ヘルスケアリートとは何か

ヘルスケアリートとは、投資対象をサービス付き高齢者向け住宅、有料老人ホーム、病院などの「ヘルスケア施設」に特化した不動産投資信託のことをいう。ただし、東京証券取引所では「主たる投資対象をヘルスケア施設とするリート」を「ヘルスケアリート」として定義している。総資産に占めるヘルスケア施設の割合が50%を超えるリートが「ヘルスケアリート」であり、一部にヘルスケア施設を含むだけではヘルスケアリートに該当しない。

2014年3月末時点の上場Jリートの中では5投資法人がヘルスケア施設を含んでいたものの、最も割合が大きな投資法人でも13%程度にとどまり、「ヘルスケアリート」と呼べる内容ではなかった。この時点で上場Jリート全体に占めるヘルスケア施設の割合は0.2%に過ぎない。また、国土交通省がまとめた2014年度の不動産証券化の市場規模でも、ヘルスケア施設が占める割合は全体の2.3%にとどまっている。

しかし、2012年頃からヘルスケアリートの導入に向けた検討が進められており、2014年11月に日本初のヘルスケアリートが上場したところだ。ようやく動き始めたばかりのヘルスケアリートだが、今後は市場の拡大が見込まれている。そこで、現時点の状況や国土交通省によるガイドラインの整備など、ヘルスケアリートを取り巻く環境について確認しておくことにしよう。

ヘルスケアリートの導入が積極的に推し進められている背景

医療・介護施設の供給促進が課題となるが、公的資金による整備では高齢者の増加に追いつかない。また、国内の景気対策の面でも、個人資産を貯蓄から投資へ転換させるため、多様な投資商品の整備が求められている。そうした背景が、ヘルスケアリートが推し進められる要因にもなっている医療・介護施設の供給促進が課題となるが、公的資金による整備では高齢者の増加に追いつかない。また、国内の景気対策の面でも、個人資産を貯蓄から投資へ転換させるため、多様な投資商品の整備が求められている。そうした背景が、ヘルスケアリートが推し進められる要因にもなっている

これから超高齢化社会を迎える日本では、医療・介護施設の供給促進が重要課題となっているものの、国や自治体の公的資金による整備では高齢者の増加に追いつかない。そこで有望視されているのが個人の資金を活用した施設整備である。日本銀行が6月29日に発表した2015年1〜3月期の「資金循環統計(速報)」によれば、3月末時点の家計の金融資産残高は1,708兆円にのぼっている。1年前よりも5.2%増え、過去最大額となったようだ。

その一方で、アメリカ、カナダ、イギリス、シンガポール、マレーシアなどにおいてヘルスケアリートが上場し、とくに1990年代から制度化されたアメリカの市場規模は2014年12月末時点で9,574万ドル(約11.7兆円)に達している。この仕組みを国内の不動産投資信託(Jリート)に取り入れることで、個人や民間企業の資金を有効活用してヘルスケア施設の整備推進を図ることが期待されるのである。

また、国内の景気対策のうえでも個人の資産を貯蓄から投資へ転換させることが課題となっており、それを実現するためには多様な投資商品を整備することが欠かせない。その一つとして推し進められているのがヘルスケアリートなのだ。2013年6月14日に閣議決定された「日本再興戦略」や、2013年12月5日に閣議決定された「好循環実現のための経済対策」でも、ヘルスケアリートの上場推進等を通じたヘルスケア施設向けの資金供給の推進が掲げられている。さらに2014年1月24日に閣議決定された「産業競争力の強化に関する実行計画」でも、ヘルスケアリートの活用に係る環境整備が取り上げられた。

そのような中で、日本初のヘルスケア施設特化型リートとして「日本ヘルスケア投資法人」が2014年11月5日に上場した。これは14の有料老人ホームを投資対象としたものだ。さらに、国内2本目のヘルスケアリートは2015年3月19日に上場した「ヘルスケア&メディカル投資法人」であり、2015年7月29日には3本目として「ジャパン・シニアリビング投資法人」が上場予定となっている。

国土交通省はヘルスケアリートのガイドラインをまとめた

国土交通省では、2012年10月から2015年6月にかけて複数の検討委員会を開き、その結果として2014年6月27日に公表したのが「高齢者向け住宅等を対象とするヘルスケアリートの活用に係るガイドライン」(2014年7月1日より適用開始)であり、2015年6月26日に公表したのが「病院不動産を対象とするリートに係るガイドライン」(2015年7月1日より適用開始)である。

これらのガイドラインでは、宅地建物取引業法に基づく取引一任代理等の認可申請に際して整備すべき組織体制や、資産運用会社(宅地建物取引業者)が取引に際して留意すべき事項などを示している。また、ヘルスケア施設では「一定の経験を有する重要な使用人など、ヘルスケア施設の事業特性を十分に理解している者を配置または関与させること」、病院施設では「一定の経験などにより病院の事業特殊性などを十分に理解し、病院関係者と調整を行うことができる専門的な能力を有する者が関与すること」などを資産運用会社に求めた。

さらに、ヘルスケアリートを適切に運用するための信頼関係の構築や法令遵守などといった留意事項もガイドラインに定められているが、とくに病院リートにおいては医療法との関係も複雑だろう。医療法では、医療機関の施設は自己所有が望ましく、第三者から借りる場合は契約内容などが適正であること、あるいは第三者から資金の提供がある場合は医療機関の開設・経営に関与するおそれがないこと(医療法関連通知)なども求められている。

資産運用会社にとって馴染みの薄い医療法などの規定や関連通知に抵触しないことが必要であるため、国土交通省には資産運用会社や病院関係者からの照会や相談のための窓口が設置された。ただし、照会や相談を受けた国土交通省は厚生労働省に問い合わせをし、厚生労働省は所管の都道府県に判断を求め、その回答は再び厚生労働省から国土交通省を経由して資産運用会社や病院関係者にもたらされるといった「遠回りルート」があらかじめ定められている。縦割り行政の枠組みから抜け出せない印象だ。

ちなみに、2013年12月には一般社団法人不動産証券化協会が「ヘルスケア施設供給促進のためのREITの活用に関する実務者検討委員会」の中間取りまとめを公表しているほか、一般社団法人投資信託協会も「ヘルスケア施設供給促進のためのREITの活用に関するガイドライン」を定めており、資産運用会社にはこれらに沿った運用も求められる。

ヘルスケアリートの仕組みとメリット

国土交通省のガイドラインに定められたヘルスケアリートの対象物件は、高齢者の居住の安定確保に関する法律第5条に規定する「サービス付き高齢者向け住宅」、老人福祉法第29条に規定する「有料老人ホーム」および同法第5条の2に基づく「認知症高齢者グループホーム」、医療法第1条の5第1項に規定する病院の用に供されている「病院不動産」(一部が病院の用に供されている場合を含む)だが、それ以外に医療モール(メディカルモール)などが投資対象となることもあるだろう。

ヘルスケア施設の場合に、資産運用会社(投資法人)はその運営者との間で賃貸借契約を結ぶことになるが、ヘルスケアリートにおける運営者は「オペレータ」と呼ばれる。オペレータはリートの運用対象不動産においてヘルスケアサービス事業を行い、入居者からの入居一時金、月額利用料のほか、市町村からの介護報酬が収入となるのだ。

一般の住宅を対象にしたリートであれば、その立地や建物の状態に応じて賃料水準の相場は自ずと決まってくるだろう。しかし、ヘルスケア施設の利用料などはオペレータの技量やサービス水準によって大きく左右される。不動産そのものの価値だけでなく、ヘルスケア施設でどのようなサービスを提供するのかが価値に影響するため、「オペレーショナルアセット」とも呼ばれる。

しかし、上場したヘルスケアリートであれば国や証券取引所などの監督下に置かれるため、オペレータの情報開示による透明性の確保や、サービスレベルを一定水準以上に保つことなども期待される。また、これまでヘルスケア施設を運営していた事業会社が保有施設をリートに売却することで、自らはオペレータとして施設運営業務に特化したり、資金を得て事業を強化したりすることができるメリットも生じる。さらに、ヘルスケアリートから運営を任されることにより、オペレータの信用力向上の効果も見込まれるだろう。

病院リートの場合にはオペレータが病院運営者、入居者が病院利用者となるが、ヘルスケア施設と同様に、保有する病院をリートに売却すれば不動産管理の煩わしさから離れて病院運営に集中することができるほか、売却資金による経営の合理化、新たな医療機器の導入なども可能になるだろう。情報開示によって病院運営の透明性が高まるとともに、医療サービスレベルが向上するなど、病院利用者にとってのメリットも考えられる。

病院リートは、情報開示によって病院運営の透明性が高まるとともに、医療サービスレベルが向上するなど、病院利用者にとってのメリットも考えられる病院リートは、情報開示によって病院運営の透明性が高まるとともに、医療サービスレベルが向上するなど、病院利用者にとってのメリットも考えられる

ヘルスケアリートのデメリットとは

ヘルスケア施設や病院施設の需要は経済環境に左右されにくく、住宅やオフィス、商業施設などを対象とする一般のリートに比べて安定的な投資対象になると考えられている。だが、国内ではまだ始まったばかりであり事例の蓄積が少ないため、リート化された施設の現場でどのような事態が起きるか分からないなど、いくつかの懸念材料もあるようだ。

高齢者にとって生活の拠り所となる施設が投資物件として扱われることで、利用者が置き去りにされる不安も生じるだろう。資産運用会社の間で施設が売買され、継続利用ができなくなったりサービス内容が変わったり、あるいは施設利用料が急に引き上げられることも考えられる。

また、オペレータ(運営者)にとっては投資効率が優先され、設備投資や人員配置が自由にできなくなったり、過度な情報提供を求められたりすることも懸念されるだろう。資産運用会社側から急に賃料の引き上げや契約解除を求められることがないかも不安になる。

その一方で、投資家にとっても事例が少ない現時点では投資リスクの評価が難しいこと、将来的に介護保険などの制度が改正されて期待通りの収益が確保できなくなる可能性など、いくつかの懸念もあるだろう。特殊な用途であるため、一般のリートに比べて流動性が低いことも投資をする側から見ればマイナスだ。

ヘルスケアリートの市場規模が年々拡大していくことは間違いないと考えられるが、リートに組み込まれる施設の数は国内需要の全体から見ればわずかだろう。だが、自分たちの将来の生活や社会にも密接に関わる制度だけに、しっかりと見守っていきたい。

2015年 08月03日 10時57分