既存建築ストックの有効活用を促進するために

検査済証のない住宅など建築物はいったいどれくらい?検査済証のない住宅など建築物はいったいどれくらい?

国土交通省は2014年7月2日に、「検査済証のない建築物に係る指定確認検査機関を活用した建築基準法適合調査のためのガイドライン」を公表した。これはタイトルからも分かるとおり、検査済証がない建築物について、建築基準法に適合しているかどうかを調査するための手順を示したものであり、「社会資本整備審議会」による答申(住宅・建築物の耐震化促進方策のあり方について:2013年2月)、および「中古住宅の流通促進・活用に関する研究会」による報告書(2013年6月)を踏まえたものとなっている。

既存建築ストックの増改築や用途変更をする場合には、建築当時の関係法規に適合していたかどうかを確かめることが求められるわけだが、「社会資本整備審議会」の答申では「検査済証のない建築物が既存不適格建築物なのか、それとも違反建築物なのかの判断が困難で、その調査に多大な時間と費用を要する場合があるため、耐震化に支障を来している」という指摘がされ、さらに「中古住宅の流通促進・活用に関する研究会」の報告書では「金融機関の融資審査で検査済証を求められる場合が多く、検査済証のない中古住宅が新築や増改築当時の建築基準関係規定に適合していたかどうかを民間機関等が証明する仕組みが必要」という問題提起がされていた。

国土交通省による今回のガイドラインの目的は、検査済証がない建築物の調査を指定確認検査機関の活用によって円滑に進め、既存建築ストックの有効活用を促進しようとするものである。これを理解するためには、住宅など建築物におけるこれまでの状況や背景を知ることが欠かせないが、その前にまず既存不適格建築物と違反建築物の違いについて整理しておこう。

既存不適格建築物と違反建築物は大きく異なる

既存不適格建築物と違反建築物をしっかりと区別して考えることが重要である。既存不適格建築物とは、それが建てられた時点または増改築工事がされた時点で適法だったものの、その後の法改正などによって現行の法規には適合していない状態のものを指す。それに対して違反建築物とは、当初から関係法規に適合せずに建築、増改築または用途変更などがされたものだ。

既存不適格建築物はあくまでも当時の法規を守って建てられたものであり、新たに増改築工事などをする際には現行規定への適合が求められるものの、建築基準法には一定の緩和措置が設けられている。また、近年において国土交通省により既存不適格建築物に対する規制の緩和、合理化なども図られている。

違反建築物とされるものには建ぺい率超過、容積率超過、各種斜線制限の違反、用途制限違反、接道義務違反、さらには建築確認を受けずに建てられたもの(無確認建築)などがあり、特定行政庁による厳しい措置が定められている。建築途中であれば工事停止命令が出される場合もあるほか、その完成後であれば建物の除却や使用禁止措置の命令、強制執行、電気・ガス・水道の供給停止措置などだ。

しかし、違反建築物であっても既に人が住み始めた住宅に対して強制的な措置が執られることは滅多になく、ほとんどの場合は黙認だろう。だが、黙認だからといって違反建築物の増改築工事や改修工事、大規模リフォーム、リノベーションなどを自由に認めるわけにはいかない。そのため、中古住宅などが既存不適格建築物なのか違反建築物なのかをしっかりと判断することが重要となるのである。

検査済証のない建築物は膨大な数にのぼる

ところが、新築工事または増改築工事後に決められた完了検査を受けて「検査済証」が交付された建築物の数は、竣工時期が古いものほど少ないのが実情だ。国土交通省がまとめた資料によれば、1998年度時点の完了検査率(検査済証交付件数/建築確認件数)は38%となっているが、かつては5%〜20%程度だったともいわれている。

各都道府県ではこの完了検査と、1999年から導入された中間検査とを合わせ、受検率アップのための3ケ年計画(2002年〜2004年)を実施するなど、国や自治体による違反建築物の取り締まりが強化された。さらに、2003年に国土交通省から各金融機関に対して「完了検査に基づく検査済証のない建築物への住宅ローンの融資を控えるように」といった要請がされたため、以後は不動産会社が分譲する新築住宅であれば、たいていは完了検査を受けるようになった。

以前に比べれば完了検査率が格段に高くなっているとはいうものの、2012年度時点では特定行政庁(建築主事)によるものが85%、指定確認検査機関によるものが91%である。法令遵守(コンプライアンス)が声高に叫ばれる現代においてさえ、およそ1割の建築物が完了検査を受けていないことは、既存建築ストックの有効活用において根深い問題を孕んでいるといえるだろう。

ちなみに、不動産会社が分譲する住宅では建築確認を受けた後でなければ、その広告や販売ができないことになっているため、無確認建築はほとんどないだろう。注文住宅などでも建築確認を受けずに着工すればその違反事実が目立つため、過去にもそれほど多くなかったと考えられる。築年数を経た建築ストックで最も多いのは、建築確認を受けて着工し、竣工後に完了検査を受けていないパターンだ。

近年は完了検査率が向上してきたものの、およそ1割の建築物は検査を受けていない近年は完了検査率が向上してきたものの、およそ1割の建築物は検査を受けていない

ガイドラインに沿って指定確認検査機関が判定をする

検査済証が存在する建築物であれば、少なくとも完了検査時点では建築基準関係法規に適合していたことが明らかになる。だが、かなりの割合を占める「検査済証のない建築物」では、確認どおりに建築されたのかどうかが分からないのである。完了検査を受けなかったこと自体が違反行為だともいえるが、これを排除したのでは建築ストックの有効活用も進まない。そこで今回まとめられたのが「検査済証のない建築物に係る指定確認検査機関を活用した建築基準法適合調査のためのガイドライン」であり、原則として無確認の違反建築物は対象外だ。

ガイドラインによれば、まず建築当時の確認済証(1999年4月30日以前は「確認通知書」)およびその添付図書などを用いて「図上調査」を行うが、書類が残されていない場合には、依頼を受けた建築士が「復元図書」(規模等に応じて「復元構造計算書」)を作成する。そして、ガイドラインに沿った一定の「現地調査」を実施し、報告書が作成される。調査を経て作成される報告書は、増改築工事などをする際の「既存不適格調書」の添付資料として活用することができるものとなっている。

調査によって、現行規定に適合していることが分かればもちろん問題はない。そして、違反建築物ではなく既存不適格建築物であると判定されれば、一定の緩和措置を受けられることになる。なお、不適合事項などがあった場合、依頼者は報告書の内容を踏まえて法令に適合するよう改修に努めるとともに、対応にあたっては特定行政庁へ相談をしなければならない。

なお、国土交通省はこれまでも「木造の既存不適格建築物に係る構造関係規定の緩和」(2005年国土交通省告示第566号、2009年9月改正)、既存不適格建築物に係る規制の合理化(2012年9月20日施行)のほか、「既存不適格建築物の増築等に係る建築確認の申請手続きの円滑化について(技術的助言)」(2009年9月)により、既存不適格調書について一定の指針を示している。この「技術的助言」は既存不適格建築物に対する緩和措置において、特定行政庁により判断が一様でない場合があったため、国土交通省がその基準の統一を図ったものだ。

その中で検査済証のない建築物についても、建築主(所有者)から依頼を受けた建築士が一定の調査を行ったうえで、特定行政庁や指定確認検査機関に増改築工事などの相談をしたり、確認申請をしたりすることは認められていた。今後もガイドラインに拠らないで、この手続きをすることは認められる。

検査済証があっても一定の注意は欠かせない

竣工後に完了検査を受け検査済証が交付されている建築物は、少なくとも当時の関係法規に適合していたものとみなされるわけだが、実際には検査を受けた直後に違法な増築などがされたケースもあるため、一定の注意は必要だ。たとえば、建売住宅で建築確認のうえでは吹き抜けだった部分に床が張られ、新たに居室が増やされたような場合である。

金融機関の融資や、以前であれば住宅金融公庫の融資を受けるために、いったんは確認どおりに建てて検査を受け、販売をする前に増築をすることが少なからず行われていた。また、分譲マンションでもいったんは1階部分の車庫として造られた部分が、居室に改造されて売られたようなケースがある。中古住宅を購入する際、あるいは増改築工事などをする際には、過去の検査済証があるからといって安心せず、建築確認図書などと照合して不自然な点がないかどうかにも気をつけたいものだ。

2014年 09月11日 11時15分