物件情報の囲い込みがなぜ起きるのか

このところ物件の「囲い込み」がさまざまな媒体で話題にされるようになっている。これは売主から売却を任された不動産会社が、物件情報を適切に開示しなかったり、他社からの物件紹介依頼に応じなかったりすることを指すが、囲い込み行為自体はかなり古くから行われ続けているものだろう。

しかし、不動産業界内では周知の事実となっていても、その明確な証拠がないためにこれまで見過ごされてきた面も否めない。囲い込み防止への対策が動き出したのはつい最近のことだ。2013年10月に東日本不動産流通機構(東日本レインズ)が「登録物件の正当な事由のない紹介拒否行為の禁止」(囲い込みの禁止)を明文化し、中部圏不動産流通機構(中部レインズ)、近畿圏不動産流通機構(近畿レインズ)、西日本不動産流通機構(西日本レインズ)における規程の改定も2014年5月までに出揃った。だが、証拠がなければ取り締まりも容易ではない。

そして、2015年4月に一部のビジネス誌が「囲い込み問題」を報道し、これまでなかなかメディアが取り上げてこなかった部分にまで切り込んだ。これによって囲い込み問題に関心を持った人も多いだろうが、そもそも物件の囲い込みがどのように行われているのだろうか。いくつかの事例を紹介するが、私自身は囲い込みをした経験がないため、あくまでも経験者から聞いた話であり、いずれも「証拠」はないことを付け加えておく。

囲い込みの第一歩は売却物件の存在を消すこと

売却物件の情報は広く共有されることが基本だが……売却物件の情報は広く共有されることが基本だが……

売主から売却の依頼を受けて媒介契約を結んだ不動産会社は、その物件情報を「レインズ」と呼ばれる情報交換システムに登録する。この情報をもとに、他の不動産会社が購入希望者へ物件を紹介するのが基本的な仲介の流れだ。売買契約が成立すれば、売主側の不動産会社(元付業者)が売主から報酬を得る一方で、買主側の不動産会社(客付業者)は買主から報酬を得る。いわゆる「片手取引」である。

しかし、売主側の不動産会社が自ら買主を見つけて契約を結べば、1つの仕事で売主と買主の双方から報酬を得られることになる。これが「両手取引」といわれるもので、単純に考えて収入が2倍になるのだ。この効率のよい結果を得るためには、他の不動産会社に売却物件の存在を知られなければよいだろう。

そのため、まず考えられるのはレインズへの登録義務がない「一般媒介契約」で売却の依頼を受けることだ。ところが、この場合に売主は他の不動産会社へ重ねて依頼することができるため、それをさせないための念書などが必要となる。売主からも不信感を抱かれやすいため、うまくいかないことも多い。

そこで「専任媒介契約」または「専属専任媒介契約」で売却の依頼を受けて、いったんはレインズへ登録をする。そして「登録証明書」の交付を受け、売主には登録済みの報告をするのだが、その時点ではすでに登録を抹消しているのだ。当然ながら売主はそのまま登録されているものと信じているが、物件の情報が他の不動産会社の目に触れることはないのである。

このような行為を防ぐため、国土交通省では売主が自らの物件のレインズへの登録状況などを確認することができるように、新しいシステム(ステータス管理)を2015年度中に導入する計画であることが報道されている。これが実現すれば登録削除による情報隠しは防げるようになるだろうが、これは物件囲い込みのほんの一部でしかない。

最も多い囲い込み手段は「売り止め」や「契約予定」

物件の囲い込みをするときに最も多く使われる手段は、他の不動産会社からの問合わせ(物件確認)に対して、「売り止め」(商談中、契約交渉中)や「契約予定」を理由に紹介や現地案内を断るものだろう。もちろん、それが真実であれば何ら問題はない。ところが、自社が抱える見込み客との間で話を進めるための時間稼ぎの口実でしかない場合も多いのだ。

かつて、某不動産会社の某支店に対して物件確認をしたとき、レインズに登録された10物件ほどがすべて「契約予定」で紹介してもらえなかったことがある。少し気になったのでそれをメモしておき、1か月ほど後に再度確認してみたところ、実際に契約となったのはそのうち1物件だったように記憶している。いずれにしても、不動産会社の勝手な理屈による物件の囲い込みが、売主および買主双方の利益を損ない、物件の流通を阻害していることに間違いはないだろう。

「物件の囲い込みはほとんどの不動産会社がやっている」という指摘がされることもあるが、購入見込み客を多く抱えた不動産会社や集客力の強い不動産会社でなければ、自らの利益機会すら失うことになりかねない。とくに、不動産売買の仲介を主業務とする中小・零細不動産会社は、囲い込みなどしていては商売にならないだろう。また、小さな不動産会社は意外と横の繋がりが強く、面識のない同業者との間でも仲間意識がある。囲い込みなどして仲間内での信頼を失うことは避けたいのだ。それに対して、囲い込みが噂されるような規模の不動産会社は市場全体におけるシェアも大きい。そのため、業界全体が囲い込みをしているような印象を与える面があるのかもしれない。

しかし、小さな不動産会社は囲い込みをしないかといえば決してそうではない。数年前に自宅の売却がうまくいかない売主から相談を受けて調べてみたところ、社員が5名ほどの不動産会社にも関わらず、専属専任媒介物件の情報がレインズから削除されていた。その代わりに自社のWEBページや複数の物件検索サイトには物件情報が掲載されていたのである。そこで代表者の経歴を調べてみたところ、物件囲い込みの噂が絶えない大手仲介会社の出身のようであった。かつての所属会社で教え込まれた手法から抜け出すことは難しいのだろうか。こうして中小不動産会社に悪弊が広がることもあるようだ。

囲い込みを超えた悪質な行為もある!

物件の囲い込みがあっても、最終的に売主が希望した金額で売却できれば実質的に損害はないだろう。しかし、ある不動産会社の元社員から内部告発的に次のような話を聞いたことがある。

自宅の買い替えを希望する売主に対し、まず自宅の購入希望者を見つけて契約予定をつくり売主を安心させる。そのうえで、先に買い替え先の購入契約を結ぶのだ。もちろん、ここは両手になる物件で話をまとめる。ところが、自宅の購入希望者はサクラであり、契約予定の直前にキャンセルしても何らペナルティは発生しない。引き続き、別の顧客を案内したり再び虚偽の契約予定を組んだりして時間稼ぎをする。そうこうするうちに買い替え先の決済(残代金の支払い)が迫り、次第に焦りが募った売主に、ギリギリのところまで売値を下げさせるのだ。

そして、相場よりもだいぶ下げた価格で自社が抱える投資客または買取再販会社に売却するのだが、ここもやはり両手にするのである。ここまでくると、もはや犯罪行為といわざるを得ないだろうが、買取再販会社に売却したときは再販時の売却も請け負って、これも両手で契約をまとめることになる。もともとは1件の売り依頼だったのが、両手どころか4倍、6倍の収入に膨れ上がるのである。

「より多くの手数料を稼ぐために、不動産会社は少しでも高く売ろうとする」などと解説したものを読んだこともあるが、より確実に両手を稼ぐため「少しでも安く売ろうとする」不動産会社が存在することはしっかりと理解しておきたい。

「両手禁止」では解決しない問題もある

悪質な物件の囲い込みを防止するために「両手禁止」が議論されることもある。それによって一定の効果はあるだろうが、単に「両手禁止」とした場合には新たな問題が生じることも想定されるのだ。仮に「両手禁止」となったとき、売却物件を多く抱える不動産会社が「買主の手数料無料」として強力に集客をすることは容易に想像できるだろう。購入見込み客の情報を数多く集めれば、手数料が必要となる物件に誘導したり、リフォームなど他の収益機会を作り出したりすることも可能である。

その一方で、契約トラブルに巻き込まれたときに不利な立場へ追い込まれやすいのは、1社(両手)で仲介をしたときの買主である。これまでに私が相談を受けたことのある契約トラブルの例では、およそ8割から9割がそのような立場の買主なのだ。契約をめぐるトラブル自体は2社で仲介をしたときでも起きるだろうが、そのときは売主側の仲介会社と買主側の仲介会社が話し合ってうまく解決することも多い。

ところが1社で仲介をしたとき、間に入った不動産会社が完全に中立を保つことはできず、付き合いの長い売主寄りになりがちだ。また、売主をきちんと押さえておけば次の収入機会が得られるほか、売主を逃せば商売の材料を失うことにもなりかねない。そのため、いざというときに買主側には味方が存在しないことになってしまうのだ。

もし法律などで何らかの規制をするのであれば、その対象は結果としての「両手仲介」でなく、原因行為としての「1社仲介」にするべきだろう。だが、売却の依頼を受けた仲介会社の営業努力なしには売れない物件も存在する。さらに、物件の囲い込みなどをせず正々堂々と営業活動を行い、その結果として成立した「1社仲介」や「両手仲介」が責められるべきではない。また、物件価格の安い地方都市や町村部などでは、両手ですら経費がまかなえないケースもある。「両手禁止」や「1社仲介禁止」をすべての契約に当てはめることもできないだろう。

囲い込み問題を解決するためには、不動産仲介のあり方、手数料の算定基準のあり方なども含めて広範囲に議論をすることも必要だ。2015年4月に宅地建物取引主任者が「宅地建物取引士」となり、その資質向上とともに不動産会社としてのモラル向上も求められている。すでに遅すぎる面も否めないだろうが、そろそろ営業利益優先のための囲い込みとは決別するように、不動産会社の意識改革も欠かせない。

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手数料の算定基準のあり方なども含めて広範囲に議論をすることも必要だ。
不動産会社のモラル向上、意識改革が求められている

2015年 06月15日 11時06分