「リノベーション・オブ・ザ・イヤー2016」800万円未満部門賞最優秀賞を受賞した暮らしかた冒険家 札幌の家

今から約2年半前、21世紀の自然・都市のあり方、経済、暮らしを模索し、都市と自然との共生のあり方を問うた「札幌国際芸術祭2014」が開催された。その際、エネルギーや食糧のオフグリッドを目指していく暮らしと体験をアート作品として発表したふたりがいる。“暮らしかた冒険家”……ウェブディベロッパーの池田秀紀さんと写真家の伊藤菜衣子さんによる“夫婦”ユニットだ。

ご夫婦が目指す高品質低空飛行生活と、挑戦ぶりは、以前HOME'S PRESSの『15年後を見据えてDIYとオフグリッドで暮らすー“暮らしかた冒険家 hey, sapporo”』で取り上げた。札幌での冒険の舞台は、菜衣子さんが9歳まで暮らした築30年の木造の家である。そこで彼らが挑戦していたのは、
1)DIYによるエコ改修
2)オフグリッドの暮らし
3)交換経済の実験
の3つの試みであった。

3つの試みを表現した言葉だけで彼らの暮らしの印象を捉えると、間違うかもしれない。
彼らは決して、テクノロジーや進化を否定し、「我慢したエコな暮らしを行う」ことをしているのではない。金銭によって与えられた仕組みと、環境に配慮しない便利な暮らしに無頓着に寄りかかり頼って暮らしを組み立てていくことに疑問を呈し、「人間の知恵が活きる本当の豊かで便利で快適な暮らし」を追求しているのだ。しかもそのアプローチは、暮らしの中での実験の連続である。そのことを"冒険"と表現するのは彼らの暮らしを楽しむユーモアとセンスであると感じる。

そんな彼らが「オフグリッドの暮らし」にますます近づくためのリノベーションを札幌の家に施した。しかもその事例が、「リノベーション・オブ・ザ・イヤー2016」の800万円未満部門で最優秀賞を受賞したのである。

さらなる進化を遂げたその暮らしと、今回のリノベーションのポイントを伺うため、再度札幌を訪れた。

暮らしかた冒険家の札幌の家。今回は外壁も北海道の杉を使用し、地産地消を実現している暮らしかた冒険家の札幌の家。今回は外壁も北海道の杉を使用し、地産地消を実現している

この日の気温はマイナス9度。リノベーションを施した札幌の家は?

旦那様の池田秀紀さん。家の燃費の向上で薪割りのプレッシャーがかなり軽減されたそう旦那様の池田秀紀さん。家の燃費の向上で薪割りのプレッシャーがかなり軽減されたそう

この日の外の気温はマイナス9度。札幌には数年ぶりの大雪が降り、北の国の冬であってもかなり寒い日であった。

迎えてくださったのは、旦那様の池田秀紀さん。雪をかき分けて玄関に入るとふんわりとした空気が身体を包んだ。吹き抜けのあるリビングに通されても寒さは感じない。リビングからキッチンまで開放的な1階の間取りにあるのは空調と薪ストーブだけだ。その薪ストーブも点いていない。

「部屋の中、暖かいでしょう?今までは、薪ストーブを絶えずつけていないと寒かったのですが、今は、例えば外の最低気温がマイナス10度くらい、最高気温でも0度くらいの場合、朝に薪ストーブを焚いて、昼過ぎに寒くなったらもう一度焚き、夜も焚くという感じです。晴れた日は朝と夜だけ焚くだけでよくなりました。終日、焚いていないといけない…ということはなくなりましたね」という。

今回のリノベーションはどのように決めたのであろうか?
「もともと家づくりについては、2011年に熊本の18年廃墟の町家をDIYとDIWO(Do It With Others)でリノベーションしたり、札幌のこの家も2014年から、漆喰を自分たちで塗ったり、床を貼り替えたりはしていました。その延長で家の断熱性能の向上もやってみよう、という試みはしていたんです。例えば、本来商品にはならない羊毛を洗って、壁の断熱材として使うことも検討していました。

でも、実際に羊の毛を洗って乾かしていく工程や、また一戸の家の断熱にどれだけの羊の毛が必要なのかを考えた場合、時間やコストを考えると"これはむずかしい"と(笑)。コストパフォーマンスも考え、また効率的にオフグリッドを進めるためには、これはプロの意見を取り入れて、しっかりと家の性能を上げていこう、と考えました」という。

幸いなことに暮らしかた冒険家には、みかんぐみの竹内昌義さんやパッシブハウス・ジャパンの森みわさんなど、高性能なエコハウスを設計しているプロフェッショナルとの人脈があった。プロの方々の知見も借りながら、今回家の断熱性を上げるリノベーション施工を、エコハウスをすすめる札幌の工務店棟晶株式会社と行った。

オフグリッドに向けたリノベーションポイント
シーズンの薪がリンゴ箱240箱から1/3に

「予算は、約680万。具体的には、外壁を剥がして既存の断熱材約100mmの外側に、発泡プラスチック系の断熱材100mmを付加しました。
開口部については、玄関ドアを高性能な断熱ドアに交換すること、窓は熱損失が大きい出窓を無くした上でトリプルガラスの樹脂窓にしています。さらに南面の窓を大きくとり、陽の光を取り込むとともに、太陽の熱を家の中にたっぷり取り込めるようにしました。」

リノベーション前の薪の消費量は9m2。大量の薪を割り、消費しなければならなかったという。秀紀さんが、無理なく割れるのはせいぜい薪3m2ほど。

「仕事もあるし、生活をするのにたくさん薪割の時間を充てるのは、なかなか大変です。僕たちはいろんなものを犠牲にしながら、我慢を強いられながらの自給ではなく、無理なく豊かに自給できる可能性を持ちながら暮らしたい。

断熱性能を上げるリノベーションの後は、シーズンにリンゴ箱240箱にあたる薪が必要だったのですが、今は1/3ほどの薪で、今までは開かずの間になっていた部屋まで暖かく過ごすことができるようになりました」という。

結果、「札幌の家」は2020年の省エネ基準適合住宅よりも高い断熱性能を手に入れたという。

断熱気密リノベーションを壁・床・屋根・窓に施した「暮らしかた冒険家 札幌の家」断熱気密リノベーションを壁・床・屋根・窓に施した「暮らしかた冒険家 札幌の家」

子どもの身体が感じる微差な温度が健康のバロメーターに?
住まいの豊かさが暮らしの豊かさにつながること

今まで熊本の町家の改修や、札幌の家でのDIYでの改修を行ってきた"暮らしかた冒険家"。今回の「見えない部分」のリノベーションをこう語る。

「薪を割る時間や労力もそうですが(笑)、少しの温度の違いがどれだけ暮らしのクオリティを下げるものなのかに気づきました。人間ってすぐに環境に慣れてしまうから、快適になった!という感覚よりも、実は、今まではなんだったのだろうという感覚があります。
わかりやすいところでいくと、幼い我が子が保育園で風邪が流行っても風邪をひかなくなったとか、出張先に連れて行くと鼻水をたらしているけど家に帰ると治るとか、高性能なエコハウスのメリットとして健康についても、ちらっと聞いてはいましたが、本当にこれは共働き夫婦にとっては何より有難い事だったりします」と話してくれた。

「住まいや暮らしの挑戦で言えば、まだ新しくできることはあるなあ、と。換気にももう少し手を入れたいですし、玄関先の気温を上手に活用することで冬場は野菜などの天然のチルド冷蔵にも活用できそうです」と、まだまだアイディアはあるようだ。

高品質低空飛行の生活をモットーに未来の暮らしを模索する"暮らしかた冒険家"。住環境は、生活スタイルにまで連鎖する。彼らが手に入れたパワーアップした住まいは、次なる冒険を下支えするのかもしれない。

微妙な室温の差…。これまでの住まいと断熱を施した住まいの差は、子どもの身体で素直に反応がでた、という
微妙な室温の差…。これまでの住まいと断熱を施した住まいの差は、子どもの身体で素直に反応がでた、という

2017年 03月13日 11時05分