不動産会社に頼まなければ詳しい物件情報を得られないのが日本の現状?

不動産会社と一般消費者の間で情報格差が大きいといわれる日本の不動産流通市場だが、"不動産テック"の活用によって「不動産価格の見える化」が大きく進みそうだ。

これまでは「自分のマンションを今売ればいくら?」「通勤途中で見かけたあのマンション、これから売り出されたらどれくらい?」などと気になったときでも、簡単に知ることはできないことがほとんどだっただろう。

たまたま同じマンションに売出し中の物件があれば検索サイトで情報を得て参考にすることができるものの、近隣に類似マンションの事例すらなければお手上げだ。過去の取引事例をせっせと探すのも手間がかかり過ぎる。不動産に関する数多くの取引データは一般向けに開示されず、業界外の人がこれを得ることは難しかった。

だからといって不動産会社に売却査定を頼んだり購入相談をしたりすれば、その後は営業攻勢にさらされるのではないかとの不安もあるだろう。本気で売却や購入を考えているときはともかくとして、「ちょっと知りたい」と興味をもった程度で不動産会社に連絡をするのも、あまり現実的ではなさそうだ。

国土交通省は「不動産市場の信頼性・透明性を高め、不動産取引の円滑化、活性化を図ること」を目的として、2006年4月から不動産取引価格情報の公開に取り組んでおり、累積情報数は約250万件(2015年12月末)に及ぶ。ところが「成約価格は個人情報である」という考え方から「物件が容易に特定できないよう加工した上で公表」している。そのため、ピンポイントでの情報を得ることはできず、個別の増価、減価要因が存在してもなかなか分からないのが現状だ。

アメリカでは一般の人もデータベースを利用できる

Zillowのトップ画面。アメリカで一般消費者も利用できる不動産情報サービスZillowのトップ画面。アメリカで一般消費者も利用できる不動産情報サービス

「不透明だ」と指摘されることの多い日本に比べ、アメリカの不動産流通市場はどうだろうか。
住宅の売買についてはMLS(Multiple Listing Service:マルチプル・リスティング・サービス)と呼ばれる不動産ネットワークシステムが整備され、売主側、買主側それぞれの不動産エージェントはもちろんのこと、一般の消費者も容易に情報を得ることができるようだ。

さらに注目すべきは「Zillow(ジロー)」という不動産情報サービスが浸透していることだ。何となく日本人が親しみを感じるようなネーミングだが、アメリカ全土を対象にしたデータベースである。1億件を超える不動産データに加えて公的なオープンデータなども活用し、賃貸および売買における「推定価格」、過去の価格変動履歴、売出し中の物件についてはその詳細なども表示されるという。自宅の住所を入力すればすぐに現在の価格水準が分かるほか、気になる家の価値も一目瞭然だろう。

不動産価格情報の「見える化」が遅れていた日本でも、2015年あたりからさまざまな試みが動き出した。金融業界の“フィンテック”や広告業界の“アドテック”とともに、“不動産テック”と呼ばれる一連の動きだ。不動産市場にIT(情報技術)を取り入れたものであり”リアルエステートテック”ともいう。国内における最近の主な動きを確認しておきたい。

日本でも“不動産テック”による新しいサービスが次々と生まれている

マイクロソフトとリクルートが共同で運営する「Bing不動産」の画面の一部。売出し中の物件情報を中心に掲載されているマイクロソフトとリクルートが共同で運営する「Bing不動産」の画面の一部。売出し中の物件情報を中心に掲載されている

2015年8月にリブセンスが「IESHIL(イエシル)」を、2015年10月にはネクストが「HOME’S プライスマップ」をリリースした。いずれも首都圏の中古マンションを対象にしたサービスだが、売出し中の物件に限定することなく数多くのマンションについて独自のアルゴリズムで推定した「参考価格」を表示するものだ。開始当初は東京23区が対象だった「イエシル」も現在は1都3県に拡大している。「イエシル」は主に一覧表形式で、「HOME'Sプライスマップ」はその名のとおり地図上に結果が表示される。

不動産価格推定エンジンを活用したサービスとしては、2015年11月にヤフーとソニー不動産が共同で運営を始めた「おうちダイレクト」も注目される。推定価格をもとに、マンション所有者が自ら売出すことのできるシステムだが、価格を見るだけなら誰でも利用可能だ。表示対象エリアは首都圏(1都3県)、売出し可能エリアは東京23区(2016年5月現在)となっている。

過去の取引事例を中心とした情報収集には「マンションマーケット」(運営会社名も同じ)、売出し中の物件情報収集にはマイクロソフトとリクルート(SUUMO)が共同で運営する「Bing不動産」も役立ちそうだ。「Bing不動産」がスタートしたのは2015年5月だが、対象が全国である点、マンションだけでなく一戸建て住宅なども表示される点、さらに用途地域や公示地価などを地図に重ねて表示できる点が大きな特長だ。

「HOME’S プライスマップ」は賃料表示にも対応へ

ネクストが運営する「HOME’Sプライスマップ」では、2016年5月から「参考賃料」も合わせて表示されるようになった。現時点では首都圏のマンション約16万棟、約150万戸を対象としているが、対象エリアや物件は今後も拡大していくとのことだ。不動産情報サイトの「HOME’S」に掲載される豊富な物件データを持つことは大きな強みだろう。

地図上に対象マンションが表示されるため、目的のマンションだけでなく周辺の情報も分かりやすい。見たい物件にカーソルを合わせれば参考価格(賃料表示モードの場合は参考賃料)がすぐに表示され、クリックすれば個々の参考価格、参考賃料、表面利回り、過去の掲載住戸情報なども表示される。また、会員登録など一定の手続きをしなければ一部の情報しか表示されないサイトもあるが、「HOME’Sプライスマップ」は登録などを必要とせず、誰でも無料ですべての情報を得ることができる。

自分のマンションがいくらで売れるのか、貸すならいくらか、投資で買ったときの利回りはどれくらいかという場合だけでなく、単純に自分の資産が住宅ローンの残高よりも多いのか少ないのかを知りたいというときでも、このようなサービスを使って「不動産会社を通すことなく」知ることができることの意義は大きい。

「HOME’Sプライスマップ」に限らず、それぞれ独自のロジックで算出されるこれらの参考価格は一定の誤差を含んでおり、必ずしもその価格で売れる、貸せると保証されるわけではない。実際に売出そうとすれば、詳細な査定が必要な場合も多いだろう。だが、大まかな価格動向を知るには十分であり、買う側、借りる側にとっても適正価格を判断する際の有効な資料となる。無料で使えるこれらのサービスを存分に活用したいものだ。

2016年5月に機能が追加された「HOME'Sプライスマップ」の画面の一部。「参考価格」「参考賃料」などが表示される2016年5月に機能が追加された「HOME'Sプライスマップ」の画面の一部。「参考価格」「参考賃料」などが表示される

“不動産テック”の活用はさらに進んでいく

こうして並べてみると、不動産テックにとって2015年が大きな節目の年だったことが分かる。しかし、これらの価格情報サービスはまだ始まったばかりであり、これからもシステムの改良、機能向上が進められていくはずだ。現在は対象エリアが首都圏、対象物件がマンションに限定されているものも多いが、いずれは全国、そして一戸建て住宅、土地にも拡大していくだろう。それと同時に価格推定エンジンの精度維持や向上も各社の大きな課題となる。

さらに、不動産取引のスタイルもこれから大きく変わっていくだろう。ヤフーとソニー不動産が始めた「おうちダイレクト」は売主が自分で売出すことによる「マッチングサービス」が一つの柱となっているが、中小不動産会社でも積極的な取組みがみられる。たとえば、エアリーフローによる「家いちば」は主に空き家を対象としたマッチングサービスとして2015年10月にスタートした。

「自らネットに書き込んで自分の物件を売出す」という行為に消費者は慣れていないため、これらが浸透するまでにはそれなりの時間も必要だろう。購入を検討する側も、まだ手探り、様子見の側面が強そうだ。しかし、いずれはこのようなスタイルも一般的になり、不動産会社に求められる役割も大きく変わっていく。

契約前の宅地建物取引士による重要事項説明はインターネット利用の解禁に向けた社会実験が行われており、住宅ローンの手続きがインターネットで完結する金融機関も現れてきた。仲介手数料の定額サービス、VR(ヴァーチャルリアリティ)による物件内覧システムなど、従来の枠や慣行にとらわれないサービスも生まれつつある。

昭和の時代から長年にわたり基本的なスタイルが変わることのなかった日本の不動産流通市場だが、“不動産テック”によって今まさに変革の時代を迎えているといえるだろう。

参考サイト:http://www.homes.co.jp/price-map/

2016年 05月24日 11時05分