2015年11月に国税庁が課税強化方針を表明

タワーマンション節税を含む露骨な「節税」に対しては、課税額算定のやり直しを求めていくことになりそうだタワーマンション節税を含む露骨な「節税」に対しては、課税額算定のやり直しを求めていくことになりそうだ

11月初旬、いわゆる「タワーマンション節税」について、国税庁が“行き過ぎた節税策”が行われていないかを厳しくチェックするよう、全国の国税局に指示した。

これより前に政府の税制調査会で、節税策の見直しを求める主旨の言及があったことも影響してか、露骨な「節税」に対しては、課税額算定のやり直しを求めていくことになりそうだ。

これまでも相続税の支払いについては、実際に相続したタワーマンションの住戸価額を規定通り路線価で算定し納税した後に、市場価格で再計算して納税するよう求められるケースがいくつも発生しており、まさに相続税対策として注目されているタワーマンション節税が狙い撃ちされているとも言える(※1)。

そもそも、税制に求められる機能には公共サービスのコストを賄うこと、間接的な景気刺激策(住宅ローン減税や有価証券譲渡益に対する減税など)、時の政権の政策(財政再建や持ち家促進などの基本政策)を実現すること、などがあるが、最も重要な機能は「所得(富)の再配分」である。自由主義経済下では、当然のことながら世帯ごとの経済力に差が発生するが、税制は累進課税や相続税などによって税負担にも差を設け、各種行政サービスや厚生に活用することで社会の不公平感や所得格差を是正する役割を担っている。

この「所得(富)の再配分」という機能を考えると、まさしくタワーマンション節税は持つ者は節税可能だが持たざる者は対応できないという意味で不公平感や所得格差を助長しかねない懸念材料となる可能性があり、それがための課税強化方針の表明であると見ることができる。

※1 タワーマンション節税自体は、バブルのピークに向かう1988年(昭和63年)時点で政府の税制調査特別委員会で取り上げられており、特に目新しい手法ということではない。

「節税」のはずが「租税回避行為」に

今さらながら、なぜタワーマンション節税が可能なのか。

マンションは土地と建物を分けて相続税価額を算定する。土地は、敷地全体を戸数で分ける共有持ち分となっており、総戸数が多くなるタワーマンションなどでは、各住戸の持ち分は相対的に極めて小さくなる。一方、建物は、評価に使う固定資産税評価額が路線価を基準にしているため、同じ専有面積であれば低層階でも高層階でも評価額は同じになる。市場価格は高層階ほど高額だから、高層階住戸の評価額との差額に節税効果が認められることになる。これは区分所有である不動産に特有の評価方法であるが故の節税対策ということになるが、この手法がいつでも通用するということになれば、相続後すぐに売り抜けて多額の「差益」を得るケースが発生することを認めることになりかねない。

資産を隠して相続税を逃れるのであれば「脱税」ということで立派な違法行為だが、仕組み上認められているはずの「節税」が認められない行為、いわばグレーに該当するのが「租税回避行為」である。明確な法律違反ではないものの、納税を回避するために様々な策を弄したと認められる行為、のことを示すが、実際にはその個別性を実態的に判断せざるを得ず、まさに“グレー”としか言いようのない行為である。

租税回避行為の根拠、「財産評価基本通達」総則6項

相続税を算定するための基本方針や方法はすべて1964年(昭和39年)に制定された「財産評価基本通達」に記されている。

その第一章「総則」の六には「この通達の定めによつて評価することが著しく不適当と認められる財産の価額は、国税庁長官の指示を受けて評価する。」との記載がある。適法・違法を明確に区分しても、時代の流れで「著しく不適当」であれば「長官の指示」で評価、すなわち(慎重な調査に基づいた)国税局担当者の判断によって租税回避行為と見做されることがあり得ることになる。

今回のタワーマンション節税に関する課税強化方針は、これまで例外的に活用されてきたこの総則6項を根拠として、節税行為が著しく不適当と考えられるケースについては、租税回避行為として市場価格を基準に相続税を課税せよ、ということなのだと解釈することができる(※2)。

※2 国税庁は、実際にタワーマンション節税について総則6項が適用されたかどうかを具体的に言及することはない。ただし、東京高裁昭和56年1月28日判決、東京地裁平成4年3月11日判決などいくつかの判例では、相続した不動産に対して総則6項の適用により、取引価額(市場価格)に基づいて評価することを適法としている。

対象となるのは“行き過ぎた節税策”のみだが…

「著しく不適当」と見做されないよう、相続後当面の間は賃貸運用するなどの慎重さが求められることになり、それだけ節税とはハードルの高いものであるとの認識を持つ必要がある「著しく不適当」と見做されないよう、相続後当面の間は賃貸運用するなどの慎重さが求められることになり、それだけ節税とはハードルの高いものであるとの認識を持つ必要がある

では具体的にどのような「節税行為」が「租税回避行為」に該当するのか。

残念ながら、上記の通り個別の事案を実態的に判断するプロセスになるため、現在までのところ明確な基準は存在しない。

ただし、税理士などの専門家が都市伝説的に目安になるとしているのが、“相続発生の3年以内に購入した物件”である。非上場企業が3年以内に取得した不動産を対象として、相続評価額ではなく取引額を基準として相続が行われていることを類推解釈したものだ。また1988年(昭和63年)に、租税特別措置法に相続開始前3年以内に取得した不動産は取得価額によって評価するという特例が新設(その後廃止)されたこともあり、取得3年以内というのが凡その目安とされているようだ。

もちろん、3年以上経過している物件であれば大丈夫という根拠は事実上ないに等しいし、何年経過していようと相続した翌日に売却するようなことがあれば、いかなる理由があるにせよ目をつけられることは必至だ。

要は「著しく不適当」と見做されないよう、相続後当面の間は賃貸運用するなどの慎重さが求められることになり、それだけ節税とはハードルの高いものであるとの認識を持つ必要がある。行き過ぎた節税策であるかどうかの判断は、一義的に徴税側にあると肝に銘じておかなければならない。

相続税対策のニーズが薄れても、タワーマンションの売れ行きは大きく変わらない

このように、市場価格と相続に使用する固定資産税評価額との差が大きいタワーマンションの住戸(正確にはタワーマンションの上層階の住戸)は、節税効果が大きいことが一般に知られるようになって国税庁が対策に動く結果になった。市場関係者が注視するのは、この課税強化方針によってタワーマンションの売れ行きに影響があるのかということだ。

当然のことながら、相続税対策でタワーマンションの最上階の住戸を数戸購入しようと考えていた富裕層では、購入を控える動きが出てくることが想定される。ただ相続税改定が公表されたのは2012年末であり、すでにその対策をほぼ終えている向きも多く、その意味で大きな影響はないと考えて良い。

また、タワーマンションが欲しいと考えている潜在需要者は、なにも相続税対策組だけではない。資産価値を重視し、住み替えを前提に都心や事業集積地に分譲されるタワーマンションを購入したいと考えるDINKS、ファミリー層や、主に収益性の高さから利回りが期待できる中低層階の40m2前後の住戸購入を検討している個人投資家、円安で数年前から2~3割程度安価になった日本のタワーマンションを資産として保有しておきたい海外富裕層など、需要者は多岐に渡る。

また相続税対策組であっても、相続させる人数だけ戸数が必要となれば、上昇階の高額住戸ではなく、手頃な価格帯の住戸を複数戸、または物件を変えて購入することも想定されるため、価格に一定の経済合理性のあるタワーマンションの住戸はニーズが容易には減退しないと考えられる。したがって、売れ行きに影響する可能性が高いのは、タワーマンションの象徴であり、話題性も高く、売主の収益に大きく貢献する上層階の高額住戸のみということになる。

立地条件に優れた都心ほか事業集積地のタワーマンションのニーズは依然として高い。

唯一、懸念することと言えば、価格が経済合理性を大きく欠き「著しく不適当」な水準にまで上昇することだけだろうか。

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唯一、懸念することと言えば、価格が経済合理性を大きく欠き「著しく不適当」な水準にまで上昇することだけだろうか立地条件に優れた都心ほか事業集積地のタワーマンションのニーズは依然として高い。
唯一、懸念することと言えば、価格が経済合理性を大きく欠き「著しく不適当」な水準にまで上昇することだけだろうか

2016年 01月22日 11時00分