東京・本駒込にある地域の人たちの交流の場

ひとり暮らしの高齢者、育児に悩む若い母親など、孤立しがちな人たちをどう支えていくのか。多くの地域で抱えている課題だろう。そんななか各地で増えているのが、「居場所づくり」という取り組み。地域の人たちの交流の場をつくることで人と人とのつながりを深め、地域コミュニティの活性化につなげていこうというものだ。

そうした取り組みのひとつ、「こまじいのうち」を紹介しよう。

「こまじいのうち」は全国に数ある「居場所づくり」のケースの中で、成功事例として注目を集め、多くのメディアで紹介されたり、自治体や福祉団体などの視察も相次いでいる。

その「こまじいのうち」は、東京都文京区本駒込の住宅街にある築60年の木造2階建ての一軒家。もとは空き家だったが、0歳児から90代の高齢者まで多世代が集う場として再生された。

「ここには高齢の人も来るし、子連れでやってくる若いお母さん、学校帰りにふらりと立ち寄る小学生、中学生もいます。大学生や外国人留学生もやって来るので、毎日大忙しです」と笑顔で話すのは、「こまじいのうち」のマスター、秋元康雄さん(75歳)。この場所に集う子どもたちから「こまじい」と呼ばれ、親しまれている秋元さんは、生まれも育ちも駒込。かつて空き家だったこの建物の所有者でもある。もともとは秋元さんの親族が住んでいて、秋元さんが相続した家。秋元さんは別に家があるので、そこに住むことはなく、数年間空き家だったという。

地域のふれあいの場へと再生されたきっかけになったのは町内会活動だった。

「こまじいのうち」マスターの秋元康雄さん(右)と、スタッフの山上良一さん。山上さんは「みまもりサポーター」グループのメンバーとして関わるようになり、今では「こまじいのうち」のコアスタッフとして会計などを担当している「こまじいのうち」マスターの秋元康雄さん(右)と、スタッフの山上良一さん。山上さんは「みまもりサポーター」グループのメンバーとして関わるようになり、今では「こまじいのうち」のコアスタッフとして会計などを担当している

誰もが集える居場所をつくろうと、町会連合会が立ち上がった!

4年前(2013年)春、秋元さんは駒込地区に12ある町会の中のひとつ、神明西部町会の副会長をしていた。駒込地区の12町会で形成される駒込地区町会連合会の定例会で、昔を懐かしむ声が持ち上がった。

「町会連合会の会議といっても、出席者の多くはみんな幼なじみです。子どもの頃からのつきあいなので、気心が知れている仲なんです。そもそもこの駒込の一帯は歴史のあるまちで、明治時代からの住民もいて、下町人情ある土地柄。昔は家の玄関を開けっぱなしにして、近所の人同士が気軽に行き来していて、お互いの顔が見える関係でした。でも、近頃は高層マンションがたくさん建つようになって、新しい住民が増えました。それ自体は悪いことではないけれど、近所で顔を合わせてもお互い挨拶するでもなくて、『昔ながらの人情ある交流が薄れてきているね』と、会議で嘆いたりしていたんです。つまりは昔を懐かしんでいたわけです」

この会議では、古くから住んでいる住民の高齢化についてもしばしば話題になっていた。高齢になり、町内の昔なじみの人も亡くなって話し相手を失ってしまい、ひきこもりがちになっているという問題だ。子ども世帯は地元を離れて帰ってこない…。そうして会議の場であがったのが、「昔のように、近所の人が気軽に集まって、お茶でも飲みながらおしゃべりできる場所があるといいね」という声だった。

そこで、「古い家があるけど、よかったら使ってよ」と、所有する空き家の提供を申し出たのが秋元さんだった。
「空き家といっても、私の応接間みたいな感覚で使っていたんです。友だちを呼んで、一緒にお酒を飲んだりしてね。その延長で、地域の人たちの応接間になれば、と思いました」

こうして始まった駒込地区の「誰でも気軽に立ち寄れる居場所づくり」。しかし、空き家を使えるからといって簡単に実現できたわけではなく、「地域のたくさんの人たちから協力していただけたことが大きいです」と、秋元さん。

強力にバックアップしてくれたのは、駒込地区町会連合会を所管する駒込地域活動センター。12町会の連携をはかったり、各町会からの運営経費協賛金の取りまとめ、開設・運営資金を捻出するために「東京都地域の底力再生事業助成金」の申請手続きなど、所長自らしてくれた。

さらに「居場所」を運営していくためのボランティアの募集、プログラムの企画は文京区社会福祉協議会(以下、文社協)がサポート。とりわけ、地域の人を巻き込むということで重要な役割を果たしたのは、文社協の地域福祉コーディネーター(※)だったという。

「地域福祉コーディネーターは地元で活動しているボランティア団体や福祉団体などさまざまな人とのつながりがあって、協力依頼をしてくれたのです。民生委員、児童青少年委員、傾聴ボランティアグループなど、みなさん、快く引き受けてくれました。また、駒込の近くには東洋大学があって、その社会福祉学科の先生ともご縁ができて、学生さんがボランティアでかかわってくれることになりました」

(※)地域福祉コーディネーター
地域の課題やニーズに対し、さまざまなネットワークを活かして解決へと導いていくことができる人材。住民の支え合いの仕組みづくりを支援するという職務も担う。

上左)1階の居間。昭和の家屋の面影を残し、昔懐かしい雰囲気</BR>上右)壁には、子どもたちが描いた秋元さんの肖像画が飾られている</BR>下左)本駒込の住宅街の中にある「こまじいのうち」</BR>
下右)下校途中の小学生たちが「こまじいいる?」「おやつ、ちょうだい!」などと言いながらやって来る上左)1階の居間。昭和の家屋の面影を残し、昔懐かしい雰囲気
上右)壁には、子どもたちが描いた秋元さんの肖像画が飾られている
下左)本駒込の住宅街の中にある「こまじいのうち」
下右)下校途中の小学生たちが「こまじいいる?」「おやつ、ちょうだい!」などと言いながらやって来る

地域のさまざまな団体の協力を得て、開設された「居場所」

上)「脳トレ健康麻雀」は開設時からの人気プログラム</BR>下)毎月、A4サイズのイベントカレンダーや特別プログラムのチラシをつくり、回覧板に挟んだり、地域の掲示板に掲示。Facebookでも発信している。基本的に週5日ほどのオープン。家計の事情で学習塾に通えない子どもに対して学習支援を行なう「一般社団法人てらまっち」の活動の場にもなっている上)「脳トレ健康麻雀」は開設時からの人気プログラム
下)毎月、A4サイズのイベントカレンダーや特別プログラムのチラシをつくり、回覧板に挟んだり、地域の掲示板に掲示。Facebookでも発信している。基本的に週5日ほどのオープン。家計の事情で学習塾に通えない子どもに対して学習支援を行なう「一般社団法人てらまっち」の活動の場にもなっている

このように、駒込地区町会連合会、駒込地域活動センター、文社協で協働し、実行委員会を結成。居場所づくりの開設に向けて運営法を検討するプロセスで、秋元さんは「居場所」のマスターとしてほぼ常駐し、戸締りや鍵の管理を行なう役目を担うことになった。そのため、居場所の名称を決めるときには「あきもとさんち」「あきこま邸」など、秋元さんの名前の入ったネーミングが候補に挙がったという。最終的に多数決で決まったのは「こまじいのうち」。

「駒込にあるおじいちゃんのうち、という意味です。町会連合会の各町会長、副会長はほとんどがおじいちゃんですからね」と、秋元さんは話す。

約8ヶ月間の準備期間を経て、2013年10月、「こまじいのうち」が開設された。建物の1階の6畳・4畳半の和室と台所を使い、週3日程度の運営でのスタートだった(現在は週5日程度)。麻雀指導ができるボランティアが行なう「脳トレ健康麻雀」、「NPO子どもを守る目コミュ@文京区」による子育て中の母親の交流サロン「ゆる育カフェ」、囲碁指導者連絡会が主宰する「囲碁入門教室」などのプログラムのほか、プログラムを実施しない時間にはお茶を飲みながらおしゃべりを楽しめる「カフェこま」を開催。
それぞれ利用料100円~300円の設定で、「事前申し込みは必要なし、誰が来てもよし」の形でオープンしたのだった。

オープニングセレモニーには文京区長も駆けつけ、盛況だった。しかし、「誰もが集える居場所」をつくったのに、やって来る人がほとんどいない日々が続いたという。

「チラシをつくって町会の回覧板に挟んだり、掲示板に掲示しましたが、来てくれる人は少なかったんです。チラシを見ても、『こまじいって誰だ?』とか『何をする場所なんだろう?』みたいな感じだったのでしょう。一軒家だから、中の様子がわからなくて入りにくいことも原因だったと思います」

そこで、「どんな場所なのか、知ってもらおう」ということで、2014年1月、実行委員会やボランティアスタッフが商品を持ち寄ってバザーを開催。これが予想以上の集客で、入場待ちをする人で行列ができるほどだったという。このバザーを機に、徐々に地域の人が「こまじいのうち」を訪れるようになった。オープンした2013年10月は、ボランティアスタッフを含めて約150人の来訪者だったのが、今ではスタッフもプログラム参加者も増え、合わせて月300人~400人が訪れているという。

プログラムの参加者から運営スタッフへと転身するケースも増えていった

ここで特筆したいのは、「こまじいのうち」に多くの人が集うようになり、それが「こまじいのうち」の運営に大いにプラスに働いていること。

「しょっちゅう遊びに来る人の中から『私もお手伝いをしたい』と申し出てくれる人が出てきて、運営スタッフになってくれる人が増えていったんですよ」と、秋元さん。

また、プログラムの参加者や、「カフェこま」に訪れる人たちの交流が深まる中で、「こんなことをやってみたい」という意見が活発に出るようになり、学生落語、地域史に詳しい人によるお話し会、子ども食堂「こま・ザ・キッチン」など、さまざまな企画が実現した。

サークルもいくつか立ち上がり、「こまじいのうち」を拠点に活動するようになったというから驚く。例えば、お手玉、布ぞうりづくり、ビーズづくり教室、バルーン体操などだ。
「ここに来ておしゃべりしているうちに盛り上がってできたサークルです。『昔はこんなのつくったよね!』『そうだよね!』『教えてくれる人を知っているから、今度、連れてこようか?』という感じで話がはずんで、始まったんですよ」

新たな子育てサークルも立ち上がった。
「予想外だったんですが、赤ちゃん連れの若いお母さんが大勢来るようになりました。お母さんたち、みんな、子育てに悩んでいるんです。マンションの一室で孤独で、外に出かけてもお友達ができない、公園に行っても新米ママはなかなか受け入れてもらえない…。でもここに来ると、同じような思いをしているお母さんがいて、友達ができる。『こまじいのうち』には台所があるから、お湯を沸かしてミルクをつくったり、レンジで離乳食を温めたりできるので、のびのびと過ごしてもらっています」

筆者が取材に訪れたときは、3歳くらいの子どもたちが室内を元気いっぱい走り回っていたり、おしゃべりを楽しむ母親の姿があった。その会話の輪の中には高齢の女性もいて、そんな世代を超えた交流がごく自然にあるのも「こまじいのうち」の特色。

「若いお母さんたちは、『田舎のおじいちゃん、おばあちゃんの家に遊びにきたみたいで、ほっとする』と言ってなごんでくれます。高齢の人も、若いお母さんや子どもたちの話し相手になったり、昔の人の生活の知恵を教えてあげて喜ばれていて、それが張り合いにもなっているようです」

上左)育児中の若い母親が立ち上げた「ばびぶ☆ベビー」の会。母と子が集うなごやかな場には高齢者の姿もみられる</BR>上右)月1回開催の「こまじいキッチン」。地域の人たちが和気あいあいとくつろいでいる</BR>下左)地域の高齢者と、若いスタッフとの間での交流も生まれている。写真は、スタッフが折り紙を教わっている様子</BR>下右)20代、30代の若い父親からの提案で開催された「おやじ集まれ!! 懐かしのレコード鑑賞会」。</BR>会場は、2016年にリノベーションをした、「こまじうのうち」の2階上左)育児中の若い母親が立ち上げた「ばびぶ☆ベビー」の会。母と子が集うなごやかな場には高齢者の姿もみられる
上右)月1回開催の「こまじいキッチン」。地域の人たちが和気あいあいとくつろいでいる
下左)地域の高齢者と、若いスタッフとの間での交流も生まれている。写真は、スタッフが折り紙を教わっている様子
下右)20代、30代の若い父親からの提案で開催された「おやじ集まれ!! 懐かしのレコード鑑賞会」。
会場は、2016年にリノベーションをした、「こまじうのうち」の2階

運営スタッフもプログラム参加者と一緒に楽しんでいる

「こまじいのうち」に集う人は、それぞれで楽しみを見つけ、思い思いに過ごしているのだ。そして、マスターの秋元さん自身も楽しんでいる。

「生まれて間もないころからここに来ている子もいて、子どもたちの成長に接することができるのが嬉しいですよね。また、学生さんや留学生もたくさん来るから、いい刺激をもらっています。学生さんからスマホの使い方やLINEのやり方を教えてもらったり。若い人と一緒にいると元気になります」

秋元さんに、「こまじいのうち」が地域の居場所として成長できた理由を聞いてみたらこんな答えが返ってきた。
「スタッフと、プログラムに参加する人との間に垣根がないことでしょう。スタッフだからといって名札を付けたりしていないし、来てくれた人と一緒におしゃべりをしたり、赤ちゃんを抱っこさせてもらったりね。こんなふうにゆるくつながっているので、ここに来た人たちが『こんなこと、やってみたい!』と、どんどんアイデアを出してくれる。20代、30代の若いお父さんから、『子ども食堂があるのなら、おやじ食堂もやりましょうよ』なんていう声が出ているので、近々やってみたいと思います」

今では駒込地区の居場所として定着している「こまじいのうち」。運営資金は、前述の東京都の助成金、12町会からの協賛金、来訪者からのプログラム参加費、年2回開催のバザーの売上、近隣の人からの寄付金でまかなっているという。スタッフは無償のボランティア。

「こまじいのうち」を長く継続していくためには、東京都の助成金に頼っている状況では難しいということで、2016年10月、「NPO法人居場所コム」(理事長は秋元さん)を設立。これまで使わずにいた建物の2階のリノベーションを行なったので、今後はコワーキングスペースとして賃貸するなどの事業も視野に入れている。

かつて空き家だった一軒屋は、これからも地域の多様な人の「居場所」であり続けるだろう。今後の"深化“が楽しみだ。

■取材協力
こまじいのうち
https://www.facebook.com/komajii/

上左)子どもたちと一緒に遊ぶ秋元さん</BR>上右)若い母親と子どもたちにとって、ふらりと立ち寄れる「こまじいのうち」は居心地のよい居場所</BR>下左)外国人留学生や東洋大学の学生ボランティアとの交流を楽しむ秋元さん</BR>下右)3年間運営に携わってきた学生スタッフが大学を卒業。</BR>就職と同時に、スタッフ業務から離れることになり、子どもたちから寄せ書きと記念品が贈られた上左)子どもたちと一緒に遊ぶ秋元さん
上右)若い母親と子どもたちにとって、ふらりと立ち寄れる「こまじいのうち」は居心地のよい居場所
下左)外国人留学生や東洋大学の学生ボランティアとの交流を楽しむ秋元さん
下右)3年間運営に携わってきた学生スタッフが大学を卒業。
就職と同時に、スタッフ業務から離れることになり、子どもたちから寄せ書きと記念品が贈られた

2017年 05月16日 11時06分