熟練工の大量離職時代を迎えようとしている建設業界

渋谷や虎ノ門をはじめとする大都市の再開発ラッシュが続くなか、建設現場では今どのようなことが起こっているのか。高齢化が進む昨今、建設業界では熟練工の大量離職時代を迎えようとしている。今後10年間で技能労働者約340万人のうち、50歳以上の約110万人が離職する可能性があるのだ。一方で同業界は若年層の入職が少なく、29歳以下は全体の約1割となっている。

とはいえ、労働力が減少しても生産性を向上させれば経済成長は十分見込める。このような状況を踏まえ、国土交通省は「国土交通省生産性革命本部」を設置。建設現場における生産性を向上させ、魅力ある建設現場を目指す「i-Construction (アイ・コンストラクション)」を打ち出した。この施策は、建設現場における一人一人の生産性を向上させ、企業の経営環境を改善し、建設現場に携わる人の賃金の水準の向上を図るとともに安全性の確保を推進していきたいとするものだ。

i-Constructionに合わせ清水建設株式会社、アクティブリンク株式会社、株式会社エスシー・マシーナリは、重量鉄筋の配筋作業を支援する「配筋アシストロボ」を共同開発した。清水建設とエスシー・マシーナリが建設現場のニーズ抽出や企画・立案、実証実験を、アクティブリンクが設計、製作を担当した。

建設現場などで働く熟練工は、今後10年で約110万人が離職する可能性がある。一方で若年層の入職者数は少ない(出典:国土交通省「建設現場の生産性に関する現状」)建設現場などで働く熟練工は、今後10年で約110万人が離職する可能性がある。一方で若年層の入職者数は少ない(出典:国土交通省「建設現場の生産性に関する現状」)

従来、6~7人は必要だった重量鉄骨の配筋作業を3人で行う

「配筋アシストロボ」は、建設現場のなかでも特に作業員の人数を必要とし機械化が難しいとされていた重量鉄筋の配筋作業を担う。従来、6~7人は必要だった重量200㎏クラスの重量鉄骨の配筋作業を3人で効率的に行う。

構造としては、人間の右肩から上腕、肘、下腕、手に相当する「肩旋回部」「第一アーム」「肘旋回部」「第二アーム」「把持部」の5パーツと制御盤から構成されている。作業時には、H型鋼など建築物の構造体に固定した後、把持部に重量鉄筋を掴ませ昇降ボタンを使って持ち上げる。そして作業員が片手で握った操作グリップの動きに合わせてサーボモーターが稼働する。必要な作業員は操作者1人、鉄筋の介添え役2人の計3人と従来の半数以下で済む。ロボット操作は、配筋作業経験に関係なく行うことが可能だ。

なお、作業の進行に合わせて設置替えをする必要があるが、同ロボットは4つに解体でき、各パーツの重量は40㎏前後。そのため、作業員3人程度の手作業により20分程度で解体・設置できる。

「配筋アシストロボ」は、人間の右肩から上腕、肘、下腕、手に相当する「肩旋回部」「第一アーム」「肘旋回部」「第二アーム」「把持部」の5パーツと制御盤から構成されている(画像提供:アクティブリンク)「配筋アシストロボ」は、人間の右肩から上腕、肘、下腕、手に相当する「肩旋回部」「第一アーム」「肘旋回部」「第二アーム」「把持部」の5パーツと制御盤から構成されている(画像提供:アクティブリンク)

1~2年後の製品化も視野に入れた実証試験

昨年(2016年)9月に千葉県市川市の東京外環自動車道の工事現場において実証試験が行われた。このような試験は、実験室では確認できない耐久性や作業効率などを検証するために重要な過程だ。当日は「配筋アシストロボ」を稼働させ、3人の作業員によって160kgの重量鉄筋の配筋作業を行った。試験の結果は良好で、アクティブリンクではさらに操作性や解体・組み立て作業の効率化などを図り、1~2年後には製品化したいとしている。

左上:160㎏の重量鉄筋を把持して吊り上げる 右上:重量鉄筋を把持して旋回する 左下:重量鉄筋の片側を所定の位置に合わせる 右下:位置を合わせた後に重量鉄筋を吊り下ろす(画像提供:アクティブリンク)左上:160㎏の重量鉄筋を把持して吊り上げる 右上:重量鉄筋を把持して旋回する 左下:重量鉄筋の片側を所定の位置に合わせる 右下:位置を合わせた後に重量鉄筋を吊り下ろす(画像提供:アクティブリンク)

職場環境の全体を俯瞰しアドバイスをするコンサルタントのような存在が必要

このように様々な作業の効率化を実現するロボットは、一部から私たち人間から仕事を奪ってしまうのではないか、という声も聞く。しかし、建設業界など人材の確保が難しいところでは、今の人数でどうやって依頼された仕事量をこなしていくかが喫緊の課題だ。つまり、ロボットは人減らしの道具ではない。

アクティブリンクによると、今のところ建設業界でのロボット開発は配筋に特化したもののみだが、今後ノウハウが蓄積されていけば、他の作業工程へも展開できる可能性は十分あるという。その結果、建設現場へのロボット導入が前提となる設計が当たり前になっていくだろう。また、ロボットによって生産性が上がれば、人件費なども下がり最終的には建設費を圧縮することにもつながる。これは家電やクルマなど生産現場へのロボット導入でコストダウンが実現した業界を見れば明らかだ。

だだし、そのような人間とロボットが形づくる社会の実現には解決しなければならない大きな壁もある。それは職場環境の最適化だ。たとえば、ロボット導入によって騒音が出たり、隣の物にぶつかるなどで周辺の作業がストップしてしまったら本末転倒だ。すなわち導入しても周りの職場環境に影響を与えないことが重要ということになる。そのためには、単に高性能なロボットを開発するだけでなく、人間とロボットが「あうんの呼吸」で相乗効果を生むために職場環境の全体を俯瞰し、アドバイスをするコンサルタントのような存在が必要となるだろう。

取材協力:アクティブリンク株式会社
http://activelink.co.jp/

2017年 03月15日 11時07分