若いころとは違う50代を過ぎてからの住まい、終の棲家をどうする?

50代を過ぎると、そろそろ老後の住まいについて考え始める人も少なくないだろう。国交省の調査(※1)によると、住宅の一次取得者は戸建、マンション、新築、中古とあらゆる住宅の種類において30代が最も多く、二次取得者は分譲戸建て住宅を除いて60代以上が最も多い。また比較的大規模なリフォームをする年齢層(※2)は、50代以上が8割を占めている。(※1.国交省住宅局、平成28年度住宅市場動向調査報告書より)(※2.一般社団法人リフォーム推進協議会、平成28年度第14回住宅リフォーム実例調査報告書より)

壮年期は社会的にも家庭的にも充実した時期で、しかしながらそれに伴う責任も大きく、受けるストレスも過大になりがちだ。家づくりにおいても、社会的責任を全うしやすい立地や、子育てのための間取りを主眼にして行う人が多いことだろう。60歳を超えて老年期に入れば、仕事や子育てというストレスから解放され、今度は自分自身がこの先どう暮らしていくか、終の棲家について考え始める時期がやってくる。

住宅の二次取得者やリフォーム実施者に60代が多いのも、退職金など金銭面でのゆとりが生まれやすい時期であると共に、一次取得から20~30年経って、そろそろ今までとは違う新しい住まいの形を求めるタイミングにあるからだ。間取りひとつとっても、30代と60代で暮らしやすい家の形は違う。若いころは暮らしやすかった家も、年をとると昔のようにはいかないことがあれこれ出てくる。

例えば、若いころは子供の面倒を見ながら料理がしやすかった対面スタイルのキッチンも、年を取ると配膳するのにぐるりと迂回するのが大変だという声を聞くようになる。洗濯も2階のベランダに干せば日当たりよく、気持ちがいいのはわかっていても、濡れた重い洗濯物を持って階段を上るのは辛くなってくる。このような変化はゆるやかに進み、気付かないうちに危険になっていたり、生活の質が低下していたりすることが少なくない。

そこで今回は、この先を長く快適に安全に暮らすことができる家にするために、若いころとは違う50代以降の終の棲家づくりで、押さえておきたいポイントをご紹介しよう。

一次取得・二次取得別の世帯主の年齢分布。国交省住宅局、平成28年度住宅市場動向調査報告書を参考に作成一次取得・二次取得別の世帯主の年齢分布。国交省住宅局、平成28年度住宅市場動向調査報告書を参考に作成

終の棲家で最低限押さえておきたいバリアフリー、明るさ、温度差も

終の棲家とは、最期を迎えるまで暮らす家のことを言う。高齢化しても安心して暮らし続けることができるようにするためには、まずバリアフリーであることが必須となる。バリアフリーと言うと、年寄りのためのものというイメージがあるが、実は高齢者だけでなく、あらゆる世代が安全に暮らすために必要な要素である。

中でも最低限押さえておきたいのが、床の段差を解消しておくことだ。築年数が古い住宅では、ドアの敷居や畳の床が、廊下やキッチンより3~4cmほど高くなっていることが多く、年を取ってすり足になると、つまずいて転ぶ危険がある。

たかが小さな段差とあなどることなかれ、大きな段差は目立つので注意を払うが、小さな段差でこそ事故が多い。家庭内事故のデータ(※)によると、高齢者の事故の原因の1位は転落、2位は転倒と、足元の事故が多く、高齢者の場合は重症化しやすいという特徴がある。年を取ってからの骨折は、寝たきりの原因にもなりかねない。段差解消用のミニスロープの取り付けなら、1,000円程度からすぐできるので、必ず対策しておこう。ちなみに国交省のバリアフリー基準では、段差は5mm以内であることが求められている。(※国民生活センター、平成25年医療機関ネットワーク事業からみた家庭内事故-高齢者編-より)

高齢者の家庭内事故の原因の1位である転落とは、階段や脚立からの転落による事故のことだ。階段にはしっかりとした手すりを取り付け、ワンフロアで暮らすことができれば更に安全性が増す。また脚立や椅子を使う作業を避けるため、照明器具には寿命が長く交換頻度が低いLED電球を取り付けておく、吊り戸棚や天袋は取り付けない、使わないなどの工夫も必要だ。

部屋の明るさにも注意を払っておきたい。年を取ると周囲が暗く見えるようになり、かつ光源のまぶしさに弱くなる。手元や足元は今までより一段階明るくしつつも、まぶしさを抑えるために光源を覆うようにカバーを付けるなどの工夫をしておくといいだろう。

他にも、風呂場や脱衣室を暖かくしてヒートショックを防ぐ、滑らない床材を選ぶ、指先の力が弱まることを考えて取っ手を大きくしておくなど、終の棲家を考える際には、この先長く安全に暮らせるようバリアフリーへの配慮をしておくことが大切だ。

さてこのような基本的なバリアフリー対策の他にも、終の棲家づくりで押さえておきたいポイントがある。次は筆者が実際に車いす生活で体験した、暮らしの中での困った!をご紹介する。

事故のきっかけ。内閣府、平成28年版高齢社会白書を参考に作成事故のきっかけ。内閣府、平成28年版高齢社会白書を参考に作成

1年間の車いす生活で困った!行き止まりキッチンと和室、外出ができない

いきなりの車いす生活。意外に困ったアレコレがあったいきなりの車いす生活。意外に困ったアレコレがあった

筆者は数年前、階段から落ちて足を痛め、1年近く車いすと松葉杖の生活をしていた時期があった。一応バリアフリーを意識した家ではあったのだが、いきなり車いす生活が始まるとは予測しておらず、実際に暮らしてみると、意外に困ったアレコレがあった。

最初に困ったのが、対面スタイルのキッチンだ。我が家はペニンシュラ型と呼ばれる、壁から半島型に突き出したレイアウトだったため、キッチンに入っていくと奥は壁で行き止まりになっている。そこに車いすで入っていくと、Uターンできるほどの幅は無いため、出る時にはバックで戻ることになる。キッチンで車いすをバックする怖さを始めて知った瞬間でもあった。

キッチンで車いすでバックすると、ちょうど頭の位置に、煮えたぎったお湯や熱い油、包丁などがある。怖いので、おそるおそる後ろを見ながらバックするのだが、方向が上手く定まらずステップをあちこちにぶつけて、冷蔵庫やキッチンを凸凹にしてしまった。車いすの操作に慣れないということもあったのだが、この奥の壁が通り抜けられたらどんなに便利だろうと、何度も思ったものだ。

リビングの扉にも苦労した。間取りの関係上、引き戸ではなく開き扉だったために開閉に手間取り、親子ドアだったのだが、車輪を何度もぶつけて、召し合わせ部分を破壊してしまった。結局、最後は真冬でも常時開けっ放しにせざるを得なかった。

トイレのレイアウトにも問題があった。面積が狭く、洗面所を通ってからトイレに入る必要があったため、曲がり角が多く、毎回本当に辟易した。このような経験から、「行き止まりの無い回遊動線」「引き戸」「トイレにゆとり」この3つの大切さについては、あちこちで吹聴してまわっている。

また足のケガが完治するまで、和室は一切使えなかった。立ったり座ったりが大変な上、車いすの車輪で畳を傷めてしまうため、和室に近寄ることすらなかった。他にも、フローリングの上に敷いたラグマットに車輪が引っかかって動けなくなったり、立ち上がれるようになったら今度はフローリングの滑りやすさに何度も怖い思いをしたり。先々を考えれば、床は滑らかに、かつ滑らない仕上げにしておくことは本当に大切だ。

ちなみに当時は、かなり築年数が古いマンションだったため、部屋を出てからマンションを出るまでに段差があり、介助者無しでは一歩も外出できない日が続いた。終の棲家としてマンションへ引っ越す場合は、共用部のバリアフリーをよく確認しておくことが肝心だ。

炊事、洗濯、掃除がしにくい家は、高齢になると生活の質が低下する

終の棲家づくりでは、バリアフリーに加えて、生活の質を維持するための工夫もしておきたい。年を取ると、身体が動かなくなったり、細かい作業が面倒になったりなど、家の中のことにだんだんと手がまわらなくなってくる。高齢になればなるほど、家事がしやすい家であることが、生活の質を維持するために大切なこととなる。

若いころは掃除が得意だった人も、年を取るとやはり行き届かなくなり、家の中が何となく汚れてくる、以前はあれほど料理が好きだったのに最近では出来合いのお惣菜ばかりになってしまったという高齢者は少なくない。

写真は、先日取材を行った70代のご夫婦が暮らす築18年のマンションの様子である。奥様はきれい好きで、以前は毎日拭き掃除をしていたそうだが、今は大変で1年に1回の床のワックスを掛けることすらできないと言っていた。またIHクッキングヒーターは何世代か前のタイプで、魚を焼くと後片付けが大変で、また上手く焼けないため、仕方なく焼いた魚を買ってきて食べているが、美味しくないと嘆いていた。

また吊り戸棚の上部は届かないため使っておらず、収納が不足しているため、足元に調味料が並べておいてあった。これは危険ではないかと聞いたところ、やはりつまずいてひっくり返すことがあるとのことだった。

こちらの家は比較的新しくきれいなマンションにもかかわらず、家事がしにくいことで、生活の質が低下しつつあった。ワックスが要らない滑らない床、掃除がラクで魚が美味しく焼けるコンロ、手元で使いやすい収納システムなど、リフォームで実現することは可能だが、それには年を取り過ぎてなかなか踏みきれないとのこと。同世代の友人と会うと、リフォームすればよくなるのはわかっていても、そんな気力はもうない。住み替えなんてもってのほか、若いうちにやっておかないとダメだねという話になるとのことだった。

築18年、高齢の夫婦が暮らすマンションのキッチン。吊り戸棚は届かないため上半分は使えない。収納が不足しているために、足元に調味料が置いてある築18年、高齢の夫婦が暮らすマンションのキッチン。吊り戸棚は届かないため上半分は使えない。収納が不足しているために、足元に調味料が置いてある

コンパクトな住まいなら生活の質を維持しやすいが、平屋は少ない

高齢者が暮らしやすい住まい探しをしているのだが、なかなか見つからず高齢者が暮らしやすい住まい探しをしているのだが、なかなか見つからず

住み替えやリフォームに年齢制限はないが、やはり年を取るとだんだん難しくなっていく。終の棲家づくりは、体力的にも精神的にも、そして資金的にも余裕があるうちに考えておくことが必要だ。

その際は、バリアフリーであることに加えて、生活の質を維持できるよう家事がしやすい工夫をしておこう。また、コンパクトな作りにしておくことも、身の回りに手が届きやすく、暮らしやすい家になる。

筆者も終の棲家を考える時期にあるため、不動産情報を覗きつつあれやこれやと考えているのだが、まず高齢者は賃貸を借りにくいという現状がある。では持ち家は?と言うと、新築でも中古でも一戸建てでもマンションでも、多くは壮年期のための間取りのため、部屋数が多いなど、ぴったりくるものがなかなか無い。例えば一戸建てなら、LDK+3~4部屋という間取りで、2階~3階建てになっているため、これから老年期を迎える層はお呼びでないという感じなのだ。

個人的な理想はワンフロアで暮らすことができる平屋だが、中古物件でもほとんど見当たらない。注文住宅で建てるか、それとも中古一戸建てを減築・改築するか、バリアフリーマンションで暮らすか。住宅の二次取得者の年齢割合で、注文住宅において60代以上が占める割合が最も高い(※)のも、資金面でゆとりがあるというだけでなく、他に選択肢が無いからということもあるだろう。ぜいたくを言えばきりがないが、理想の終の棲家を作るにはかなりお金が掛かりそうだ。(※国交省、平成27年度 住宅市場動向調査より)

今後、日本はどんどん高齢化していくにもかかわらず、とにかく高齢者向けの住まいを探そうとすると、選択肢がすごく少ない。家あまりのこの時代、老後の暮らしをもっと彩り豊かにするためにも、住宅も年代別にあわせてバリエーション豊かに展開されていくことを期待したい。スマホだって高齢者向けの売れ行きが好調なんだとか。住まいもきっと需要があると思うのだがいかがだろうか。

2017年 05月21日 11時00分