リノベーション・オブ・ザ・イヤー2016総合グランプリを受賞した「アーケードハウス」

4回目を迎えたリノベーション・オブ・ザ・イヤー。年々応募数が増え、2016年は161もの応募作品があった。ノミネート作品には、全体的に施主個人の想いの実現プラスアルファの「社会的課題の解決」が込められた好事例が多く、選考過程では大いに審査員を悩ませたようだ。
その中で、審査員の満場一致という異例の高評価で総合グランプリに選ばれたのが「アーケードハウス」である。商店街の中の長期間空いていた2階店舗部分を、住宅にリノベーションした実例だ。

審査員のコメントを読むと、受賞理由は以下のように語られている。

「衰退した商店街で空き家になった店舗を、『店』からではなく『住』から再生させるというのは、これまで誰も考えなかったアイデアである。このような灯りが商店街に連なり、すなわち商店街に再び人が住むようになれば、路面の「商」も昔とは違った形に再生するのではないだろうか。LDKの大きなガラス面から見下ろす街の、まだ見ぬ未来の予感にわくわくした。」(審査委員長 島原万丈氏)

今回、どのようにしてアーケードハウスが誕生したのかを株式会社タムタムデザインの田村晟一朗さんに話を伺ってきた。

審査員の心を惹きつけたという1枚の写真。
シャッターの降りた暗がりの商店街に、オレンジ色のあたたかな暮らしの光が差し込む(撮影:camekiti)審査員の心を惹きつけたという1枚の写真。 シャッターの降りた暗がりの商店街に、オレンジ色のあたたかな暮らしの光が差し込む(撮影:camekiti)

部屋に光と機能性をもたらしたインナーバルコニー

長年空室だった2階部分の様子と、建物図面。最終的には天窓は潰し、インナーバルコニーを採用した長年空室だった2階部分の様子と、建物図面。最終的には天窓は潰し、インナーバルコニーを採用した

2015年の2月、タムタムデザインのホームページを通してこの案件が舞い込んできた。
以前は店舗用として貸し出していた建物の2階部分が空いているので、ここに住みたいというリノベーションの相談だ。相談主である施主は隣地に実家があり、この建物の1階の店舗は施主の両親が昔から商売をしている。生まれ育ったこの商店街に愛着もあった。

あまり知られていないかもしれないが、住居から店舗へと違って、店舗を住居にする場合、用途変更はいらない。
強度や居室の採光・排煙・換気などの単体規定を満たせばよいので、店舗から住宅への転用は意外と簡単なのだそう。
施主からの依頼内容は「明るくセンス良く」とざっくりとしたもの。まるまる3ヶ月間、田村さんは様々なパターンから施主の好みを探ってプランを練った。ここは商店街ということもあり、隣地との距離が近い。外壁からの採光が望めないことが「明るさ」という点でネックだった。

「現地に行ったら、本当に暗かったんです。あのまま住宅にすると、そこそこストレスを感じると思います。ただ、既存図面を見ると天窓があったので、1回目のプランは天窓からの採光を活かしたものにしました。」(田村さん)
さらに「洗濯物を干したい。」という施主の要望を汲み、2回目はインナーバルコニーを差し込んだプランを提案する。3回目でそのポテンシャルを見出し、4回目に現在の中央に6畳のインナーバルコニーを設け、ほぼ全ての住空間に自然光が入る設計となった。
昼間、アーケード側の窓からリビングに入る光のインナーバルコニーへの抜け感は、他にない空気感を醸し出し、住まいに明るさとゆとりをもたらしている。夜は暮らしの灯りがアーケード街に漏れ、アーケードとの新しい共存関係が生まれている。施主も周囲も満足のいくプランを提案した。

しかし……
「実は、予算は1000万円だったんです。でもインナーバルコニーを入れたら1800万円の予算になっちゃって。施主さんはだいぶご立腹でした。そりゃそうですよね。それでインナーバルコニーを諦めようとしたら、お父様が『これいいなぁ!かっこいいなぁ!やろう!』と資金を出してくれたんです。神様に見えましたね。」(田村さん)

商店街の「当たり前」をリバイバル

実際の工事期間は5ヶ月ほど。
水周りはほぼスケルトン状態から、壁には断熱を入れて、寒さ対策に床暖房も完備した。鉄骨造で既存のブレスがあったため、耐震にはそれを活かしている。
LDK部分の大きな窓は、かつてのテナントのシールを剥いで既存のものをそのまま使い、アーケードの景色をリビングに取り込む工夫をしている。窓にはバーチカルブラインドを設置して、プライバシーを保ちつつ、隙間から暮らしの明かりを外に漏らす。

114m2・3LDKの明るい住まいは、それだけでも住宅として、スペックは申し分ない。とりわけ、「商店街に住む」ということは、駅に近いという好条件も兼ね備えている。このことは、寂れつつある商店街に新たな可能性を見せた。

「商店街の人たちからは、実は大きな驚きはないんです。『あぁ、あそこの子の家族が住むのね』くらいの印象で。たぶん、もともと商店街の2階に住むことは、商店街の人には当たり前のことだったんだと思います。」

田村さんは、その「当たり前」をデザインの力でリバイバルしてみせた。商店街に住むことよりも、実は「モダンでかっこいい家」が昔からある商店街の中に現れたことのほうが、商店街の人たちにとって驚きだった。

アーケードハウスの昼の顔(左上)と、インナーバルコニーをメインに据えた明るい居室配置(撮影:camekiti)アーケードハウスの昼の顔(左上)と、インナーバルコニーをメインに据えた明るい居室配置(撮影:camekiti)

アーケードハウスの先に見るもの。住まいの灯りが「まちの灯り」に

取材中の田村さんの様子。授賞式では男泣きを見せた田村さん。理由は「授賞式に呼ばれたので、どれかに選ばれるとは思っていました。だけどずっと名前が呼ばれない。まさかグランプリはないだろうと思っていたので、その緊張とギャップに思わず泣いてしまいました。」(撮影:山口)取材中の田村さんの様子。授賞式では男泣きを見せた田村さん。理由は「授賞式に呼ばれたので、どれかに選ばれるとは思っていました。だけどずっと名前が呼ばれない。まさかグランプリはないだろうと思っていたので、その緊張とギャップに思わず泣いてしまいました。」(撮影:山口)

アーケードハウスがあるのは、福岡県東部の行橋市「えびす通り商店街」の中。ここは昭和54年に造られたアーケード商店街である。行橋市は隣接する工業地帯との結びつきが強く、駅前の中心地はかつて多くの店が軒を連ねていた。えびす通り商店街は3つある中心商店街の1つだ。しかし、郊外型ショッピングセンターの進出のあおりを受け、今や営業している店舗は3割を切った。リノベーションの工事期間中にも、1・2軒が店を閉めたという。

実はグランプリの受賞を受けて、隣市の商店街の理事長からも田村さんに話が持ち掛けられていた。その商店街は、実際9割もの店のシャッターが閉まっているという。では、そのようなシャッター街はもう「終わる」のだろうか?
再生という道の1つの解が、アーケードハウスだと思う。このことは、何も地方都市に限らない。東京都内でも周囲の7000~8000万円で販売される新築マンションの側に、埋もれた寂しげな商店街は存在する。
住宅として需要のある場所に、商店街の店舗を住まいとして再生させるという切り口には、ひとつの兆しが見える。上の階に人が住み、路面には活気のある店が並び、通りは昼と夜の顔を持つ。そんな商店街を想像したい。

リノベーションで描く暮らしの道しるべ

タムタムデザインの田村さんは、「リノベーション・オブ・ザ・イヤーの表彰の場に毎年行けることは、1年間を通しての仕事のモチベーションに繋がる」という。
インナーバルコニーをメインに持ってきた光溢れる暮らしの動線と空間のゆとりは、施主と家族の暮らしを想った田村さんならではの設計だ。

曰く、「アーケードとの共存」というテーマは当初、サブ的な位置づけだった。
しかしアーケードハウスには、施主の想いを最大限形にし、それにとどまらない社会課題への視線があった。
「人やまちの記憶を残した建物をいかに残していくか」「まちをいかに再生していくか」に込められた想いは、リノベーション・オブ・ザ・イヤーの総合グランプリという評価を得た。さらにそれは共感を呼び、今後の展望に期待が高まっている。

リノベーションは、もう特別なものではない。普通の人の普通の暮らしをつくるものであり、そんな普通の人の暮らしがまちを豊かにしていく。同時にアーケードハウスが示したように、豊かなまちの暮らしに向かう道しるべを描いていくのかもしれない。

リノベーションによって拓かれる未来の灯りを、アーケードハウスから垣間見ることができた。

取材協力:タムタムデザイン

玄関からインナーバルコニーとリビングを通して商店街を望む。通常のマンションや戸建てにはないオリジナルの「豊かな空間」だ(撮影:camekiti)玄関からインナーバルコニーとリビングを通して商店街を望む。通常のマンションや戸建てにはないオリジナルの「豊かな空間」だ(撮影:camekiti)

2017年 04月10日 11時05分