自立できない若者が増えているのは住宅に選択肢がないせい?

川田氏の説明。海外との比較が参考になった川田氏の説明。海外との比較が参考になった

高知で若者と住まいをテーマに「まだいえづくりで消耗してるの?」と題したシンポジウムが開かれた。登壇者は大分大学大学院准教授の川田菜穂子氏、「別荘リゾートnet」を運営する唐品知浩氏、タイニーハウスビルダーの竹内友一氏、NPO法人グリーンズ代表の鈴木菜央氏、ブロガーのイケダハヤト氏の5人。シンポジウムは現在の若者が直面する住宅問題の提起から始まった。最初のパネラーである日本住宅会議メンバーで大分大学大学院准教授の川田菜穂子氏は家族、雇用、社会、経済がいずれも不安定化してきたこの20年にあって、住まいのみが多様化していない点を指摘した。

「かつては住込み、社宅や寮、安い木賃アパートといった、所得の低い、若い年代でも親許から自立できる、ハードルの低い手段がありました。でも、今は住込みの仕事はほとんどなくなり、企業は社宅・寮を廃止、木賃アパートは建替えられて家賃がアップ。そのため、特に非正規雇用などで所得が低い若者は自立できません。年収200万円台の8割は親と同居し続けざるを得ない状況です」。

住宅問題が若者の自立を阻害しているのではないかというのである。比較事例として取り上げられたのはヨーロッパ。「EUでも若者の失業率は高く、経済的には恵まれているわけではありません。でも、シェアの文化があり、賃料が安くて済む公的借家があり、また、国によっては全世帯の2割近くに及ぶ住宅手当があります。そのため、所得は低くても自立でき、結婚でき、家族も持てる。でも、日本の公的住宅は単身者を制限するし、住宅手当もありません」。

日本の場合、単身者の家計に占める住宅費負担の割合は1969年の数%から2009年には2~3割にも及ぶようになっており、同様に住宅ローンの負担割合も増えている。住宅価格、賃料自体は下がってはいるものの、それ以上に収入が減っているのである。こうした問題を解決するためには住まいの多様化、若者の自立を支援する施策、居住のリテラシー向上が望まれるというのが川田氏の結論である。

小屋を建てることで人間関係も建つ?

左側が唐品氏、右は竹内氏。楽しんで小屋を建てている雰囲気がよく分かった左側が唐品氏、右は竹内氏。楽しんで小屋を建てている雰囲気がよく分かった

続くパネラーは別荘・リゾートマンション専門のポータルサイト「別荘リゾートnet」を運営する唐品知浩氏。ミニマルライフ、多拠点居住、スモールハウスなどからこれからの豊かさを考え、実践するメディア未来住まい方会議を運営するYADOKARIで小屋部を主催、おおよそ1カ月に1棟の小屋を建てているという。

「海外の可愛い小屋の事例を見て、あったら欲しいと思って検索してみたけれど日本では売られていない。工務店に聞いてみたら3.3m2単価で90万円と言われた。そんなに高いんだったら自分たちで作ってみようと2014年4月に呼びかけて作ったのが小屋部です。設計、現場監督をしてもらう大工さんはプロにお願いし、それ以外は素人である部員がプロに教えてもらいながら、体を動かして作る。面白いのは外でわいわい小屋を作っていると、回りから人が集まってきて会話が始まるというところ。中には手伝ってくれる人もいて、初めての土地でもいつの間にか、知り合いができている。こういう住まいの作り方を『コミュニティビルド』と言っています」。

コミュニティで家を建てる、家を建てることがコミュニティを作る、どちらとも取れるが、いずれにしても家を作ることが孤独な作業ではないというのがポイントだろうと思う。かつて日本には一家族ではできない、茅葺屋根の葺き替えのような作業を集落の住民が総出で手伝いあう、相互扶助的な結(ゆい)という仕組みがあったが、コミュニティビルドは現代風な結とでも言えば良いのだろうか。戦後になって家は買うものになり、それに伴って地域の相互扶助的な関係は徐々に薄れてきたが、それが一部ではあれ、作るものに戻るとしたら、人間関係も少し変わるのかもしれない。

自分にとって大事なものは何かをタイニーハウスから考えてみる

シンポジウムの後は希望者だけで意見を交換する場も。高知に移住してきた人の参加も多かったシンポジウムの後は希望者だけで意見を交換する場も。高知に移住してきた人の参加も多かった

心不全で倒れたものの、多額の住宅ローンを払うためにはのんびり休んでもいられない。でも、それはおかしくないか? そんな疑問を抱いて自分で建てた小さな小屋に引っ越したアメリカ人女性のフィルムが印象的だったのが、元々はツリーハウスビルダーであり、現在はタイニーハウスビルダーとしても活躍する竹内友一氏の話である。

アメリカでは2000年代半ば以降のサブプライム危機、リーマンショック、ハリケーンカタリーナなどの経済的、社会的危機を経てそれまでの大量消費に矛盾、不安を感じ、身の丈にあった暮らしを求め、小屋やトレーラーハウスなど小さな住まいを求める動きが強まったという。それをタイニーハウスムーブメントというそうで、竹内氏はアメリカ各地でそうした家に住む人たちを取材、自らも2014年に日本で初めてのタイニーハウスワークショップを主宰している。

「隔週の土日に一泊二日を繰り返し、ほぼ素人の12人で3カ月かけて小屋を作りました。土曜日は座学、日曜日に大工仕事をして足りない部分は一部プロに手伝ってもらいましたが、小屋程度なら素人でも作れる。アメリカでも多くは素人が作り、そこに住む。シンプルで無駄なく、楽しく、合理的な暮らしです」。

借りる、買うだけの選択肢で考えると、家はお金がかかるものである。家を手に入れるために他のものを我慢する必要も出てくる。だが、そこに小さくてもいい、自分で作るという選択肢が加わると、人生も変わってくる。「タイニーハウスが全員の選択肢になるとは思いませんが、それが選択肢になる人もいるはず。自分にとって大事なものはなんなのか、タイニーハウスはそれを探すための哲学だろうと思います」。

専有面積5分の1への住まいのダウンサイジング。その結果は?

左が鈴木氏。コンパクトなトレーラーハウスでの暮らしに興味を惹かれた左が鈴木氏。コンパクトなトレーラーハウスでの暮らしに興味を惹かれた

4番目の登壇者は政治、エネルギー、環境などといった問題を自分事として捉え、解決を考えていこうとするNPO法人グリーンズ代表の鈴木菜央氏。興味深かったのは150m2のログハウスから35m2のトレーラーハウスへの住み替え。社会を良くしようとソーシャルデザインの仕事をしているのに、忙しすぎて子どもに「パパ、また来てね」と言われてしまった矛盾から、生き方を変えようとタイニーハウスに関心を持ち、引っ越しを決意したのだとか。専有面積にして5分の1へのダウンサイジングである。家具、本は半分に、洋服は3分の1に、テレビや電子レンジは捨ててといろいろなモノを捨て、それでも4カ月間はかに歩きをしなければならないほどだったという。でも、それをやっても暮らしていけるのである。どれだけ今の暮らしには無駄なものがあるか。聞きながら思わず、自分の家の中を思い浮かべ、考えてしまった。

さらに鈴木氏は仕事の仕方も変えた。生活を仕事にしたというのである。「自分でやってみたことを他人にも教えるというやり方です。たとえば、我が家を夏涼しく、冬暖かくするために断熱材を床下に入れたり、網戸を作るとしたら、それをエコハウスDIYセミナーにしてしまう。そうすれば自分が学んだことが他人の学びにもなる。生活と仕事をバラバラにやるのではなく、重ねてやれば時間を大切にできます」。

もうひとつ、面白かったのは田んぼや畑での農作業や薪割りなどといった必要だけれど、一人でやると辛い作業をみんなでやる作業に変えるという発想。みんなでわいわいやれば楽しいし、時間も節約できる。さらに、それがお金を生むこともある。

「住んでいる千葉県いすみ市には薪ネットというものがあるのですが、これは薪ストーブを使う人たちがみんなで薪を伐採に行っていたら、そのうち、お金を払うから刈ってくれという話が来た。たくさん伐採して保存していたら売ってくれという話が来た。それでできたというもの。田舎ならこういうコミュニティは作りやすいと思います」。いずれ、この方法で必要な量の米は賄えるようになりそうとのこと。わいわいみんなで作業した結果、お金のかからない生活ができるなら、田舎の生活は楽しそうである。

高知移住で年商3倍。移住しても仕事はあるとイケダハヤト氏

高知に移住して一年、山北町にはつい最近引っ越したばかりというイケダ氏高知に移住して一年、山北町にはつい最近引っ越したばかりというイケダ氏

最後の登壇者は東京から高知に引っ越し、「まだ東京で消耗してるの?」というブログで話題のブロガーイケダハヤト氏。つい最近高知市からさらに山の奥にある山北町に引っ越したそうで、話はその家の紹介から始まった。イケダ氏によると、そこは年間40万円、月額にして3万円ほどの7畳のLDK、4.5畳の和室の1LDK、42m2の町営住宅。高知市で住んでいた時の家賃8万6,000円から5万円以上のコストカット実現である。

しかも、高知に移住後、この1年間で年商は3倍に増えたという。「東京にいると、みんな同じようなテーマでしか書けない。でも、ここに住んでいれば他人とは全く違うものが書け、しかも生活にかかるコストは大幅に削減できる。来期は35万人から75万人に増えた読者数を100万人に増やし、年商は2,500万円を目指したい」。強気である。

移住経験から分かったこととして、イケダ氏は田舎にも仕事はあるが、それが見えていない、マッチングできていないなど、いくつかの点を挙げたが、そのうちのひとつでひとつ、面白かったのは「都会は欲望が去勢される場所だ」という言葉。田舎でなら山をひとつ買って自分の好きなパラダイスを作るような夢も決して実現できないものではない。だが、都会でそんな夢が描けるか。イケダ氏は高知でやろうとしていることをいくつも挙げ、夢を語ってくれたが、それができるのはこの地に住んでいるからなのだろう。その意味では将来に夢を持てないという人は住む場所を考え直すこともひとつ、きっかけになるのかもしれない。

もちろん、都会には都会の夢があり、どちらが良いかは人それぞれ。ただ、今回のシンポジウムがテーマとしたように、どこに、どんな場所に住むかはその人の生き方そのものでもある。社会が多様化している今、これからは生き方の反映としての住み方もまた、多様化していくのだろうと思う。

2015年 09月12日 11時00分