かつての割烹料理店をリノベーションし、ジャズバーとして復活

JR浜松駅から徒歩7分、飲食店などが軒を連ねる繁華街、浜松市肴町の一角に昔ながらの佇まいを残す一軒の建物がある。1955年に創業した老舗割烹料理店「不二丘(ふじおか)」だ。格式高い名店として地元財界人などに愛されたものの、1999年に惜しまれながら閉店。以降は、店舗の一部を居抜きで貸していたものの、昭和の風情漂う座敷などは手つかずで残されていた。
「せっかくの歴史ある建物をなんとか活用できないか」。再生に向けて立ち上がったのは、不二丘の女将の長男で、東京でサラリーマン生活を送っていた岡田康宏さんだ。
岡田さんは、大学時代に上京して以来、ずっと東京で暮らしていた。だが、親が体調を崩したこともあり、地元・浜松市に戻ろうと考え始める。そこで目を付けたのが不二丘の有効活用だった。「かなり古い建物ですから、最初は更地にしてテナントビルにすることも考えたのですが、どうせなら身の丈に合う形で、残された建物を活用しようと思い立ったのです」と岡田さん。そして2014年4月、1階部分をリノベーションし、ジャズバーとして復活させた。

ジャズバーとして生まれ変わった不二丘の店内ジャズバーとして生まれ変わった不二丘の店内

外観の黒壁を残し、店名もそのまま。バーとの「ミスマッチ」がウリ

店内の壁に並ぶ5000枚のCD。ライブなどで訪れたアーティストのサインも店内の壁に並ぶ5000枚のCD。ライブなどで訪れたアーティストのサインも

元々ジャズが大好きだったという岡田さんだが、サラリーマン時代は技術畑で、飲食店で働いた経験はなかった。「以前からコレクションとしてレコードやCDを集めていましたし、東京では人気のバーに足繁く通っていました。ですから、音楽を聴かせることを主体にした店なら自分でも出来るんじゃないかと考えたのです」と岡田さん。

2階建て木造家屋のうち、1階部分をリノベーションしてオープン。店舗の広さは約40m2で、客席は全14席。壁の棚にはCD5000枚、レコード1000枚が並ぶ。カウンター側の壁には1970年代に製造された大型スピーカーが設置され、木造の風格ある店内にピアノやトランペットの心地よい旋律が流れる。
「リノベーションにあたっては、昔の雰囲気を残すように配慮しました」と岡田さん。外観の黒壁などは昔のものをそのまま残した。「ジャズバーとのミスマッチ感も面白いと思って、店名もあえて不二丘のままにしています」。
客層は中高年が中心だが、楽器メーカーのお膝元という土地柄もあり、楽器を演奏する若い人の利用も目立つ。「若いお客さんから『この曲が聴いてみたかった』と喜んでもらえることも多いですよ」と岡田さんは笑顔を見せる。

2階の大広間は最低限の改修に留め、昭和の風情漂うレンタルスペースに

レンタルスペースとして復活した2階の大広間。懐かしい黒電話や裸電球の照明などもそのまま残るレンタルスペースとして復活した2階の大広間。懐かしい黒電話や裸電球の照明などもそのまま残る

そして2015年9月には、ジャズバーに続き、遊休施設となっていた2階の大広間も和風レンタルスペース「不二丘二階大広間」として復活させた。

2階の活用方法を模索していた岡田さんは、知人の紹介を受け、浜松市の若手建築家らが遊休物件の活用策を学ぶ「浜松市リノベーションスクール」に課題物件として提供。当初、受講生からはゲストハウスを提案されたが、夜間の管理が難しく、安全面でも問題があることから断念。最小限のリフォームで稼働でき、無理なく運営できるレンタルスペースへと方向転換した。

2階の大広間は約20畳。かつて芸妓の三味線が鳴り響いた空間は、建具や天井に昭和の風情が色濃く残っていた。そこでエアコンの設置や水回りの改修など、最小限のリフォームに留め、古風な味わいを損なわないように配慮。「昔懐かしい和の空間で寛げるのがいいとおっしゃる方が多いですね」と岡田さんは話す。

地域の人たちが交流する「新たなにぎわいの場の創出」をめざして

「もっと多くの方に不二丘を有効活用してもらいたい」と店主の岡田康宏さん「もっと多くの方に不二丘を有効活用してもらいたい」と店主の岡田康宏さん

レンタルスペース「不二丘二階大広間」では、オープン以降、浜松出身の講壇師・田辺一邑さんの独演会のほか、定期的にジャズライブなども開催。現在は月1回、落語家・立川こしらさんによるトークライブと落語が行われている。お稽古事や宴会などで気軽に利用でき、料理をデリバリーしてもらうことも可能だ。
今のところ、レンタルスペースの稼働率は「それほど高くない」と打ち明ける岡田さん。「当初からこのレンタルスペースで収益を上げることはあまり考えていません。せっかくの空間を眠らせるのではなく、ぜひ多くの方に有効活用してもらいたいです。特に昼間のお稽古事などで使ってもらえればうれしいですね」。
かつて多くの著名人でにぎわいを見せた名店が、地域の新たな交流を生み出す場所へ。にぎわいが本物になるまでにはもう少し時間がかかりそうだが、その萌芽は着実に大きくなりつつあるようだ。

■取材協力
不二丘
https://www.facebook.com/fujioka2/

2016年 12月15日 11時05分