段差解消、手すりの設置は基本中の基本

式台を設けて上り下りが楽なように作られている玄関。手すりも縦、横の2種類が用意されている式台を設けて上り下りが楽なように作られている玄関。手すりも縦、横の2種類が用意されている

日本の住宅は高齢者には優しくないという点については前回、断熱性能についての説明でも取り上げた。玄関の上り框に始まり、あちこちに段差があって転倒の危険性がある、廊下や階段の幅、室内が狭い、住戸内の温度差が大きいなどいくつもの点が挙げられるが、一番認識しやすいのは段差、手すりの必要性である。住戸内を玄関から順に見ていこう。

住戸内でもっとも大きな段差があるのは玄関。建築基準法は床下の換気などのため、1階居室の木造床面を直下の地面より450㎜以上高くすること(*)と定めており、また、古来から日本では住戸内では履物を脱いで暮らしてきた。そのため、玄関に上り框として大きな段差があることが多く、古い一戸建てでは300㎜に及ぶことも。だが、最近の一戸建てでは180㎜以下、マンションだと数㎜から60㎜程度。Hさん宅も180㎜だが、そこに式台を置き、無理なく出入りできるようにしてある。また、玄関ドアからホール、室内へと歩く右手に手すりが設けてあり、伝って歩くようになっている。

手すりには伝って歩くためのハンドレールと、立ち座りなどでしっかりつかまって体を支えるグラブバーの2種類があり、写真で壁に回してあるのはハンドレール。一般には直径32~36㎜のものを床から750~800㎜ほどの高さに取り付けるが、Hさん宅では利用する人に実際に歩いてもらって高さを設定したとか。身長などによって使いやすい高さは異なるので、できるだけ、使う人に合わせて設置したい。

また、写真中央左寄りに縦に取り付けられているのがグラブバー。式台から玄関に体を移動させるために使うもので、こちらは直径28~32㎜、下端は玄関土間床面から750~800㎜程度、上端は肩の高さより100㎜程度上方が一般的だが、これも使う人に合わせるべきであるのは言うまでもない。

(*)防湿土間コンクリートを敷設したり、べた基礎とした場合には450mmより低くして建築することができる。

コンセント、スイッチの位置ひとつで使い勝手が変わる

床材、手すりにスイッチ、コンセントの位置など、ぱっと見ただけでは分からないが、様々な配慮がある廊下部分床材、手すりにスイッチ、コンセントの位置など、ぱっと見ただけでは分からないが、様々な配慮がある廊下部分

玄関から廊下へ進んでいこう。ここでも壁面にはハンドレールが配されており、床は将来車いす利用になることも考慮、へこみに強い床材を利用している。また、高齢になると掃除その他の家事が負担になってくるため、掃除その他の手入れが楽な素材を使うこともポイント。Hさん宅でも表面が傷つきにくく、汚れにくい、ワックス不要の床材が使用されている。床材以外でも交換回数が少なくて済むLED、汚れが付きにくいトイレやキッチンなどが使用されており、家事労働の負担減を実現するようになっている。

スイッチ、コンセントの位置にも工夫がある。一般的なスイッチの高さは120㎝だが、高齢者や子どもにも使いやすさは90~100㎝とされており、Hさん宅は95㎝。コンセントは通常、床から25㎝だが、使いやすさを考え、バリアフリーを謳う物件では40~45㎝で、Hさん宅は40㎝。それぞれ、手を伸ばしやすい高さ、腰をかがめても負担にならない高さとなっている。写真では分かりにくいがコンセントは大きめで使いやすいタイプだ。

電気系統では居室からトイレの間の廊下の足元部分に常夜灯としてフットライト、2階の居室前には停電時に懐中電灯代わりに利用できる保安等を設置。玄関ポーチ、ホールの照明は人感センサを備えたものとし、スイッチを操作しなくても点灯、一定時間が経過すると忘れることなく消灯するものになっている。

トイレ、洗面所、風呂などの水回りには手すりのほかに段差解消なども

浴室には滑りにくく、汚れにくい床材、掃除の楽な排水口なども採用されている浴室には滑りにくく、汚れにくい床材、掃除の楽な排水口なども採用されている

毎日使うトイレ、洗面所、風呂などの使い勝手は生活の質に直結する。そのため、いずれの場所にも必要に応じて手すりが配されている。まず、トイレには座っている姿勢を保持し、立ち座りの動作を支えるためにL字型の手すり。浴室には縦、横、L字型と3種類の手すりが配されている。浴槽自体は以前の住居と同じ、1216サイズで、これは入浴中、長いバスタブでは滑って溺れる可能性があるため、それを案じてあえて小さめにした結果。入浴中、足先が浴槽の内壁に設置しているほうが、足は伸ばせなくても体が固定できて安心というのが居住する人の意見である。高齢者にとっては広さや位置が変わることがストレスになる場合もあり、改善することが必ずしも良い結果になるわけではない。そのあたり、暮らす人の意見を聞くことが大事だ。

浴室への扉は引き戸。Hさん宅ではそれ以外の場所にも引き戸が多用されている。これはスペースを有効に使うためと同時に、開け閉めの際の体の安定を考えてのこと。足腰の力が弱っている人の場合、ドアの開閉で体があおられることがある。それに比べると引き戸は体のバランスを崩して持たれかかっても倒れる心配がなく安全。ことに収納は引き戸がお勧めだ。

工務店からは当初、洗面所、キッチンは車いすに座ったままで使える、シンク下が空いた製品を提案されたそうだが、そこまでの必要はないと一般的な製品が導入されている。最近では車いす仕様はもちろん、軽く腰掛けたり、もたれかかったりして使えるようなタイプの製品も出ているので、使う人の体の状態に合わせて選びたい。

キッチンは高さ、汚れにくさで選択。安全性ならIHだが……

主に利用する妻の背の高さに合わせて選択したキッチン。そのため、他の人にはやや使いにくいという声もあるそうだが、そのあたりは頻度に合わせて割り切るしかなさそう主に利用する妻の背の高さに合わせて選択したキッチン。そのため、他の人にはやや使いにくいという声もあるそうだが、そのあたりは頻度に合わせて割り切るしかなさそう

キッチンは150㎝以下という、使う人の身長に合わせて80㎝を選択。一般的には使いやすいキッチンの高さは身長÷2+5㎝とされており、身長が160㎝なら85㎝ということに。注文住宅の場合には80㎝から90㎝くらいまでで用意されていることが多く、メーカーによっては1㎜単位の調整も可能。毎日料理をする人であれば、こだわりたい点だ。

コンロは使い慣れたガス。工務店からは火災の心配が少なく、夏場もキッチンが暑くならず、手入れの楽なIHが良いのではと提案があったが、これも浴室同様に使い慣れたものが良いという選択だ。キッチンでは手入れの楽さもポイントになった。コンロ、レンジフード、壁面などにフッ素加工など汚れの落ちやすい製品が選ばれているのである。

ここまで住戸1階の部位別に配慮を見てきたが、そもそも間取りそのものにも配慮がある。腰の悪い妻の居室は玄関脇、南側に配し、隣接して水回り、キッチンがあり、移動する距離は最小限に。もちろん、必ず使う場所の間には手すりが巡らされている。対して夫の部屋は2階南側にあり、こちらも階段部分には手すりが用意されている。また、一般的には梯子などを使う小屋裏収納もここでは固定階段を使うタイプになっている。もうひとつ、外構では将来の車イス利用を想定し、住宅の裏手、北側から玄関までスロープを利用してアプローチできるようになっている。玄関側は公道との間に高低差があるため、階段があるのだが、それを使わなくても出入りができるというわけだ。

そのほか、インターホンはハンズフリーのモニター付きとなっており、玄関まで行かなくても来客の顔を確認の上、ドアの施解錠が可能。住戸内の他の部屋にいる人との会話もでき、動きに支障がある人に負担をかけない仕組み。玄関ドア自体も鍵を持っているだけでボタンで開閉可能となっており、こちらも鍵を取り出して、開けてという作業を楽にしてくれる。高齢化の進む現在では様々な場面の行動を技術でサポートしてくれる製品が出ており、上手に使えば長く我が家で暮らせるはずだ。

今回はHさん宅を例に一般的な高齢者対応を見てきた。実際には住む人や住宅の状況に応じて配慮すべきことはまだ多々あり、ここでは書ききれていない。その点、ご留意いただきたい。



2014年 09月27日 15時01分