販売終了から解体までの期間、モデルルームをイベントの場に

解体される前の「大崎レジデンシャルサロン」。地上2階建ての館内には70m2台、80m2台、110m2台の3タイプのモデルルームのほか、大型スクリーンのあるシアタールーム、キッズルームといった施設が備わっていた解体される前の「大崎レジデンシャルサロン」。地上2階建ての館内には70m2台、80m2台、110m2台の3タイプのモデルルームのほか、大型スクリーンのあるシアタールーム、キッズルームといった施設が備わっていた

モデルルームは、新築分譲マンションの購入を検討するユーザーにとって、まず訪れなければならない必須スポットだ。一方、マンションを手がける不動産会社にとってはユーザーに直接アピールできる販売センターである。したがって、販売契約が完了するとモデルルームは役割を終えるので、解体されることになる。販売終了後にすぐに壊してしまうのはもったいないなと個人的には思ったりするのだが、解体されるまでの間、一般向けのイベントスペースとして活かしていこうと取り組む事例が出てきている。

今回、レポートする事例の舞台は、東京都品川区大崎にあるモデルルーム「大崎レジデンシャルサロン」。2013年11月に販売が開始された高層タワーマンション「パークシティ大崎 ザ タワー」の販売用サロンとして開設され、大規模再開発計画が進行中の山手線大崎駅周辺エリアに位置していた。「位置していた」と過去形で書いたのは、2015年3月16日より解体工事に入っているからである。筆者は解体目前の3月初旬、現地で取材させていただくことができた。

モデルルームの解体期日を延長し、新しい試みに着手

三井不動産レジデンシャル株式会社市場開発部ブランドマネジメントグループの山本洋介さん。企業ブランディングや広報PR業務を担当している三井不動産レジデンシャル株式会社市場開発部ブランドマネジメントグループの山本洋介さん。企業ブランディングや広報PR業務を担当している

このモデルルームではマンションの販売終了後、2015年1月から3月初旬までさまざまなイベントが実施された。具体的にどんなイベントだったのかは後述するとして、モデルルームの活用が企画された経緯について、立案にかかわった三井不動産レジデンシャル株式会社市場開発部ブランドマネジメントグループの山本洋介さんに聞いてみた。

「一般的に、分譲マンションのモデルルームは建てては壊す、という繰り返しです。でも社会全体をみると、土地や施設の再活用に注目が集まっています。そう考えると、販売が終わったモデルルームも既存空間として活用する道があるのでは、と。昨年秋にこの大崎のマンションが完売となり、レジデンシャルサロンの建物はすぐに取り壊される予定だったんですが、館内には3タイプのモデルルームのほか、シアタールームなどの施設もあって、広くてゆったりしています。これらのスペースを使って何かをやってみたいと提案したところ、社内や他の共同事業会社の皆さまの理解を得ることができて、今年3月まで建物を残してもらえることになりました」と、山本さん。

山本さんが所属する部署は企業ブランディングや広報業務を担当するセクションで、雑誌やWebサイトなどメディア関係者とつながりがあったことも背景にあった。
「実はマンションの販売期間中、雑誌やWebサイトなどメディアの方々からのご要望に応じ、撮影会場としてスペースを提供しておりました。大崎の物件に限らず、大型物件のモデルルームを撮影用に使っていただくといった対応は、試みとしてさせていただいていることなんです。そのようななかで、メディアの方々からイベント会場にも使いたいというご希望もいただいていて、モデルルームはいろいろな使い方ができそうだなという感触はあったんです。当社のモデルルームがマンションの販売センターという枠を超えて、多くの方とつながれる場になるのは嬉しいことですし、当社のPRにもプラスになると思いました」(山本さん)

メディアや異業種企業と組んでコラボイベントを開催

110m2台のモデルルームは、リビングの窓に夜景のパノラマ写真が張り込まれ、都心の高層マンションならではの住まいをイメージできる作り。このような空間がアイデアソンやハッカソンイベントの舞台となった110m2台のモデルルームは、リビングの窓に夜景のパノラマ写真が張り込まれ、都心の高層マンションならではの住まいをイメージできる作り。このような空間がアイデアソンやハッカソンイベントの舞台となった

解体前のモデルルームを活用する。この構想を、どのようにして具現化していったのだろう? 「私たちのPR活動で培った人脈を活用し、メディアや異業種企業の方々に声をかけさせていただいたんです。“大崎の販売センターをお貸ししますので、ぜひ使ってください”と。そして、ご賛同いただいたところと当社とでコラボレーションの形でイベントを企画し、実施しました」と、山本さん。

では、モデルルームを使ってどんなコラボレーションイベントが行なわれたのだろう? 以下に挙げてみると、解体までの約2ヶ月の間にバラエティに富んだイベントの場となったことがわかる。

●学生対象のアイデアソン(※1)
若者向けソーシャルメディア『オルタナS』と組み、大学生・大学院生を中心に20代を対象にしたアイデアソンを開催(全3回)。テーマは「これからの集合住宅のあり方」。
●パパ会
共働き子育て世帯のための情報サイト『日経DUAL』主催のパパ会を後援。父親同士のコミュニティづくりのきっかけとなることを目的にしたイベントで、元プロスポーツ選手による子育てをテーマにしたトークセッションやDIY壁塗り体験、交流会などが行なわれた。
●アプリ・サービスの開発アイデアを競ったハッカソン(※2)
「未来の家を創造する」をテーマにしたハッカソンで2日間に渡って開催された。ソニー、ニフティとの共催。
●メディアのコンセプトルーム
Webメディアの『ギズモード・ジャパン』『ルーミー』『マイロハス』のコンセプトルームを開設。

(※1)アイデアソン(Ideathon)
アイデア(Idea)とマラソン(Marathon)をかけ合わせた造語。あるテーマについてさまざまなメンバーが集まり、対話を通じて、新たなアイデアやビジネスモデルの構築などを短期集中で行うイベント。
(※2)ハッカソン(Hackathon)
ハック(Hack)とマラソン(Marathon)をかけ合わせた造語。エンジニア、デザイナー、プランナーなどがチームを作り、与えられたテーマに対してアプリケーションなどを開発し、それぞれのアイデアや技術を競い合う。

社員たちもイベントに参加し、いい刺激を受けた

館内には高層マンションや周囲の再開発地区の模型を配したコーナーもあった館内には高層マンションや周囲の再開発地区の模型を配したコーナーもあった

このように住まいや暮らしを切り口に、モデルルームではさまざまなアプローチによるイベントが実施された。アイデアソンやハッカソンイベントでは、モデルルームという実際の住まいをイメージしやすい空間を使えたので、多くの斬新なアイデアが提案されたという。パパ会も、壁にペンキを塗るDIY体験で予想以上の盛り上がりをみせ、その後にエントランススペースで行なわれた交流会は終了時間を延長するほどだったと聞いた。

「私たち三井不動産レジデンシャルの社員もできる限りイベントに参加し、楽しませていただきました。いろいろな方たちとお会いしました。コミュニティデザインを学んでいる学生、街のエコ活動に取り組んでいる方、起業をめざしている方など、ふだん接点のない方々のお話を聞けて、いい刺激を受けることができたのが何よりです。パパ会でも、私自身も父親ですから積極的に交流させていただきました。参加したお父さんたちから“分譲マンションって、建物が建つ前に売れるんですね”とか、“ここに来る前は不動産会社の人に偏見をもっていました”という声もあったのですが、戸惑うというよりも新鮮な驚きがありました。そういう素朴な意見はなかなか聞く機会がないので、私たち住まいづくりの仕事に携わる者にとって貴重な体験になったと思います」(山本さん)

こうしたコラボレーションイベントのほか、三井不動産レジデンシャルのマンション居住者向けのアウトレット市や、同社社員・家族を招待してのファミリーデーの会場としても活かされた。

住まいづくりの仕事を紹介する一般公開イベントも実施

エントランスには社員の仕事を紹介するパネルが展示されていた。パネルで紹介する社員について、それぞれの仕事内容の取材、解説文の編集・展示はすべて山本さんが手がけたという

エントランスには社員の仕事を紹介するパネルが展示されていた。パネルで紹介する社員について、それぞれの仕事内容の取材、解説文の編集・展示はすべて山本さんが手がけたという

筆者が取材に訪れたときに行なわれていたのは、三井不動産レジデンシャルの社員をテーマにした企画展。これは、ファミリーデーの際に展示したものを一般に向けて公開したイベントで、「大崎レジデンシャルサロン」の最後を締めくくるイベントでもあった。館内には同社社員の仕事を紹介するパネル、会報誌のバックナンバー、そしてここで開催された前述のコラボレーションイベントの様子を伝えるパネルなどが展示されていた。

「不動産会社というところがどんな職場でどんな仕事をしているのか、あまり知られていないと思うんです。住宅を買うまでは縁がないですし、それ以前に住宅を買うこと自体、一生に一度あるかないかの出来事ですから。そこで住まいづくりの仕事を理解していただけるようなイベントを企画しました。まず社員と家族向けのファミリーデーとして企画し、その後に一般公開イベントとさせていただきました。社員自身も対象にしたのは、自分の所属以外の部署ではどんな仕事に取り組んでいるか、理解を深めてもらいたいと考えたからです。ファミリーデーではモデルルームという場を活かして、壁塗りのワークショップや、お子さんたちにプロ仕様のメジャーで室内のモノの長さを測るといった体験をしてもらいました。社員にも家族にも喜んでもらえたイベントだったと思います」(山本さん)

筆者の取材時にはファミリーデーのような体験コーナーはなかったが、展示内容に加えて館内の施設や最新の設備とインテリアが備え付けられたモデルルームを見学できて、面白かったというのが素直な感想だ。

「今回の一連のイベント実施はトライアルでしたが、今後設置されるモデルルームについても活用を考えていきたいです」と、山本さんは言う。活用の可能性はまだまだいろいろあるだろう。マンション購入検討者だけではなく、広く一般に開かれたモデルルームが次々に登場することを期待したい。

☆取材協力
三井不動産レジデンシャル株式会社
http://www.mfr.co.jp/

2015年 04月04日 09時59分