筋違いで狡猾な空き家対策

実態として都区部の空き家の7割は、賃貸アパートである(写真はイメージ)実態として都区部の空き家の7割は、賃貸アパートである(写真はイメージ)

2016年12月…報道発表された空き家対策は、あきれるほどに愚かである。すぐにでも撤回して、固定資産税等の資産課税の正常化を目指すべきである。

公表された空き家対策の内容は、空き家の持ち主には改修のために100万円の補助金を配り、入居者である子育て世代や高齢者には月4万円を家賃補助する、というものだ。空き家活用と生活保障を両立させた妙案というつもりだろうか。これは愚案としか言いようがない。

まず空き家にした責任のある持ち主に補助金を、それも私有財産に、というのが、そもそも公的な政策の範囲を踏み外している。実態として都区部の空き家の7割は、賃貸アパートである(注1)。老朽化し、あるいは狭小すぎて借り手に好まれないのに、改修して何ともなるものでもなかろう。家賃補助にしても、対象者が限られるので不公平である。家賃を補助するから古アパートに住め、というのは道理に合わない。しかもこうした対策に、空き家や民間賃貸住宅の登録制度の創設もこっそり忍ばせ、省益を確保しようとする。本来、住宅流通制度などは民間に任せるべきもので、公費を投入して民業を圧迫すべきではない。

表面的なレベルで評価しても、愚にもつかない政策である。

外部不経済の増長

狭小区画で建て込んでいる場合は、そうでないときより25%も地価を下げることが推計されている(写真はイメージ)狭小区画で建て込んでいる場合は、そうでないときより25%も地価を下げることが推計されている(写真はイメージ)

もう一歩、議論を深めてみよう。

そもそも空き家問題が政策課題になったのは、外部不経済を発生させているからだった。
都区部の空き家のうち68,670戸は木造家屋 *1で、大地震のときには大規模な延焼を引き起こす元になる。首都直下型地震の被害想定では、建物全損全体85万棟のうち火災焼失65万棟(76.5%)、建物被害額は55.2兆円なので、単純に割合から計算して被害想定額は約42兆円、これらのうち31.9%(注2)、21万棟ほどの延焼危険建物を選択的に不燃化すれば、通常時の消火活動がないとしても延焼は防げる。単純計算で、一棟当り2.6億円もの外部不経済を引き起こす恐れがある(注3)。こうした空き家のうち32%が「腐朽・破損あり」、ゴミ屋敷になったり不法投棄を招いたり、といったように周りの住環境を損なう。狭小区画で建て込んでいる場合は、そうでないときより25%も地価を下げることが推計されている。

そもそも他の納税者の負担で都市インフラ・サービスを受けていながら、戸建てゆえに容積を余した上に空き家にして都市空間を無駄遣いしているのも不公平な話である。それだから措置法では、「特定空き家等」として勧告を受けたときは、住宅用地特例の対象から除外されることになっていたはずだ。

それなのに今回は、空き家の改修に補助金をつけ、老朽木造家屋を延命させるのでは、元々の目的に全く反する。延焼は防げない、狭小・老朽化で景観を損ない続ける、容積は余したまま、とまるで支離滅裂である。

空き家問題の本質

問題の本質を捉えるには、どうして空き家が結構な割合で発生するのか、を考えてみるべきだ。そこには、都市空間を十分に生かしていなくても、持ち主が平気でいられるというインセンティブの問題がある。

まず、都区部で空き家率が11.3%に及ぶことが問題視されているが、そもそも都区部の指定容積率256%に対して概算容積率155%に過ぎないことに着目しなければならいい。要するに、都区部の空間は60%しか使われず、そのうち11%が空き家、というのが全体像である。空き家問題は氷山の一角で、40%もの潜在的な都市空間が生かされていないことが根本にある。もしこの潜在的な都市空間が十分に生かせれば、都心10km圏内にいまの都区部の延べ床面積がそっくり収まるほどの規模だ。従って、タワー公害を引き起こすような、高層化を前提とした容積率緩和策も不要なことは言うまでもない。

なぜ低利用のままなのだろうか?
それは土地の保有コストが格安なので、戸建てにしたり、空き家にしたり、と空間を無駄にしても、持ち主には大して負担が生じないからだ。シャウプ勧告に従って本来なら固定資産税と都市計画税は、土地資産価格の1.7%が毎年かかるはずだった。でも土地面積が200m2以下だと、課税標準額が1/6にまで減免される。しかも課税標準額は公示地価の7割、公示地価は実勢価格の8割ぐらいなので実勢価格の6割弱。そうすると土地資産課税は実質0.16%にしかならない。1億円の土地に対して、本来、毎年170万円課税されるところが、16万円で済むことになる。こうして、空間効率に劣る小規模宅地の木造戸建てが、貴重な都市の土地の大半を覆うことになった。

加えて相続税も小規模宅地では減額割合は80%にもなる。どれほど都市部の土地持ちが優遇されているかが良く分かる。ちゃんと課税されていれば、1億円の土地なら年170万円の税負担を賄う必要があるので、空き家とか駐車場とかにはしていられない。古アパートを自力で建替えて、入居率を上げないと回らない。

固定資産税の正常化

接道不足で単独では建替えできない区画でも、周りの4~5区画とまとめて組合方式で共同建替えすれば、特段の補助等がなくても不燃化はできる(写真はイメージ)接道不足で単独では建替えできない区画でも、周りの4~5区画とまとめて組合方式で共同建替えすれば、特段の補助等がなくても不燃化はできる(写真はイメージ)

もともと都市部の土地が高騰するのは、都市集積によって高い生産性(賃金)を求めて人が転入するからである。そして土地価格は、結局、どの地域でも実質の生活水準が同等になる(便利なところは家賃も物価も高くなるので、その分所得が高くでも実質の生活水準は同じになってしまう)ところで落ち着く。
こうして都市集積による高い生産性は、すべて土地代、つまり土地所有者の土地差益になって吸収される(注4)。このことから空き家の所有者や低利用の地権者は、都市の外部経済を不労所得で独り占めする上に、外部不経済を招いていることが分かる。実際、日本では所得格差より資産格差の方がずっと大きいのだ。ジニ係数でも所得は0.311に対し、貯蓄現在高は0.571、土地・宅地資産は0.579にものぼる *2。都区部の個人宅地の35.2%はわずか5万1千人に保有されているほどだ *3。この偏りは、暴動が起きてもおかしくない水準である。固定資産税はこうした土地差益を、街づくりを担う自治体に還元して都市空間をより生かす、そして不労所得による資産格差を是正する、という非常に優れた特性を備えた税制である。

このように空き家問題を掘り下げて検討していくと、そのもたらす外部不経済と資産格差を元から解消する政策として、固定資産税他を正常化することに行き着く。正常化されれば、空き家にしたり、土地付き一戸建てにこだわって都市空間を無駄遣いする動機は地主はいなくなる。空き家で放置されて固定資産税を滞納している状態なら、速やかに差押え・競売で回収して、いわば持ち主負担で空き家は解体・除去される。また、接道不足で単独では建替えできない区画でも、周りの4~5区画とまとめて組合方式で共同建替えすれば、特段の補助等がなくても不燃化はできる。こうすれば空き家対策の延長で、潜在的な都市空間を十分に生かし、不燃化によって震災にも強い街並みをとつくることができる。

資産課税とベーシックインカム

以上のように根本から考えていけば、都市の外部不経済の解消と生活保障は、空き家対策と称した改修補助金と家賃補助ではなく、資産課税とベーシックインカムの組み合わせに行き着く。

まず、固定資産税の正常化に合わせて、金融資産等への資産課税の税率も一律にして網羅的に課税することが望ましい。不動産も金融資産も公平に扱って、資産市場間を歪めないためである。簡単に試算しよう。非金融部門の純金融資産は1,998兆円(日本銀行 資金循環表)、これに2%を課税すると税収40兆円、付加価値税10%として39兆円、これに固定資産税22兆円(2%)なので、総計101兆円になる。現状の歳入で国税58億円、地方税37億円、総計95億円(総務省 平成26年度決算額)なので、所得税や住民税はゼロにしてもこれを上回る。したがって一般世帯や一般企業にとって税負担は和らぐ。

そして生活保障としては、成年に一律に月5万円を支給するベーシックインカム制度(注5)に一本化する。奇妙な家賃補助制度は論外だ。現在の社会保障制度では、受給までに煩雑で時間のかかる手続きと裁量余地が残り、官僚の人件費だけで13.6兆円(注6)が費やされている。このような過剰な官僚組織が、ベーシックインカム制度によってそっくり省ける。ベーシックインカムの支給手続きは、銀行の自動送金サービスで済む。こうして、より公平な社会になるし、都市空間も十分に生かされる。空き家問題の根本を見直していくと、これらが本筋として浮かび上がる。

局所的で支離滅裂な制度を、既成の複雑怪奇な制度に上乗せするのはもうやめよう。
問題とは、浅くとらえて複雑に解くのではなく、深くとらえて簡潔に解くものだ。空き家問題を議論の切り口として、国家百年の計で、資産課税とベーシックインカム制度による公平で簡素な制度にまとめていくようにすべきではなかろうか。

注釈:
注1)都区部の空き家総数587,320戸のうち、415,360戸は賃貸用集合住宅であり、これらは市場ニーズに合わないので空き家になっている。
注2)都区部の火災危険度の最も高いランク5の全84町丁における延焼危険建物の割合。
注3)建築統計年報によると、木造建物1棟あたりの工事費は平均1,902万円なので、被害想定の経済損失額はこの4倍以上に当たる。
注4)このことは、都市経済学では資本化仮説として知られている。
注5)未成年にはその半額とすれば、合計69.6兆円になる。
注6)国家公務員 のうち、防衛省職員や独立行政法人職員、裁判官などを除いた非現業職員数は275千人。地方公務員 のうち、教育・警察・消防・公営企業会計部門(病院・水道・交通など)などを除いた一般行政職員数は909千人。国家公務員一般職の平均年収 は6,328千円、地方公務員一般職員では、7,150千円とされている。これらを合計して、福利厚生費等を加味して1.7倍すると14.0兆円になる。そのうち国税庁分の0.4兆円を引いて、13.6兆円が再分配に関わる行政コストと言える。

参考資料:
*1 総務省「平成25年住宅・土地統計調査」2016
*2 総務省「平成21年全国消費実態調査」2011
*3 東京都「東京の土地 2013」2014

空き家問題の根本を見直し、公平で簡素な制度にまとめていくようにすべきではなかろうか(写真はイメージ)空き家問題の根本を見直し、公平で簡素な制度にまとめていくようにすべきではなかろうか(写真はイメージ)

2017年 01月24日 11時04分