老朽空き家対策が本格的に動き出した

「空き家対策特別措置法」(空家等対策の推進に関する特別措置法)が2015年5月26日に完全施行された。当日に数多くのメディアで取り上げられたため、このニュースを目にした人も多いだろう。この法律は2014年11月19日に成立し、同27日に公布、2015年2月26日に一部施行されていたものであるが、今回の完全施行で自治体による強制力を伴う措置が可能となった。

空き家については以前から社会問題化しているが、とくに老朽化したまま放置された空き家は倒壊の危険性、放火による火災や周辺への延焼、不審者の侵入や住み着き、ゴミの放置、悪臭や害虫の発生、周辺環境や景観への影響などが懸念されている。ところが、これまでは法律による対策が講じられず、自治体ごとの条例に拠らざるを得なかったのだ。

2010年7月に埼玉県所沢市が全国で初めて空き家条例を制定したのを皮切りに、2014年10月時点では401の自治体が空き家対策の条例を施行している。そのうち215の自治体が空き家の解体など「代執行」の規定を盛り込み、それに基づいて2012年3月に秋田県大仙市が全国で初めて空き家の解体に踏み切ったほか、東京都大田区でも2014年5月に木造2階建てのアパートを代執行により解体している。しかし、法律面での裏付けがないためにあくまでも「お願い」にとどまるケースも多かっただろう。

空き家対策特別措置法の完全施行により、空き家に対する立ち入り調査や指導、勧告、撤去命令などの権限が自治体に与えられた。所有者が撤去命令に従わなければ、代執行による解体も認められる。また、その対象となる特定空き家を判断するためのガイドラインも、2015年5月26日に公表されたところである。

隣の建物に影響を及ぼすような老朽空き家も多い隣の建物に影響を及ぼすような老朽空き家も多い

「特定空き家」とはどのような状態を指すのか

空き家対策特別措置法の第2条第1項では「空家等」の定義を「建築物又はこれに附属する工作物であって居住その他の使用がなされていないことが常態であるもの及びその敷地をいう」としている。具体的には電気・ガス・水道の使用状況や管理状態などにより「おおむね年間を通して建築物等の使用実績がないこと」が1つの基準として示された。

しかし、この「空家等」がそのまま指導、勧告、代執行などの対象となるわけではない。法第2条第2項では「そのまま放置すれば倒壊等著しく保安上危険となるおそれのある状態又は著しく衛生上有害となるおそれのある状態、適切な管理が行われていないことにより著しく景観を損なっている状態その他周辺の生活環境の保全を図るために放置することが不適切である状態にあると認められる空家等」を「特定空家等」と定義した。この特定空き家が指導、命令などの対象だ。

これらを具体的に判断するためのガイドラインでは、目安として「20分の1超の傾斜が認められる」「基礎や柱などに大きな亀裂、多数のひび割れなどが発生している」「目視により屋根ふき材や上部の外壁が脱落しそうな状態を確認できる」「臭気や害虫、ネズミなどが発生している」「多数の窓ガラスが割れたまま放置されている」などを始めとして、数多くの事例が細かく示されている。

ただし、例示された事象をもって一律に判断するのではなく「個別の事案に応じてこれによらない場合も適切に判断すること」としている。周辺の建築物や通行人などに対し悪影響を及ぼすおそれがあるかどうか、悪影響の程度や危険などの切迫性はどうかが判断の大きなポイントだ。

特定空き家に該当する住宅などに対して、市町村長は職員や委任を受けた者(建築士、土地家屋調査士など)に立ち入り調査をさせ、その結果に基づいて所有者等に対し必要な措置を助言・指導、勧告、命令ができる。措置を命じられた者がそれに応じないとき、またはその対応が不十分であったり期限内に完了する見込みがなかったりするときには、行政代執行法による措置をすることができるのだ。また、特定空き家の所有者等が命令に違反すれば50万円以下の過料、立ち入り調査を拒んだり妨げたりすれば20万円以下の過料といった規定も設けられた。

壊れたまま放置されたような建物が特定空き家とされる壊れたまま放置されたような建物が特定空き家とされる

特定空き家に該当する家屋はどれくらいあるのだろうか

総務省がまとめた「平成25年住宅・土地統計調査」によれば、全国で約820万戸の空き家のうち売却や賃貸用などではない「未利用住宅」は約318万戸にのぼる。だが、これには比較的新しい住宅や定期的に手入れがされている住宅も含まれる。そのうち特定空き家に該当する家屋はいったいどれくらいあるのだろうか。

同調査における空き家のうち、木造一戸建て住宅(防火木造を含む)は約285万戸ある。その中で「腐朽・破損あり」とされたのは約96万戸だ。それぞれの建築年次や腐朽・破損の程度は明らかにされていないため推測の域を出ないが、リノベーションや用途変更などにより再利用可能な住宅もかなり含まれるだろう。その半分が除却対象になると仮定しても50万戸弱であり、空き家全体に占める割合は6%程度に過ぎない。

ちなみに「居住世帯あり」の木造一戸建て住宅(防火木造を含む)のうち、1950年以前に建築されたのが約157万戸、1951年〜1960年築が約82万戸、1961年〜1970年築が約239万戸ある。それ以外に建築時期が不詳のものも約232万戸にのぼるようだ。これらは高齢の単身者または高齢夫婦だけで住んでいるケースも多く、居住者が亡くなったり施設へ入居したりすれば空き家になる「予備軍」だといえるだろう。これらを特定空き家にしないための方策も重要だ。

固定資産税の情報を使えるようになったのは大きな前進

これまでは放置された空き家の所有者を調べにくい制度だったが、固定資産税の情報を使えるようになるこれまでは放置された空き家の所有者を調べにくい制度だったが、固定資産税の情報を使えるようになる

これまでは固定資産税の課税台帳に記載された所有者名などに「守秘義務」が課せられ、市町村の中でも課税担当部署以外の者がその情報を使うことはできなかった。そのため、真の所有者が毎年しっかりと固定資産税などを支払っていたとしても、その氏名や住所が法務局で登記されていなければ、空き家対策を担当する部署では「所有者不明」として「お手上げ」にならざるを得ないケースもあったのだ。

空き家対策特別措置法によってそのような不都合が見直され、法の執行のために必要な範囲に限り、所有者情報の内部利用が可能となった。これは、今後の空き家対策のうえで大きな前進だといえるだろう。

なお、不動産登記情報や住民票情報、固定資産税課税情報、周辺住民に対する聞き取り調査などによっても所有者が判明しない特定空き家については、事前に公告などをしたうえで、所有者不明のまま代執行(略式代執行)が認められることになる。

空き家対策特別措置法は、空き家対策の第一歩にすぎない

空き家対策特別措置法の施行に合わせ2015年度の税制改正では、住宅用地に対する固定資産税の軽減特例の対象から特定空き家の敷地を排除することとなった。これは従来、200平方メートル以下の敷地部分に対して税額を6分の1に軽減する規定が、「廃屋でも存在しさえすれば適用される」として批判されていたものだ。今後は特定空き家として、市町村から所有者への「勧告」がされた時点で、固定資産税の軽減特例が解除される。

その場合でも一定の負担調整措置などがあるため、単純に固定資産税額が6倍となるわけではない。しかし、解体をせずに放置すれば固定資産税額が上がる一方で、解体をしてもやはり固定資産税額が上がるのである。そのため、税額が上がるという理由だけでは、100万円を超えるような費用を負担して古家を解体しようとする動機付けになりにくいだろう。そもそも、所有者が高齢だったり年金生活だったりして、解体費用を捻出できない場合が多いのだ。特定空き家の税額を上げることは、滞納を増やすだけの結果にもなりかねない。

また、自治体が代執行による解体に踏み切ったときも、その費用を回収することは実質的に困難だ。自治体の財政を圧迫することや、税金で解体費用を負担することに対して住民の不満も大きくなる。そのため、代執行に踏み切るのは危険性が切迫した、ごく一部の特定空き家に限られるだろう。あくまでも、所有者自身による対策を待ち続けざるを得ないケースが多いものと考えられる。さらに、特定空き家の除却が進めば、その後に待ち構えているのは空き地問題である。

その一方で、古い空き家を改修して流通させる試みも年々盛んになってきている。流通を活性化させることにより、老朽空き家の発生を抑制できるだろう。ところが、全国的な世帯数の減少が避けられない時代は、すぐ目の前に迫ってきている。仮に世帯数の減少がないとしても、老朽化した家屋の除却数を上回る数の新規住宅供給が続けば、空き家はさらに増えていく一方である。根本的な空き家対策は、これから取り組むべき大きな課題として残されたままだ。

使える空き家はしっかりと再生して流通させていくことが求められる使える空き家はしっかりと再生して流通させていくことが求められる

2015年 06月27日 10時29分