日本人の生活と密接にかかわる神道の神

葛木御歳神社の東川優子宮司葛木御歳神社の東川優子宮司

夏祭りや秋祭りなど、日本人の生活に深く根付く神道や神社。古来神社は村人のコミュニケーションの場でもあった。
秋祭りでは、収穫した稲穂を神前にそなえてから、公平に分配する。神社は神様が鎮座する場所で不正ができないから、行政の場としても、裁判をする場所としてもふさわしかったのだ。
また、人が死ねば氏神のそばで神になるという信仰があったので、先祖に願いごとがあれば神社へ行って祈っていた。神社は村の人々にとってなくてはならない場所であったといえるだろう。
しかし、時代とともに、人々の意識は変わり、神社に集う習慣は廃れてきた。

そのうえ、神社の経営は決して楽ではない。寄付や祈祷料、お守りの志納料、お賽銭だけが主な収入源にも関わらず、建造物の修理は宮大工にしかできないから多額の費用がかかる。そのため、地域の氏子たちが寄付したりして、神社を守っているのだ。だから神社が生き残るため最初にクリアすべき課題が、地域に深く根付くことだろう。

地域に受け入れられつつ、神社の復興に取り組んできた神社として、葛木御歳(かつらぎみとし)神社がある。宮司の東川(うのかわ)優子氏からお話を聞いてきた。

平安時代以前に遡る葛木御歳神社

奈良県御所市にある葛木御歳神社は、平安時代には鎮座していた古社。ご祭神である御歳神の「歳」は、本来稲穂を意味しており、稲の神様であると考えられる。日本人は、春先に御歳神が田へ降臨し、秋には山に戻ると考えた。神様が田を守ってくださると考えたから、正月に米で餅をつく習慣ができたのだ。
「鏡餅は御歳神様の依り代。お正月の間、鏡餅に神様がいらっしゃるのです。小正月のとんど祭りで、神様がお焚き上げの煙とともに山へ帰られたあと、おさがりの鏡餅をわけあたえるのがお年玉でした」と東川宮司が語るとおり、御歳神は日本人にとって非常に身近な神様だとわかるだろう。

葛木御歳神社の創祀は神代だと言われ、平安時代には従一位まで上り詰めた位の高い神社だ。古文書が盗難にあったため、中世の歴史は一切わからないが、明治のはじめごろは氏子が3万5千戸ほどもあったという。しかしその後氏子数が減り、衰退してしまう。12年前、東川宮司が赴任したときは、すっかり寂れていたそうだ。

葛木御歳神社の創祀は神代だと言われ、平安時代には従一位まで上り詰めた位の高い神社だ葛木御歳神社の創祀は神代だと言われ、平安時代には従一位まで上り詰めた位の高い神社だ

神社復興への取り組み

東川宮司がまず手をかけたのは、手水場。神社は「静」の場所なので、「動」が重要だと考え、ホームページを作ってボランティアを募集し、川から水を引いた。しかし地域の氏子たちから協力を得られるようになったのは、もっと後のこと。
「過疎地で高齢の氏子さんが多いこともあり、私たちが何をしているのか不審に思ってらっしゃったところもあったと思います」
状況が変わったのは、平城遷都1300年祭のイベントがきっかけだ。葛木御歳神社も会場に選ばれたので、氏子、山整備のボランティア、外部の崇敬者を集めて実行委員会を立ち上げたのだが、活動の中で交流が活発になり、相互理解が深まったのだ。
「交流によって、地域外の崇敬者も、葛木御歳神社が本当に大好きで集まってくださっていることを氏子さんにご理解いただけて、参拝者に農作物をお裾分けする光景も見られるようになりました」
それからは多くのことが順調になり、平成25年に社殿や瑞垣の修復も終わった。
「崇敬者が、鈴や摂社を奉納してくださったのが始まりで、『地域外の人がこんなによくしてくれるんだから』と、氏子さんたちも幕や瑞垣を奉納してくださったんです」と、東川宮司は晴れやかに笑った。それまでの地道な努力が実を結んだのだから、喜びもひとしおだろう。

葛木御歳神社の年間収入は50万程度。東川宮司は旅行会社のツアーガイドや学習塾の教師、カフェ「みとしの森」の経営をして、やっと生活を成り立たせているから、神社を守っていくには、これからも氏子や崇敬者の助けがなくてはならないだろう。

祈年祭(としごいのまつり)の風景。葛木御歳神社のお祭りは氏子も崇敬者も一緒に準備から参加する祈年祭(としごいのまつり)の風景。葛木御歳神社のお祭りは氏子も崇敬者も一緒に準備から参加する

古来の神道が学べる神道講座

東川宮司は、生活を成り立たせるためカフェも経営している東川宮司は、生活を成り立たせるためカフェも経営している

東川宮司は、これからは発信にも力を入れようと考えている。カフェの経営もその一環だ。要予約ではあるが、静かな境内でパスタランチやカフェメニューを食べながら、宮司から神道の話が聞けるから、好きな人にはたまらないだろう。また、神道講座も始めた。講座といっても、難しい専門用語が飛び出すようなものではなく、身近な内容のようだ。
「日本人がどんな思いで神祭りをしてきたかを、発信していきたいと思っています。神道は究極の性善説で、人間は神様の魂を分け持って生まれてくると考えます。神道で罪穢れを祓うのは、大幣(おおぬさ)というはたきのようなものですよね。人間はもともと良い存在なので、埃をはらうように祓うだけで罪穢れがなくなり、清められるんです。そして神道で死ぬことを『帰幽』と言いますが、死ねば神様世界に帰るのです」

東川宮司の神道講座は「みとしの森」で開催される。第五回は2月26日と3月2日、第六回は4月12日と4月15日の14時半~16時半開講なので、興味のある人は受講してはいかがだろう。

取材協力:葛木御歳神社 http://www.mitoshijinja.jp/

2017年 03月04日 11時00分