メディア・リテラシーが問われる住まい選び

広告が訴える商品の美点を鵜呑みにする消費者はいない。
だが、テレビや新聞、雑誌などメディアが発信する情報になると、人は疑いもなく受け入れてしまいがちだ。ほとんどすべてのメディアビジネスは、産業界からの広告収入で成り立っていることは誰でも知っているにもかかわらず、である。

広告収入で成り立っているとは言え、もちろんメディアが売らんかなの悪意でウソの情報を流すわけではない。しかし、消費者にとっては重要だとしても、広告主にとって望ましくない情報をメディアが発信するには、消費者の想像も及ばぬほどの高潔な勇気がメディアを作る人間と組織には求められる。
例えば、ファッション雑誌の記事が、広告主のブランドをどこかのパクリだと批判する。例えば自動車雑誌の記事が、広告主の新車の性能を時代遅れだと酷評する。そういうことは、ごくごく一部の特権的なクオリティメディアにしか許されないことなのだ。

そうだからこそ、メディアが一見中立公平そうな顔で発信する情報こそ、消費者は慎重に吟味しなくてはいけない。

情報メディアを主体的に読み解いて必要な情報を引き出し、その真偽を見抜き、活用する能力のことをメディア・リテラシーと言う(wikipediaより)。
あらゆる消費ジャンルの中で、住宅購入ほど高いメディア・リテラシーが求められるものはない。ほとんどの消費者は経験値が低い買い手であるにも関わらず、ほとんどの消費者にとっては、人生をかけるほどの覚悟が必要な高い買い物だからだ。

住まい選びにおけるメディア・リテラシーの重要性を示す例として、不動産ポータルサイトや情報誌などメディアが得意とする「新築vs中古」という定番記事について検証してみる。「新築vs中古」という構図で、メディアが繰り返しアピールする「新築住宅のメリット」は、実のとことかなり“盛られた”メリットだということを、まずは認識しておこう。

*草稿を書いたら長くなったので、3回もしくは4回に分けて順次リリースする予定です。

あなたは新築住宅に住むことは出来ない

あなたは新築住宅を買うことは出来る。しかし、新築住宅に住むことは出来ないあなたは新築住宅を買うことは出来る。しかし、新築住宅に住むことは出来ない

細かい話を始める前に、マンションか戸建てかは問わず、いま現在、新築住宅の購入を検討している人と、これから先に検討するかもしれない人にとっては、軽く衝撃の事実をお伝えしておかなければならない。

それは、「あなたは新築住宅に住むことは出来ない」という事実である。
もう少し丁寧に言うなら「あなたは新築住宅を買うことは出来る。しかし、新築住宅に住むことは出来ない。」となる。

一瞬で理解できる消費者はあまり多くないだろう。少々お付き合いいただきたい。
まず考えてもらいたいのは、そもそも「新築住宅」の定義とは何だろうか?という話である。
「新築住宅」とは、住宅の品質確保の促進等に関する法律(品確法)の第2条第2項によって、以下のように定義されている。

「新たに建設された住宅で、まだ人の居住の用に供したことのないもの(建設工事の完了の日から起算して1年を経過したものを除く。)」 
易しく言い換えると、新築住宅とは「竣工1年未満」でかつ「未入居」の住宅に限るということだ。

ということは、もしあなたが新築住宅を買ったとしても、引き渡しを受けて引っ越し荷物を運び込み、達成感と幸福感に包まれて祝杯を上げたまさにその瞬間、まるでシンデレラのかぼちゃの馬車のように、あなたが夢見た新築住宅は中古住宅に変わるのである。
言うならば新築住宅とは、建物が完成した後、入居者が暮らしを始めるまでの一時だけに立ち現れる、蜃気楼のような存在だ。やっと辿り着いた時にはこつ然と姿を消してしまう幻なのだ。

何を屁理屈言っているのだ、とお叱りを受けるかもしれない。
しかし、もしあなたがこれを屁理屈だと思うなら、それはあなたが、新築業界やメディアが作り出してきた「空気」に流されている証拠である。これから長い年月のローンで高い買い物をしようとしているのであれば、あなたが買おうとしているものは果たして何なのか、一度くらいは冷静になって考えても損はしないと思う。

「1日でも誰かが暮らすと中古になる」という定義は、新築住宅とは本来、住まいや暮らしの質を語る言葉とは異なる次元の概念で、暮らしが始まる以前の、住まいの取得に関わる概念にしかすぎないことを示している。

世に新築住宅という住まいは無い。あるのはただ、新築住宅という商品だけである。

「新築vs中古」の真実

もし1日でも誰かが暮らした事実があるなら、築1日の建物でも中古住宅である。誰も暮らしたことがなければ、築365日の建物は新築住宅である。住宅不動産市場では、国土交通省の新築住宅の定義に従い、建築物をこのように分類している。

新築と中古という概念がこのようなものであるなら、住宅系メディアでよく見かける「新築vs中古」や「新築住宅のメリット」のような記事は、いったい何と何を比べようとしているのか、という疑問を持つべきだろう。
もっとも極端な例として冒頭の2つのケースを参照すると、「新築vs中古」という記事によってメディアが語り得ることは、建築物としての新しさの話ではないことは自明である。新築住宅のメリットとは、建築物としての性能や機能の話ではない。同様に住み心地や暮らしやすさの話でもない。

では、中古では得られない、新築でしか手に入らないメリットや価値とは、本来語られるべき話は、いったいどのようなものだろうか。
結論から言えば、それは2つの話である。
1つ目は、購入時の諸制度上のメリットの話である。2つ目は、「他の誰も使ったことがない」という未入居の価値の話である。
それが新築住宅のメリットの全てである。それ以上でもそれ以下でもない。


次回は、新築住宅の2つのメリットについて、正味のところを考えてみたい。

2013年 10月28日 11時04分