おもなメリットは「景観の向上」「安全」「災害防止」

住宅街や市街地で多く見かける"電柱"。皆さんは電柱が立っていないまちを想像できるだろうか?
国内では東京都をはじめ、京都や石川県金沢市、静岡県富士市などの都市をはじめ、「無電柱化」の動きが広がっている。
無電柱化とは、道路の地下空間を活用し、電力線や通信線などを表通りから見えないように配線することで道路から電柱をなくすというものだ。
しかし、なぜ無電柱化が必要なのか。その理由には次のようなことが考えられる。

●景観の向上
頭上に電線が張りめぐらされた街の景観は決していいとは言い難い。

●安全で快適な通行スペースの確保
歩道の脇に電柱が立っていると、通行人や自転車がすれ違いにくくなる。車いす同士ならなおさらだ。

●災害の防止
地震や台風で電柱が倒れると、緊急車両が通れなかったり、避難の妨げになる。

ところが、全国の電柱数は2008年に約3525万本だったが2012年には3552万本と年間7万本ペースで増え続けている。

東日本大震災によって倒れた電柱(千葉県)。この状態では緊急車両は通行できない東日本大震災によって倒れた電柱(千葉県)。この状態では緊急車両は通行できない

世界の大都市のなかで極めて低い日本の無電柱率  

実は、日本の無電柱化は欧米の先進国と比較して進んでいない。無電柱化率は東京23区でわずか7%、大阪市ではたった5%だ。ロンドンやパリ(100%)といった欧米の大都市だけでなく、シンガポール(93%)、ソウル(46%)などのアジアの大都市と比較しても著しく低い数値となっている。

その理由は、第二次世界大戦後の復興時までさかのぼる。電気の早期、かつ安定供給が求められたため、地中化よりも安価で早くできる電柱化が選ばれたというわけだ。一方、たとえばロンドンでは、19世紀末時点ですでにガス管が地中化されており、これと競合する電気も公平性を確保するために地中化された。アジア諸国では、欧米技術による電気の導入がメインだったため地中化が進んでいるケースが多い。

東京23区の無電化率は7%、大阪市は5%。一方でロンドンやパリは100%。日本の無電柱率は世界の大都市のなかで際立って低い(出典:国土交通省)東京23区の無電化率は7%、大阪市は5%。一方でロンドンやパリは100%。日本の無電柱率は世界の大都市のなかで際立って低い(出典:国土交通省)

1986年から進行中の日本の無電柱化計画

諸外国に比べ無電柱化が遅れていることは国もよく理解しており、実は1986年から市街地の幹線道路や観光地を中心に無電柱化(おもに地中化)計画が進められてきた。

1986年~1998年
「電線類地中化計画」
対象:大規模商業系地域、シンボルロード

1999年~2003年
「新電線類地中化計画」
対象:中規模商業系地域、住居系地域へ拡大

2004年~2008年
「無電柱化推進計画」
対象:歴史的景観地区へ拡大

2009年~
「無電柱化に係るガイドライン」
対象:地域文化の復興等も含め幅広く対応

当初は、おもに大規模な商業地域の街の顔になるような通りを中心に整備が進められてきた。最近では地域活性化や高齢化など社会ニーズが多様化してきたことから、中規模商業系地域や住居系地域、おもな非幹線道路に加え、歴史的街並みの保全、観光振興、地域文化の復興、地域活性などに資する場所でも無電柱化を実施している。

国土交通省によると、現在は2020年の東京オリンピック・パラリンピック開催を視野に入れつつ、次期計画を検討中とのことだ。

日本の無電柱化は、1986年から市街地の幹線道路や観光地を中心に進められてきた。しかし、その進捗は遅い(出典:国土交通省)日本の無電柱化は、1986年から市街地の幹線道路や観光地を中心に進められてきた。しかし、その進捗は遅い(出典:国土交通省)

課題は「コスト」と「施工性」

1986年から進められているものの、遅々としてはかどらない日本の無電柱化。そこにはおもに2つの課題がある。

●コスト
日本の地中化のコストは、海外と比較して高額になりがちだ。電柱化と比較して10倍から20倍高くなると言われている。その理由には材料費や施工費が高いことなどがあげられる。また、日本では道路管理者である国や自治体などと電線管理者である電力会社などが負担する「電線共同構方式」が主流だ。電線管理者にとっては、今ある電柱を撤去しなければならないため、どこがその費用を負担するのかも大きな問題だ。

●施工性
特殊で高額な材料は、施工が難しく人件費も高くなる。また、日本の道路は比較的狭いところが多く、工事が困難になるケースも多い。

実現に向けての法案や施工方法

様々な困難が立ちはだかる無電柱化だが、2020年のオリンピック開催決定などを背景にその動きは活発化している。たとえば、自民党は元環境相の小池百合子氏らが中心となって、既存の電柱を撤去し、新設を抑制する「無電柱化推進法案」の早期成立を目指している。また、国土交通省は「*緊急輸送道路を対象に電柱の新設を禁止する措置」を2016年4月1日から開始した。
*緊急輸送道路
地震後の緊急輸送を円滑に行うための高速道路や国道など。

さらにコストを下げるための様々な試みも検討されている。たとえば、従来よりも浅い位置に管路を埋設、より小型化したボックス内にケーブルを埋設、ケーブルを地中に直接埋設といった方法だ。

国土交通省は「電柱がないことが常識となるように、国民の理解を深める情報発信を推進する」としている。

大都会のなかでも電線が見えない青空。電線に遮られずに眺められる富士山。想像しただけでも清々しい。また、全国各地で大地震発生の確率が高まっている。私たちの生命を守るためにも無電柱化は急いだほうがいい。たしかに国や自治体、そして電線管理者は財源の確保が難しいだろう。しかし、けっしてあきらめることなく、少しでも今よりスピードアップして全国規模での無電柱化を実現してほしい。

無電柱化された静岡県富士市。富士山の眺望が改善された(出典:国土交通省)無電柱化された静岡県富士市。富士山の眺望が改善された(出典:国土交通省)

2016年 08月15日 11時05分