マンションにおけるコミュニティ活動の重要性は年々増しているが……

同じ建物に多くの人、世帯が暮らすマンションにとって、管理は欠かすことのできない重要な要素だ。その管理を担うのは区分所有者による「管理組合」であり、活動を円滑に進めるためには区分所有者の積極的な参加意識や、お互いの良好なコミュニケーションが大切である。その基盤づくりのために、マンション内で「コミュニティ活動」を積極的に推進している例も多い。

さらに防災、防犯や、大災害時における避難、復旧活動など、マンション内だけにとどまらず、地域の自治会や町内会などとの連携も必要とされている。総務省は2015年5月12日、「国土交通省と協議済み」としたうえで、「都市部をはじめとしたコミュニティの発展に向けて取り組むべき事項について」と題した通知を各都道府県宛に発した。これは自主的な活動を行うマンションの管理組合を自治会や町内会と同様に位置付け、自治体が支援することを要請したものだ。

ところが、国土交通省が設置した「マンションの新たな管理ルールに関する検討会」がまとめた「報告書」(2015年3月に案を策定、5月に決定)では、マンション標準管理規約から「コミュニティ条項」を削除する方針を明らかにした。「コミュニティ条項」とは、標準管理規約において管理費の使途および管理組合が行う業務に「地域コミュニティにも配慮した居住者間のコミュニティ形成(に要する費用)」を定めた箇所を指す。

コミュニティ条項は2004年の標準管理規約改正により追加されたものであり、現在は多くのマンションでそれに準拠した管理規約が運用されている。大半のマンションがそれに基づいてコミュニティ活動に取り組んでいるのであり、一部の投資用マンションなどを除けば、現代のマンションに必須の項目だといえるだろう。いったいなぜコミュニティ条項を削除し、真摯に取り組んできた管理組合から梯子を外そうとするのだろうか。

マンションの標準管理規約から、このコミュニティ条項を削除する方針とされているが……マンションの標準管理規約から、このコミュニティ条項を削除する方針とされているが……

コミュニティ条項の削除は法的リスクの排除が目的

「マンションの新たな管理ルールに関する検討会報告書」では、コミュニティ活動(業務)の定義や解釈の曖昧さから、各マンションでさまざまな運用が行われており、とくに管理費から支出(費用負担)する場合において、区分所有者間で意見の相違や争い(訴訟も含む)が起きた事例があり、訴訟等の法的リスクを回避する観点(法律論)からコミュニティ条項を削除するとしている。

そのうえで、マンションの合意形成の環境づくりといった理由で管理費を支出できるという規約を総会で決議すれば、それが違法であると判断されるおそれがあること、さらに管理と関連性の薄い業務・活動に対して支出をすれば、役員に個人責任や損害賠償責任が生じるおそれがあることの注意喚起を記載することとされた。

その一方で、「政策論からは、マンションのコミュニティ活動は積極的に展開することが望ましい」とも記載されている。法律論からは否定したうえで責任問題の可能性を示唆し、政策論からは肯定するといわれても、マンションの現場で管理組合活動・コミュニティ活動に取り組む者は混乱するばかりだろう。

財産管理団体として位置付けられ、区分所有者が強制加入する「管理組合」と、コミュニティ活動の主体として任意の加入者で構成される「自治会・町内会」の性格が異なること、および自治会費などを管理組合が強制徴収する事例があることなどが問題提起されたようだが、その点は理解したうえで適切に運営されているマンションは多い。

それに対して、大半が第三者に賃貸されているマンションや、空室が多いマンションなど、そこに居住しない区分所有者の比率が高い場合には、自治会費などの徴収が大きなトラブルの要因となることは十分に考えられる。しかし、マンションの特性に合わせてコミュニティ条項適用の可否を示したり、問題が起きないためにどうすれば良いのかを明らかにして改善したりするのではなく、「問題が起きる可能性があるなら一律、規約から排除してしまえ」というのは、やや強引な落としどころだと感じざるを得ないのではないだろうか。

管理組合活動とコミュニティ活動(自治会など)をきちんと切り分けて運営せよ、との理屈は分かるとしても、現実には共通する部分も存在する。そもそも管理組合活動を円滑に進めるためにコミュニティ活動が果たす役割も大きいのだ。

管理組合活動を円滑に進めるためにも、コミュニティ活動が重要な役割を担う管理組合活動を円滑に進めるためにも、コミュニティ活動が重要な役割を担う

管理組合の有志がコミュニティ条項削除に反対する意見書を提出

国土交通省の方針に対して、東京、神奈川、千葉、茨城、大阪に所在する13マンションの管理組合(総戸数合計9,309戸)が連名で「マンション管理組合のコミュニティ業務に関する意見書」をまとめ、5月28日に提出した。提出先は国土交通大臣、検討会の座長および各委員などとなっている。

意見書では、コミュニティ条項を削除しないこと、および管理組合が行うことのできる業務(機能)にコミュニティ形成(活動)が含まれることの明記などを求めている。そのうえで、区分所有法に違反しない自治会費の徴収・支払い方法の積極的な具体例、コミュニティ活動のあり方などの設例や最も良い手法などの明記も求めた。

また、「紛争防止という政策観点を重視するのであれば、現行のコミュニティ条項を削除するのではなく、その内容をより明確にし、各管理組合が混乱しないようなガイドラインを提示すること」が重要であるとする意見も述べられている。

さらに意見書の中では、検討会の論拠とされた最高裁判決が「分譲マンションではなく、公営賃貸住宅における自治会費請求権を否定」したものであることが指摘されるとともに、管理組合の業務(機能)にコミュニティ形成(活動)が含まれることや、管理組合が自治会費の徴収に一定の条件下で関与できることを積極的に肯定した東京高裁判決が検討対象とされていないことにも疑問が提示された。

マンション管理組合の当事者はどのように考えているのだろうか

マンションでは「ヒト、モノ、カネ」の3面がバランスよく管理されていることが必要。コミュニティ活動はこのヒトの分野の重要な要素となるマンションでは「ヒト、モノ、カネ」の3面がバランスよく管理されていることが必要。コミュニティ活動はこのヒトの分野の重要な要素となる

コミュニティ条項削除の方針に対して、実際に管理組合の運営にあたる現場の声はどうなのだろうか。今回の意見書をまとめたマンション管理組合の一つである「パークシティ武蔵小杉ミッドスカイタワー」管理組合理事会参与(前理事長)の志村さんにお話を伺うことができた。

まず、意見書提出の経緯については「活動が活発な管理組合関係者の集まるサークルや地域の管理組合仲間で問題意識の共有があり、判例研究をしながら意見書をまとめました。同じような問題意識を持つ関係者に目覚めて欲しいという思いもありました」ということである。

また、志村さんは「初期設定」と表現されていたが、マンションの分譲会社や管理会社が最初に作る管理規約においてコミュニティ条項が存在することの意味は大きいとのことだ。「マンションでは法律や地域活動の専門家などではない住民が集まっているため、行政からの指導や分譲業者のリードなどがなければ、自律的にコミュニティ活動の重要性に目覚めることは少ないと思います。マンション管理組合の法的な目的は財産管理ですが、それを効率的に行うためには実行者の人間関係が安定していないとうまくいきません。マンション管理は『ヒト、モノ、カネ』の3面がバランスよく管理されている必要があり、どれか一つが欠けてもうまくいきませんが、コミュニティ活動はこのヒトの分野の重要な要素なのです」と指摘いただいた。

さらに、マンションの規模による問題もあるという。「防災や防犯面でコミュニティ活動が重要なことは言うまでもありませんが、理事会や総会などの組織運営についても、日常的に居住者同士の意思疎通や人間関係が良好であることが必要条件です。普段から居住者同士のつながりが深いと理事会やさまざまな委員会活動への参加も活発になるし、総会投票率の向上にもつながるでしょう。とくに住民が2,000人を超えるようなメガマンションでは、コミュニティ活動が低調だと深刻な問題につながりかねません」

コミュニティ条項が削除されるとどのような事態が懸念されるのか

コミュニティ条項が削除された場合の影響についても聞いてみた。「一部の例外を除き、大半の新築マンションの理事会では何をやったらいいのか分からないまま数年が過ぎます。そのため、どんなマンションでも『初期設定』が極めて重要なのですが、コミュニティ条項が削除されると多くの分譲業者がコミュニティを売り物にしなくなったり、必要な共用施設やコミュニティクラブなどの初期設置について消極的になったりすることが懸念されます」とのことだ。

また、管理組合活動とコミュニティ形成(自治会活動、サークル活動等)を分離して運営することについて「初めから複数組織を前提として入居者が了解のうえで購入していれば可能」としつつも「コミュニティ活動を管理組合で一元化したほうが意思決定や組織運営は簡単ですし、資金の使い方や活動についても、全区分所有者が関与する総会を経て決定されるので、透明性は高くなるでしょう。地域の自治会や町内会は希望者しか参加しないとしても、マンション内のコミュニティでは会費を払っていないからといって当事者を排除することもできません。マンション特有の問題も考えることが必要です」とお話いただいた。

最後に今後のマンション管理のあり方などについて志村さんの意見を伺った。「都市部では巨大なマンションが増え、1棟で500戸(人口2,000人)超、複数棟で2,000戸(人口5,000人)超といったケースも少なくありません。もはや住宅というよりも『まち』に近く、マンション管理はひとつの『自治体』ともいえるでしょう。財産管理を基本とする発想は時代遅れで、マンション管理をめぐるさまざまな問題を解決するためには、区分所有法とは別に『マンション管理法』といった行政法も必要ではないでしょうか」と提案された。

もちろん、マンションの規模や条件によってさまざまな考え方があるはずだ。標準管理規約にコミュニティ条項がなくてもコミュニティ形成は問題なくできる、あるいは「うちのマンションにコミュニティは不要だ」とする意見もあるだろう。だが、これを機会にマンション管理とコミュニティ形成のあり方についてしっかりと考えてみたいものである。

今回提出された意見書:
http://www.midskytower.com/

大型マンションは、それ自体が一つの「まち」の要素を兼ね備える大型マンションは、それ自体が一つの「まち」の要素を兼ね備える

2015年 06月17日 11時22分