「木材の乾燥」は木製品の品質を左右する重要な要素

沖倉製材所の敷地内で天然乾燥されている木材。自社で製造の桟木(さんぎ)という角材を用い、木材と桟木を交互に積み上げる。これは桟積みと呼ばれるもので、木材が曲がってしまわないよう、そして空気の流れをつくるよう、整然と積み上げる沖倉製材所の敷地内で天然乾燥されている木材。自社で製造の桟木(さんぎ)という角材を用い、木材と桟木を交互に積み上げる。これは桟積みと呼ばれるもので、木材が曲がってしまわないよう、そして空気の流れをつくるよう、整然と積み上げる

東京都の多摩地域西部でとれる多摩産材。原木市場に出荷された多摩産材のなかに含まれる「住宅などの建材になりにくい木」を有効に使って、DIYフローリングの木製品などを開発するプロジェクト「SMALL WOOD TOKYO(スモールウッド・トーキョー)」。レポート最終回の今回は、前回に続き、木製品の製造を担う有限会社沖倉製材所(以後、沖倉製材所:東京都あきる野市)の沖倉喜彦さん(52)に語っていただく。

「SMALL WOOD TOKYO」のDIYのフローリング材「敷くだけフローリング」の製品づくりにあたって、沖倉さんがこだわるのは、木の節や木目など木の個性を活かすこと。そのための土台となる技術が「木材の乾燥」である。

この沖倉製材所や“SMALL WOOD”の製品づくりに限らず、「乾燥」は、木材の品質を左右する重要な要素のひとつになっている。森に生えている木は水を大量に含んでいて、樹種や伐採する時期、部位などよる違いはあるが、ヒノキやスギは木材の重量の約1.5倍もの水分を含んでいるという(※1)。このような状態のまま、乾燥させずに建材などに使用してしまうと、収縮や変形が進み、割れや反りなどが起きてしまい、強度など住宅の性能に悪影響を及ぼす可能性がある。そこで、木から水分をぬいていき、樹種や用途に合わせた的確な含水率(木材に含まれる水分量を表す指標)の木材に仕上げる乾燥が必要になるのだ。

木材の乾燥の方法は大きく分けて天然乾燥と人工乾燥の2つがある。ひと言でいうと、天然乾燥は製材後に桟積み(さんづみ)にして自然の力で乾燥させる方法で、一方の人工乾燥は乾燥機を使って乾燥させる方法。ともに経験と熟練した技術が求められ、製材所の腕のみせどころといっても過言ではないだろう。

沖倉製材所では樹種や用途、取引先の要望に応じ、天然乾燥、人工乾燥のいずれにも対応しているが、天然乾燥、人工乾燥それぞれに一長一短があるという。
「昔ながらの天然乾燥は屋外などでじっくり時間をかけて木材を乾燥させていくんですが、季節や樹種などによっては思うように乾燥が進まないときがあって、1年以上かかることもあります。とすると、住宅の工期がどんどんスピードアップされている今ですと、天然乾燥では難しいケースがあります。一方、人工乾燥は乾燥機などの機械を使うので、短期間で仕上げることができます。120度くらいの高温による高温乾燥だと、5日から2週間で仕上がります。しかし、短期間で強制的に水分をぬくことになるので、木の色つやなど特長が損なわれ、香りもぬけてしまいます」

(※1)この場合、「木材の重量」とは、水分を一切含まない状態の木材の重量のこと。

中低温でじっくり乾燥させ、無垢の木の色、つや、香りを活かす

作業場では、熟練した職人が黙々とテーブルづくりに励んでいた作業場では、熟練した職人が黙々とテーブルづくりに励んでいた

そうしたことから沖倉製材所で主に用いている木材乾燥の手法が、中低温による乾燥。30度から70度の中低温で1週間から2週間かけて的確な含水率に仕上げるというもので、天然乾燥より短い期間でありながら、天然乾燥に近い状態に仕上げることができるという。専用の乾燥機を使うのだが、樹種や用途、季節などに応じて温度や湿度の設定を調整するといい、「創業当時から地元の大工さんや工務店に家づくりの木材を直接販売してきたので、現場でどんな乾燥状態のものが求められるのか、知りぬいています」と、沖倉さん。スギやヒノキなど、製材してからの日数と含水率の推移を記録したデータも蓄積されているといい、現代の住環境に適した乾燥材にすることにも気を配っている。

「現代人はエアコンを使うわけですから、昔よりも乾燥している室内環境で暮らしていることになります。そんななかでも木材の収縮や割れを起こしにくくするような含水率に仕上げています。例えば、フローリング材では平衡(へいこう)含水率より低い含水率に仕上げています」
この平衡含水率は木材を乾燥させる工程でひとつの基準となるものだ。木材を乾かすと、収縮や変形が始まるが、しばらく放置しておくと収縮や変形が少なくなり、大気の湿度と均衡した状態になる。このような水分の状態を平衡含水率と呼ぶ。ちなみに平衡含水率は屋外と室内、また地域によって異なり、日本での平衡含水率は、屋外で15%、室内は12%とされている。

沖倉製材所のこうした中低温による「乾燥」は、“SMALL WOOD”の「敷くだけフローリング」の材でも行なわれている。材の裏面には反りを起こりにくくするための凹凸の加工も施しているという。

沖倉製材所の技術では、職人の手仕事が数多く残されていることもお伝えしたい。職人の技のひとつが木の節穴を埋める「埋め木」という作業で、「敷くだけフローリング」でも取り入れられている。木の節のなかには抜け落ちて穴になってしまうものがあり、それら節穴をひとつひとつ、木の枝を使って埋めているのだ。こうして「埋め木」をした材の表面をかんなで磨き、表面を平らに整えるとともに、木の油分でつやつやに仕上げる。

多摩産材認証制度の立ち上げにもかかわった

原木市場で木を仕入れてくるのも沖倉さんの仕事。「木目の詰まり方や形、断面の色など、木の断面を見ると、この木なら住宅の柱になるとか、内装材に向いているなど、すぐにわかる。製材の仕事は奥が深いです」と言う原木市場で木を仕入れてくるのも沖倉さんの仕事。「木目の詰まり方や形、断面の色など、木の断面を見ると、この木なら住宅の柱になるとか、内装材に向いているなど、すぐにわかる。製材の仕事は奥が深いです」と言う

こうした沖倉製材所の高い技術を、「SMALL WOOD TOKYO」の協働パートナーである合同会社++(たすたす:東京都三鷹市)の安田知代さんは「木への愛情を感じます」と語る。対する沖倉さんは「木を最大限活かしたいという思いでやっています。私は製材という仕事が大好きなんです」と言う。

そんな沖倉さんがたどってきた道のりは平たんではなかった。製材業の世界に入ったのは26歳のとき。大学で建築を学んで卒業後は設計事務所に就職し、建築・設計の仕事を4年間経験したのち、父・喜代治さんが興した沖倉製材所に入社した。その6年後、1994年、他界した喜代治さんの跡を継ぎ、2代目社長に就任した。
「私が社長になった当時は、日本の林業に勢いがなくなっていたころです。木材の輸入自由化で価格の安い外材(輸入木材)がどんどん入ってきて、その影響で国産材の価格も下がり、林業で生計を立てるのが苦しくなってしまった。その結果、林業の仕事に就く人が減って、木を育成する森の手入れをする人がいなくなり、森は荒れてしまいました。多摩地域の林業もそうです。そういう時代の流れは、木を仕入れて加工する製材業の経営にも影響を与えました。価格競争などもあって、当社の売り上げも下がりました」
苦しいのは沖倉製材所だけではなかった。廃業する製材所が増えていった。
「戦後の復興による木材需要で活気づいていた1960年ごろには、東京・多摩地域に600軒くらいの製材所があったんです。でも、今は30軒くらいに激減しています。製材業者でつくられる木材協同組合も、多摩川筋や浅川沿いなどに組織されていましたが、今は私が所属する、秋川筋の秋川木材協同組合しか残っていません」

苦境を乗り越えるために、沖倉さんをはじめ、秋川木材協同組合に所属する製材所の経営者たちが活路を見出したのは、地元でとれる木を多摩産材としてブランド化し、適正価格で売ろうという取り組みだった。地域材に「財」としての価値を見出したのだ。そうして東京都の森林関係の担当課などとも協働し、2006年に立ち上げたのが多摩産材認証制度(※2)だった。

(※2)多摩産材認証制度
東京都森林組合や製材所、森林所有者などからなる「東京の木多摩産材認証協議会」が行なう制度で、2006年4月にスタート。多摩地域で生育し、適正に管理された森林から生産された木材であることを証明する。

東京・多摩地域の地場産業である林業と製材業を守り続けたい

多摩産材認証制度を立ち上げて8年たった今、都内の保育園や学校など、公共の建築物に多摩産材が活用されるようになってきたという。少しずつだが、多摩産材で住宅を建てる人も増えてきた。沖倉製材所の事業も順調という。が、沖倉さんの視線は自身の事業にとどまらず、生まれ育った地である東京・多摩地域の森全体に注がれている。

「私は製材業を通して多摩産材を売るトップセールスマンだと思っています。今、東京都の花粉発生源対策事業で多摩地域の森ではスギやヒノキなどの大量伐採が進められています。その結果、この“SMALL WOOD”プロジェクトのきっかけになった“建材になりにくい木”の搬出量が増えたわけですが、このほかにも供給量の増加による木材価格の下落といった問題があるんです。課題は多いですよ。でも、東京では林業に就く人が増えていると聞いています(※3)。頼もしいし、うれしいです。東京の森と林業を盛り上げていくためにも、私は頑張り続けます」

こんな心意気にあふれる沖倉さんがつくる“SMALL WOOD”のDIY製品には、「敷くだけフローリング」のほか、本などの整理に使える箱型ボックスの「もてもてキューブ」(税抜き9920円~)もある。こうした木製品がきっかけになって、無垢の木やDIYに加えて、さらに国産材や地域材に興味をもつ人が増えていくだろうと思う。

(※3)東京都の林業従事者は1960年には2000人を超えていたが、2005年に205人にまで減少。その後、2010年に380人となっている(東京都産業労働局農林水産部森林課「東京の森林・林業」より)。

<取材協力>
●SMALL WOOD TOKYO
http://www.smallwood.jp

合同会社++(たすたす)
http://tassetasse.jp
有限会社沖倉製材所
http://www.okikura.co.jp



“SMALL WOOD”プロジェクトで販売・広報を担う合同会社++のオフィスも「敷くだけフローリング」のスギで床リフォーム。沖倉さん(写真左)のサポートでスタッフが手分けをして材を敷いた。通常、「敷くだけフローリング」は釘や接着剤を一切使わずに敷くことができるが、このオフィスの1階スペースは冬の寒さ対策が必要だったという。床の位置を少し上げるために「根太(ねだ)」を敷き、その間にカンナくずを敷き詰め、「根太」とフローリング材の要所要所をビス留めする方法を取った。ⒸSMALL WOOD TOKYO“SMALL WOOD”プロジェクトで販売・広報を担う合同会社++のオフィスも「敷くだけフローリング」のスギで床リフォーム。沖倉さん(写真左)のサポートでスタッフが手分けをして材を敷いた。通常、「敷くだけフローリング」は釘や接着剤を一切使わずに敷くことができるが、このオフィスの1階スペースは冬の寒さ対策が必要だったという。床の位置を少し上げるために「根太(ねだ)」を敷き、その間にカンナくずを敷き詰め、「根太」とフローリング材の要所要所をビス留めする方法を取った。ⒸSMALL WOOD TOKYO

2014年 09月17日 11時46分