公示地価って、何?

毎年3月、その年の1月1日時点の土地の公的な価格として評価・算定される、公示地価が国土交通省から発表される毎年3月、その年の1月1日時点の土地の公的な価格として評価・算定される、公示地価が国土交通省から発表される

2015年3月18日に、国土交通省から今年の公示地価が発表された。

毎年1月1日時点の「公示地」と呼ばれる特定の土地の価格を、地価公示法に基づいて不動産鑑定士が評価・算定し、それらを各都道府県の不動産鑑定士協会が取りまとめ、さらにそれを国土交通省の土地・建設産業局(旧・国土庁)地価公示室が一元管理して、3月中旬以降に発表するのが毎年の流れになっている。
もちろん1月1日に土地の取引(売買)を行う例は極めて少ないだろうから、あくまでも1月1日時点の土地の公的な価格ということで認識されており、実際には公表される前の年の秋から鑑定評価作業が始められる。また地価公示法では第二条で「二人以上の不動産鑑定士の鑑定評価を求め、その結果を審査し、必要な調整を行つて、一定の基準日における当該標準地の単位面積当たりの正常な価格を判定し、これを公示する」と定められており、いわゆる二者鑑定が必須条件とされている。

毎年発表される公示地価には40億円程度の予算が計上されており、全国の約26,000箇所の土地の価格が決められる。もともと地価公示制度は日本独自の制度で、1970年の公表当初から、専門家の答申などで「一般の土地取引においては、売り手又は買い手にそれぞれ特殊な事情があって取引価格が形成されることが多く、これらの価格は、ただちに普遍的に妥当する適正な土地の価格とはなりえない」と考えられており、また、そもそも土地の取引価格が情報として公表されることがないとの前提で、鑑定評価によって「適正な価格」を算出する必要に迫られたという経緯がある。

基準地価も含めて国や自治体が年に2回も大きなコストを掛けて地価調査を実施すべきかという議論を始めとして、何かと批判を受けやすい地価公示制度だが(海外でも同様の制度を実施している国は限られている)、経済環境の激変などで実際の地価が大きく振幅する状況でなければ、地価水準そのものというよりは、前年比や中長期の推移など、動きをみることによって大凡の地価の動きを把握できるというメリットがある。特に地方圏では、土地の取引自体が少なく、参考となる価格情報が公示地価や基準地価しかないというところもあるので、少なくとも安全な土地の取引に寄与するという目的は果たしていると言える。
また年数回(3月:公示地価、7月:路線価、9月:基準地価)とは言え、マスコミを通じて地価に国民の関心が向けられるということにもメリットは少なくない。課題は調査にかかるコストと情報の遅行性ということになるだろう。

2015年 公示地価の動向 ①一極集中と復興需要&北陸新幹線

話を元に戻そう。

ここ数年の公示地価の概要を追ってみると、日本の地価動向が明確に「所有」から「使用・収益」を評価する方向へと向かい始めていることを追認していることがわかる。すなわち、土地の“利用価値”の違いによって地価が上昇するところと下落し続けるところに分かれる状況が、対前年比の変動率にはっきりと示されている。
特に、五輪招致に成功したトウキョウ(経済圏としての東京とその周辺地域)に国内外からの注目が高まっており、国内実需組や投資家以外にも、相続税対策を目的とした国内富裕層、海外の機関投資家と個人投資家の需要も加わって、トウキョウの地価および不動産価格が、今後さらに上昇する可能性を示している。公示地価の概要に示された「全国高順位表」でも、住宅地は千代田区と港区、商業地では中央区、千代田区、新宿区と都心の公示地が独占しており、利用価値と地価の相関性の高さが浮き彫りになっている。

今回の地価公示の主な地価上昇要因には、①再開発および大型施設の開発、②観光需要の高まり、など例年登場するヒト・モノの集積に加え、③東日本大震災被災地での住宅需要、④北陸新幹線の開業効果期待、が挙げられる。
③については福島県いわき市が住宅地の全国上昇率ベスト10を独占していることが象徴的だ。震災後には一時公示地価の発表地域から外れるなど、地価の算定が困難な時期もあったが、今回は帰還困難区域からの避難者がいわき市内の住宅を相次ぎ購入し、需要が顕在化したことが地価を押し上げた要因とされている。

また④では北陸新幹線の終着である金沢駅西口近くの公示地が、平米単価は34.3万円に留まるものの、上昇率は17.1%で商業地の全国ランキング1位となっている。金沢駅周辺では北陸新幹線開業を契機に、ホテルや分譲マンション、商業施設が建設され、これも利用価値の高い駅前再開発が地価に反映した結果である。同じく開業効果が期待される富山駅前も平米単価42.6万円と前年比7.8%上昇している。開業後も集客能力が維持されれば、今後も安定的な地価上昇が見込める注目エリアになる可能性がある。

2015年 公示地価の動向 ②商業地こそ利用価値で決まる

商業地では“常連”の山野楽器銀座本店(上昇率14.2%)を始め、中央区銀座の公示地が軒並み10%以上の上昇率を記録している。
事実上日本一の商業地としての賃料水準=収益力の高さに加え、改装・改築、テナントの入れ替えなどによって絶えずバリューアップが図られていること、さらには2020年東京五輪開催で、早くもホテル需要を見込んだ開発が数多く予定されていることなどが要因とされ、地価を大きく引き上げている。15年秋には銀座5丁目の交差点に面した東急不動産の大型商業施設が開業予定だが、こちらも旺盛な観光需要を見込んで韓国のロッテ免税店がテナント契約するなど“五輪特需”の受け皿開発・準備が早くも始まっている。

また、港区虎ノ門の森ビル「虎ノ門ヒルズ」開業も環状2号線の一部供用と共に大きな話題となったが、同エリアにある公示地も平米単価580万円と前年比で9.8%も上昇している。
ほかには大阪市中央区の宗右衛門町や心斎橋、大阪市北区の「グランフロント大阪南館」、名古屋駅前一帯や広島市中区の堀川町など、東京以外でも市街地の中心部では前年比10%を超える上昇となっており、当面は“利用価値”をキーワードとしてその多寡によって地価動向を読み解く状況が続くものと考えられる。

銀座の山野楽器銀座本店の地点は、商業地では毎年常連だ。</br>銀座は日本一の商業地としての収益力の高さに加え、五輪需要の影響もあり、</br>地価を大きく引き上げている銀座の山野楽器銀座本店の地点は、商業地では毎年常連だ。
銀座は日本一の商業地としての収益力の高さに加え、五輪需要の影響もあり、
地価を大きく引き上げている

公示地価の推移: 90年バブル~ミニバブルまでの“地価のメガトレンド”

90年バブル期以前、土地は保有しているだけで価値=価格が上昇する“優良資産”であったが、バブル崩壊後は反対に地価下落が継続して“不良資産化”する状況が長らく続いた。その状況に変化の兆しが表れたのが2005年以降の東京都心部でのオフィスビルと中古マンション価格(面積単価)の下げ止まり、および上昇であった。(因みに東京都港区の中古マンションは、その5年前の2000年に価格が底入れしており、利用価値の違いによる不動産価格の動きは、その頃から意識され始めたと言って良い)

このバブル後遺症から脱する動きは、収益力を考慮すると極めて安価に流通している不動産価格に着目した海外の機関投資家(当時ハゲタカとよばれた)が次々と大型買収を実施しては賃料収入を確保し、俄かにバリューアップした対象不動産を短期間で売り抜けることによって大きな利益を得ることに成功したことが契機となっている。この状況を目の当たりにした国内のプレイヤーも、相次いで収益を根拠とした不動産購入を積極展開し、2007年の“ミニバブル”と呼ばれる地価上昇期の形成要因の一つとなった。これはリーマン・ショックによって地域的にはほぼ東京都心部および大阪、名古屋中心部のみ、期間も1年足らずで収束したが、これ以降の不動産価格動向は、土地および物件が潜在的に保有している「使用・収益」力を主な基準として算定されるという考え方が定着したと言って良い。

地価もしくは不動産価格が、専らその収益力によって価値判断されるようになると、土地の形状や規模、交通条件や容積率、建蔽率などを含む立地条件、周辺の事業集積性などの経済環境が大きく影響するようになる。これがまさしく土地および不動産の“利用価値”を算定するための項目であると考えれば、例えば郊外よりも事業集積地やその中心部、駅から離れた地域よりも駅前、駅近立地、小規模な建物が多い地域よりも高度利用されて大規模なオフィスビルやタワーマンションが建築されている地域のほうが“利用価値”が高いことは一目瞭然となる。つまり、土地や不動産の“利用価値”を具体的に算定するには相応の技術を要するにせよ、その多寡については一般にも容易に判断可能であることが、現状の地価の「二極化」を招く根本にあるということが理解できる。反対に“利用価値”の高さが事業の集積を産み、雇用を通じた人口集積や地域経済の活性化を招いて、結果的に地価を引き上げると見ることも可能だ。

地価の今後: “利用価値”を地方圏でも高められるかがカギ

このように考えると、今回の地価公示に表れた傾向はもはや大きな流れとしてほぼ確立していると言えるだろう。しかも、上述の通り五輪招致に成功したトウキョウに国内外からの注目が高まっており、その意味では日本の地価動向は既にトウキョウに資本が集中投下される「一極化」に移行し始めているとも言える。足元では株高&円安に加え、住宅ローン減税、超低金利、住宅資金贈与税の非課税枠拡充、省エネ住宅ポイント制度の開始もあり、消費増税期の住宅需要喚起のための施策が相次ぎ実施されている。このような住宅取得に向けたハードルの引き下げが「一極化」を緩和し、不動産購入に対する全国的な需要の維持・回復につながるか注目する必要がある。また、不動産価格を巡る動きとしては、地価動向だけでなく労務費や資材価格の推移など、不動産価格に関連する物価や人件費にも留意しなければならない。

ただし、今後は20年東京五輪開催に向けて開発、整備が加速することで地価動向にも影響するため、緩和策の実施にかかわらず「トウキョウ一極集中」が五輪開催までの5年は継続するのはほぼ確実と見られる。その間に地価のファンダメンタルズとなった“利用価値”が地方創生を掲げる現政権によってトウキョウ以外に広げられるのか、また、「一極集中」の是非を問うことも含めて、その行く末が“将来の利用価値”の基礎を為すものとなるのかを、我々は最も注視すべきだろう。
地方圏の経済的浮沈は、詰まるところ、地価動向に現れるのである。

2015年 05月14日 11時15分