明け方に添景をつくる辛さから解放されたい! その想いが「建築模型用添景セット」を生みだした

左/下北沢駅から徒歩5分ほどの場所にある「テラダモケイ」。テラダデザイン一級建築士事務所内の小さなスペースにショールームがあり、全商品を展示・販売している。営業日は土日だけなので気を付けよう 右/看板が可愛らしい。ショールームは地下1階にある左/下北沢駅から徒歩5分ほどの場所にある「テラダモケイ」。テラダデザイン一級建築士事務所内の小さなスペースにショールームがあり、全商品を展示・販売している。営業日は土日だけなので気を付けよう 右/看板が可愛らしい。ショールームは地下1階にある

そのまま飾っても見栄えが良く、つくってディスプレイしたらクスッと笑みがこぼれる。そんな可愛らしさが魅力の、1/100サイズの建築模型用添景セットを制作・販売する「テラダモケイ」。模型を通じてつくる楽しさとつくることを想像する楽しさ、そして飾って見る楽しさで多くの人を魅了している。

ところで、「添景(てんけい)」と聞いてピンと来るだろうか? 添景とは「風景画や風景写真などで全体を引き立たせるために加えられた人や物など」と辞書にある。テラダモケイの建築模型用添景セットは、そのものが持つ独特の造形と驚くべき細やかなつくりこみが特徴で、見る者を引きつけてやまない。
様々な媒体で取り上げられ人気シリーズとなった建築模型用添景セットだが、その誕生は実は設計事務所での仕事を楽にするためにつくられた、いわば後ろ向きな理由からだった。

「事務所で毎日、日常的に建築模型をつくっていたのですが、建築模型を素敵に見せお客さまに興味を持っていただくには、建築模型自体よりも『添景』といわれる人や家具、街の風景などが重要だとわかってきました。しかし、事務所で建築模型をつくるとほとんど徹夜。肝心の『添景』をつくるころには空も白み、もうクタクタです。そこで、この『添景』をあらかじめつくっておけば、日々の睡眠時間が増えると考えたのが始まりです」と、テラダモケイ代表の寺田尚樹さんは語る。

お客さまにサプライズを届けるために、あえて脈絡なく商品を開発・販売

「お花見編」「工事現場編」「屋台編」「忠臣蔵・討ち入り編」「結婚式・披露宴編」など、様々なバリエーションをリリースしているテラダモケイ。アイデアはスタッフ全員で考えると言う。
「『これだったら売れそう』とう理由でつくることはないですね。忠臣蔵のあとに海女さんが出て、次に宇宙船、その次にいきなり桃太郎が出るとか、脈絡なく出すことを心掛けています。その方がお客さまも面白いと思うんですよね。いい意味でお客さまの期待を裏切る遊び心を持ってつくっていきたいと考えています」

テラダモケイが最初に発表したのが「住宅編」、その次が「オフィス編」。当初は建築設計事務所などで使うようなものを意識して発表していたことがうかがえる。その後、4作品目がいきなり「動物園編」だ。
「『動物園編』は、テラダモケイがどのような方に購入されているのか調べようと試金石的につくったもの。需要のほとんどが建築関係の方なら『動物園編』は売れないわけですよね。それが逆にすごく売れたのです。どういう人が買っているのかなとお店で見ていると、実際に建築の設計には関わってはいないけれど、近い仕事をしているデザインやアートに興味のある方たちが多いようだとわかりました。そこで、建築の模型とか設計にあまりこだわらなくても自由に考えた方がいいなと感じて、様々なバリエーションをつくることにしたのです」

建築模型用添景セットは1/100サイズとあって、細かい作業が苦手な方には組み立ては少々難しそうである。しかし、寺田さんは「無理してつくらなくてもいいように制作した」と言う。
「販売している建築模型用添景セットは、各パーツのデザインやレイアウトに徹底的にこだわり、グラフィックデザインだと思ってつくりました。言うなれば、テラダモケイには完成が2度あると思っています。キットの形で店頭に並んでいる状態がプロダクトとして1回完成している状態。組み立てて2回目の完成です。買ってくださったお客さまは袋から出して組み立てるという次のチョイスがあるのですが、無理につくらなくてもいいんです。グラフィックとして1回完成していますから。購入後オリジナルのストーリーを楽しみながら組み立てても良し、そのまま飾ってもよし。2段階の完成が楽しめるようにつくっていますので、自由に楽しんでいただければと思います」

建築模型用添景セットはグラフィックデザインとしても美しくつくられているので、このまま部屋などに飾ってもお洒落なインテリアに。ショールームでもガラスに貼り付けることでその美しさを強調している建築模型用添景セットはグラフィックデザインとしても美しくつくられているので、このまま部屋などに飾ってもお洒落なインテリアに。ショールームでもガラスに貼り付けることでその美しさを強調している

建物はつくらない。ストリートファニチャーで街を、物語を表現する

現在68種類がリリースされている建築模型用添景セット(ほかにもシリーズがある)。たくさんの種類の中に家やお城などがあっても良さそうだが見当たらない。そこにはテラダモケイのポリシーがあった。

「デザインや建築というのは人の気持ちをいかに動かすかが大切だと思うのです。ですから添景も単にお城などではなく、そこにドラマや物語があるものをつくりたいし、その物語の背景にデザインや建築などがあると考えています。
テラダモケイはあくまで建築に添えるための添景からスタートしていますので、建物は絶対につくらないとルールで決めています。逆に建物をつくらずに、感動や驚きなど建築家として本来感じてもらいたいことを物語として表現したいですね」

高層ビルが象徴的な街のひとつ、ニューヨーク。テラダモケイの「ニューヨーク編」にもビルはなく、街角のアイテムで構成している。
「建物で表現するのではなくもっと身近なもの、例えば街の消火栓や郵便ポスト、ガードレールや自販機など、ストリートファニチャーだけで街の生活感や雰囲気を表現できると考えています。制約があった方が面白いんですよ」と寺田さんは笑う。

テラダデザイン一級建築士事務所のスタッフは全員、建築模型用添景セットの制作に携わるそうだ。
「建築専門、プロダクト専門ではなく、添景セットの制作には設計をやる気持ちとか物の見方などが養われると思うので、この事務所でデザインをする人には、添景セットに携わるようにしてもらっています。ひとつの修練といいますか、物の見方を養う練習になると思うからです」

建築模型用添景セットを組み立てた様子。</br>左上から時計まわりに「忠臣蔵・墓前に報告編」「お花見編」「ニューヨーク編」「駅伝編」。</br>ハガキサイズの中に、様々なドラマがつくりこまれているのが秀逸だ。見て楽しむも良し、つくって楽しむも良し。</br>手先の器用さに自信のある方は、ぜひチャレンジしてみよう建築模型用添景セットを組み立てた様子。
左上から時計まわりに「忠臣蔵・墓前に報告編」「お花見編」「ニューヨーク編」「駅伝編」。
ハガキサイズの中に、様々なドラマがつくりこまれているのが秀逸だ。見て楽しむも良し、つくって楽しむも良し。
手先の器用さに自信のある方は、ぜひチャレンジしてみよう

生活がイメージしやすい模型によるプレゼンを行い、お客さまの心をつかむ

商品がずらりと並ぶショールーム。完成形も飾られており、いつまで見ていても飽きないほど。完成後の飾り付けは、テラダモケイで販売しているアクリル樹脂製のディスプレイケースを利用するのも良いだろう。気になる新商品は月に1つのペースでリリースしている商品がずらりと並ぶショールーム。完成形も飾られており、いつまで見ていても飽きないほど。完成後の飾り付けは、テラダモケイで販売しているアクリル樹脂製のディスプレイケースを利用するのも良いだろう。気になる新商品は月に1つのペースでリリースしている

建築家として多くの建築物を手掛けてきた寺田さん。建築物のプレゼンでは、CGによるパース図よりも、模型による提案を重視していると言う。
「どんなにすごいパース図を描いてお見せしても、皆さん見慣れているせいか共感が得られないことが多いのです。その点立体のものを説明するには立体の方がわかりやすいのは当然ですし、建築模型をつくった方がイメージが伝わっているように感じますね。ただ、建築模型でも建物だけをつくっていては片手落ちだと思います」

建物は人の生活のためにあるものなので、その建物のデザインよりも、「その建物で何ができるか」「どんな暮らしが楽しめるか」を伝えるようにしていると言う寺田さん。それをわかりやすくイメージさせる手段が人、すなわち添景だ。

「庭でバーベキューを楽しむとか、カーポートで洗車をしているとか、バルコニーで寝転がっているとか、リビングにピアノがあるとか。そういったことを建築模型の中で表現してあげると話が盛り上がるのです。それはなかなか図面やパース図では伝わらないことで、そこから会話が広がることが多いですね。それならバルコニーをどうしようとか、庭でバーベキューをやりたいならこうしようとか。
私たちの仕事は、建物を設計することが目的ではありません。目的はその先にある建物を使う人が幸せになること。その人がどのような使い方をするのかを考え、使う人の生活やアクティビティを設計するのが目的です。だから設計事務所は建築を設計するのが目的になってはいけないと思います。設計はあくまで手段なので、きちんとその先を見据えて考えるようにスタッフにも指導しています」

「暮らしには立地が大切。私ならスーパーをチェックしてどの街に住むかを決めます」

注文住宅を建てる時、マンションや戸建住宅を購入する時、家の間取りやクオリティも大切だが、寺田さんは立地条件の方が重要なのではないかと指摘する。家自体には暮らしを楽しむためにそれほどバリエーションがあるとは思えないが、街を好きになれるかどうかで日々の充実度が大きく違うというのがその理由だ。中でも特に重視するのがスーパーとのこと。

「スーパーの品揃え、値段、バリエーションを見れば、その街のコスト感とかグレード感、住んでいる人たちの嗜好がわかります。揃えてある商品のバリエーションが少ないと、つくれる料理も限られてしまうのです。私が料理好きということもありますが、私なら候補地に行ってスーパーを確認しますね」
暮らしに何を求めるかにもよるが、スーパーを確認するというのも的を射た方法だ。

最後に、小さい頃から模型と親しんできた寺田さんに、その魅力をお聞きした。
「模型づくりをスタートする前に、組み立て説明図を見ながら『こうやろう』とか想像する時間がワクワクします。それが楽しい第一段階。第二段階は実際に組み立てる時で、その作業自体が楽しいですね。出来上がった後眺めて満足感に浸るのが第三段階です。
組み立てた後は興味がないという方もいますし、一方で全然組み立てないけれど大量にコレクションをしている方もいます。棚に積み上がった模型の箱を見るのが好きという方もいます。人それぞれのやり方で楽しめば良いのではないでしょうか」

ますますラインナップを充実させているテラダモケイ。下北沢のショールームのほか各地のミュージアムショップ、インターネットでも手に入るので、気になる方はぜひ建築模型用添景セットの繊細でストーリー性のある世界観を味わっていただきたい。

ちなみにテラダモケイでは、6月1日~7月31日まで「テラダモケイ 設立5周年記念イベント あなたのアイデアをテラダモケイにします キャンペーン」を実施中。アイデアを出すことで、添景の世界に触れるきっかけをつくってみては?

■取材協力:テラダモケイ/http://www.teradamokei.jp/
■ショールーム:東京都世田谷区北沢1-45-11 B1F(営業日は土日の11:30~19:00)

左/寺田さんが制作し、「ほぼ」月刊で発行している「テラダニュース」。</br>新商品の情報ほかウィットに富んだ豊富なネタが掲載され、読んで楽しい。ホームページからダウンロードできる</br>右上/子どもの頃から模型づくりが好きだったという、テラダデザイン一級建築士事務所、テラダモケイ代表の寺田尚樹さん</br>右下/仮に組み立てなくてもきれいに見えるように、グラフィックとしての完成度も高めている。緻密な作業がうかがえる左/寺田さんが制作し、「ほぼ」月刊で発行している「テラダニュース」。
新商品の情報ほかウィットに富んだ豊富なネタが掲載され、読んで楽しい。ホームページからダウンロードできる
右上/子どもの頃から模型づくりが好きだったという、テラダデザイン一級建築士事務所、テラダモケイ代表の寺田尚樹さん
右下/仮に組み立てなくてもきれいに見えるように、グラフィックとしての完成度も高めている。緻密な作業がうかがえる

2016年 06月21日 11時08分