に至った。

躯体のコンクリートブロックの外側に180mm厚のビーズ法ポリスチレンフォームの断熱材を採用し、内断熱から外断熱にすることで、味わい深いテクスチャのブロックや鉄骨梁をあらわすことができ、天井断熱から屋根断熱にしたことで、今までデッドスペースであった天井裏部分も有効活用し、三角屋根を最大限に使った立体的な空間づくりが可能となった。

また、ブロックは透湿性のある素材のため、湿度を通さない素材で覆ってしまうと結露の心配がある。外壁を左官仕上げの透湿性のあるもので仕上げ、気密性は少し劣るが、構造材にあわせた結露対策を行うことで"壁内結露"も解消。
さらに、内装に多用されている木材にも透湿性のある仕上げ材を施工しているため、漆喰や珪藻土の壁以上に木材が調湿機能を果たしてくれているのだそう。

窓には、特注の高断熱木製窓(ペアガラス)を採用。木は熱伝導率が低く、窓枠を木製にすることで、デザイン面だけでなく、断熱気密性能まで確保することができた。また、採光と開放感を生んでくれる天窓も三角屋根では効果的な手法であり、4箇所の天窓が用いられている。

建物自体の性能を上げたことで、快適さが伴う間取りの変更が可能となったのである。
ストーリーやデザイン性だけではなく、機能性の向上がこれからのリノベーション住宅に求められているのかもしれない。

IT企業のサラリーマンからリノベーション業界への転身

「新築のような綺麗なお家が好きな方へは、新築をおすすめしています。”安いから中古物件がいい”のではなく、中古物件のリノベーションには、新築には出せないヴィンテージの良さがある。相談にきてくださったお客様にはそれらについてしっかりとご説明しています。どちらがいいというわけではなく、お客様が好きなほうを選択できる、多様性があるってことなんですよね。」

そう語る平賀さんが北海道の地でスロウルを立ち上げたのは7年前。もともとは広島の出身。福岡の大学を卒業後は、13年間IT企業につとめるサラリーマンだったという異色の経歴を持つ。

「福岡の企業で3年働いたあと、オーストラリアへワーキングホリデーに行きました。そこで、日本のあらゆるもののクオリティの凄さやオーストラリアののんびりとした風土に気づかされたんですよね。帰国後は、いろいろなところに住んでみたかったですし、北海道行ってみたいな、という気持ちから、バックパック一つで北海道へきて、就職先を決めました。その後札幌のIT企業で10年ほど働きましたが、13年もこの業界にいて大した活躍もできていない。向いてないのだなと思いました。」

「どうしていきなりリノベーションができたのですか?とよく聞かれるのですが、実は、以前から投資目的で少し物件を所有していて、少しくらいの修繕ならDIYで直していたんです。もっとお金をかけられたら素敵な物件になるのに、というフラストレーションとIT業界での限界を感じていたこと、外から来たものとして、自然と共に生活できる北海道ならではのライフスタイルの提案が自分のできることなのではないかと思い、建築ではなく、"ライフスタイルの提案"という切り口で、初期のブロック造の住宅リノベーションに取りかかることになりました。…とはいえ、リノベーションがこんなにも大変だとは思いませんでした。畑違いの業界からきているので、建築っていうものがわからないまま試行錯誤ではじめたんです。」

はじめた当初は設計士と組んで少しずつ知識をつけていきながら、次第に信頼の置ける大工や職人と出会ったことで、職人とともに現場で相談し作りあげていくようになったそう。

「ITでも建築でも作っているものが違うだけ。職人さんとの関わり方は全然変わらなかったです。大切なのは熱意。どんなに難しそうにみえる発注でも、情熱を持って諦めなければ『しょうがない、やってやるか。』となってくれるんです。」

「三角屋根のブロック造の家」は、諦めずに情熱をぶつけ続けた先に完成した”これがスロウルです”と言える物件なのである。
ヴィンテージ感を生かしたデザイン面に加え、使用する材の選定、機能性を大幅に向上させたという功績は、これからのリノベーション住宅のあるべき姿をみせてくれたのではないだろうか。

取材協力/株式会社スロウル
http://slowl.jp/

スロウル代表の平賀さん。お話を聞いていると、スロウルが7年かけて一歩ずつ歩んできた様子が伝わってきたスロウル代表の平賀さん。お話を聞いていると、スロウルが7年かけて一歩ずつ歩んできた様子が伝わってきた

2017年 06月19日 11時05分