建築関連法規の見直し案 Ⅴ
延焼賠償責任を定め木造家屋の所有者に火災保険の加入を義務付ける

1899年に制定されてからいままで続いている「失火責任法」。重過失でなければ、延焼による損害賠償責任は負わずに済む、という内容である1899年に制定されてからいままで続いている「失火責任法」。重過失でなければ、延焼による損害賠償責任は負わずに済む、という内容である

建築関連法規の全面見直しにの第1回目「現 建築関連法規の問題点とは? ~ 建築関連法規の全面見直しを①」では、1950年に制定された建築基準法を含め、建築関連制度を全面的に見直す時機がきているのではないか、ということをお伝えした。また、第2回目の「建築関連法規の具体案をどうするか ~ 建築関連法規の全面見直しを ②」では、外部不経済を抑えるにはどんなルールがよいのか、を実証的な研究にもとづいて客観的なルールを考えてみた。今回はその続きをお伝えする。

タワー公害と並ぶ外部不経済として、木造密集地域における大地震のときの大規模な延焼被害があげられる。
大きな被害が予想されているにも関わらず、これまではこうした外部不経済に対する対価を払わずに済んできたので、木造が工事費でも割安(ただし耐久性には欠ける)になっていて、結果的に火災危険度の高い木造密集地域をつくりだしている。

この背景には、1899年に制定されてからいままで続いている「失火責任法」がある。これは重過失でなければ、延焼による損害賠償責任は負わずに済む、という内容である。当時は一帯が木造家屋なので、こんな免責条項があった。でももう100年以上も経ち、耐火造もできるのに、いまだに免責というのもおかしな話である。まずはこの失火責任法を廃止して、賠償責任をはっきりさせるのが前提である。

いったん火災が起きれば、何千棟も延焼する地区も少なくない。2,000棟以上が延焼し合う距離に連続している地区は、都内でも68か所に及ぶ。そうなると被害額は数百億円になって賠償しきれるものではない。これに対しては、自動車損害賠償責任保険のような延焼保険への強制加入が、効率・公平性の面からも最も有力な方法であると考えられる。対象地区における木造家屋の所有者には、一戸当たり年十万円単位の保険料を支払うことを義務付ける。延焼保険は自賠責と同様に、民間の損害保険会社が引き受けて、延焼の際には再建費用がおりるようにする。こうした自己負担によって外部不経済を内部化することができる。こうした負担を嫌って、隣接する区画の地権者と共同建替えで耐火造にすることも促されるだろう。

なお、木造密集地域の不燃化について、規制誘導手法はとらない。この手法は、接道条件などを緩和して建て替えを促す措置で、街並み誘導型地区計画、建蔽率特例許可、三項道路、連坦建築物設計制度、43条但し書き許可などだ。しかし、これらはもっぱら木造の単独建替えを有利にするために、耐火造への共同建替えの合意形成を阻害する。自治体が行ってきた従来の建築指導とは不公平になるし、結果として木造密集地域を再生産してしまう。

共同建替えを促すには、地権者同士が囚人のジレンマに陥らないような方法を講じる。延焼危険建物を指定して建て替えを勧告し、土地価格の査定を交渉ではなくて公的に示す、というのが地権者間の余計な調整費用を抑えて合意形成を促すだろう。さらにゲーム理論を応用すると、代理人制度、コミットメント(建て替え意思)の登録制度などの政策効果も検証されている。これらを具体化すれば、特段の補助金がなくても共同建替えが促される。

参考記事:
タワー公害 (LIFULL HOME'S PRESS掲載)
焼失確率分析による木造密集地域対策の見直し①~想定される延焼過程から従来の防災対策を考える(LIFULL HOME'S PRESS掲載)
焼失確率分析による木造密集地域対策の見直し②~効果的な不燃化推進のために(LIFULL HOME'S PRESS掲載)

建築関連法規の見直し案 Ⅵ
建物への単体規定は、外部不経済の問題ではないので規制対象としない

単体規定については、問題があるにしてもその空間を使う人に限られて、外部不経済には関係ないので基本的には政府の関わることではない。

昔は衛⽣的に問題があって、感染症の流⾏という外部不経済に対して建物を衛⽣面(日照や通風など)で規制したのかもしれない。それでも感染症の問題は、診断キットからワクチン、抗ウイルス薬などを活用した感染症対策で済む。建物を規制するのは筋違いである。

使う人も使い方も多様なのだから、衛生面を持ちだして採光や換気量、避難、階段の寸法や手摺の高さなどを、政府が一律に細部まで規制するのはやめだ。

ちなみに温暖化ガスの排出は、外部不経済なのだが、これを建築物省エネ法で対処するのも間違いである。
一律の断熱基準は、一部のサッシメーカーや審査に当たる外郭団体などには好都合である一方、夏は窓を開けて自然通風で涼む暮らし方が不利になってしまう。それに省エネ法に合わせれば、本当に温暖化ガス排出が抑制できるかは良く分からない。温暖化ガス排出の抑制は、炭素税によって担われるべきだ。石油や天然ガスなどの輸入時点で課税するだけなので業務も効率的であるし、温暖化ガス排出抑制に紛れがなく、そのまま税負担の軽減になってインセンティブが働く。建築物省エネ法はすぐにでも廃案にした方がいい。
いまの余計な単体規定は、こうしてごっそり省ける。

参考記事:
改正省エネ法の問題 (LIFULL HOME'S PRESS掲載)

建築関連法規の見直し案 Ⅶ
建物の安全性は、民間保険会社がこ審査して保険加入者に保証する

利用者や所有者よりも、開発業者や工事業者の方が情報や知識がある情報の非対称性に関しては、うまく情報や知識を引きだす工夫を考える利用者や所有者よりも、開発業者や工事業者の方が情報や知識がある情報の非対称性に関しては、うまく情報や知識を引きだす工夫を考える

ただし、主に構造面になるが、例のくい打ちデータ偽装など、情報の非対称性に関する問題は残る。利用者や所有者よりも、開発業者や工事業者の方が情報や知識があって不良建築が横行するような問題である。

この情報の非対称性に関しては、うまく情報や知識を引きだす工夫(シグナリング)を考える。いまの建築確認や竣工検査もその一つで、民間の指定確認検査機関にも業務は開放されている。しかしながら、この業務は政府の定めた基準に適うか、どうか、を確認するものであって、正当に確認が下りていても、例えば避難の安全性や耐火性、性能で実害が生じた場合に補償されるわけではない。

この安全性や性能等の問題についても、保険の仕組みを応⽤すれば必要な情報を的確に引き出し、補償もつけることできる。損害保険会社がこうした建築確認を担う制度で、保険会社は独自の等級基準を定めて、その指定した確認検査機関を通じて審査し、確認した等級に応じて保険料を設定することになる。等級の高い建物の保険料は安く、等級が低い建物の保険料は高くなる。安全性等に欠ける建物は保険を引き受けられず、建築不可となる。もし建物に問題が生じたら、損害保険会社は修復や建て替えに必要な損害保険金を支払う。

こうすれば使用者や所有者も、保険の等級と保険料を通じて、建物の性能に関する正確な情報を得て、事故の際にも保証も受けられる。保険会社の方でも、実質的でない基準や手続きがあると、競合優位性を失うので、合理化するインセンティブが働く。

規制として必要なのは、所有者にこうした損害保険への加入を義務付けることである。ただしこの保険は、政府ではなく民間保険会社が担い、競争過程において創意工夫と効率化を進めるものとする。
不動産について融資する金融機関も、建物を担保にとる以上は当然にこうした損害保険への加入の証憑を債務者に求める。テナントも賃貸契約の際には、その建物にかけられている保険やその等級などを重要事項説明(これは義務付け)において確かめることができる。商業ビル(特に自社保有)などは、保険とその等級などを、利用者が随時スマホなどで閲覧できるような措置も考えられる。

あとは保険会社の健全性の問題だが、これは金融庁他の監査制度によって情報公開することが有効であろう。

おわりに

以上は、あくまで概要を示す試案にすぎない。

試案を作成した目的は、経済政策の大原則に従って、建築関連法規を外部不経済を抑えるものに絞ったとき、どこまでどのように改正されるべきか、実証的な研究による根拠とそれらを適えるような簡素で明快なルールはどのようなものか、そして将来の都市像や暮らし方はどうなるのか、について想定することにある。

そして、これからの周到な研究・検討によって、もっとよい制度群が出来ることを期待している。

2017年 04月24日 11時03分