風水的に良い物件とは?理想的な風水の地に建つ香港上海銀行

前回は、中国と日本の風水の違いについて歴史的背景を中心にご紹介した。今回は、いよいよ本筋の「風水が香港の建築物に与えている影響」について話を進めていこう。

と、その前に、果たして風水的に見て良い物件とはどのようなものなのか?という部分について、少し触れておきたい。風水的に良い物件、つまり現代の不動産で言えば「駅近・南向き・閑静な住宅街」的な好条件にあたるのは、「龍脈が通り、大地の気が豊富に龍穴に溢れる土地」である。

龍脈とは簡単に言えば、太祖山から噴出している「大地の気」の通り道のことを言う。太祖山とは固有名詞ではなく、連山に囲まれ一方向が開けたすり鉢型の地形の中で、一番高い山をそう呼んでいる。そしてそこから噴出した気は、いく筋にも分かれた尾根伝いに流れ、徐々にすり鉢の底へと移動していく。

日本で言えば、三方向を山で囲まれて、1方向が海に開いた鎌倉の地形をイメージして頂ければ分かりやすいだろうか。この気が流れる通り道である尾根を「龍脈」と呼び、大地の気が多く溜まるすり鉢の底の1点を「龍穴」と呼んでいる。

龍脈は複雑に曲がれば曲がるほど、また別れる本数が多いほど吉相とされている。すり鉢の底地に流れる河川も蛇行していることが良いとされている。

更に、四神相応と言われる、玄武、青龍、白虎、朱雀の四聖獣の相が現れた地形であれば大大吉とされる。玄武の相とは太祖山と龍穴の中程に「父母山」と呼ぶ小山があること。青龍・白虎の相とは太祖山を中心にして左右に山が連なっていることで、向かって右側が白虎で左側が青龍とされている。そして朱雀の相とは平地部分に離れ小島のように小山があること。これらが全て揃っている土地が最高とされている。

香港島の地形は、この理想的な四神相応の地になっている。この写真のビルは、1985年に建てられた通称「カニビル」と呼ばれる香港上海銀行本店で、建っている場所は、中環の皇后大道中1號(Queen's Road Central)。イギリス統治時代の中心地であり、また龍脈の集まる龍穴の地でもある。

通称「カニビル」と呼ばれる香港上海銀行本店。内部は緩やかな流れをイメージしたデザイン通称「カニビル」と呼ばれる香港上海銀行本店。内部は緩やかな流れをイメージしたデザイン

最高の立地に立った悪相ビル、香港の風水戦争

その風水的に見て最高の立地条件に水を差したのが、この写真の中国銀行タワーである。1990年竣工当時には、龍穴を乱す悪相ビルだと噂され、香港上海銀行に宣戦布告をしたと話題になった。

どう悪い相なのかという解説の前に、香港上海銀行と中国銀行の関係について、簡単にご紹介しておこう。両行共に香港ドル紙幣の発券銀行であり、日本で言えば日銀に相当する。そして香港上海銀行はイギリス資本、中国銀行は中国資本、この微妙な関係を理解しておくと、中国銀行の香港支社建設の意図が朧げに見えてくる。

まず、悪相の第一はその高さだった。香港上海ビルの高さは178.8mで、中国銀行タワーは367.4m。他のビル群よりはるかに抜きんでて高いビルは、風水的には悪相とされている。また陽宅風水では、近くに自社よりも高い建物ができると、その威圧により運気が損なわれると考えられているので、中国銀行タワーの出現は、そのあたり一帯の龍穴の地の吉相を一気に乱す結果となった。

第二がビルの形状だった。総鏡張りで三角形をモチーフにして、刃のように鋭角に尖っている。その刃の向かう先が、香港上海銀行本店と当時の香港総督府だったので、これは風水戦争勃発か!?などと言う物騒な騒動に発展したというわけだ。

風水で攻撃された香港上海銀行側も、ただ黙っていたわけではない。ビルの屋上に窓拭き用のゴンドラを新たに作ったのだが、その形状が中国銀行タワーに向けられた大砲にしか見えないものだった。

この騒動は両銀行間だけの問題ではなく、この地区に1990年以降に新築された企業のビルへも広がり、この中国銀行タワーの風水攻撃を跳ね返そうと、あちこちでガラス張りや鏡張りのビルが建っているのが面白い。この悪相は、中国銀行タワーの周辺地域全部に及ぶものであるため、近隣の企業としても何らかの風水対策を講じる必要に迫られたということだろう。

ただ、この風水戦争という騒動は、当然どこの企業も公式には何のコメントも出していないし、風水での「験担ぎ」を認めてもいない。あくまでも都市伝説の域を出ないのだが、ビルの形状や街区の景観を見れば、どこの企業も風水にこだわっていることは、一目瞭然というほど分かりやすい。

刀を彷彿させるフォルムの中国銀行香港支社ビル。緊張感が迫る三角をモチーフにしたデザイン刀を彷彿させるフォルムの中国銀行香港支社ビル。緊張感が迫る三角をモチーフにしたデザイン

風水の極意は、澱みなく緩やかに流れること

では、風水的に好立地な条件を妨げることがない建築物とは、どういったものだろうか?この写真は、香港島を代表するリゾート地、レパルスベイ(淺水灣)にあるショッピング&リゾートマンションのザ・レパルスベイである。

象徴的な形状としては、びっくりする場所が大きく開いている。これは龍脈の流れを妨害してしまうことを回避するために、ちょうど通り道に当たる部分を窓が開いたデザインにしたと言うことなのだろう。波打つ屏風型の形状も風水が言う「蛇行が良い」に合致している。

風水で言う「大地の気」とは、大自然が持つ生命力、或いは血脈の繁栄のエナジーでもある。だからこそ太祖山(ご先祖様)から流れる龍脈(血脈)は、複雑に蛇行(多くの結縁を結び)し、分流(分家)され、いく筋にも別れた先で一つの龍穴(繁栄した血族)へと注がれるのが吉相とされているのだ。このマンションの建設地は、ちょうど龍脈の流れを建物が邪魔することになるためこの様なデザインにしたのであろう。

風水の真意とは、自然の持つ生命力を人の手で歪めることなく、上手く溶け込むことにある。天然の地形を壊すのではなく上手く取りこみ、自然と敵対するのでなく協調することが、無為自然という道教の根本理念である。

窓の開いた波型の屏風の様なフォルムは、見る者に新鮮な驚きと共に意外な安心感をも感じさせる窓の開いた波型の屏風の様なフォルムは、見る者に新鮮な驚きと共に意外な安心感をも感じさせる

近代建築に残る風水の意味、宣伝効果の期待も

(写真上)香港風水の聖地であり、道教、仏教、儒教が習合している「赤松黃大仙祠」。(写真下)香港最古の道教寺院「文武廟」(写真上)香港風水の聖地であり、道教、仏教、儒教が習合している「赤松黃大仙祠」。(写真下)香港最古の道教寺院「文武廟」

今回、見てきたように香港のビルには色濃く風水の影響が残されている。しかしながら香港の人々が、いくら深く風水を信じているとしても、純粋に縁起担ぎの目的だけで、ビルの真ん中に穴を開けるような真似はしない。そこには、風水を積極的に取り入れて、企業イメージや商戦の戦略として活用しようという思惑もある。

「このマンションは、風水の呪法に守られた縁起の良い住処です」や「我が社は、風水をも取り入れた住環境を提供します。」という宣伝効果を期待したデザインと考えれば、わかりやすいだろうか。

ただし日本で、同じような開運マンション的な宣伝を繰り広げるのは、若干問題があるだろう。霊感商法を彷彿とさせ、日本社会ではこの手の宣伝は容認されない。

しかし、風水的な小物やインテリアなら受け入れる土壌がある。日本文化の特徴は寛容性にあり、ハロウィンで盛り上がった翌月に、クリスマスを祝い、一週間後には初詣に神社を参拝するのが日本人である。楽しいことや良いと言われることは、積極的に取り入れる。この明るさが日本人なのかもしれない。

2017年 01月05日 11時05分