売ることも貸すこともしない“その他の住宅”が多いという課題

細い路地に続く長屋。このような風景が、大阪市生野区のあちこちで見られる。細い路地に続く長屋。このような風景が、大阪市生野区のあちこちで見られる。

高齢化社会の到来とともに、各地で問題になっているのが空き家。平成25年度の総務省発表「住宅・土地統計調査」によると、全国の空き家は820万戸以上にものぼる。政令指定都市の中でも、大阪市には約28万戸の空き家が存在し、空き家数、空き家率ともにワースト1となっている。

大阪24区の東に位置する大阪市生野区は、空き家率22.4%とワースト3位。
というのも、生野区周辺は戦火による家屋への被害が少なかったため、戦前に建てられた古い家屋や長屋がいまだ多く残っている。生野区役所地域まちづくり課によると、生野区の空き家は賃貸用でも売却用でもなく、不動産情報には出てこない“その他の住宅”として分類されるものが多いそうだ。つまり、売ろうとも貸そうともせず、更地にして土地活用もしない、ただの“箱”が点在していると言う。数字で見ると、大阪市全体の空き家率は17.2%でそのうち“その他の住宅”は4.5%。それに比べ、生野区空き家率22.4%のうち“その他の住宅”が8.7%と高い水準を示している。

“その他の住宅”が高い水準となっているのは、何故なのであろうか?

「昭和初期の古い木造住宅なので借り手や購入者が見つからず、不動産会社でも扱ってもらえないこと。であれば、リフォームすればと考えるが、4つの長屋が壁一枚で横一列につながる“4軒長屋”というものが多く、一軒だけに手を入れることが難しいこと。また、相続などで所有者が代替わりし、解体費用や税金面から放置したほうがいいこと、といった理由のようです」と、同課課長の乾 正一氏は説明する。

区役所主導から地域の方の活動へと伝染

生野区役所地域まちづくり課のみなさん、左から2人目が、同課課長の乾 正一氏。生野区役所地域まちづくり課のみなさん、左から2人目が、同課課長の乾 正一氏。

空き家が多いと街の活力が低下したり、老朽化した家屋は防犯上や火災などの危険性が高まる。そのため、空き家問題に取り組む行政も多く、実際、大阪市でも施策を講じている。

ただ、乾氏によれば「もちろん、大阪市全体での取り組みも必要ですが、均一施策ではなく生野区の特徴や現状、区民の方の考えに応じた活動が有効だと考えます。生野区では区役所がまず空き家問題に着手しましたが、行政主導よりも民、つまり地域の方に動いていただくほうが継続性、有効性が高く、はるかに大きな成果へと実を結ぶはずだと考えます。区役所はきっかけを作り見守る、というスタンスです」という。

生野区役所が最初に着手したのは、2年前に実施した【生野区空き家リノベーションアイデアコンクール】。
空き家と聞くとマイナスイメージを持ってしまうが、“戦火をのがれた古い長屋”は見せ方によっては魅力的に見えるのではないかという仮説から、【下町風情の残る絆の強い街『生野区』らしい空き家活用】をテーマにアイデアを募集。全部で41組の応募があり、最優秀賞は一般社団法人だが、優秀賞と特別賞は若い大学生という意外な結果だった。
さらに、結果発表に合わせ区民を対象にしたシンポジウムを開催。区民に対して、長屋や古い家屋の活用価値について情報を発信。

「コンクールを開催したことで、地域の方に生野区が抱える空き家問題の現状を知ってもらうことができました。さらに、シンポジウムに参加されていた地元の建築家や不動産関係者工務店や建築施工会社の代表、設計士など住まいの専門家と一般の方が集い、【生野区空き家活用プロジェクト】という有志の活動がはじまったのです。これこそ私たちが考えていた、区から民へと活動が伝染し、地域主導での実のある活動へとつながっていったものです」

空き家カフェを定期開催し、住民自らが空き家活用を話し合う

【生野区空き家活用プロジェクト】は、「5軒に1軒が空き家で、大阪市でもワースト3の空き家率を誇る生野区で、空き家を活用して魅力ある街にしたい」という共通認識で活動。
毎月19日に、生野区で長屋のリフォームなどを数多く手がける木村工務店が会社の1階部分を地域に開放している「まちのえんがわ」で「空き家カフェ」を開催している。メンバーは住宅や建築の専門家だけでなく誰でも参加可能で、地域の魅力を知っている住民自らが空き家の可能性について意見を出し合う。この集いから、工房やオフィス、店舗を併設した「職住接近」としての空き家活用、空き家や長屋などのデータの集積化するなど様々なアクションが生まれている。

なかでも特筆すべきは、メンバーの一人である生野区在住の橋爪大輔さんは、自身で定期借地権付きの古い家屋を購入。一般の不動産情報では出てこない空き家や古い家屋の探し方、家主との交渉、DIYを活用した最小限でのリフォーム、リフォームで出た廃材の活用などをSNSで情報発信している。

「古い家や長屋に住みたいという若い世代は、案外多いのです。ただ、借りたい、買いたいと思っても物件情報がなかったりリフォーム費用がいくらかかるのかが不安だったり。僕自身の体験をリアルに伝えることで不安や疑問を払拭し、古い家や長屋に住もうと思ってもらえれば」と橋爪さんは話す。(※橋爪さん宅のリフォームは、次回レポートで詳しく紹介)

右から2人目が橋爪さん、その右隣が奥様。左端は橋爪さん宅のリフォームを手がける建築士の伊藤千春さん。右端は、いたや木材有限会社の大塚典子さん。全員が「生野区空き家プロジェクト」のメンバー右から2人目が橋爪さん、その右隣が奥様。左端は橋爪さん宅のリフォームを手がける建築士の伊藤千春さん。右端は、いたや木材有限会社の大塚典子さん。全員が「生野区空き家プロジェクト」のメンバー

地域のつながりやまちの特性に合った空き家の活用を発信

生野区役所地域まちづくり課主催の「生野区空き家活用セミナー」の様子。空き家をかかえる住民の方が数多く参加した生野区役所地域まちづくり課主催の「生野区空き家活用セミナー」の様子。空き家をかかえる住民の方が数多く参加した

生野区役所では次のアクションとして、定期的に「空き家活用でまちを元気に!」というセミナーを開催している。

これは、空き家を所有する区民に向けて、不動産コンサルタントなどが活用へのヒントをわかりやすく紹介する勉強会スタイル。また、生野区の特徴として、ものづくりを行う個人事業所が大阪でもっとも多く、空き家や長屋を「住む」だけでなく、ものづくりの拠点として活用してほしいと近畿大学総合社会学科 環境・まちづくり系専攻の田中准教授に情報提供し、職住接近の長屋をはじめ空き家活用の研究、発表につなげている。

「アクションを起こしたからといって、すぐに空き家問題が解決するわけではありません。空き家に住む人が見つかればいい、ということでもないんです。生野区においては、空き家問題に下町風情の残る地域のつながり、ものづくり企業の多いまちという特性をミックスさせ、そこに若い世代が魅力を発見してもらいたいですね。結果、それがまちの活性化につながると信じています」。

次回は、今回のレポート内で紹介した橋爪さん宅の具体的なリフォーム事例を紹介したいと思う。

2017年 05月16日 11時05分