これまで屋上付きの木造住宅が普及しなかった理由

住宅業界の革命児、岡﨑富夢氏住宅業界の革命児、岡﨑富夢氏

温暖化対策や省エネが叫ばれる中、ビルの屋上緑化は急速に進んでいる。一方、戸建住宅の屋上を庭園やリビングスペースとして活用している例は、まだまだ少ないのが実情だ。
そんななか、従来のさまざまな課題を克服し、木造住宅向けの屋上庭園を開発。屋上庭園を標準装備した戸建て住宅の販売も手がけ、住宅業界に革命を起こしつつある会社がある。
ビルの屋上庭園資材では約8割のシェアを持つ建材・緑化資材メーカー、東邦レオの100%子会社である株式会社innovation(イノベーション)だ。

同社の代表取締役社長・岡﨑富夢氏はこう語る。
「これまで、屋上付きの戸建て住宅といえば、RC造のオーダーメイド住宅が主流でした。普通の屋根を作る費用は50~100万円ですが、屋上を作ろうとすると、50m2で400~500万円もの費用がかかってしまう。このため、屋上付きの家に住むのは“金持ちの道楽”だと思われていたわけです」

屋上付きの住宅が普及しないもう1つの理由は、法規制にあった。
従来の住宅瑕疵担保責任保険では、屋根は1/50以上の勾配があるものが対象となっており、屋上バルコニーも10m2までしか認められていなかった。さらに、木造住宅の屋上の防水工法が確立されていなかったことも、木造住宅の屋上庭園の普及を妨げる原因となっていたという。

技術革新とコストダウンにより新市場を切り拓く

『プラスワンリビングハウス』外観『プラスワンリビングハウス』外観

風向きが変わったのは2008年。法改正により、屋上に関する規制が緩和されたのがきっかけだった。
これを追い風に、同社は2010年11月、木造住宅向けの屋上庭園『プラスワンリビング』の発売を開始。技術革新と徹底したコストダウンにより、価格も従来の4~5分の1の100万円まで下げることに成功した。
その1年半後には、『プラスワンリビング』を搭載した戸建住宅、『プラスワンリビングハウス』の発売も開始。それまで日本には存在しなかった“屋上が標準装備の木造住宅”という市場が、ここに誕生したのである。

「百聞は一見に如かず」ということで、8月下旬、埼玉県熊谷市にある『プラスワンリビングハウス』のモデルハウスを訪問した。
「楽しくかっこよく、というのがこの家のコンセプト。とにかく、センスのよくないものは一切置きたくなかった」と、岡﨑氏。その徹底したこだわりは、家の隅々から感じとることができた。

破格の費用で実現する、リゾートホテルのような屋上空間

建物の外壁には、職人の丹念な手仕事による塗り壁を採用。天井までのハイドア、小上がりのある和モダン風のベッドルーム、スキップフロアに作った書斎コーナーなど、家全体が瀟洒(しょうしゃ)なデザインで統一されている。高級感のあるシステムキッチンやホテル仕様の洗面台が備え付けられ、バスルームは8インチのテレビ付き。
これらの設備込みで、1棟あたりの価格は1600万円(※ベーシックプラン)ということだ。

建物の屋上に上ると、そこには南海のリゾートとも見まごう光景が広がっていた。
約50m2の広々とした空間の奥に鎮座するのは、天蓋付きのジェットバス。屋上の床には大理石調のタイルや人工芝が敷かれ、リゾートホテルの定番ともいえる籐家具風の屋外用ソファセットやバーカウンターも置かれている。

ソファコーナーには全天候型スピーカーとプロジェクターがあり、オープンエアで映画を楽しむこともできる。
といっても、これらはモデルハウス用のセッティングではない。『プラスワンリビング』の最上級プラン「ロイヤルスイート」なら、上記アイテムはすべて標準装備。ベーシックプランにオプション料金110万円を上乗せすれば、「ロイヤルスイート」にグレードアップすることができるという。

だが、見学していて、ふと、「音」のことが気になった。屋上で音楽や映画を楽しむ際、近所に迷惑はかからないのだろうか。
「音は上に抜けていくので、よほどボリュームを上げないかぎりは大丈夫です」と、岡﨑氏。
また、屋上を囲む塀の高さも、外からの視線をさえぎるように設計されている。ソファに座れば、塀の上に見えるのは空と雲だけ。周囲に高層住宅がある地域でないかぎりは、プライバシーも守られている。

この贅沢感あふれる屋上庭園付きの家を見て、モデルハウスの見学者のテンションが上がるのもうなずける。
「ご夫婦で見学に来られる場合、特にご主人の反応がいいですね。屋上に足を踏み入れたとたんに、目を輝かせる方が多いです」

ジェットバスや屋上家具、プロジェクターなどが標準装備された「ロイヤルスイート」
</br>右上:スクリーンとプロジェクター装備
 右下:ソファやジェットバスからの視線。外からの視線は気にならないジェットバスや屋上家具、プロジェクターなどが標準装備された「ロイヤルスイート」
右上:スクリーンとプロジェクター装備  右下:ソファやジェットバスからの視線。外からの視線は気にならない

リーマンショック後の経営危機が発想の転換を生んだ

『プラスワンリビング』の開発に至ったきっかけについて、岡崎氏はこう語る。
「2008年9月のリーマンショックで翌年のマンション着工件数が半減し、民主党政権の誕生で公共工事が激減。“釣り堀から魚がいなくなり”、2010年には早期退職を行わなければ会社(東邦レオ)は赤字、というところまで追い込まれました。転機となったのは、忘れもしない2010年5月。ある営業マンが、『木造戸建てでも屋上庭園ができないか』というお客さんの声を持ち帰ってきたんです」

「400~500万円ならできるよ」。岡崎氏はそう答えたが、顧客の予算はあくまで屋根と同価格の「100万円以内」。普段なら無理筋と断るところだが、ここらで大ヒット商品を生み出さないかぎり、会社が立ち行かなくなるのも目に見えていた。
折も折、仕入れ先から新素材の提案があり、その技術を使えばコストを劇的に下げられる可能性があった。
「もしかしたら、100万円で作れるかもしれない」――それは岡崎氏にとって、まさに天啓ともいうべき瞬間だった。

さっそく社内の精鋭を集め、プロジェクトチームを発足。3ヵ月の試行錯誤の末、ついに『プラスワンリビング』が完成した。その年の11月には正式発売にこぎつけ、全国の地場工務店とのネットワーク作りも順調に進んだ。
「屋根と同等価格で買える木造住宅用の屋上庭園」は多くのユーザーの心をとらえ、販売実績は発売から3年半で実に4000棟を数えた。これほどの破格値での商品化が実現できた理由とは、一体何だったのだろうか。

(つづく)

右:2Fリビング
</br>左上:こだわりのアイランド型キッチン。立体的に作業ができる
</br>左下:食器棚は作り置き仕様
右:2Fリビング
左上:こだわりのアイランド型キッチン。立体的に作業ができる
左下:食器棚は作り置き仕様

2014年 09月10日 11時17分