池袋で2003年から構想されているLRT

池袋LRTの構想は池袋駅東口の駅前からグリーン大通り、
サンシャインシティと造幣局東京支局の間を通り、
サンシャイン通りから駅前へと周回する2.1kmの区間だ
池袋LRTの構想は池袋駅東口の駅前からグリーン大通り、 サンシャインシティと造幣局東京支局の間を通り、 サンシャイン通りから駅前へと周回する2.1kmの区間だ

以前HOME'S PRESSでもレポートしたのだが、池袋(東京都豊島区)は今、街の姿を大きく変えようとしている。豊島区役所移転(2015年5月)に伴う旧庁舎跡地一帯では、2020年のオリンピックイヤーまでにシネマコンプレックスや新ホールなどが誕生するという一大プロジェクトが進行中。また、池袋のランドマーク的存在であるサンシャインシティの南東側の隣地には造幣局東京支局があるが、2016年10月にさいたま市へ移転するため、その跡地を防災公園などに整備する計画が進められている。このほかにも複数のプロジェクトが計画され、再開発機運が高まっている池袋にあって、街づくりの軸として豊島区が検討しているものがある。それは次世代型路面電車システム「LRT(Light Rail Transit=ライトレールトランジット)」の導入。現時点では構想段階なのだが、2003年から13年越しで検討され続けている。池袋駅東口の駅前からグリーン大通り、サンシャインシティと造幣局東京支局の間を通り、サンシャイン通りから駅前へと周回する2.1kmの区間に、LRTを走らせたいという。

このLRTが実現したら池袋はどう変わるのだろう? そんな関心を抱きつつ、『池袋LRT(路面電車)計画が描く未来』と題した公開講演会の取材に出向いた。今回から2回に分けて講演会レポートをお届けしたい。

新たな公共交通機関として世界で注目されているLRT

講演会で登壇する溝口禎三氏。税理士として活動するかたわら、「池袋の路面電車とまちづくりの会」事務局長を務める講演会で登壇する溝口禎三氏。税理士として活動するかたわら、「池袋の路面電車とまちづくりの会」事務局長を務める

この講演会を主催するのは「池袋の路面電車とまちづくりの会(以下、「まちづくりの会」)」。豊島区が池袋LRT構想を発表した2003年に地元の商工業者によって設立された団体で、池袋LRT実現を通じて池袋全体の活性化をめざしたいと、さまざまな活動に取り組んできている。

講演会の前半で登壇したのは、「まちづくりの会」事務局長の溝口禎三氏。「まちづくりの会」では2015年秋に豊島区観光協会、東京商工会豊島支部との共催でフランス・ストラスブール市などの視察ツアーを行なっており、ツアーに参加した溝口氏から視察報告とストラスブールの街づくりについて語られた。ストラスブールはフランス北東部、ライン川左岸に位置する地方都市。EU(欧州連合)の欧州議会などヨーロッパの主要な機関が置かれているのだが、1994年にLRTを導入して街全体の活性化に成功し、都市公共交通システムの先進都市として知られるようになった。人口は豊島区(約28万人)よりもやや少ない約27万人ながら、世界各国から多くの視察団が訪れている。

まず、溝口氏による視察報告をお伝えする前に、LRTについて整理したい。もともと路面電車は排気ガスをほとんど出さない、環境にやさしい乗り物なのだが、それをさらに発展させた高性能の電気軌道車両を用いるのがLRT。特徴として挙げられるのは、まずバリアフリーに対応した設計で高齢者や幼児でも乗り降りしやすいこと。車いすやベビーカーの利用者でも安全にかつ楽に乗り降りができるように電車の床を低くし、プラットフォームとの段差をなくしている。運行時の振動が少なく、騒音も小さいことや、車両の連結運転ができるので多数の乗客を輸送できることも特徴。さらにLRTは専用軌道を走るのでほぼ定時に発着することが可能であることも、大きなポイントとなっている。また、地下鉄のように地面を掘ったり、モノレールのように高架橋脚を作る必要がないため、建設費用も安く済む。

こうした利点からLRTは新たな公共交通機関として世界で注目されている。1978年にカナダのエドモントンで世界初のLRTが導入されて以降、欧米の都市を中心に導入事例は増え続け、この約35年の間にLRTを新設したのは160都市以上にもなるという。そうしたひとつが、フランスのストラスブールを走るLRTで、「トラム」とも呼ばれ、街のシンボルになっている(以下、ストラスブールのLRTについてはトラムと記述する)。市民の通勤通学などの足としてはもちろん、約2000年もの歴史が刻まれた古い街並みをめぐる観光の目玉でもある。

トラムを軸にしたストラスブールの街づくりとは

そんなストラスブールを訪れ、視察をした溝口氏。講演会壇上でまず、「美しい街並みにトラムが走る風景は感動的でした。カメラのシャッターを押したくなるフォトスポットが多く、歩いて楽しい街でした」と、印象を語った。この「歩いて楽しい街」であることこそが現在のストラスブールの大きな魅力であり、トラム導入による街づくりがもたらした成果であると、溝口氏の話から知ることができた。

1994年にトラムが導入される以前、1980年代のストラスブールは歩いて楽しい街どころか、街は自動車であふれ返り、交通渋滞や大気汚染の問題、さらには街の中心部が空洞化して商店街はさびれてしまっていたという。そんな状況を解決する鍵となったのがトラムだった。始まりは1989年の市長選挙。交通渋滞を解消するために地下鉄を導入する政策を掲げた現職の市長に対し、トラムを導入することを掲げたカトリーヌ・トロットマン氏が当選した。そうして6年後に約10kmの区間でトラムが開通(その後、路線延長がなされている)。
ここで重要なのは、車に代わる交通手段としてのトラム開通が目的だったのではなく、多くの人が集い活気ある街にするための手段としてトラムを導入したということだ。トラムの開通に伴い、車道や駐車場を歩道やオープンカフェに変える、トラムの専用軌道を緑地にするといった取り組みを行なった。なかでも画期的だったのが、トランジットモールと呼ばれる歩行者専用道路を設けたこと。トランジットモールを通行できるのは歩行者のほか、トラムなどの公共交通のみで、つまりは車を締め出した空間というわけだ。そして、車が街の中心部に乗り入れできないよう、車の乗り入れを規制し、「パークアンドライド」システムを取り入れた。パークアンドライドとは、自動車を都市周辺の駐車場に止め、そこから鉄道やバスなどの公共交通機関に乗り換えて街の中心部へ入る形態のこと。ストラスブールでは街の中心部入口に駐車場を設け、そこからトラムなどに乗り換えて移動するという仕組みを整えた。さらには自転車の専用道路の整備や、トラムを補完する交通機関として郊外にBRT(※)を新設するなど、交通網を総合的に整備したのだった。

「その昔は、歴史的な建造物であるストラスブール大聖堂の周囲も駐車場と化していたそうですが、今では車の姿はなく、人が歩いて楽しめる広場になっています。つまり、トラムを導入するとともに、街の景観を整備し、景観美のクォリティを高めたわけです」と、溝口氏は解説した。そうした取り組みで街に活気がよみがえったストラルブール。LRTを導入したことで、住民の買い物行動にも変化があり、街の中心部での買い物回数はLRT導入以前に比べて約3割増えたという。

(※)BRT=Bus Rapid Transit:バス高速公共交通。専用の軌道をもち、一般自動車交通と共存しながらも、通常の路線バスよりも大容量、高速、高頻度に運行するバス輸送システムのこと。

ストラスブールの街の風景に溶け込むトラム(写真提供/池袋の路面電車とまちづくりの会)ストラスブールの街の風景に溶け込むトラム(写真提供/池袋の路面電車とまちづくりの会)

「駅袋」からの脱却をめざす池袋

池袋駅周辺地域ではさまざまなプロジェクトが進行中。LRT導入構想があるのは、図の中のグリーンの線で示した部分。(資料:2015年秋に豊島区が実施した「旧庁舎跡地・周辺まちづくりに関する説明会」にて配布の資料より)

池袋駅周辺地域ではさまざまなプロジェクトが進行中。LRT導入構想があるのは、図の中のグリーンの線で示した部分。(資料:2015年秋に豊島区が実施した「旧庁舎跡地・周辺まちづくりに関する説明会」にて配布の資料より)

さて、池袋のLRT構想であるが、どこまで検討が進んでいるのだろう。冒頭で記述したように池袋にLRT構想が生まれたのは2003年。LRTを導入することで池袋がめざすものはさまざまにあるのだが、まず、通称「駅袋」と呼ばれる状況からの脱却が挙げられる。池袋駅は山手線などJR各線や西武池袋線、東武東上線、地下鉄3線が乗り入れる巨大ターミナル駅で1日に約260万人もの人が乗降するにもかかわらず、駅に直結する百貨店などを利用するだけで駅の外には出てこないという。また駅の外に出てきても、サンシャインシティへと向かうサンシャイン60通りに人が集中しているため、人の流れの回遊性を高めることも課題となっている。そして池袋のイメージアップ。新宿や渋谷などに比べていまいちダサいというイメージがあるため、LRTを走らせることで渋谷や新宿など他の繁華街にはない新たな魅力を創りたいとしている。

近い将来、池袋駅東口は歩行者広場に

(上)現在の池袋駅東口周辺。(下)講演会では、LRT導入後の池袋についても語られた
 
(上)現在の池袋駅東口周辺。(下)講演会では、LRT導入後の池袋についても語られた

現在はまだ実現に向けて検討・検証を重ねている段階というが、実現の可能性はどうなのだろう? 冒頭で記述したように現在、池袋ではさまざまな再開発プロフェクトが進められているのだが、このなかのひとつ、豊島区役所新庁舎の東側で工事が進行中の「明治通りのバイパス(環状5の1号線)」の完成が、LRTの実現へと近づけてくれるものとして、溝口氏をはじめ関係者は期待を寄せている。「明治通りは池袋駅東口の前を通っているのですが、バイパスが完成することで駅前の車の交通量の大幅な減少が見込まれています。このバイパスは東京オリンピックが開催される2020年の春に完成する予定です。バイパス開通後、豊島区では東口駅前を歩行者広場にする構想をもっています。この池袋の玄関口にあたる広場が、LRTの走るトランジットモールへと発展していくことを願っています」と、溝口氏は語った。

池袋のLRT実現には、車両基地の用地確保、LRT導入に伴う自動車交通やバス・タクシー、物流事業者などへ与える影響はどうなのかといった問題など、多くの課題の解決が必要となっている。また、「池袋にLRTが必要なのか?」と考える地域住民との合意形成もこれからだろう。LRT計画の進展の道筋は立っていないわけだが、それは池袋に限ってのことではない。日本では多くの都市でLRT導入が検討されてきているが、導入されたのは富山県富山市の富山ライトレール富山港線(2006年開通)のみにとどまっているという事実が物語るように、日本ではLRT導入が進んでいない。そんななか、20年以上の検討期間を経て、LRT運行計画を始動させた都市が栃木県宇都宮市である。2016年度内に着工し、2019年の運行開始に向けて動き出している。その宇都宮LRT計画に学識経験者として関わってきた早稲田大学理工学術院教授・森本章倫氏が、この講演会の後半に登壇した。森本氏の講演内容は、次回記事でレポートする。

☆取材協力
池袋の路面電車とまちづくりの会
http://www.i-tram.com/

☆主な参考資料
・池袋の路面電車とまちづくりの会 会報『iとらむ』
・『池袋副都心再生プラン』(2004年4月:豊島区都市整備部都市計画課)
・『池袋副都心交通戦略(池袋の交通のあり方を考える)』(2011年9月:豊島区都市整備部都市計画課)
・『まちづくりと一体となったLRT導入計画ガイダンス』(2005年10月:国土交通省都市・地域整備局都市計画課都市交通調査室)

2016年 03月14日 11時00分